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05 冒険者パメラ


 この場所について3日目。


 まだまだ人はいないけれど、ここは良い場所だ。


 おいしい食事にお風呂。お湯に浸かるなんて初めての経験だったわ! これまでは水浴びとか、濡らした手ぬぐいで体を拭くのが普通だったもの。確か、貴族様だって湯浴み着というのを着て、ぬるま湯で体を磨く? くらいらしいし。


 町の中央にある大浴場。そこでの入浴はまさに至福の時間よ。そしてこの入浴方法は一般的でないのもわかったわ。なにせ【赤教】の教皇様と【黒教】の教皇様に大浴場で鉢合わせしたけれど、おふた方をはじめ、お付きの巫女様たちも驚きの声を上げていたもの。


 考えたら、これだけのお湯を用意すること自体が至難なのよ。しかもそれを冷めないように維持するって。


 いったい、どうやっているんだろう。


 いえ、そんなことどうでもいいわ。


 この世の極楽はここにあったのよ!


 砂漠のど真ん中だから、もっと砂が舞って酷いんじゃないかと思っていたけれど、そんなことはなかったわ。


 それに塔への中にはお洗濯のサービスがあって、お願いすると私が洗うよりも遥かに綺麗になって戻って来る。ふかふかでいい匂いもするのよ。


 いまは無料だけれど、本格的に町が賑わってきたら有料になるのだそうだ。というよりも、現状は一時入植者の特典のようなものらしいわね。


 お金を稼ぐことのできる状態ではないため、その為にこの町を作った主が私たちの面倒を見てくれているとのこと。


 とってもありがたい。


 とはいえ、客人扱いでただ飯を喰らっている状態というのは気が引けるわ。しかも、スティーブンの阿呆がよっ子ちゃんを殺すとか前に宣言したこともあって、なんというか、微妙に肩身が狭いというか、なにか役立ちたいんだけれど……。


 あぁ、スティーブンだけど、なんだかおかしくなってるわね。急にビクッ! って震えたり、やたらとオドオドしてる。特に暗がりというか、暗い隙間? とかに異常な反応を示してるのよ。


 昨日なんか、やっ子ちゃんを見て悲鳴を上げてたし。やっ子ちゃん「えぇ……?」って、心底嫌そうな顔で首を傾げてたわよ。


 やっ子ちゃんがなにか知っていそうだから、訊いてみたのよ。そうしたら、モノレール内で窃盗などの犯罪を行った者への罰のひとつとして、悪夢を見せるというのがあって、それを試験的にスティーブンにやったみたい。


 この間の『殺す』発言からの戦闘に関しての罰として。


「思ったより小心者だったのかなぁ。幽霊がでてきて追っかけ回すだけの夢だよ。そこまで怖いかな。モヒカンの山賊が『死体から盗む方がずっと簡単だからなぁ!』とかヒャッハーしながら剣鉈(マチューテ)を持って追っかけて来るのと同じだと思うけど」


 いやいやいや、山賊も怖いから。やってることが幽霊と一緒だとか……あれ? なんで幽霊と山賊の怖さの質が違うのかしら?


 私が遭遇したら……まず魔法を撃つわね。で、それで対処しきれないと思ったら【土煙(スモーク)】を掛けて、一目散に逃げる。


 ……なるほど。逃げ回ってるのは分かったけど。あの情けない悲鳴は頂けないわね。






 そんなこんなで3日目の今日、声が掛かったわ。私たちのグループの担当はやっ子ちゃんになったらしく、お昼過ぎに迎えにやってきた。


 あぁ、そうそう。私は一軒家をもらった。もう、ここに定住することを決めたわよ。でもひとりで住んでいるわけじゃない。


 ここに来るときに同行していた魔法師の岳エルフであるディートリントと、砂エルフの3人、ロー、ユー、ネーと一緒。5人で住んでも十分に広い家だ。ちょっと掃除が大変だけれど。野郎共も3人で一軒家を貰っている。


 集められた私たち8人は、やっ子ちゃんについて塔へと向かった。やたらと辺りをキョロキョロとしているスティーブンがうざい。もう3日も経ったんだから、いい加減に立ち直れと云いたい。


