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3度目でも全く慣れる事の無い王城。
レイチェル様の家の馬車に乗せられ、パーティー会場の入り口正面にとめられ、馬車のドアが開かれたそこには、にこやかに立つ王子殿下とライオット様とエンデ様。
まず王子殿下が、レイチェル様に手を差し出して、馬車を下ろしそのままエスコート。
次に、ライオット様が手を差し出したのは私。
笑顔の圧力に耐えられず、その手を取ってエスコートされる。
続くエンデ様とチルル。
チルルの笑顔も、かなり引き攣っている。
エスコートされた先は煌びやかなパーティー会場。
目に入るもの全てが煌びやか。
「こんなはずじゃなかった!私平民なのに!」
「私だって、最底辺貴族なのに!」
「主役張れる人達に囲まれてるって、おかしいでしょ?!」
「なんでこうなったんだろうね?」
「制服で参加して、パーティー会場の隅っこで、華やかさに憧れる側のはずなのに!」
「ね~、キラッキラのドレス着て、真ん中にいるね~」
「ちょっとリリー!正気に戻って!現実逃避しても、何も変わらないぞ!」
「現実逃避してる内に終わらないかな~」
「確かに!デビュタントの時も、それで乗りきれたのかも?」
「グフッ、アハハッ!いや、無理だから!お前達、もうちょっとパーティーを楽しめよ!」
チルルまで現実逃避しそうになった所で、エンデ様に止められてしまった!
「いやいやいや、無理でしょ~、男爵令嬢と平民の分際で、何で王子殿下の側に居るんだごらっ!?って死線がザックザク刺さってますよ!」
「はい、とても痛いです!命に関わります!」
チルルの言葉に同意したら、エンデ様だけじゃなく、ライオット様とクラップ王子殿下まで笑いだした。
レイチェル様だけは、心配そうな顔をしてるけど。
「ククッ、フハッ!大丈夫だよ。君達は普段から仲が良いし、希少属性持ちだし、アブソルム男爵家は、今一番話題の家だし、チルル嬢は教会の聖女候補だし!」
「クラップ王子殿下に逆らうわけではありませんが、半笑いで言われても安心できかねます」
「クックックッ!そう言う所が、彼等のお気に入りになったんだぞ!」
「半笑いを指摘出来る所?」
「無礼な所が受けたんじゃない?今まで周りに居なかっただろうし?」
チルルとこそこそ相談してたら、
「アッハッハッハッ!」
王子殿下が爆笑しだした。
他のメンバーも笑ってるし。
高位貴族の笑いのツボが分かりません。
その後に王子殿下が挨拶の言葉を述べて、パーティーが開始。
王子殿下とレイチェル様が最初にダンスを踊り、身分の順に次々と踊り出す生徒達。
恐ろしい事に、ダンスの順番はエスコートする男性側の身分の順なので、私とチルルは侯爵令息のエスコートで、4番目として同時に踊った。
辛うじて足は踏まなかったけど、腰が引けてたのは許して欲しい。
伯爵以下は、もう身分関係なく踊れる。
王子殿下に、ダンスに誘って欲しい令嬢が群がる。
ライオット様にも、エンデ様にも群がる。
レイチェル様を誘いたい令息達が群がる。
その群れから弾き出された私とチルルは、そそくさと会場隅に移動して、やっと呼吸が取り戻せたかのように深呼吸してしまった。
「はあ~~~。緊張した!」
「はあーーー。全くね!本当に視線で怪我しそうだったよ!」
「ホントにな!思わずバリア張る所だったよ!」
「寧ろ張っといた方が良かったんじゃない?無属性魔法持ちアピールにもなるし?」
「その場合、チルルにのみ視線が刺さるけど?」
「そこは、親友の私も入れてくれないと!」
「無理!2人分くらいの大きさなら大丈夫だけど、その場合、透明なバリアしか張れない」
「む~!まぁ、今後はこんな華やかな場所に早々来る機会も無いだろうし、今回は頑張ろう!」
「そうだね!私達の卒業パーティーの時は、学園の迎賓館でやるだろうし!」
「と、言うことで!滅多に無いお城のご飯が食べられますぞリリー殿!」
「おお!それはまたとないチャンスですなチルル殿!しかし!考え無しにバカスカ食べては成りませんぞチルル殿!」
「何故かね?リリー殿。今回を逃せば、次は無いかも知れんのだぞ!」
「チルル殿、良く思い出した方が良い、今私達が着ている服を!」
「…………ドレスですな!」
「ドレスですとも!そしてドレスには、コルセットと言う敵が潜んでおるのですぞ!」
「ああ!そうだった!にっくきコルセット!奴のお陰でどれだけ苦しめられた事か!」
「今現在も苦しめられておる!ここは、癪だが厳選した品だけを、少量ずつ口にしなければ成りませんぞ!」
「悔しいが仕方有るまい!」
緊張から解放されて、変なテンションのまま小芝居しながら移動。
それはそれは見事に飾り立てられた見たことも無い料理の数々。
パーティー用に、小さく食べやすい大きさに作られている。
香りも素晴らしい!
