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✳️13

2話目です。


【エンデ視点】


急遽入った魔物討伐任務が終わり、引き継ぎも終えて昼前に帰って来た。

何時もとは違う帰宅時間に出迎えが間に合わなかったのか、誰も居ないエントランスを越え、リビングに顔を出すと、庭の方から沢山の声が。

そちらに目をやれば、テラスには妻とその友人達、そして庭で転げ回るように遊ぶ子供達が、弾ける様な笑い声をあげている。

眩しい光景に、ああ、ここに全ての幸せが詰まっている、と実感する。


◆◆◆◆◆◆◆


侯爵家に生まれた俺には、兄が1人妹が1人。

両親は元々仲の良い幼馴染みで、家柄も釣り合ったのでそのまま婚姻となり、今も仲が良い。

高位貴族としては、希に見る鴛鴦夫婦と噂。


5歳の時に洗礼の儀を受け、魔力有の判定を受けた事で、第3王子殿下のお友達候補に選ばれた。

同じように選ばれた子供達と、頻繁に城に呼ばれ交流を持ちなさいと、親に言われた。


集められた子供達は、全員高位貴族の令嬢令息ばかりで、煌びやかな衣装、本物の宝石、大人顔負けの嫌味と、いかに自分が優位に立つかの熾烈な争いがそこら中で行われていた。

王子殿下よりも1つ年下の俺は、そんなギスギスギラギラした中には入って行けず、庭園の隅でボケーっと座ってた。

そして同じように弾かれた者同士、ライオットとレイチェル様と仲良くなった。


クラップ王子殿下は、公平な人で、誰かを贔屓にしたり、誰かを差別したりはしなかったけど、いつの間にか側近と呼ばれる令息数人と、婚約者候補の令嬢数人が選ばれ、交流と言う名のお茶会は人数が減っていった。

何故か俺達3人は残されていた。


10歳の洗礼の儀で、改めて魔力有の判定を受けた。

家庭教師が増えた。

勉強と鍛練とお茶会の日々。

侯爵家とは言え、俺は次男なので、お茶会に呼ばれるような令嬢達には、俺は見向きもされなかった。

そりゃそうだ、お茶会に呼ばれる令嬢達は、王子殿下の妻の座を狙っているのだから。

ライオットは、侯爵家の跡継ぎなので、微妙に意識されてる様子。

レイチェル様は公爵家の女子しかいない長女で、側近候補の令息達に狙われてる。

中途半端な俺は、ただ周りを観察してた。

1年歳上なので、勉強は全然敵わなかったけど、剣術では互角に渡り合えて、それが嬉しくて、一層剣術に力を入れた。


退屈で、窮屈で、油断のならないお茶会は、王子殿下が高等学園に入学するまで続いた。

お茶会では、王子殿下とその側近候補、ライオットとレイチェル様としか交流しなかった。


貴族なんてそんなものだと諦めと共に三人で半ば慰めあっていた俺達に、世界を覆す様な衝撃を与えたのは、高等部での出会い。


高位貴族令嬢からは、程好い遊び相手として好色な目を向けられ、下位貴族令嬢からは有力な結婚相手としてギラギラした目を向けられ、オホホフフフと本音を隠しての会話に、愛想笑いが引き攣りそうになってた俺は、ライオットとレイチェル様と同じクラスになれて安堵していた。


同じクラスになった生徒は、暗黙の了解で高位貴族が席を決めるまで、教室の隅にかたまって様子を窺うという、良識ある態度、悪く言えば今までと変わらない面白味の無い態度で、ああ、高等部に入ってまでも変わらないのかと、三人で苦笑しあった。


衝撃はその後、廊下で騒ぎを起こした女生徒を見て、あまりに明け透けに感想を言い合う二人のクラスメイトの話を聞いてしまってから。


飾らず、言葉は乱暴で直接的で、およそ貴族らしさの欠片もない物言いに、思わず吹き出してしまったら、ライオットもレイチェル様もつられたように笑いだし、聞かれていた事に驚いて振り向いた二人の顔には、高位貴族に対する畏怖や嫌悪等は無く、ただただ純粋に驚きだけが現れているように見えて、三人共に好感をもった。


レイチェル様の誘いでクラスの親睦をはかる意味での食事会と称し、彼女達の話を更に聞いてみたくなった。

最初は緊張して上手く受け答え出来なかった彼女達も、騒ぎを起こした女生徒の話しになると、段々口が滑らかになり、こちらの質問にもスムーズに答えられるようになってきた。


