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【チルル視点】


初めてリリーを意識したのは、魔力持ちの子供を集めた、伯爵家で開かれるお茶会の何回か目の時。


平民、と言っても私は孤児で、教会の孤児院で育った。

それが魔力持ちの判定を受けて、伯爵家のお茶会に招待されてしまって、勿論ドレスなんて物は持ってないので、孤児院の担当の神官様と相談して、一番汚れの少ないワンピースを3回位洗って、それを着て出席した。

周りは貴族の子供ばかりで、皆綺麗なドレスやスーツを着ていて、私は逆に目立ってしまい、周りの女の子にはクスクスと笑われていた。

それでも、最初とその後の数回は、何だかよくわからない事を言う、ピンクの髪と目をした女の子の方が目立っていて、私はおとなしくしていれば、緊張も失敗もしないでいられた。


私の育った孤児院は、伯爵家が治める領地にあって、それ程裕福では無く、毎日2回の食事がやっと、着るものは、たまに近所のお母さん達が、子供の着られなくなった服を寄付してくれる程度、ボロボロになっても、ツギを充てて、大事に大事に着て、サイズが合わなくなったら、小さい子に回す。

それでも他の領地の孤児院よりはずっとマシで、だから、伯爵家でのお茶会で、嫌なことが有っても、グッと我慢してた。

もし我慢出来なくて喧嘩になって、孤児院に文句を言われたら皆が困るし。


何回目かのお茶会、ピンク女を皆が気にしなくなってきた頃、色々な子供と話が出来るようにと、毎回席順が変わるお茶会で、その日は何時も嫌な目付きでクスクスこっちを笑う女の子と、その仲の良い子と同じ席になってしまった。

まずは教えられた通りに挨拶をして、お茶が配られるのを待ち、席に座る一番身分の高い子が話すのを待つ。その話に答える様に会話が始まる。

暫く話をした後の事。


「あらごめんなさい、手が滑ったわ!」


その言葉と同時に、右肩の辺りに温いお茶がかけられた。

驚いて、うつむいていた顔を上げると、クスクス笑う女の子とその友達。

がまんがまんがまんがまんと、心の中で唱えてギュッと手を握っていたら、


「あら、ケント子爵家のお嬢様ともあろう方が、お茶もまともに飲めないなんて、どこか具合でもお悪いのですか?」


挨拶以降ずっと本を読んでいて無言だった女の子が、不思議と通る声で問い掛けた。

その女の子の声で、周りの子もこっちに注目したが、


「何ですって?わたくしがまともにお茶も飲めないって言ったの?」


「ええ、まともにお茶も飲めない程、手が震えてるのでしょう?だからその子にお茶を掛けてしまったのよね?」


「ふざけないで!わたくしは、どこも悪くないわ!平民と一緒の席が不快だから、追い出そうとしただけよ!」


「まぁ!それはそれは性格の悪い事!そのような性格の悪さでは、大きくなったら悪役令嬢まっしぐらですね!」


「あ、あくやく令嬢?何を言ってますの貴女?」


「知りませんか?悪役令嬢。意地悪ばかりして、断罪される令嬢の事ですよ!」


「だ、だ、だんざい、って言ってる意味が分かりませんわ!」


「なら、この本をおすすめしますよ。悪役令嬢がひどい目に遭う本です。これは伯爵家の蔵書なので、汚さないようにお願いしますね」


そう言って一冊の本を差し出す女の子。

不気味な物でも受け取ったような顔をする悪役令嬢と言われた女の子。

そして、本を渡したら何故か私の手を取って歩き出す女の子。

伯爵家のメイドさんに何か言って、部屋を借りて、メイドさんが持ってきた荷物の中から綺麗なワンピースを出す女の子。


「はい、着替えて」


「え?」


「そのままじゃ風邪をひくわ。私のだけど、ゆるいワンピースだから着られると思うの」


私よりも華奢で背の低い女の子に渡されたワンピースは、


「あら、ピッタリじゃない。お姉様のお下がりだけど、私には似合わないからあげるわ」


「ええ!こんな綺麗なワンピース貰えないよ!」


「いいわよ、私には似合わないけど、貴女には似合うし。お姉様のお下がりはまだあるし」


「ほ、ほんとうにもらっていいの?後でお金払えとか言わない?私お金無いよ?」


「うちも貧乏だから、お金は無いけど、お姉様のお下がりはまだまだあるし、私には似合わなかったり、大きかったりだからいいわよ」


「あ、ありがとう。こんな綺麗なワンピースもらったの初めて」


「そう。とても似合ってるよ」


それがリリーとの初めて話した記憶。


その次のお茶会では、私にお茶を掛けた女の子が、何故か泣きながら謝ってきて、更に何故か、その子のお下がりのドレスを貰ってしまった。

あまりに不気味だったので、思わず理由を聞いてみたら、渡された小説を読んだら、本当に自分と同じ様な行動した悪役令嬢が出てきて、とてもひどい目に遭い、破滅していく話しだったそうで、心当たりのある自分も、破滅してしまうのでは? ととても不安になったそうだ。