「ヤバいよリリー!どれもこれも美味しそうだし、綺麗だし可愛いし!選べないんだけど!これは全部食べ物なの?」
「私だって知らないよ!見たことも無いし!」
「リリーも一応貴族でしょ!どんな料理かくらい分かんないの?」
「こらこらチルル!ド田舎の貧乏貴族舐めんな!何一つ見たこと無いわ!」
「それ自慢するところじゃないよね?」
クスクス笑いながら、私とチルルの会話に突っ込んだのは、幼馴染みでお茶会友達の伯爵令息。
可愛い顔で腹黒君な、イエール伯爵令息のミルコ君。
「ミルコ君も食事?」
「いや、2人が見えたから」
「そう。で、ミルコ君、この料理は、何がどうなってどんな物で出来ているのかね?」
「そうですね、僕のお薦めはローストビーフと蟹の身のゼリー寄せですね!先程食べて、大変美味でしたので!」
「とてもローストビーフとは見えんのだが?」
「そこはこの国の最上級の料理人の成せる業!見た目も美しく整える技術は流石のものですね!」
「確かに素晴らしい!これは是非とも食べてみたいものだ!」
流石幼馴染み。
小芝居にも瞬時に合わせてくれる。
給仕さんが笑いを堪えながら、綺麗に皿に盛り付けてくれる。
暫し3人で見目も味も素晴らしい食事を堪能して、果実酒を飲みながら休憩。
ギュウギュウに絞められたコルセットの攻撃に、ちょっと息がしづらいです!
3人で話してたら、他の幼馴染み達も合流。
初っぱなの登場が、目立ちまくってた事をからかわれ、全員無事3年生になることを祝った。
次に寄ってきたのはクラスメイト。
同じ話題でからかわれ、祝い合って、腹ごなしに誘われるまま何人かと踊った。
そして最後に、何故か涙目の魔道具マニアの先輩と踊って、先輩の進路が、大学園の魔道具科だと知り、是非とも協力を!と言われたけど、気が向いたら、と微妙に返しといた。
最初はガッチガチに緊張していたけど、お酒も入って緊張も解れ、楽しむ余裕も出てきた。
王子殿下やレイチェル様、ライオット様にエンデ様達は、未だダンスの列が途切れずに、大変そうだけど。
食べて話して踊ってを繰り返し、そろそろデザートで仕上げ!とチルルとはしゃいでいると、
「酷いですわお2人とも! 大変な目に遭っている友人のわたくしを余所に、とても楽しそうで!」
「あ~レイチェルサマー、お疲れさまで~す!」
チルルはちょっとお酒にやられていて、ゆる~く挨拶をしてニコニコ笑ってる。
様が夏の発音のサマーになってるし。
その顔に毒気を抜かれたのか、レイチェル様も、仕方ないわね!と笑いながら、一緒にデザートを選び出した。
楽しいパーティーは大いに盛り上がり、閉会の挨拶に立った、クラップ王子殿下に盛大な拍手が贈られた。
◆◆◆◆◆◆◆
3年生になると、魔法実技の授業に実戦が加わる。
グループに分かれて、実際に魔法で魔物を倒す授業。
何時ものメンバーでグループを組んだ私達。
レイチェル様は、火魔法を鞭の様にして使う。
ライオット様は、水魔法を弾丸の様に撃ち出して使う。
エンデ様は、風魔法を剣に纏わせて切れ味を上げている。
チルルは、光魔法の針で牽制と、怪我人が出た時の治療。
私はバリアで皆を守る。
授業とは言え実戦。
生き物を実際に殺す事を求められる。
ド田舎の貧乏貴族でも、幼かった私に、家族は魔物を見せたことは無かった。
実際に目の当たりにした魔物は、恐怖の対象でしかなく、情けなくも私は恐慌状態に陥り、初の戦闘ではへたり込んで何も出来なかった。
