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高等部進学にあたり、寮の引っ越しで大忙し。
お茶会友達の子爵子息がどこかから借りてきた荷車を皆で借りて、荷物を運ぶ。
男子達はそれほど荷物は多くないけど、片付けには時間がかかり、女子は荷物が多かった。
基本、男子寮と女子寮は、異性の立ち入りを禁止しているが、引っ越しは業者や家の従者を呼んだりもするので、その期間は特別に出入り自由になる。
女子が男子の部屋の片付けを手伝い、男子が荷物を運ぶ。
和気藹々と引っ越しをすませ、寮の大食堂でお茶を楽しむ。
話題は高等部の豪華さについて。
どこもかしこもピカピカで、無駄に広くて豪華。
ちょっと粗相して花瓶の一つでも割ってしまったらと思うと、変に緊張して動けなくなる!と笑いながら話す男子達。
女子達は、チラッと見掛けた高位貴族の令嬢達の荷物の多さに驚き、メイドの人数に驚き、その令嬢の着ているドレスに驚いた話。
高等部は、初等部で基礎を習い、その使い方をより洗練させるために、2年生からは、幾つかの学科を選択出来るのだが、その話でも盛り上がった。
男子の多くは騎士学科、女子の多くは淑女学科を希望とのこと。
1年生の間に、適性も見られるらしく、全員が希望通りとはいかないらしいが。
煌びやかな講堂で、煌びやかな入学式を終え、割り当てられた教室に行くと、普段お目に掛かる機会も無い高位貴族の子息子女の方々が。
緊張して教室のすみに縮こまっていると、身分の高い順番で次々と席が決まっていく。
身分制度のはっきりした社会なので、こう言う面倒な部分もたまにある。
高位貴族令嬢には派閥などもあり、どの令嬢に付くかでも熾烈な駆け引きがあるらしい。
ド田舎の低位貴族な私達は、田舎者とからかわれながら、どこの派閥にも入る予定はないけど。
余った席に着き、教師の到着まで隣のチルルと話す。
小声で話す内容は、どの高位貴族の令嬢が面倒臭い性格をしているか、どの高位貴族の令嬢が品行方正で尊敬出来るか等々。
まだまだ噂に過ぎないが、中々侮れない。
知識として覚えておくのは大切。
担任教師は、物凄く融通の利かなそうな眼鏡のインテリ風、まぁまぁイケメン。
入学初日なので、今後の授業方針を聞き、新入生歓迎会の説明を聞き、教科書を受け取り解散。
まだ会ったばかりのクラスメイトと、ぎこちなく会話していると、廊下で大きな声が。
覗いてみれば、例の自称ヒロインマニュエルが、隣のSクラスと言う最上位クラスの、キラキラしいイケメン担任に、何故自分はこのクラスじゃないのかと言い掛かりを付けていた。
お前の成績は底辺だろうが!と突っ込みを入れてみたい衝動を抑え、様子を観察。
声を聞いた他のクラスメイトや、他のクラスの生徒も注目している。
何時も以上にグネグネしながら、上目使いで胸を強調するようなポーズで話す自称ヒロインマニュエル。
皆さんドン引き。
「う~わ~、相変わらずイケメン見ると、見境無く迫って行くね~。グネグネし過ぎて気持ち悪いんだけど~」
「あれって、自分では可愛いと本気で思ってるのよね?」
「あれで今まで誰一人捕まえられて無いんだから、ちょっとは方法考えるとかすれば良いのに」
「それを思い付かない辺りが、Fクラスの原因なんだろうね」
「それなのに、何で自分はSクラスに入れると思ってんのかね?Sクラスって、成績だけじゃなく、身分も必要だよね?」
「ね~、常識とか、マナーとか何処に捨ててきたんだろうね?」
チルルと2人でこそこそ話してたら、後ろから笑い声が。
振り向くと、何人かの名前も知らないクラスメイトが、必死に笑いを堪えている。
聞こえた私達の会話が、とても受けたらしい。
何故か笑ってたクラスメイトに誘われて、食堂でお昼を一緒に食べる事になった。
クラスメイトの大半が付いてきた食事会は、自己紹介を聞いてビックリ!
複数の高位貴族の令息令嬢達が居て、凄く気さくに話が出来てしまった!
