夏の日の思い出 最終節 〜夢の中の変革〜
最終回です
「こーら、渚、またこんなところに居て」
その声にいずみちゃんと私は振り返る
「あら?お友達かな?連れてくるなんて珍しいねー」
ニコニコしてお母さんは私の前に来る
「こんにちは!私、真田いずみです!
なぎさちゃんと仲良くさせてもらってます!」
いずみちゃんって礼儀正しいな
良い子なのがよくわかるよ
「いずみちゃんね、あの子と仲良くしてもらってありがとう
渚
お友達、大事にしてあげなさいね」
友達・・久しぶりに聞く言葉に私は少し口元が緩む
「あー!なぎさ!駄菓子屋さん行かないと
お店しまっちゃうよ!」
目的を思い出し、慌てて工場の壁にあった時計を見る
秒針が動いているから時間は合っているはずだ
16時59分
「お店、5時半までだよ、急がないと!」
学校が終わったのが15時45分
家まで10分位だから、工場に1時間近くいたみたい・・
「お母さん、私、ちょっと急いで出てきちゃったから、お小遣いくれないかな?
帰ったら、お金返すから・・」
そう言うと、お母さんは頷いて、小さいふくろうの形をした小銭入れからお金を出す
「はい、300円までだよ?
お金は返さなくていいから」
お金を手渡すと、お母さんはお尻のポケットかピンバッジを出した
「二人で楽しそうに見てたから
余ってた物だけど、よかったら使ってね」
お母さんは私と、いずみちゃんに1つずつ手渡すと「じゃあね」と手を振って事務所に戻って行った
手渡されたビー玉サイズのピンバッジを見ると
ウサギの形をしていて"LAPIN"と文字が印刷してある
「うさぎだね!可愛い!なぎさとお揃いだよ!友達認定って事かな?」
お互い腰のあたりにピンバッジを付け合うと、いずみちゃんの「行こっか?」の合図で工場を出た
小学校へ登校する通学路を歩き
学校の校庭と通学路の分岐点までやってくる
「なぎさ、ここを右にまっすぐ行くとね、木の古い家が見えるでしょ?
その家の奥に入った所に駄菓子屋さん見つけたんだー
灯台下暗しってやつだね!
学校の前にあるなんて、私も見つけた時は驚いたよ」
校庭と並行している細い道が先で広い道までつながっているのが見える
私達は、校庭の樹木が日傘になり、蝉の声も涼しげに感じる細道を目的地まで歩いた
「へぇ、こんなところにホントにあるんだね
駄菓子屋サボテン?
なんか面白い名前だね」
古い木材を使っているのか、独特の雰囲気を醸し出している佇まい
見た目とは裏腹に、どこか新しいシルエットが特徴的なお店だ
私達は、古風で現代的なスライド式のドアを開けると、外からは想像できないほど、明るく木の香りに包まれた空間が広がっている
壁際に木製の低い棚が連なって綺麗にお菓子やおもちゃが陳列されている
隠れ家的なのか、遅い時間に来たせいなのか、私達の他にはお客は居ないようで、凛とした空気に少し私は緊張をした
「お店、やってるのかな・・」
いずみちゃんも同じ事を感じたようで辺りをキョロキョロ見ている
「いらっしゃい」
突然、男の人の声で話しかけられ
お互いに"ビクッ"っと身体を震わせた
恐る恐る入り口の壁の角から部屋を見ると、入り口の死角になる場所におじいさんが居るのが見えた
「あの、まだお店やってますか?」
気を取り直して、私はおじいさんの前まで行き、聞いてみる
私の物怖じしない行動を見て、いずみちゃんは意外そうな顔をした
「あぁ、やっとるよ、あと少しで閉めるが、お嬢さん達ゆっくりやってって」
おじいさんの言葉に安堵し、私達は早速駄菓子を選ぶことにする
「私はねー、やっぱりチョコかな?
あっ!チョロリチョコ!これ好きなんだよねー
イチゴでしょー、きなこと、あっ!
あとビスケットもー」
無邪気にチョコを選ぶいずみちゃん
凄くしっかり者なのに、なんか意外な一面だなぁ
でも、チョコしか選んでないや・・
今度チョコ上げたら喜ぶかな?
なんだか想像したら可愛い・・
さて
時間もないし、私も選ばなくっちゃ!
まずは、いずみちゃんと同じチョロリチョコ
やっぱりミルクは外せないなー
それと・・
これこれ!都のこんぶ
ちょっと酸っぱいのが癖になるだよね
あとはキャベツ次郎と玉ねぎ三四郎と・・・
「なぎさー?いいのあった?
