素晴らしくも醜い
~プロローグ~
寂しそうな木々の間を寒風が吹きすさぶ。
ビュービュー
私はただ"その時"を待ち、タバコの煙りを吹かし続けた。
ビュービュー
体の芯まで凍りそうな風は止むことなく私を急かす。
「まぁ待てよ。まだだ。あと少し。」
崖からの景色は、最期にしてはあまりにも殺風景で今までの私に良く似合うとすら思ってしまう。
「なぁ、約束通りお前だけは笑ってくれよ。じゃあ、またな。」
ビュービュー
…
ドシャッ
一瞬の痛み、殺風景、綺麗でもない音と共に私の意識は遠のいていった…
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「煌さん、おはようございます。
また玄関の鍵開きっぱなしでしたよ。前にも注意したでしょう。
不用心すぎます危ないですよ。
それと、なんですかこの部屋。お酒の缶はちゃんと捨ててくださいよ。服も脱ぎっぱなし。前にも注意したでしょう全く…」
いくら仲が良くても少し嫌な目覚めだ。後輩にガミガミ言われる朝は誰も迎えたくないだろう。
「あぁ、Aくん。今日も起こしに来てくれたのか。嬉しいが朝から怒るんじゃないよ。一日の運が無くなりそうだ。」
「それは誰の所為でしょうか」
Aくんとは中学の頃からの仲だ。
中学二年、私は昔から周りと思考が違うらしく、皆が私に対して相変わらずの苦手意識を持つ中一人だけものすごく私に興味を持ってくれた。しかも一年下の後輩が。
朝から夕方まで毎日付き纏ってくるその後輩に疑問を抱き、
「何故君は私に付き纏う?」
と聞くとそいつは
「今まで貴方みたいな思考の持ち主と出会えなかったからです。僕と思考が似てると思うんです!」
「私は至って普通だ。」
「いえいえ、貴方は特別ですよ!
僕もみんなとは少しズレてますが貴方はもっとズレてる!もちろん良い意味で、ですよ!」
失礼な上に、その考えが私と似ていると?少し片腹痛い。
「ちょっと待て。普通と特別は何が違う。普通も特別も同じだと思うのだが。皆が自分を標準にするから"特別"や"普通"という"分けずらい"言葉が出てくるのだろう。皆がそう言うのなら、私は"普通"だが。」
言ってしまった。皆が言うズレた言葉を。まぁいい。これで嫌いになってくれたらまた今まで通り一人で楽に生きられる。
「…。すごい…。やっぱり間違ってなかった。僕が貴方を尊敬する理由。その言葉、思考とても素敵。」
それからと言うもの、彼は勝手に私に憧れを抱き今まで以上に尊敬するようになった。高校に入ってからの私は、親の都合もあり実家でほぼ一人暮らしという形になったのだが、私は普段の生活がだらしないのでそれを見兼ねたAくんが生活を全面サポートするようになってしまった。朝が弱い私を時間通りに起こしに来てくれたり、ご飯を作ってくれたり、掃除をしてくれたり、買い出しに行ってくれたり。
そう考えると、私の家なのに私は何もしていないし物の場所は彼の方が把握している。みっともないにも程がある。困ったものだ。
だが、そんなに尊敬して憧れを抱いてる先輩に対して盛大にガミガミ言うのはどうなのだろうか。
「なぁ、Aくん。君は私を尊敬しているのだろう?」
「ええ、そうですが。なにか?」
「尊敬の相手を怒るのはどう言う気分なんだね。どうなのかね?」
「尊敬しているからこそ叱ってるんですよ。だらしない生活をサポートするとは言いましたが、最低限のことはしてくださいとも言いました。」
「うーん。それも考えようだと思わんかね。君がだらしないと思っていても私はこれでも生きていける。良くはないか?」
「そう言うならご飯ぐらい自分で作ったらどうですか。最終的に僕がいないと生きてけないでしょう。言い訳になりませんよ先輩。」
今のは苦しすぎる言い訳だったか。
さすが私の後輩だな。感覚が鋭い。
毎日こんなやり取りをしているのだが、そろそろAくんも飽きないのだろうか。私はとっくに飽きているので軽くあしらうのだが、それでも何だかんだ離れず周りの世話をしてくれる。Aくんによっぽど慕われているのだなとつくづく思う。
「先輩、今日の授業昼からですよね?準備しないと遅れますよ。僕は車出てくるんでご飯早く食べて用意しといてくださいね。」
「ああ、すまないね。君も昼からなのかい?」
「はい。予定、先輩に合わせました。」
「どれだけ私を好けば気が済むんだ全く。」
「先輩が朝弱いから昼からにしてもらったんですよ。迷惑でしたか。すみませんね」
淡々と片付けをし、少し皮肉気味に言われる。Aくんが言うことには一理あるし、言い返せない自分もいる。実際Aくんがいないともっとだらしない生活を送っていただろう。心の中でほんの少しだけ感謝をしながらAくん特製のフレンチトーストやサラダを口に放り込む。