そしてその答えが、俺達の常識とはかけ離れた意見ばかりで、だが妙に納得のいく答えが返ってきたりと、一言で言うなら、とにかく面白かった。

ライオットもレイチェル様も、高位貴族として、滅多に表情を変える事は無いのに、この時ばかりは堪え切れずずっと笑い通しだった。


昼食会が終わり、皆と別れた後も笑いの余韻が残り、何時もよりだいぶ表情が穏やかな二人を、すれ違う生徒が物珍しく見ていた。


「フフフ、あんなに気負いの無い食事会は初めてでしたわ」


「ああ、ただただ楽しんでしまった」


「最初はとても緊張されていて、お誘いして悪いことをしたかと思いましたが、フフフ」


「ああ、何を聞いても斜め上の答えばかりで、クククク」


「だが妙に納得のいく意見も多かった!」


「フッフフフ、それがとても面白くて!これから親しくなれれば嬉しいのですけど」


レイチェル様の顔には、とても珍しい事に、不安な気持ちがありありと出ていた。


「少しくらい強引に巻き込んでやれば、拒まれはしないだろう。彼女達はお人好しそうだから!」


「フフフ、それは楽しそうですわね!」


「ああ、彼女達の意見は参考にもなるしな!」


三人で話し合い、少し強引にでも彼女達と関わりを持とうとしたのは、貴族社会と言うものに、ちょっと辟易していたからかもしれない。


その後は、クラスメイトを巻き込んで、強引にでも彼女達と近い距離を手に入れて、共に過ごした。


チルル嬢は孤児院出身の平民、言葉は荒いがよく周りを見て、明るく朗らかな少女。

リリー嬢は、男爵家の末っ子で本ばかり読んでいるおとなしい少女。


と思っていたのに、新入生歓迎会ではスルスルと木に登り、落とし穴に飛び込んで誰の助けもなく戻る、平民の少女としてもあるまじき体力と能力を見せ付けられた。

衝撃で固まる俺達に、幼馴染みの話をしてくれた彼女達。

何でもない事のように語る彼女達。

木登りなどしたこともしたいとも思った事も無くて、密かに練習をしてしまった程。


彼女達と過ごす時間は、楽しく賑やかで気負いがなく、笑いの絶えない時間だった。


◆◆◆◆◆◆◆


ある休日、実家経由でレイチェル様の父上であるイムエキス公爵様に呼び出された。

公爵家を訪ねると、ライオットも居て、俺達二人を前に、公爵様は開口一番、


「どっちだね?」


と聞かれた。

意味が分からなくて、答えられずにいると、


「私の可愛いレイチェルの相手は、どっちだね?」


語気強く更に尋ねられた。


「公爵様、それは恋愛的な意味の相手、と言うことですか?」


「そうだとも!それ以外にどんな意味がある?」


「それでしたら、私達は該当しないと思います」


大人気なく睨むように見てくる公爵様に言えば、


「君達二人の内どちらかで無いのなら、誰か他に居るのかね?」


「私達はほとんどの時間、共に行動しておりますが、その様な相手に心当たりはありません」


きっぱりと言い切った俺達に、とても訝しげな目を向けてくる公爵様。

隣でずっと黙って様子を見ていた公爵夫人が、


「いいえ、誰か居るはずよ!あんなにキラキラと笑顔を振り撒くレイチェルなんて見たことが無いもの!絶対に恋をしているに違いないわ!」


夫人が断言しているが、その言葉には心当たりがあった。

二人に事情を話すと、とても複雑な顔をしていた。

公爵様は安堵と貴族令嬢としての有り方に、夫人は恋愛で無かったことの落胆と友人が出来た事の喜びに、取り敢えず納得した二人に解放されて、


「たまに会った両親に気取られる程浮かれているのか」


と俺達も複雑な気分になった。

確かにここ最近は、リリー嬢とチルル嬢以外のクラスメイトとも、気兼ね無く話し笑い合っているが、見て分かるくらい浮かれているのかと、ちょっと恥ずかしくなった。

止めるつもりは全く無いが。


ピンク女の騒動では、少しばかり面倒な事になったが、結局はリリー嬢の力業と言う何とも言えない結末で片が付いた。


積極的に問題解決に奔走していた王子殿下が、何とも言えない決着に複雑な顔をしていたが、その後のリリー嬢の転生と言う言葉と、異世界の話しには大変興味を持たれていた。


登城する際に、レイチェル様によって着飾られたリリー嬢とチルル嬢を見て、初めて異性で有ることを意識した。


穏やかで賑やかな学生生活の中、実戦演習で思いがけないリリー嬢の脆さを知った。

少々厳しく言ってしまったが、チルル嬢の叱咤の言葉に歯を食い縛って、震えながら立ち上がるリリー嬢を、守らねばと強く思った。


楽しくて楽しくて、ずっと笑いながら過ごした学生時代も終わり、配属された騎士団の部署は、主に魔物を狩る実戦部隊で、忙しく殺伐としていて、遠征に継ぐ遠征で身も心もボロボロになり、先輩に担がれた事も何度もあった。

