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魔力有りの判定を受けた洗礼の儀式、その後の顔合わせと言う名のお茶会、それらをやり過ごし、伯爵家の本を読み漁り、男爵家の立て直しに奔走し、家族との涙の別れを経て、王都の魔法学園初等部入学式。
予算と仕事の都合で父親しか来られなかったけど、無事入寮の手続きもすんで、新しい制服を着て講堂と呼ばれる、入学式会場に。
一際目立つピンクの髪からは、なるべく距離を取って座り、お友達とおしゃべりしながら偉い人の話を聞き流す。
ちなみに、伯爵子息も初等部に通うことになってる。
友達が通うなら僕も!と可愛い我が儘が通った結果、高位貴族にも関わらず、初等部からの入学になった。
他にも何人か同じような理由で、高位貴族の子息が通うらしいと噂。
入学式の後は、お待ちかねの魔力判定検査。
この検査で各個人の属性が判明し、その属性によって授業やクラスが分けられる。
体育館くらい広い建物に移動して、教師に誘導されて一人一人水晶に触れていく。
水晶の色で属性が判明して、その属性ごとにリボンを渡され、制服に付ける。
一目見て属性が分かりやすくするようだ。
列に並び、友人達とどんな属性が良いか話しながら順番を待っていると、前方で一際強い光が。
例の自称ヒロインが触れた水晶は、真っ黒に黒光りして、そのすぐ側の教師が驚いて固まっている。
ザワザワと騒がしくなる周囲。
光、闇、無の属性は珍しく、魔力持ちの中でも300人に1人いるかいないかと言われる割合で、その分強力な攻撃や防御が出来る、と本で読んだ。
ヒロインって、普通光属性とかじゃないのだろうか?
これも他とは違う乙女ゲームの特色?
そんな事を思いながら、自分の順番を待っていると、友達のチルルが触れた水晶が、ヒロインよりも更に眩しく、白く光り輝いた。
チルルは平民で唯一魔力持ちと判明し、お茶会で友達になった子で、見た目はミルクティー色の髪と、黄色い目の柔らかそうな印象に反して、ズバズバ意見を言う気の強い、ちょっとヤンキー臭の漂う女の子だ。
根は良い子なので、付き合うのは楽しいのだが、たまに男の子もギャン泣きさせる猛者でもある。
ザワザワと騒がしい中、私の順番。
恐る恐る水晶に手を置くと、強く光ってはいるのだが無色透明。
「はうっ!君は無属性か、今年はどうなっているのか、闇と光と無属性が一遍に居るなんて…………」
ブツブツ言われても、どうしようもないんですけど?
属性ごとに色違いのリボンは、無属性の私は二本の色違いの細いリボンだった。
属性を2つ持つ人は居ないので、二色のリボンを持つ人は、無属性なのだそうだ。
光と闇と無属性の生徒は、学年に1人か2人居れば多い方で、1学年に3人も居るのはとても珍しいらしい。
検査を担当する教師がブツブツ言ってた。
教師に更に誘導されて生徒達は、属性別に別々の教室に案内される。
大変不本意なことに、私とチルル、例の自称ヒロインは、希少属性なので、同じ部屋に案内されてしまった。
部屋に居るのは3人だけ。
自称ヒロインは、自分の属性が希少属性だったことで、大変浮かれていて、私達の存在に気付いて無い様子。
広い教室の、なるべく自称ヒロインから離れた席に座り、チルルとこれからの事を話す。
「ねぇリリー、私ら何で希少属性なんかになっちゃったんだろう?超めんどくさい予感がするんだけど?」
「チルル、私も全く同じ意見よ。本当に面倒臭い。どうせなら土属性になれれば良かったのに」
「私は風属性が良かったな~!洗濯物がすぐ乾きそうじゃない?」
「フフフ、私は土属性で、土の改良とかしてみたかった!」
「光属性って、確か治癒に特化した属性だよね?攻撃魔法もあるらしいけど、これ絶対国のために力を使え!ってやつじゃ~ん」
「でも、光属性の使い手って、聖女様~とか言われる立場じゃない?」
「無理無理無理!私はそんな柄じゃないって~!」
「フフフ、案外似合うかもよ~?」
