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7✳️

3度目でも全く慣れる事の無い王城。

レイチェル様の家の馬車に乗せられ、パーティー会場の入り口正面にとめられ、馬車のドアが開かれたそこには、にこやかに立つ王子殿下とライオット様とエンデ様。


まず王子殿下が、レイチェル様に手を差し出して、馬車を下ろしそのままエスコート。

次に、ライオット様が手を差し出したのは私。

笑顔の圧力に耐えられず、その手を取ってエスコートされる。

続くエンデ様とチルル。

チルルの笑顔も、かなり引き攣っている。


エスコートされた先は煌びやかなパーティー会場。

目に入るもの全てが煌びやか。


「こんなはずじゃなかった!私平民なのに!」


「私だって、最底辺貴族なのに!」


「主役張れる人達に囲まれてるって、おかしいでしょ?!」


「なんでこうなったんだろうね?」


「制服で参加して、パーティー会場の隅っこで、華やかさに憧れる側のはずなのに!」


「ね~、キラッキラのドレス着て、真ん中にいるね~」


「ちょっとリリー!正気に戻って!現実逃避しても、何も変わらないぞ!」


「現実逃避してる内に終わらないかな~」


「確かに!デビュタントの時も、それで乗りきれたのかも?」


「グフッ、アハハッ!いや、無理だから!お前達、もうちょっとパーティーを楽しめよ!」


チルルまで現実逃避しそうになった所で、エンデ様に止められてしまった!