あっ、都のこんぶ私も好きだよ
あとは・・・
ほとんどスナックだね・・
美味しいし、私も好きだけどさ、お腹に付いちゃうんだよねー」
そう言って、お腹を擦ってる
「そうなの?お母さんもスナック大好きで、私も一緒に毎日夜に食べるけど平気だよ?」
私が放った言葉に、いずみちゃんの顔が少し引きつる
「あははっ・・毎日ね・・」
いずみちゃんの顔色に私はハッとした
そう言えばお母さん
「いい?渚
あんまり夜にお菓子食べてるの言わない方がいいよ
わたしと渚のお腹は特別な魔法がかかってて美味しいものが沢山食べられちゃうお腹なんだよ?」って言ってた気が・・
私は慌てて言い直す
「毎日〜 だけど・・
ほらっ、運動もしてるから!相殺ってやつだよ!だからいずみちゃんも運動したらきっと大丈夫だよ・・!
あっ!約束・・
学校で約束したから!明日から運動一緒にしようね!」
危なかった・・
久しぶりに家族以外の人と話したから油断したな・・
「んー・・?うん・・。
だよね・・!運動だよね!そうだ!きっとそうだ!
明日から運動だね!運動!」
納得してなさそうな表情だけど
スナックかごに入れてるし
まぁ・・いっか
「このくらいでいいかな?」
スナックにチョコにゼリー、300円丁度になるように計算をする
解ってはいるけど、ピッタリ300円って言われるまで妙にドキドキする・・
まぁ、このドキドキは、スナックを多めに入れ直したから、いずみちゃんにはナイショのドキドキも含まれるんだけどね・・
先にお菓子を選んでお会計をして待っていてくれた、いずみちゃん
私は、かごがいずみちゃんから見えないようにおじいさんのところへ持っていく
「はい、全部で300円ね
はい、ありがとー」
やった!ピッタリ300円!
解っていたけど、このなんとも言えない幸福感がたまらない
スナックも多めに買えたし!
ほころびそうな口元に力を入れて
私達は駄菓子屋さんを出た
「食べるならそこのベンチ使ってーな
ゆっくりやってっていいから
食ったもんは横の箱にすてるんだぞ?」
そう言い、おじいさんは店に戻っていった
私達はそれを見届けるとベンチに腰掛ける
たった20分位しか経ってないのに、外は風が涼しくなって忙しく鳴いていた蝉の声も小さくなり、ヒグラシの夕方の合唱が始まっている
「なぎさ〜?ねぇ、なにニマニマしてるのかな?」
やっぱりエスパーだ、いずみちゃんは私の口元の変化を見抜いている・・
「300円丁度で買い物できたからちょっと嬉しくてさ・・」
半分はホントだ、嘘はついてない
「じゃさ、お菓子の交換っこしよう!ねっ?なぎさのスナックと、私のチョコ3つ!どう?」
いずみちゃんには
嘘つけないや・・
私は観念して、袋の中に手を入れた
「なんだよー、もう閉まってんじゃん
おっ?なにお前ら、友達してんのか?」
聞き慣れた不快な声に、一気に気分が堕ちていく
松元涼介だ・・
「丁度いいや、さなぎ!それ俺が貰ってやるからさ、よこせよ」
怖くて何もできない・・・
私が俯きかけた時、いずみちゃんが私の手を握ってあいつに言う
「お菓子くらい自分で買ったら?それとも、お子様過ぎて一人じゃ買い物出来ないっかー
それとさ、なぎさは私の大事な友達だから、お子様にとやかく言われる筋合いはないなー」
お子様と言われてあいつは顔が真っ赤だ
手もプルプル震わせて、私もちょっといずみちゃんの放った言葉に納得してしまう
「このガリ勉女!いいや、これからお前もさなぎと同じだな!