その後も悪役令嬢の本は令嬢達の間に回され、各自自分の行いを省みて、反省をして謝ってくる子が。


それを切っ掛けに、色々な子と話すようになり、話してみたら皆素直で優しい子ばかりで、何故あんな態度だったのか聞けば、嘗められない様にと親に言われてたらしい。


「やり方は不味かったけど、結果仲良くなったんなら良いんじゃない?」


軽く言われた言葉に、蟠りが綺麗さっぱり無くなって、皆して笑ってしまった。


本好きなおとなしいけど、ちょっと変わった子だと思ってたら、伯爵令息の、たまには体を動かそう!との言葉で、何時もよりも動きやすい服で集まった日、本好きなおとなしいはずの女の子は、男の子に交ざってさえ、ぶっちぎりで速く走り、誰よりも速く木に登り、誰よりも速く強く剣を振り相手を倒して見せた。

一躍男の子達の注目の的になった。


女の子の名前はリリー。

本好きで、体を動かすのが得意で、口数は多くないのに影響力があって、悪ふざけにはノリノリで、とても不思議な女の子。


初等部に入学する頃には、一番の仲良しになった女の子リリー。


お茶会の注目人物は3人。

1人はお茶会の主催者である伯爵家の令息、ミルコ君。

可愛い顔の男の子。

背は小さいけど頭が良く、人に教えるのも上手。

ただ、時々本当のような嘘を付いて、それがばれるとそれはそれは嬉しそうに笑う、ちょっと腹黒い一面を持つ男の子。


もう1人はリリー。


最後の1人は、マニュエルと言う名前の、ピンク色の女の子。

何故か自分を物語のお姫様と思い込んでいて、気に入らないことがある度に、凄い文句を言ったり暴れたりする。

男の子にしか話し掛けなくて、女の子が話し掛けると、凄く馬鹿にしたように見て、何も言わないでどっかに行ってしまう。

あまりに態度が悪いので、女の子の間では、ピンク女と呼ばれている。


◆◆◆◆◆◆◆


初等部に入学すると、面倒な希少属性判定を受けてしまった私とリリーとピンク女。

しかも更に面倒な事に、私の担当教師がピンク女の好みそうな、やたら綺麗な顔の教師。

絡まれること間違いなし。

とても憂鬱。

そして更に、親元を離れての寮生活に、眠れなくて体調を崩す子が続出したが、


「眠れなくて体調を崩すなら、倒れるまで体を動かせば良いよ」


とのリリーの言葉で、放課後に集まって、演習場での爆走大会が開催された。

毎日ヘロヘロになるまで走り回り、夢も見ずに寝る日々を過ごしてたら、ホームシックに陥る間も無く生活に慣れた。


ピンク女には、事有る毎に理不尽に絡まれたけど、私が本当に苛立ってくると、リリーが力業でピンク女を排除してくれて、イライラが溜まりきる前にやり過ごせた。


成績の最悪なピンク女と、万が一にも同じクラスにならない様に、仲間全員で頑張ったお陰で、優秀クラスに入れて、たまに煩わしくても楽しい初等部生活を送れた。


◆◆◆◆◆◆◆


高等部の第一印象は、豪華すぎて疲れそう、だった。

学園の校舎も設備も、通う生徒も無駄にキラキラして、自分がそこに居る事に凄く違和感を感じた。


ピンク女が、物凄くギラギラした目をしてたので、初等部時代よりも慎重に回避しようと仲間内で確認し合った。


リリーとの同じクラスには、高貴オーラでキラッキラの、見詰めるだけで不敬に問われそうな高位貴族の令嬢令息が居て、このクラスで無事過ごせるかがとても不安になった。


ピンク女が騒ぎを起こし、それに離れた所から、リリーと2人で何時もの様に突っ込みを入れていたら、それを聞いていたらしいクラスメイトな高位貴族の令嬢に、クラスメイトになったのですから、とか言って食事に誘われた。

