8.これからの時間を君と ※セオドア視点
ブクマ、評価、誤字報告などありがとうございます。
最終話です。
それから俺は今度は二人で会う約束を取り付けて、改めて気持ちを伝えて、セルジュさんの恋人になることに成功した。
恋愛と言う意味で好きかどうか分からないと言われたが、人として嫌われていないならもうそれで良かった。
あとは俺が頑張るだけだ。
少し、いやかなり強引だったかなと思わなくもないけれど、これを逃したらもう駄目だと思ったので仕方ない。
セルジュさんは聞いていた通り、恋愛に関することだけ自己肯定感が低かった。
今まで誰にも女性として見られたことが無いのにとか、自分みたいな行き遅れとか、とにかく自信が無さそうだった。
俺からすれば23歳なんてまだまだ若いし、セルジュさんが行き遅れなら2つ年上の俺だって立派な行き遅れじゃないかと思う。
女性ばかりが年齢のことを言われるのはおかしな話だ。
今までセルジュさんの周りにいたやつは見る目が無いなと思うだけだし、逆にセルジュさんの魅力に気づかない節穴どもよありがとうと言う気持ちしかない。
それにそのおかげでセルジュさんはデートも何も今までしたことが無いのだと言った。
セルジュさんにとっては悩むことだったのだから、おかげと言うのは失礼な話なのかもしれないが、デートしたのも恋人になったのも手を繋いだのも、全て自分が初めての相手だなんて言われたら嬉しさしかない。
もっと彼女を大事にしようという思いが強まるだけだ。
もう一度言う。
節穴たちよ、ありがとう。
何度かデートを重ね、少しずつ距離が近づいてきた頃、街の見回り中にアリシアを見かけた。
この頃には俺は心の中ではセルジュさんのことをアリシアと勝手に呼ぶようになっていた。
それくらいは許されても良いだろう。
何となく視線を感じた方に目を向けると、そこにはアリシアがいた。
見つけたことが嬉しくて手を振ろうかと思ったら、目が合ったと思ったアリシアは急に走ってその場を去ってしまった。
「……え?」
「どうした?」
「いや……」
一緒にいた同僚が不思議そうに声を掛けてきたが、ひとまず見回りで立ち寄った花屋を後にして歩き始めた。
「どうしたんだよ」
「いや、今目が合ったと思ったんだが……」
「お?何だ?女か?」
「いや、恋人」
「……はっ?お前恋人できたの?珍しくここ最近独りだっただろ?」
「最近付き合い始めた」
「は~、色男は良いよな。何もしなくても向こうから寄って来るんだから」
「棘のある言い方止めろよ。それに今回は俺が惚れて付き合ってもらったんだ」
「え?嘘だろ?本当に?」
なぜそこまで驚かれるのか分からない。
「セオが女に迫ってるとこが想像出来ない。は~、あのセオがなぁ。イイ女なのか?」
「あのセオって何だよ。……まあ、イイ女って言うか、素敵な人だよ」
「うわっ、ベタ惚れかよ」
「悪いか」
「悪かないけど……まあ良いや。んで、その子がどうしたって?」
「目が合ったような気がしたのに逸らされて急に走っていなくなった」
目が合ったのは気のせいで、俺が居たことに気付かなかったのかもなと口にすると、同僚に肩をガシッと掴まれた。
「……お前、それ誤解されたんじゃないのか?」
「は?何が?」
「だから!さっきの花屋で看板娘に腕取られてただろ?それを見て彼女との仲を誤解されたんじゃないのかって言ってんだよ」
「……嘘だろ?」
俺は同僚の言葉に愕然とした。
あんなのはよくあることだし、相手は鍛えていない女性だから振り払うわけにもいかないし、一々真面目に止めてくれと対応していたら切りがない。
「お前にとっては日常茶飯事でも相手にとっては違うかもしれないだろ?恋人がどんな子だか知らないが、他の女とベタベタしていたらいい気はしないだろうよ」
俺にとってああいうことが当たり前になり過ぎていて何も考えていなかった。