「いやいやいや、無理でしょ~、男爵令嬢と平民の分際で、何で王子殿下の側に居るんだごらっ!?って死線がザックザク刺さってますよ!」


「はい、とても痛いです!命に関わります!」


チルルの言葉に同意したら、エンデ様だけじゃなく、ライオット様とクラップ王子殿下まで笑いだした。

レイチェル様だけは、心配そうな顔をしてるけど。


「ククッ、フハッ!大丈夫だよ。君達は普段から仲が良いし、希少属性持ちだし、アブソルム男爵家は、今一番話題の家だし、チルル嬢は教会の聖女候補だし!」


「クラップ王子殿下に逆らうわけではありませんが、半笑いで言われても安心できかねます」


「クックックッ!そう言う所が、彼等のお気に入りになったんだぞ!」


「半笑いを指摘出来る所?」


「無礼な所が受けたんじゃない?今まで周りに居なかっただろうし?」


チルルとこそこそ相談してたら、


「アッハッハッハッ!」


王子殿下が爆笑しだした。

他のメンバーも笑ってるし。

高位貴族の笑いのツボが分かりません。


その後に王子殿下が挨拶の言葉を述べて、パーティーが開始。

王子殿下とレイチェル様が最初にダンスを踊り、身分の順に次々と踊り出す生徒達。


恐ろしい事に、ダンスの順番はエスコートする男性側の身分の順なので、私とチルルは侯爵令息のエスコートで、4番目として同時に踊った。

辛うじて足は踏まなかったけど、腰が引けてたのは許して欲しい。


伯爵以下は、もう身分関係なく踊れる。

王子殿下に、ダンスに誘って欲しい令嬢が群がる。

ライオット様にも、エンデ様にも群がる。

レイチェル様を誘いたい令息達が群がる。


その群れから弾き出された私とチルルは、そそくさと会場隅に移動して、やっと呼吸が取り戻せたかのように深呼吸してしまった。


「はあ~~~。緊張した!」


「はあーーー。全くね!本当に視線で怪我しそうだったよ!」


「ホントにな!思わずバリア張る所だったよ!」


「寧ろ張っといた方が良かったんじゃない?無属性魔法持ちアピールにもなるし?」


「その場合、チルルにのみ視線が刺さるけど?」


「そこは、親友の私も入れてくれないと!」


「無理!2人分くらいの大きさなら大丈夫だけど、その場合、透明なバリアしか張れない」


「む~!まぁ、今後はこんな華やかな場所に早々来る機会も無いだろうし、今回は頑張ろう!」


「そうだね!私達の卒業パーティーの時は、学園の迎賓館でやるだろうし!」


「と、言うことで!滅多に無いお城のご飯が食べられますぞリリー殿!」


「おお!それはまたとないチャンスですなチルル殿!しかし!考え無しにバカスカ食べては成りませんぞチルル殿!」


「何故かね?リリー殿。今回を逃せば、次は無いかも知れんのだぞ!」


「チルル殿、良く思い出した方が良い、今私達が着ている服を!」


「…………ドレスですな!」


「ドレスですとも!そしてドレスには、コルセットと言う敵が潜んでおるのですぞ!」


「ああ!そうだった!にっくきコルセット!奴のお陰でどれだけ苦しめられた事か!」


「今現在も苦しめられておる!ここは、癪だが厳選した品だけを、少量ずつ口にしなければ成りませんぞ!」


「悔しいが仕方有るまい!」


緊張から解放されて、変なテンションのまま小芝居しながら移動。

それはそれは見事に飾り立てられた見たことも無い料理の数々。

パーティー用に、小さく食べやすい大きさに作られている。

香りも素晴らしい!


「ヤバいよリリー!どれもこれも美味しそうだし、綺麗だし可愛いし!選べないんだけど!これは全部食べ物なの?」


「私だって知らないよ!見たことも無いし!」


「リリーも一応貴族でしょ!どんな料理かくらい分かんないの?」


「こらこらチルル!ド田舎の貧乏貴族舐めんな!何一つ見たこと無いわ!」


「それ自慢するところじゃないよね?」


クスクス笑いながら、私とチルルの会話に突っ込んだのは、幼馴染みでお茶会友達の伯爵令息。

可愛い顔で腹黒君な、イエール伯爵令息のミルコ君。


「ミルコ君も食事?」


「いや、2人が見えたから」


「そう。で、ミルコ君、この料理は、何がどうなってどんな物で出来ているのかね?」


「そうですね、僕のお薦めはローストビーフと蟹の身のゼリー寄せですね!先程食べて、大変美味でしたので!」


「とてもローストビーフとは見えんのだが?」


「そこはこの国の最上級の料理人の成せる業!見た目も美しく整える技術は流石のものですね!」


「確かに素晴らしい!これは是非とも食べてみたいものだ!」


流石幼馴染み。

小芝居にも瞬時に合わせてくれる。

給仕さんが笑いを堪えながら、綺麗に皿に盛り付けてくれる。


暫し3人で見目も味も素晴らしい食事を堪能して、果実酒を飲みながら休憩。

ギュウギュウに絞められたコルセットの攻撃に、ちょっと息がしづらいです!