 塔に入ったところで、ディートリントがじっ子さんに呼ばれて離脱。


 私たちは真っすぐに進み、正面の受付へと向かう。


 受付には……いっ子さんと、他に女性がふたり。


「いらっしゃませ、こんにちは。本日はどんなご用件でしょうか?」


 いっ子さんがにこやかに私たちを迎えてくれた。


 そしてやっ子ちゃんは顔をしかめた。


「……いっ子姉、なんか気持ち悪い」

「やっ子は酷いことをいいますね。受付とはこういうものでしょう?」

「ミスキャストだと思う」

「私は専任ではありませんよ。ひとまずは、ひとよといちごが受付に入ります」

「おー。はじめまして、我が新たなる妹たちよ!」


 は? 妹!? どう見てもやっ子ちゃんより年上に見えるんだけれど。


「はじめましてお姉様。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 ひとよさんといちごさんが綺麗に一礼する。ふたりともそっくりだ。


「なんか、そっくりなんだけど?」

「双子……という設定です」

「いや、設定って。あたしたちが生まれたの一緒じゃん」


 は? え?


「やっ子。だから設定と云ったんですよ。

 さて、そんなことはここではどうでもよいことです。進めますよ。

 近く、こちらの初心者用ダンジョン【サンティの塔】がオープンとなります。ですがその前に、難易度の調整のための試験をしなくてはなりません。本日は皆さんに、そのテストをお願いします」


 なんだか気になることがいろいろあるけれど、訊ける感じじゃないわね。まぁ、訊いたところで、好奇心を満たすだけなんだけれど。


 そ、そもそも神兵様なんだし、人とは違うってことだよね。


「説明の前に、ローさん、ユーさん、ネーさん。お3方には受付業務をお願いしようと当方では考えています。これは強制というわけではありません。配属先の要望などがございましたら、私かルーティにでもお伝えください」

「わ、わかりました。えっと、ユーもネーもそれでいいよね?」

「私は構わないけど」

「はい! 受付になったら、ダンジョンには入れないんですか?」


 ネーが元気よく手を挙げて訊ねた。


「できますよ。ですが、この【サンティの塔】以外はあまりお薦めするわけにはいきません。理由は、これから話しますダンジョンの説明を聞けばわかると思います」


 いっ子さんはそう答えると、軽く息を整え、表情を改めた。


「では、皆さんには【探索者協会(ランナーズギルド)】に入会していただきます。年会費は無料ですが、入会時のみ、会員証作成の実費として銀貨10枚をいただきます。これは後払いでも構いません。

 ですが、みなさんはテスターということで無料とします。こちらの書面に記入を願います」


 いっ子さんがやたらと手触りの良い紙と、先が金属製で尖った半透明な棒を皆に渡す。


 私も受け取る。えっと、この棒はなんだろう?


「いっ子姉。みんなボールペンを知らないよ。えっと、その棒はインクが中に入ってる羽根ペンみたいなものだから」

「……正式開業の際には、羽根ペンを用意しましょう」


 ふたりの会話を聞きながら、私たちは記入を始めた。


 おぉっ!? なにこれ、凄い書きやすい! ちょっと欲しいわね。


 記入する事項は基本的なものだ。


 名前と種族に性別。そして目と髪の色。目と髪は当人確認のためかしら? 冒険者ギルドだと、たまに他人のライセンスカードで詐欺まがいにことをする不良冒険者? がいるってきいたことがある。もちろん使われるのは、死亡した冒険者のカードだ。


 あとは、役職? 職業? といったもの。戦士とか魔法師とか。そういった物が羅列されていて、その脇にあるマスにチェックをいれるみたい。複数チェック可とある。


 テーブルには玻璃の板が嵌められていて、木と玻璃の間に記入見本が挟みこまれていた。うん。分かりやすい。


 記入を終えて、いっ子さんに渡した。


「では、会員証(ライセンス)が出来上がるまで、説明をいたします。


 まず、皆様はこれで、当【はじまりのダンジョン】の探索者(ダンジョンランナー)となりました。よって、当ダンジョンで解放されている5つのダンジョンを探索することを許可されます。