私とリリーの突っ込みが、高位貴族の方々にはとても愉快に感じたらしく、クスクスと上品に笑われた。


思いの外楽しく過ごせてしまった昼食会。

その後何かと一緒に行動しようとする高位貴族のお嬢様と、ご子息様。

何故か私とリリーの会話を聞いて、笑ってる事が多いけど。


ピンク女が何時もの様に、顔の良い男子生徒に迫っているのを横目に見て、なるべく関わりにならないように回避しながら、学園生活は順調に進んだ。


希少属性持ちになってしまったせいで、面倒な事も多いけど、そのお陰で、魔石に魔力を籠めるだけでお小遣いを貰えるのは、かなり嬉しくて有り難かった。

貰ったお小遣いは、半分は孤児院に送り、残りの半分は、本当にお小遣いとして、週末に仲間と一緒に街で買い物をしたり、食べ歩きをしたりした。

王都に来たのも初めてだし、自分のお金での買い物も、食べ歩きも初めてで、見るもの全てが楽しかった。


リリーは、放課後はだいたい図書館に行ってしまうので、暇な私は友達と話しているか、学園内を散歩している。


裏庭と言われる林の中を散歩していると、不自然に葉が落ちてくる木があり、不思議に思って近寄っていったら、クラスメイトの侯爵家令息のエンデ様が、凄く危なっかしく木を登っていた。

今にも落ちそうなその姿に、思わず見いってしまい、ドズン、と重い音と共に落ちてきたエンデ様に声を掛けてしまった。


「だ、だ、大丈夫ですか?」


「え?ああ!…………見られてしまったか」


「…………ええと、何故こんな所で木登りを?」


「あー、うん」


「あ!言いたくないのでしたら別に!」


「いや、うん。ええとだな、この前の新入生歓迎会の時に、俺は不甲斐なかっただろう?」


「え?そうでした?」


「いや、その、令嬢に木を登らせて、男の俺がただ見てただけと言うのは…………」


「ああ!その事ですか。あー、でもですね、たぶん、私の幼馴染みの男の子達も、同じ場面に会ったら、リリーに登らせたと思いますよ?」


「?それはなぜ?君の幼馴染みは、誰も木に登れないのか?」


「いえいえ、全員登れますけど、リリーが一番速く登れるので」


「他の男子よりも?」


「はい。初等部卒業するまでは、走るのもリリーが一番速かったですし、喧嘩も強かったです」


「…………………見た目あんなに華奢で、本ばかり読んでるように見えるが」


「リリーには、物凄く心配性の兄2人と姉が居るんですけど、兄2人には護身術を、姉には相手を言い負かす話術を習ったそうです」


「おとなしそうな見た目に反して、なかなか愉快な令嬢だと最近知ったが、更に運動能力も高いのか?変わった令嬢だな?」


「フフフ、自慢の親友です!」


「ああ。彼女との会話は、何時も楽しいな!」


「はい!…………所で、エンデ様は、まだ木登りしますか?」


「ああ、そのつもりだが?」


「じゃあ、私がリリーに習った、木登りのコツを教えましょうか?」


「コツなんて有るのか?」


「ええ!足をかける位置と、掴む枝を選ぶコツです!」


「それはありがたい!是非ご教示下さい」


そんな話で盛り上がり、エンデ様が何とか木に登れるようになるまで付き合った。

リリーには呉々も内緒に!って念押しされたけど、楽しかった。


その後、私が直接関わった訳では無いけど、ピンク女が起こした事件が発端で、色々な事があった。

私は、レイチェル様と一緒に行動しながら、ピンク女を避けて逃げて、たまに撃退して、意味不明な言い掛かりで難癖をつけてくるピンク女に、日に日に元気を無くしていくレイチェル様を励まして、リリーは王子殿下に直接頼まれた魔道具の開発に忙しくて。