おまえがそれ寄越せば許してやるよ」
なんて悪役なセリフだろうと思ったが
そんなお子様なあいつはいずみちゃんの袋を無理やり取ろうとしている
そのうちに、あいつの腕が当たったのか、お母さんに貰ったピンバッジがいずみちゃんから地面に落ちるのが見えた
(あっ・・)
「おっ?なんだコレ、うさぎのばっちか?らぴん?変なのつけてんなー」
その言葉を聞いていずみちゃんも顔つきが変わった
「あんた、いい加減にしなさいよ!それ大事なものなんだから返して!」
そう言い、ピンバッジを取り返そうとするが
あいつはニヤッと笑ってピンバッジを持った腕を高く上げて
いずみちゃんが取り返そうとするのを邪魔する
「こんなもんが大事なのか〜
おっ!袋がガラ空きだぜ!」
意地の悪い表情のあいつは、今度はいずみちゃんのお菓子の入った袋までぶん取る
その反動で、いずみちゃんは痛そうに顔をしかめた
「痛っ!ほんとあんたってサイテーだね、この事直ぐに先生に報告するから!」
手を押さえながら、ずみちゃんは
あいつをキッと睨みつける
それを見ていた私は
胸の中でフツフツと何かが煮えるような感覚を覚えた
「はぁ?なんでセンコーが出てくんだよ!ムカつくんだよガリ勉女!」
そう言うと、あいつは力任せに両手でいずみちゃんを弾いた
尻餅をついて倒れ込んだいずみちゃんに追い撃ちをかけるように、あいつは靴で地面の砂をいずみちゃんに蹴ってかけ始めた
その光景を目の当たりにして、私は今日の出来事を思い出す・・
お母さんに貰ったピンバッジ、大事な友達、一緒に買い物したお菓子・・・
あいつのせいで大事なものを取られる・・
また一人になるなんて絶対に嫌だ!
優しいお母さんといずみちゃんの心を踏みにじった・・・
私だけならまだしも・・
大事な人達まで・・!
・・・・・・・
絶対にゆるせん・・・!
今まで我慢していたものが私の心を覆い尽くす
我慢のロープが音を立てて切れる音がした
「おい・・・おまえ・・・」
私の声にあいつは蹴るのを止め
私を睨みつける
「あっ?なんだよ?さなぎのくせに何いってんだ?」
あいつの声は私に届かない
「な・・ぎさ??」
いずみちゃんは何が起きたのがわからずポカンとする
「おまえ・・
もう許さないから・・」
ふらふらとあいつの前までゆっくりと歩いていく・・
「はっ?なに?さなぎのくせにビビらしてんのか?おいっ・・
なぁ・・?
聞こえ・・てます・・?」
何か言っているはわかったが
それでもあいつの声は何も届かない
私はあいつの直前で止まり
獲物を狙う肉食獣の如く
あいつを下から睨みつける
その刹那・・
「おーまーえー!
あたしのだいじなもん全部とりやがってぇー!!
こんのっ!アホー!!!」
聞いたことのない自分の声にふと我に返る
その瞬間、運動で鍛えていた細い私の脚が、あいつの股間めがけて猛スピードで振り抜かれるのが見えた
私の脚にあいつの服越しから伝わる肉を叩く感触
鈍く大きな音を立てあいつは浮かび上がる
反動で飛び上がったあいつはそのままうしろに飛んでいき、ベンチに頭を打って倒れ込んだ
「はきゅん!?ひっ・・ひぃ〜!!」
よくわからない声を上げてあいつは私を恐れる眼差しを向けるが痛みが襲ってきたのか、悶絶の表情を浮かべ泣き始めてしまった
「あっ・・ごめん・・ね?
私やったの?ごめんね?」
今起きた事が私も理解できなかったが、最後の振り抜いた瞬間は覚えていた
間違いなく私がやったみたい・・
私は少し悪いと思い、あいつのところに慌てて駆け寄った
「ねぇ?大丈夫?あの・・
ごめんね?」
バツが悪くなって、「大丈夫?」
なんて言ってしまった・・
大丈夫なわけないよね
股間にドム!で、頭にガン!
だもん
申し訳ない・・
そんな事を考えてる私の顔を見るなり、あいつはイモムシのようになって無言でわたしから離れていく
すでにいじめっ子の表情はなく、遠くでフルフルと小動物のように震えていた
「なっ・・なぎさ・・
あんたねぇ・・」
と、笑いを堪えて私のところへ歩いてきた
「あははっ・・!可愛そうだけど・・!おかしっ・・!
ドムだって・・・ふぅふぅ・・
なんか漫画みたい・・・!」
お腹を押さえて笑っているいずみちゃんを見て、私はまた申し訳ない気持ちになる
「ふぅ、それにしても
うさぎの皮を被ったオオカミってホントにいたね」
その言葉に私はかおが真っ赤になるのがわかった
恥ずかしくて穴があったら入りたい・・
「なぎさは怒らせると恐いのね・・
覚えとかなきゃ・・」
何やらボソボソと独り言を言ってるいずみちゃん
そして辺りは白く、眩い光で景色は消えていった・・・
最後まで読んで頂きありがとう御座いました
このお話の長編小説を書こうと思っています
タイトルは【レストレーション】にて
公開します
また興味があれば、読んでいただければ嬉しいです
最後までありがとう御座いました
では、また逢う日まで