同僚に「逆だったらどうよ?」と言われて、アリシアの肩に他の男が腕を回しているところを想像すると、苛立ちを覚えた。
「おま、その顔怖いから止めろよ」
俺はひどい顔をしているらしい。
「……仕事が終わったらすぐに弁解しに行く」
「そうしろ、そうしろ。セオが今すぐ追いかけるとかアホな事言わないやつで良かったわ」
本音を言えば、許されるなら追いかけたかった。
けれど、俺は仕事に誇りと責任感を持ってあたっている。
それを途中で放り出すような人間にはなりたくないし、それをアリシアも分かってくれていると思いたい。
今日だけは何も厄介事は起きてくれるなと願いながら仕事が終わる時間を待った。
願いが聞き届けられたのか、非常にスムーズに業務報告を終えた俺は急いでアリシアの家に向かう。
ここ最近で何度も通ったアリシアの家への道を急ぐ。
家に着き、息を整えてドアベルを鳴らした。
チリンチリンとベルの音は虚しく空中に消える。
(いないのか?……それとも、俺だと分かっていて出てこない?)
アリシアに限ってそれ無いと思いながらももう一度ドアベルを鳴らすが、やはり留守のようだった。
(もう日も暮れる時間だって言うのに、どこに行ったんだ?ブリジットさんのところか?……いや、今日はアレクがブリジットさんと外に夕食を食べに行くと言っていたから違うか)
この辺りは治安は悪くないが、それでもアリシアのことが心配になった俺は近所を探すことにした。
あちらにもいない、こちらにもいないと探し回っていると、アリシアと歩いていた時に通った公園のことを思い出した。
(あの公園も花が綺麗だとアリシアは言っていた……行ってみるか)
目的の公園に着き、花が植えられていると言っていた公園の奥まで進んで行くと、ベンチに座っている女性を見つけた。
(……いた。あの後ろ姿、アリシアだ)
呼びかけようと思った時、アリシアは俯いて肩を震わせた。
思わず走り出した俺はアリシアの肩を後ろからグッと掴んだ。
「アリシア!」
「っひ!……え?エヴァンスさん?」
振り返ったアリシアはとても驚いた顔をしていた。
けれど泣いてはいなかった。
(良かった……泣いてなかった)
俺はアリシアを探していたことと、昼間に誤解をさせてしまったのではないかと思ったことを素直に告げた。
それを聞いたアリシアは、誤解はしていないと言った。
自分に向ける笑顔と違ったから分かっているし、仕事を放り出してくるような人じゃないと思っていたから大丈夫だと言ってくれた。
そして、それなのにあの場を逃げるように去ったのは、分かっていたけれどあの花屋の看板娘が俺にまとわりついているのを見るのが耐えられなかったのだと言った。
俺の気持ちを信じてくれていて、分かってくれているということだけでも嬉しかったのに、アリシアはそれ以上の喜びを俺にくれる。
あの看板娘に自分は嫉妬したのだとはっきり言ったのだ。
そして、俺のことをそういう意味で好きなのだと言ってくれた。
「……本当?」
「私こんなことで冗談なんか言えません」
「そう、だな」
そうだ。
アリシアがこんなことを冗談で言うはずがない。
本当に、俺のことを好きだと言ってくれた。
(幸せ、ああ、嬉しいな)
好きな人が自分のことを好きだと言ってくれる。
同じ気持ちを通わせられるなんてどれほど幸福なことだろう。
絶対大切にする。
もう今日みたいなことも無いように気を付ける。
やきもちを焼いてくれるのも嬉しいけれど、悲しい顔はさせたくない。
この優しくて、素直で、少し自分に自信が無い彼女が愛おしい。
そう思うと、自然と口からアリシアへの想いが溢れた。
「アリシア・セルジュさん。俺は君のことが好きです。結婚を前提に俺と付き合ってください」
「……はい!私もエヴァンスさんのことが好きです。よろしくお願いします」
俺の告白に笑顔で答えを返してくれたアリシアに、心臓がぎゅっと掴まれたような気がした。
(駄目だ。可愛い。俺の恋人が可愛すぎる……!)