学園では最強等と囃し立てられていたが、実際の現場では不甲斐ないばかり。

その度に、泣きながらも立ち上がったリリー嬢の顔を思い出した。


1年間の遠征も終わり、帰城して雑務をこなす、そんな日々の中、時間を見付けてはリリー嬢の職場である王城図書館に顔を出した。

他愛ない話をして笑う、クラスメイトの近況を話して笑う、そんな時間がとても貴重で大切だと気付いたのは、一時期研修の為にリリー嬢が王都の国立図書館に出張に行き暫く姿が見られなかった時期。


自分はリリー嬢と過ごす時間が、とても大切で掛け替えの無い時間だと、リリー嬢に対する自分の思いを理解した。

ライオットに思いきって相談したら、


「今更かよ?鈍すぎ!」


と呆れられた。


自覚したからには、他人に取られる前にと行動に起こした。

まずは告白。

リリー嬢は、まさか俺から告白されるとは考えた事も無かったのか、キョトンとした顔で告白を聞き、酷く驚いた叫び声を上げた。

思わず笑ってしまったが、赤くなった顔を隠すために振り向けなかった。


その後は会う度に告白を繰り返し、本気である事を伝える。

段々と告白する度に顔を赤くするリリー嬢に手応えを感じ、短期遠征の時に、たまたまリリー嬢の実家の領地が近かった為、失礼は承知で挨拶に突撃した。


リリー嬢にそっくりな母上と姉、兄嫁だと言う3人は歓迎してくれたが、父上と兄2人には渋い顔をされた。


以前チルル嬢が言っていたように、家族に溺愛されていると言うのは本当のようだ。

何故か次兄と決闘になったが、辛うじて勝利した事で、取り敢えずは認めて貰えた。

まだ口説いている最中なので内密にと頼んだら、父上と上の兄には、


「「ふられろ!!」」


と声を揃えて言われてしまった。

母上と兄嫁に殴られていたが。


そして次に実家。

ここでも父と兄には、侯爵家の者が男爵家の娘と?!と驚かれたが、自分は既に成人して騎士団で働いて自立しているし、騎士団で二年勤めあげれば騎士爵を貰える話をすると、一応納得してくれた。

母と妹には、話した時点で賛成されたが。


外堀を埋め、後は本人の承諾を貰うだけとなって、俺はチルル嬢とレイチェル様に相談を持ち掛けた。

2人には絶対に幸せにしないと許さないから!と脅されたが、リリー嬢の説得に協力してくれる事になった。


◆◆◆◆◆◆◆


多くの人に祝われて、無事結婚でき、新生活はやはり笑いの絶えない日々となった。

父がやらかして、多少ごた付いたが、ここでもリリーの力業とも言える方法で解決されてしまい、中々に情けない気分になった。


仕事に打ち込み、穏やかに日々を過ごし、2男1女の子宝にも恵まれ、結婚してから7年が過ぎた。

うちの子だけでなく、同時期に結婚し子供に恵まれたレイチェル様とチルル様の子供も来ていて、総勢10人を越える子供達が、子犬の様に転げ回っている。


「あー!ちちうえーー!」


「ちちうえーー!」


俺が眺めていたのに気付いた我が子が駆け寄ってくる。

両腕に1人ずつ抱え、立ち上がって迎えてくれるリリーに近寄る。


「お帰りなさいエンデ、お出迎え出来なくてごめんなさい」


「いや、予定外の事が有ったし、この騒ぎでは気付かなくて仕方無い」


「そうね、何時も賑やかだけど、今日は更に賑やかだもの」


「ちーちー」


末の娘が俺に小さな手を伸ばす。

両腕が塞がっているので、顔だけ寄せて伸ばされた手に口付ける。


「キャーー!」


可愛い声で喜ぶ娘。

肝心の所で妻に良いところを持っていかれる、情けない夫だが、精一杯この幸せを守って行こう。

1日でも長く、笑って暮らせる様に。


「父は頑張るぞーー!」


決意を言葉にしたら、両腕の子供達がオーー!と意味も分からず賛同する。


「フフフ、なぁに、急に?」


妻も子供達も笑っている。

この場所を守るため、父は頑張るよ!



本当はこの話が最終話だったのですが、もう一話、書きたくなっちゃったんですよね~。

もう一話は近日中に!

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