「ええ~、リリーだって無属性って事は、結界とか空間魔法とか使えるんじゃない?」
「いやいやいや、そんなのお伽噺の世界じゃない!無属性はどっちかって言うと、魔道具作りの方面に能力を発揮するんじゃなかった?」
「へ~そうなの?」
「たぶん。私も本でチラッと読んだだけだから、詳しくはないけど」
そこで教室に新たな人物が登場。
1人は長い髪と髭が真っ白の、白いローブを着たお爺さん。
もう1人は、やっぱり長い紺色の髪を一つに縛った、背の高い、凄く綺麗な顔をした男性。
私とチルルは、2人が来たことで席を立ち、挨拶のために腰を折る。
伯爵家で習ったカーテシー。
まだぎこちないのは許してほしいところ。
自称ヒロインは、棒立ちしてたけど。
「ふぉっふぉっ、楽にしなされ。それにしても、今年は3人もの希少属性持ちがおるとは、なかなかに珍しい事じゃ」
穏やかな声で、朗らかに話すお爺さん。
「まずは自己紹介をしようかの。わしは魔法局で局長をしておる、セロ・テンプルじゃ。属性は闇じゃ、よろしくの~」
続いて背の高い綺麗な顔をした男性。
「私は教会から派遣された、大神官を務めております、ブレンドル・スティークと申します。属性は光です。よろしくお願いいたします」
どっちも凄い偉い人だった。
2人が自己紹介を終えて、こっちに促すような目線を受ける。
こう言う場合、身分の高い者から自己紹介をするのが常識。
自称ヒロインと私はどっちも男爵家の娘だけど、うちの方が歴史は長いので、この場合は私から、のはずが、自称ヒロインが立ち上がり、
「わたしは~、センチ男爵家のマニュエルですぅ~!属性は希少属性の闇ですぅ~!よろしくお願いしま~す!」
なんかグネグネしながら、ブレンドル大神官だけを見て自己紹介してる。
お茶会でも散々見てきた光景なので、今さら呆れたりはしない。
何時もより、よりグネグネしてるけど、気にしない。
一応終わったようなので、サッと立ち上がり、
「アブソルム男爵の次女、リリーと申します。属性は無属性の判定を受けました。よろしくお願いいたします」
最後にカーテシー。
次にチルル。
「イエール伯爵領から参りましたチルルと申します。平民なので姓はありません。属性は光です。よろしくお願いいたします」
チルルもちょっとグラついたけどカーテシー。
「ふぉっふぉっ、よろしくの~。わしは闇のお嬢さんを、ブレンドルは光のお嬢さんを担当するでの。申し訳ないが、無属性のお嬢さんは、担当者が少々手が離せんで、1週間程遅れてくるでの~。それまでは魔石に魔力を込める訓練をしとってくれ、ちゃんと魔力を込められたら、お小遣いも出るでの~」
お小遣いを貰えるならば、張り切りますよ!
その後の説明では、属性ごとの授業はこの教室で3人で、普通の授業はまた別のクラス分けがあると説明を受けた。
今日は顔合わせだけで、普通授業のクラスを聞いて解散。
教室を出るブレンドル大神官を追って、自称ヒロインマニュエルは早々に教室を出ていった。
その姿を見て、
「う~わ~、今度はブレンドル大神官に目をつけた~!今後私への当たりがきつくなりそうなんだけど~!」
「反対なら良かったのにね?」
「ほんとだよ~!何で私の担当がお爺さんの方じゃないの~?見た目的にお爺さんの方が、光魔法使いっぽいじゃ~ん!」
「ああ、それは私も思った!」
「まあ、愚痴ってもしょうがないけどさ~!これからのウザさを考えると、面倒臭い!」
「わかる。私も出来るだけ助けるからさ!今は忘れて学園探索しに行こう!」
「は~い!」
チルルも憂鬱な気分を飛ばすように立ち上がり、2人で教室を出た。
学園案内の地図を見ながら、場所の確認をする。
途中、前世の桜に似た淡いピンクのチリーの木の下で、怪しい躍りを踊るヒロインマニュエルを見たが、ガン無視した。
お茶会友達と食堂で落ち合い、ワイワイと食事をして、寮に戻る皆と別れて、図書館に行く。
ずっと楽しみにしてた図書館。
高等部の方が蔵書量は多いらしいけど、初等部の図書館だって大したもの。
伯爵家には無かった本が読み放題!