煩わしい日々は、リリーがピンク女を投げ飛ばすと言う力業で解決した。

その後に会ったピンク女は、最後まで意味不明な言葉を喚いていたけど、リリーには理解出来たみたい。

生まれ変わりとか、正直よく分からないけど、時々リリーが遠くを見て、凄く凄く寂しそうな顔をしてたのは知ってた。

孤児院に居る子供は、たまにそんな顔をする子が居るから。

そう言う子は、魔物や災害で突然親を失くした子で、優しかった両親を思い出している時に、そんな目をするのだと知ってた。

だからリリーも、誰か大切な人を失った事があるんだと思ってたら、別の世界で生きてた記憶があるとか。

別の世界とか、想像も出来ないけど、そこに居た大切な人を、リリーは失ってしまったのだろう。

どう慰めていいのか分からなかったので、ずっと傍に居た。


事件が終わった後くらいから、リリーは、あの寂しそうな顔をすることが少なくなった。

前世が、同じ世界だったピンク女が居なくなった事で、何か踏ん切りが付いたようだった。


実戦演習の時に見せた、思いがけないリリーの脆さには、驚かされたけど、泣きながら立ち上がるリリーを誇らしく思った。


その後の学園生活は、ただただ楽しかった。

ずっと笑って過ごした。


◆◆◆◆◆◆◆


リーンゴーンリーンゴーン

教会の鐘が、新郎新婦の門出を祝うように鳴り響く。

秋晴れの高い空、紅葉の美しい教会前広場、多くの人に囲まれて祝福される新郎新婦。

凄く幸せな光景に涙が滲む。


「大丈夫ですか?」


「ああ、はい。幸せで、眩しくて、涙が出ただけです」


「人の幸せを、心から祝福出来る貴女は素晴らしいですね」


「いえ、そんな。ちょっと、寂しいとも思いましたけど。リリーが嬉しそうで、私も嬉しいです。きっとエンデ様ならリリーを一生幸せにしてくれるでしょう。それに2人の子供は可愛いでしょうね!今から楽しみです!」


「フフッ、今から2人の子供を可愛がる気満々ですね?」


「はい、勿論!きっとレイチェル様も、ライオット様も、幼馴染みの皆も、可愛がりまくると思いますよ!何てったって、リリーとエンデ様の子供ですから!」


「ふむ、それならば、是非その中に、私とチルル様の子供も加えて頂きたいですね?」


「はい!それは楽しそうですね!…………………ん?あれ?私とチルル様の子供?」


「ええ、同じ年頃に生まれたら、さぞ楽しい事でしょうね」


「えええええと、こ、こ、こども?こどもって、いや、でも!えええ!それって、それって!」


「私と結婚しませんか?と言うことです」


「へうっ!」


「フフフッ。突然の事ですからね、返事はゆっくりで構いませんよ?」


「そ、そ、そ、それって、ブレンデル大神官様は、そのっ、私の事が、その」


「ええ、差別にも負けず、直向きに頑張る貴女が好きです」


「うええええ!!マジで!?私も好きです!いやっ、えっと!」


「両想いとは嬉しいですね」


にっこりと笑顔を向けてくれるブレンデル大神官様に、目眩を感じる。


学園を出てから、教会の聖女候補にされ、他にも居た聖女候補に様々な嫌がらせや誹謗中傷を受けても、頑張っていられたのは、ずっと側で支えてくれたブレンデル大神官様のお陰。

凄く感謝してる。

その思いが恋に変わったのは、自分でも何時からだったか覚えていない。


その!恩師で、恩人で、大神官様に!私、プロポーズされてない?これって現実?本当に?

混乱しまくって、クラクラしてる私に、


「チルル!」


大きな声で呼び掛けると同時に、何かを凄い速さで投げ付ける親友リリー。

咄嗟に抱える様に受け止めたのは、さっきまでリリーが持っていた、花嫁のブーケ。


「おや、幸せのお裾分けを頂きましたね。これは早く次に繋げないと」


とても楽しそうに笑う、ブレンデル大神官。

リリーの顔を見れば、ニヤリとい~い笑顔で親指を立てている。

それを見た、幼馴染み達も元クラスメイト達も、同じ顔で親指を立てる。

そして弾ける様に広がる笑い声。

この場に居る皆が笑っている。


孤児で、底辺で、まだまだ駆け出しでしかない聖女で、何も持っていない私だけど、親友が居て、友達が居て、それだけで幸せだったけど、そこに旦那様が増えるみたい。

いつか、そこに子供も増えると良い。


「ちょっとリリー!幸せ過ぎて泣きそうなんだけど!」


「大丈夫!私も泣いたー!」



読んで頂いてありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[一言] オイラ、この二人好きすぎる。 爽やかな青春物語を有難う。 自分には無かったから余計に思います。
[良い点] 青春いいですね。いい仲間にも恵まれ、ポジティブなリリー、読後感すごくよかったです。 すてきな作品ありがとうございましたm(_ _)m
[一言] 実に良いものを読んだ ありがたい…
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