何故Sクラスに居ないのか不思議な程のお家柄のクラスメイト。
各々に事情はあるが、だいたいが家の仕事を手伝っていて、試験勉強が片手間になってしまったとか。
片手間でAクラスに入れるとか、高位貴族はやっぱり凄い!と感心してたら、その事にも笑われた。
思いの外話は弾み、私達から例の自称ヒロインマニュエルの話を聞き、絶対近寄らないとの通達が行き渡り、変な一体感と共に食事会は終了した。
◆◆◆◆◆◆◆
入学式から3日後、新入生歓迎会が開かれた。
乙女ゲームのイベントとしては王道なイベント。
内容は、魔法有のスタンプラリーのようなもので、ヒントを頼りにポイントを集め早くゴールをした人に、景品が貰えるといったもの。
ハンデとして2、3年生は1時間遅れで開始。
魔法有とは言え、随所に教師の見張りが居るので、故意に人を怪我させる等の危害を加えると、その場で失格になり、悪質な者は停学にもなるそうです。
初日の食事会以降、謎の一体感を持ったクラスメイトが一丸となって、やる気満々でいるのに、若干引き気味の私とチルル。
公爵家の令嬢と侯爵家の令息を中心に、作戦まで立ててる。
基本個人戦のイベントなのに。
作戦の通りに数人でグループを作り、ポイントを回る。
他に見掛ける生徒達は1人か2人なのに、うちのクラスは5人1組で団結している。
私のグループは、私とチルル、そして何故か、公爵令嬢のレイチェル・イムエキス様と、侯爵令息のライオット・ハイソムニア様、侯爵令息のエンデ・グラナダス様が一緒に居る。
何故こうなった?
公爵令嬢レイチェル様は、金髪に緑の目の迫力のある美人。
侯爵令息のライオット様は、銀髪に青い目の美丈夫。
侯爵令息のエンデ様は、真っ赤な髪と目の、精悍なイケメン。
お三方共、目を背けたくなる程キラキラしいお姿をしており、直視するのも躊躇われる存在なのに、何故かお三方共、凄く気さくに心底楽しそうに話し掛けてくる。
何故こうなった?!
チルルと2人、若干引きながらも、無視するわけにもいかないので、緊張しながらもイベントを進める。
最初に渡されたヒントを元に、園内地図を見ながらポイントの場所を推理する。
発見したポイントは、様々な場所にある。
森の中の忘れられたようなガゼボの天井裏とか、泉のど真ん中に浮かんでいたりとか、時計塔の時計の裏とか、木の上とか、道のど真ん中に置いてあったりとか、巨大な落とし穴の底にあったりとか。
探し辛く罠のようなポイントも多い。
それを魔法で解決しろって事なのだろう。
5人もいれば誰かが解決策を思い付き、私達のグループは、順調にポイントを集めていた。
高位貴族の令息令嬢なので、木に登ったのは私、落とし穴に落ちたのはチルルがやったし、ガゼボの天井は、エンデ様がジャンプして取ったし、泉のど真ん中にあるヒントは、ライオット様の魔法で引き寄せていたし。
レイチェル様はヒントの答えを思い付くのが誰より早いし。
と言う事でゴール前の隠し扉前。
なのだが、隠し扉がある辺りを、サワサワ触って探っている自称ヒロインマニュエルがですね、とても邪魔。
あの扉は、ポイントを集めた用紙に、自分の魔力を流すと、自動で隠された扉が現れ開く仕組みになっている。
自称ヒロインマニュエルは、乙女ゲームの知識で、ゴールの位置を事前にでも知っていたのか、ポイントを集めずに、直接ゴールに来たとみえて、扉の開きかたは知らない様子。
近寄りたくはないが、ゴールはしたい私達。
さて、奴をどう排除しようか?
ちょっと離れた場所で相談してたら、ゴールを挟んだ反対側から、キラキラしい男子生徒がゴールに向かって歩いて来るのが見えて、様子を見る事に。
何とか扉を抉じ開けようとする自称ヒロインマニュエルは、キラキラ男子の接近に気付いておらず、ずっと扉付近をサワサワしてる。
接近し、自称ヒロインマニュエルを発見したキラキラ男子、キラキラ男子に気付いた自称ヒロインマニュエル、しばし無言で見つめ合う2人。
途端グネグネしだす自称ヒロインマニュエル。
キラキラ男子ドン引き。
引き攣った顔で何かを話し、その場を離れようとするキラキラ男子、を追いかける自称ヒロインマニュエル。
すかさず扉に近寄り、全員で一斉にポイント用紙に魔力を流す私達。
扉は開き、素早く中へ。
扉が閉まったことを確認して、ホッと息を付く私達に、
「おめでと~う!1年生1番のりだね!上級生より早いって、君達中々やるね!」
ここにもキラキラしい男子登場。
笑顔で褒められたけど、誰ですか?
「あ、私を誰だか知らない子が居る!私はね~、クラップ・ノイエール・ライフ、このライフ王国の第3王子なのさ!」
キラキラ男子が、キラッキラの笑顔で自己紹介してくれたけど、逃げて良いですか?王子とか、雲の上の人過ぎて、どうして良いか分かりません!