 とはいえ、現状ではまだ初心者用である【サンティの塔】のみですが。


 初級、中級、上級、最上級の残り4ダンジョンは随時解放される予定ですので、そちらはお待ちください。


 とはいっても、【サンティの塔】42階に到達できていない探索者は、以降のダンジョンを探索する権利を得られません」

「あれ? 塔クリアで次のダンジョンの挑戦権を得られるんじゃなかったっけ?」

「42階以降が魔窟じみているため、合格ラインを落としたとのことです」


 いっ子さんの言葉に、やっ子ちゃんが顔を引き攣らせた。


「え、そんなに厳しいの? 初心者用だよね?」

「基本の50種のモンスターを考えているウチに、どうみても初心者の相手をさせるべきじゃないモンスターも創られたため、それらを最上層、42階から51階へ放り込んだと聞いています」

「……マリアが苦戦したんだっけ?」

「目が回ってまともに戦えないと、近接戦を諦めたらしいですね」

「えぇ。あたし、マリアにまともに勝てないんだけど……」


 え、やっ子ちゃんより強い人がいるの? 私たち4人がかりで、やっ子ちゃんに遊ばれたんだけれど。その人が無理なモンスターって。


「いや、でも、初心者用ダンジョンにそんなの入れていいの?」

「戦うだけが訓練ではないし、問題ないとしたそうです。だから最上層に放り込まれているんです。逃走、やり過ごしの訓練です。ポップ数も抑えてあるとのことです」

「納得できるような、できないような」

「そういった事情は、あとでマスターから聞きなさい。

 失礼しました。説明を続けます」


 いっ子さんはひとつ息をつき、説明を再開した。


「皆さんに試験をして頂く【サンティの塔】は全52階。2階から51階がダンジョンとなっています。

 1階はここ、受付他各種探索者支援施設のある階。そして52階が【サンティの塔】のダンジョンマスターが座する場所です。


 【サンティの塔】は初心者用ダンジョンと云うことで、【教練(Tutorial)】、【訓練(Training)】、【試練(Trial)】の3つの要素を主としたダンジョンとなります。【試練】は、次のダンジョンの挑戦権を得るため、ということです。


 基本、個人の戦闘訓練をするための場所と思って戴いて構いません。そのついでに“お金を稼げる場所”ということですね。


 特色として、死ぬことは絶対にありません。ダンジョン内で死亡するような状況に陥った場合、ダンジョン入り口であるこの1階へと強制的に戻されます。この際、怪我など一切ない状態となります。


 ダンジョンアタック中は、食事の類は一切不要となります。食事をせずとも生きられる状態になると思って戴いて差し支えありません。


 尚、【サンティの塔】は“絶対に死ぬことがない”という特性のため、身体能力を鍛えることができません。あくまでも技術的なもの。戦闘勘や技等の訓練場となります。


 各階層に滞在できる時間は1時間。1時間経過で、強制的に上の階へと移動させられます。塔を登る手段は、この強制的な階上昇の他には階段があります。ただし、1度登った場合、下の階へと戻ることは出来ません。


 塔からの脱出方法は3つ。


 死亡する。塔を踏破する。脱出アイテムを使う。この3つです。


 基本的に、死ぬかアイテムを使うかになるでしょう。


 アイテムの類は、ダンジョン内のそこかしこに落ちています。宝箱のようなものはありません。アイテムには有用なものあれば、害になるものもあります。これも罠のひとつであるとお考え下さい。ただ、見た目だけでは有用なものであるか、害のあるものかを見極めるのは難しいと思われます。