他のメンバーは、レイチェル様やチルルでさえ、躊躇無く魔物に攻撃してたのに。
魔物の死体も恐ろしいばかりで直視出来なかった。
レイチェル様とチルルに慰められたけど、自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった。
そんな私に、
「おい、いつまで泣いている?!自分が情けないと泣く暇があるなら、立て!お前の前世とは違って、ここは止まって泣いてるだけでは死ぬ世界だぞ!お前1人で死ぬなら止めないが、仲間の命も危険に晒していることを自覚しろ!」
「エンデ!そこまで強く言わなくとも!」
「ここで覚悟を決められない者は、生涯屋敷から出られない臆病者になるだけだ!」
「それはそうですが、もう少し優しい言い方でも………」
ライオット様とレイチェル様が庇ってくれようとするけど、
「リリー、私もエンデ様と同じ意見よ!立って、戦いなさい!私の親友は、こんなことで泣いて逃げる弱い子じゃないでしょ?!」
前世の平和な国の記憶が有り、学園でも、家でも、危険に晒された事の無い私には、覚悟が無かった。
殺す覚悟ではなく、生き残る覚悟。
情けなくても無様でも、生き抜く覚悟。
グイグイと涙を拭いて、エンデ様とチルルを見る。
2人が笑って頷いてくれたので、手が震えても、歯の根が合わなくても立ち上がれた。
レイチェル様が、ライオット様が背中を押してくれたので、一歩進むことが出来た。
皆を守る力が私には備わっている。
覚悟完了。
たまに失敗しながらも、何とかバリアで魔物の攻撃を防ぎ、かすり傷程度で授業を終えられた。
エンデ様とチルルに褒められて、またもやギャン泣きしたのは、恥ずかしくも嬉しかった思い出。
◆◆◆◆◆◆◆
新入生歓迎会では1位を取った。
実戦を伴う魔法実技は、飛躍的に魔力とコントロールが上がった。
命の危険のある場所での訓練は、その人の持つ、本質的な魔力が具現化しやすいらしい。
私のバリアは、エンデ様の剣でもかすり傷一つつけられないくらい頑丈になった。
クラス対抗のイベントは、Sクラスにも負けなかった。
楽しい楽しい学園生活も、残り二月。
乙女ゲームを少しは意識していたのか、平和に賑やかに過ぎていく生活の中に、ヒロインの影を無意識に探してしまう変な癖が出来た。
居ないと分かってはいても、つい。
チルルに指摘されて初めて気付かされ、皆にもう居ない奴を探してる!って笑われた。
そこでやっと、乙女ゲームは終了していることを、心でも理解出来た。
そろそろ本当に進路を決めないといけない時期。
実家からは帰ってこいと言われてるし、好きにしても良いとも言われている。
魔道具マニアの先輩には、大学園に是非!と誘われ、クラップ王子殿下に、うちの侍女にならない?と誘われてもいる。
チルルは、教会の聖女見習いとして働く事に。
ライオット様は、ご実家の侯爵家で領地運営の本格的な勉強が始まる。
エンデ様は、次男なので試験に合格し騎士団へ。
幼馴染み達も各々の進路を決め、クラスメイトも。
レイチェル様は、クラップ王子殿下と婚約して、花嫁修業。
悩める程に進路がある。
自分のしたいことを考える時間も楽しいもの。
前世の記憶を引きずって、甘えた自分に気付かせてくれた人達の、一番役に立てる職業って何だろう?
プラプラと学園内を歩きながら、この先の未来を考える。
この、乙女ゲームに似ていても、全然別の、私の生きていく世界で、私は何をしよう?