3人で話してたら、他の幼馴染み達も合流。

初っぱなの登場が、目立ちまくってた事をからかわれ、全員無事3年生になることを祝った。

次に寄ってきたのはクラスメイト。

同じ話題でからかわれ、祝い合って、腹ごなしに誘われるまま何人かと踊った。


そして最後に、何故か涙目の魔道具マニアの先輩と踊って、先輩の進路が、大学園の魔道具科だと知り、是非とも協力を!と言われたけど、気が向いたら、と微妙に返しといた。


最初はガッチガチに緊張していたけど、お酒も入って緊張も解れ、楽しむ余裕も出てきた。


王子殿下やレイチェル様、ライオット様にエンデ様達は、未だダンスの列が途切れずに、大変そうだけど。


食べて話して踊ってを繰り返し、そろそろデザートで仕上げ!とチルルとはしゃいでいると、


「酷いですわお2人とも! 大変な目に遭っている友人のわたくしを余所に、とても楽しそうで!」


「あ~レイチェルサマー、お疲れさまで~す!」


チルルはちょっとお酒にやられていて、ゆる~く挨拶をしてニコニコ笑ってる。

様が夏の発音のサマーになってるし。

その顔に毒気を抜かれたのか、レイチェル様も、仕方ないわね!と笑いながら、一緒にデザートを選び出した。


楽しいパーティーは大いに盛り上がり、閉会の挨拶に立った、クラップ王子殿下に盛大な拍手が贈られた。


◆◆◆◆◆◆◆


3年生になると、魔法実技の授業に実戦が加わる。

グループに分かれて、実際に魔法で魔物を倒す授業。


何時ものメンバーでグループを組んだ私達。

レイチェル様は、火魔法を鞭の様にして使う。

ライオット様は、水魔法を弾丸の様に撃ち出して使う。

エンデ様は、風魔法を剣に纏わせて切れ味を上げている。

チルルは、光魔法の針で牽制と、怪我人が出た時の治療。

私はバリアで皆を守る。


授業とは言え実戦。

生き物を実際に殺す事を求められる。

ド田舎の貧乏貴族でも、幼かった私に、家族は魔物を見せたことは無かった。


実際に目の当たりにした魔物は、恐怖の対象でしかなく、情けなくも私は恐慌状態に陥り、初の戦闘ではへたり込んで何も出来なかった。


他のメンバーは、レイチェル様やチルルでさえ、躊躇無く魔物に攻撃してたのに。

魔物の死体も恐ろしいばかりで直視出来なかった。


レイチェル様とチルルに慰められたけど、自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった。

そんな私に、


「おい、いつまで泣いている?!自分が情けないと泣く暇があるなら、立て!お前の前世とは違って、ここは止まって泣いてるだけでは死ぬ世界だぞ!お前1人で死ぬなら止めないが、仲間の命も危険に晒していることを自覚しろ!」


「エンデ!そこまで強く言わなくとも!」


「ここで覚悟を決められない者は、生涯屋敷から出られない臆病者になるだけだ!」


「それはそうですが、もう少し優しい言い方でも………」


ライオット様とレイチェル様が庇ってくれようとするけど、


「リリー、私もエンデ様と同じ意見よ!立って、戦いなさい!私の親友は、こんなことで泣いて逃げる弱い子じゃないでしょ?!」


前世の平和な国の記憶が有り、学園でも、家でも、危険に晒された事の無い私には、覚悟が無かった。

殺す覚悟ではなく、生き残る覚悟。

情けなくても無様でも、生き抜く覚悟。

グイグイと涙を拭いて、エンデ様とチルルを見る。

2人が笑って頷いてくれたので、手が震えても、歯の根が合わなくても立ち上がれた。

レイチェル様が、ライオット様が背中を押してくれたので、一歩進むことが出来た。


皆を守る力が私には備わっている。

覚悟完了。


たまに失敗しながらも、何とかバリアで魔物の攻撃を防ぎ、かすり傷程度で授業を終えられた。


エンデ様とチルルに褒められて、またもやギャン泣きしたのは、恥ずかしくも嬉しかった思い出。


◆◆◆◆◆◆◆


新入生歓迎会では1位を取った。


実戦を伴う魔法実技は、飛躍的に魔力とコントロールが上がった。

命の危険のある場所での訓練は、その人の持つ、本質的な魔力が具現化しやすいらしい。

私のバリアは、エンデ様の剣でもかすり傷一つつけられないくらい頑丈になった。


クラス対抗のイベントは、Sクラスにも負けなかった。


楽しい楽しい学園生活も、残り二月。


乙女ゲームを少しは意識していたのか、平和に賑やかに過ぎていく生活の中に、ヒロインの影を無意識に探してしまう変な癖が出来た。

居ないと分かってはいても、つい。

チルルに指摘されて初めて気付かされ、皆にもう居ない奴を探してる!って笑われた。

そこでやっと、乙女ゲームは終了していることを、心でも理解出来た。


そろそろ本当に進路を決めないといけない時期。

実家からは帰ってこいと言われてるし、好きにしても良いとも言われている。

魔道具マニアの先輩には、大学園に是非!と誘われ、クラップ王子殿下に、うちの侍女にならない?と誘われてもいる。


チルルは、教会の聖女見習いとして働く事に。

ライオット様は、ご実家の侯爵家で領地運営の本格的な勉強が始まる。

エンデ様は、次男なので試験に合格し騎士団へ。

幼馴染み達も各々の進路を決め、クラスメイトも。

レイチェル様は、クラップ王子殿下と婚約して、花嫁修業。


悩める程に進路がある。

自分のしたいことを考える時間も楽しいもの。


前世の記憶を引きずって、甘えた自分に気付かせてくれた人達の、一番役に立てる職業って何だろう?


プラプラと学園内を歩きながら、この先の未来を考える。

この、乙女ゲームに似ていても、全然別の、私の生きていく世界で、私は何をしよう?


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― 新着の感想 ―
[一言] >お前の前世とは違って、ここは止まって泣いてるだけでは死ぬ世界だぞ! これ、謎なんですが主人公の前世だって普通に死にますよね? 病気で死ぬ人も、事故で死ぬ人も、殺されて死ぬ人も、戦争で死ぬ…
[一言] 誤字報告しようかとも思ったのですが、残しておいて欲しいので感想に書かせて頂きます。(完結後なので要らぬお節介かもしれませんが、ご容赦ください。) 「死線がザックザク刺さってます」で「視線」で…
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