夢のような場所で夕方まで本に没頭した。
◆◆◆◆◆◆◆
それからの学園生活は概ね順調。
自称ヒロインマニュエルのウザ絡みを除けば。
案の定、ブレンドル大神官がチルルの担当になったことで、チルルに意味のわからない文句を言いまくり、絡みまくった。
チルルもおとなしく文句を言われて耐える性格ではないので、顔を合わせる度に、激しい罵りあいと、たまに取っ組み合いが起こった。
そして私も巻き込まれた。
私の担当になった教師は、魔法局副局長を務める、アルガデア・ロイヒと言う、眼鏡の父親と同じくらいの年代の男性で、凄く普通の男性だったので、自称ヒロインマニュエルには直接絡まれはしなかったけど、だいたいチルルと行動を共にする私は、喧嘩に巻き込まれ、最後は力尽くで2人を引き離す役目を振られた。
家の手伝いで畑仕事をしていた私は、2人よりもだいぶ力が強かった事で、自動でその役割を押し付けられた。
まぁ、一応貴族子女の自称ヒロインと、平民とはいえ希少属性持ちのチルルを、男子が力尽くって訳にはいかないからね。
授業は、私もチルルも真面目に受けていたし、自称ヒロインに邪魔をされなければ、担当教師に褒められるくらいの成績は取れた。
希少属性の生徒は、よっぽどの成績不良か素行不良でなければ、高等部への進学を勧められ、申し込めば、学費だけでなく生活費の援助も受けられるので、チルルとも相談して、進学をする方向で考えてはいた。
自称ヒロインの成績は、底辺を競う勢いで、高等部への進学は、希望して試験に受かれば、と言うことらしい。
魔法以外の授業では、私とチルルは2番目に優秀なクラスになれたし、自称ヒロインは最下位のクラスで分かれたので、とても平和に過ごせた。
学園行事は、クラス別なので楽しかったし、放課後は図書館に入り浸る私に、同じように本好きな先輩も出来たし、充実した時間を過ごせた。
そして、自称ヒロインの独り言を偶然耳にして、お茶会友達の伯爵子息が、実は攻略対象の1人だった事が判明。
とても驚いたけど、納得の顔の良さに感心もした。
他にも居る高位貴族の子に比べても、群を抜いて顔が良いからね。
成る程、このレベルの攻略対象が他にも居るのか、とちょっと腰は引けたけど。
あんなピカピカキラキラの美少年の隣に並ぶなど、考えただけで気疲れする自信がある。
良い奴ではあるし、基本、気さくで可愛い性格をしてるけど、実は腹黒い一面もあるし、友達としてなら良いけど、男女のお付き合いを考えるのは難しい性格だと思う。
そのあたりを、自称ヒロインはまるで見えてないと思う。
顔が良ければ全て、とか思ってそう。
もしくは、自分はヒロインだから、誰もが自分を好きになって、思い通りに事が運ぶのが当然とでも思ってそう。
能天気に、いつだって顔の好みな男子に駆け寄っているし。
そんな自称ヒロインを避けて、躱して、逃げて、たまに勢いで突き飛ばして、初等部の3年間が過ぎ、私とチルルは、そこそこ優秀な成績で初等部卒業を迎えた。
◆◆◆◆◆◆◆
高等部進学前の、長い休み期間最後の週、成人を迎える私達は、お城でのパーティーに招待された。
新成人を迎える貴族の子息子女のデビュタントのパーティー。
高等部へ進学を許された平民も特別に出席を許されるパーティー。
そんな行事があることを、すっかり忘れさっていた私は、実家の男爵家から手紙と共にドレスが送られてきたことで、思い出し、慌ててお友達に相談した。
お友達は、笑いながらマナーのお復習に付き合ってくれ、ダンスの練習に付き合ってくれ、お互いのドレスを見せあい、どんな化粧をするかで話したりした。
デビュタントのドレスは、基本白いシンプルなドレスで、高位貴族ともなれば、その白いドレスに様々な装飾を付けオリジナリティーを出すとか聞いた。
だがお茶会友達は、伯爵家の子息を除けば、皆子爵家か男爵家、下手に装飾を付け目立っても印象が良くないので、最低限の装飾と、仲の良さをアピールするために、お揃いの花でも付ける?と相談して決めた。
勿論自称ヒロインはメンバーに入っていない。
伯爵子息は、身分にあった装飾した礼服を着るそうだが、お友達共通の花は付けたいらしい。
キャッキャワイワイと楽しみながら迎えたデビュタント。
領地から駆け付けた各々の親と共にお城へ向かえば、あまりの煌びやかさに腰を抜かしそうになり、圧倒されて、気を失いそうになり、カッチカチになって何も覚えて無いまま、気が付いたら終わってた。
いつの間にか父親も領地に帰ってた。
その事を友達に話したら、皆も同じ様なもので、やっぱり記憶が飛んでたらしく、全員でゲラゲラ笑った。