固まって動けない私とチルルを、助け起こしてお手本のようなカーテシーをして、先に挨拶をしてくれるレイチェル様。
それに倣って、何とかグラつきながら、礼をして噛み噛みで挨拶の言葉を言った私とチルルを、微笑ましそうに見る王子。
逃げて良いですか?!
そんなキラキラ笑顔をこっちに向けないで!目が潰れそう!
ゴールした生徒が控える場所の隅に行き、チルルと2人でワナワナしていると、他のグループメンバーに笑われました!
3人は、高位貴族のお茶会などで、王子とはよく顔を合わせているらしく、慣れた様子。
無理無理無理!底辺貴族と平民には、天上人過ぎて無理!
テンパり過ぎて口に出してた事に気付かず、暫く笑われてました!
気さくに過ぎる殿下との話しに、疲れてグッタリな私とチルル。
それでも続々とゴールする生徒達。
ほとんどが上級生で、自分達より先にゴールしている後輩の私達を、口々に褒めて下さいます。
中にはクラスメイトも何グループかゴールしてきて、お互いを称えあったり、それを微笑ましそうに見守られたり。
生徒の3分の2がゴールした所でタイムアップ。
講堂に集合して、上位のゴール者が表彰となりました。
私達のグループは、上位20人以内に入ったので、表彰され、商品として、魔道具のリストを貰いました。
商品カタログのような物で、どれでも一つ選んで貰えるそうです。
事件も無く過ぎたイベントにホッとしつつ、商品カタログを眺める私とチルルでした。
◆◆◆◆◆◆◆
日常生活は恙無く。
魔法の授業も、私とチルルの真剣な授業態度と進行度合いにより、自称ヒロインマニュエルとは、別々に受けられる事になりました!
と言うか、奴には全く学ぶ気が無く、しかし希少属性持ちであるからには、それをただ捨てるのは勿体無いと言う思惑で、個人授業にされただけだけど。
穏やかで、優しく教えてくれると評判の、魔法局局長のセロ老師が、時々鬼の様な形相で怒鳴っている姿は、高等部入学後すぐに噂になった。
何をやったのかは知らないが、セロ老師の生徒は今のところ自称ヒロインマニュエルだけなので、セロ老師を怒らせるとは!と、驚愕と共に、自称ヒロインマニュエルの噂も広がっている。
あいつはヤバイ奴だ!って。
知ってた!ってお茶会友達とは、噂を聞くたびに笑いあった。
たぶん乙女ゲームの攻略対象であるだろう、数人の高位貴族子息を見つけた。
他の生徒とは明らかにレベルの違うキラキラしい顔面の持ち主が数人。
その数人の中には、気さくに過ぎる第3王子クラップ殿下、クラスメイトのライオット様、エンデ様も入っている。
度々自称ヒロインマニュエルが突撃してくるのが証拠。
誰一人相手にしてないけど。
イベントのゴールに居た姿を見て、ああ、乙女ゲームの世界、と思ったものだが、こんなに相手にされないヒロインがいて良いものだろうか?と疑問。
まぁ、こちらに被害がなければ構わないのだが。
魔法の授業は順調に実力を伸ばし、チルルは、調子が良ければ治癒魔法で、負傷直後の欠損部分なら治せるようになった。
まだ魔力にムラがあり、本当に調子の良い時だけだけど。
あと攻撃魔法も使える。
光の針を出して、相手を串刺し。
エグい攻撃だが、威力は低いので、まだ足止めくらいにしか使えない。
私は、ちょっとズルして、前世知識でマジックバッグを作れるようになった。
これはまだ担当教師役の、魔法局副局長アルガデア、通称アル先生と他数人しか知られてない事実。
知れ渡るとえらいことになるからね!
あとは魔法を弾くバリアも張れます!物理攻撃は防げないので、剣で直接来られると、すぐに破壊されちゃうけど。
まだまだ課題は多いけど、とても順調に成長していますね、って各々の教師に褒められた。
今後の課題は、魔力を伸ばす事と、コントロールを磨く事。
魔力を伸ばす一番手っ取り早い方法は、限界まで使い切る事。
なので、私とチルルは、寝る前にベッドで魔石に魔力を籠める内職と言う名の訓練をしている。
魔力は限界まで使っても、酷い倦怠感に襲われるだけで、体に異常は起こらないので、寝る前にぶっ倒れる寸前までやっている。
貧乏男爵家の娘と、平民には丁度良いお小遣い稼ぎにもなるし!
翌日には、魔力がちょっとだけ余計に復活してるので、体感では初等部入学時に比べて、3倍くらいには増えてると思う。
魔力量を正確に測る魔道具は、お城にしか無いので、本当に体感でしかないけど。