辛抱堪らず、辺りを見渡して人がいないことを確認し、つい抱きしめさせてほしいと言ってしまった。
通常なら頼まれても外でのそうした行為は避けて来たのだが、この時だけはアリシアが本当に自分の恋人になったのだと実感したかった。
許可を貰って腕の中に閉じ込めたアリシアはすぐにその頬を赤く染めた。
「……俺は今最も幸せな男かもしれない」
ついアリシアを抱きしめたままそう呟けば、アリシアもまた自分も同じだと返してくれるので抱きしめる腕に力が入ってしまった。
(可愛い。好きだ、アリシア……あ、名前)
きちんとした恋人になったのなら、お互いの呼び方も変えたい。
俺はアリシアに名前で呼んでも良いかと聞いた。
アリシアはついさっき俺が名前で呼んだことをしっかりと覚えていて、嬉しかったと言ってくれた。
そしてアリシアの方から俺のことも名前で呼びたいと言ってくれた。
セオと愛称で呼んで、話し方も崩してほしいと言えば、少し照れながら「セオ」と俺を呼んだ。
良い。
すごく良い。
自分の名前が特別な物のように感じた。
セオドアと言う名前をくれた両親に感謝した。
「好きだよ、アリシア」
「私も、セオが好き……」
何度言っても言い足りない。
気持ちが溢れると言うのはこういうことかと知った。
「名残惜しいけど、そろそろ帰ろうか」
帰り道、俺が自分から告白したのはアリシアが初めてだと言うと、彼女は驚いた後とても嬉しそうに笑った。
「私ばっかりが初めてじゃないのね……なんだか嬉しい」
そう言って笑うアリシアを見て、今まで女性に求められるままに付き合ってきた自分を殴りたくなった。
異性と手を繋いだのも、デートをしたのも、アリシアにとっては全て俺が初めてだが、俺の初めてはアリシアじゃない。
もう後悔しかない。
けれど、後悔したところで時間は戻せないのだ。
だったらこれから二人で色々な初めてを作って行けば良い。
「……人生長いんだし、一緒にいたらいくらでも見つかるよ」
これから長いこと一緒に居るのだ。
アリシアとのもっと色々な初めてを見つけられるはずだ。
そう思えば、これからの人生が増々楽しくなるだろう。
アリシアは俺の言葉に一瞬きょとんとした後、笑顔で「そうね」と言った。
「……ありがとう、セオ」
「?何に対して?」
「私を好きになってくれたこと」
アリシアの言葉に思わず笑みが零れる。
不思議なことを言う。
俺がこんなにも幸せなのはアリシアのおかげだと言うのに。
「それは俺の台詞。……好きになってくれてありがとう」
分からないのなら何度だって好きだと言おう。
君は俺にとっては誰よりも魅力的なのだと、アリシアがアリシアであったから俺は君に惹かれたのだと、君が自分に自信を持ってくれるまで何度だって伝えよう。
その時間はたっぷりとあるのだから。
fin.
いやー、やっぱり相思相愛ハッピーエンドは良いですね。
書いていて楽しい!
アリシアはセオに愛されて内面も外見も磨かれていくことでしょう。
今作は大きな山も谷も無い、気軽に安心して読めるお話を目指しました。
そして密かに、毎日更新を目標に掲げていたので達成できて嬉しい。
完結しましたが、また話を思いついたり、この二人の話を読みたい等ご意見があれば書きたいなーと思います(・∀・)
評価をいただけるのも嬉しいですが、良ければご意見ご感想なども頂戴できるとより嬉しいです。
仕方ない、書いてやるかと言う感じになってもらえるのを期待しております(ΦωΦ)フフフ…