 それらのアイテムを持ち帰った場合は、鑑定所、あちらですね。あそこでアイテムの鑑定をしてもらってください。現状は無料です。


 さて、そのアイテムですが、ダンジョンから持ちだすには専用のバッグが必要となります。他には手持ちの武器、盾のみ例外となります」


 ……塔を出るのに死ぬのが基本って。いや、絶対に死なないってことだけれど。


「気軽に云ってくれるが、さすがにそれを信用しろというのは……」

「それに関しては【黒教】で確認をしてください。我々が信用しろといっても、信用頂けるものではありませんので。

 あぁ、死に至る例外事項がひとつあります。最上階に到達した際、ダンジョンマスターに危害を与えること。有体に云えば、殺害しようとした場合、問答無用で6つ目の場所へと転送されます。生きて戻ることはできません」


 淀みなくいっ子さんが答えた。


「強いモンスターでもいるのか? それならちょっと戦ってみたいんだが」

「モンスターはいません。代わりに即死性の罠がわんさかあります。きっと死に至るその時まで、楽しめると思います。はてさて、逝くは浄土か、はたまた地獄か。確かめることはお薦めしません」


 そんな恐ろしいことをいっ子さんがいっていると、ひとよさんといちごさんがカウンターの上にウェストポーチを人数分並べた。


 これがアイテム持ちだし用のバッグだそうだ。デザインがいい感じ。革製だけれど、これ、なんの革だろう? 黒とか赤とか茶色とか。なんか青っぽいのもある。

 あ、私はこの亜麻色のにしよ。


 このポーチ、凄いことに、大きさに拘らず中に収納可能というマジックアイテム。これは名目的には貸与品とのことだけれど、実質支給品で、返却は不要とのこと。ただ、町からでるとその効果は喪失し、普通のポーチとなるそうだ。でもまた町にもどるとマジックアイテムに戻るという特殊なもの。


 そんな大層なものをもらっちゃっていいのかしら。この町でしか機能しないから問題ないっていっ子さんはいってるけど。


 え、詰め込んだまま、他所へ行くと本来の容量超過分の中身がぶちまけられる? き、気をつけよう。うっかりやらかしそう。


 あ、ダンジョンに持ち込めるアイテムは4つと手持ちの武器ふたつまでで、自前の背嚢とか服のポッケに入れて回復薬やらなんやらを持ち込むことはできないそうだ。


 細かな注意も聞いて、準備も整った。ポーチも腰に巻いたし。会員証も受け取った。淡い緑色の金属製の板? その表面に先ほど書面に記入した内容が記されている。ナンバーがふってあって、私は103だ。0~100までは関係者用の番号なのだそうだ。


 でも凄いわね、この会員証。緑色の金属とか知らないんだけれど。青銅はもっと青いし、当たり前だけれど緑青とも違うし。


 まぁ、いいか。綺麗だし。無くさないようにしないと。


 さぁ、ダンジョンアタックよ! そう思った矢先に、いっ子さんがとんでもないルールを私たちに伝えた。


「最後に。この【サンティの塔】はソロ専用のダンジョンとなっています。あぁ、ご安心ください。皆さん同時に攻略することができますので、順番待ち、ということはありません。では、皆さん、ご健闘を」


 いや、ソロって、聞いてないわよ!?


 え、大丈夫なの?


 そんな不安を抱えつつも、やっ子ちゃんに案内されて、受付の脇を通り奥の扉へ。


 扉だけはひとりずつ入らなくてはならないようだ。


 会員証の番号順にはいる。砂エルフの3人は関係者枠になるみたいだけれど、最後に入ることになった。


 ふたりが順番に入り、私の番となった。


 扉の向こうは直線の廊下。左右に扉がふたつずつ。正面にひとつ。


 正面の扉は会員証と同じ緑色で、【サンティの塔:ダンジョン入口】とプレートがはりつけてある。


 左右に並んでいる扉はいずれも【準備中】のプレート。扉の色は、黄、銀、赤、青となっている。恐らくここが、他のダンジョンの入り口となっているのだろう。


 私はまっすぐ進み、緑の扉を開いた。


 扉の向こうには階段があり、2階へと上がる。そこにも扉があり、そこを抜けると魔法師の恰好をした女性がひとり待っていた。


「ようこそ【サンティの塔】へ。2階は教練場となっています。戦い方の基本を学んでいただきます。これは、たとえ錬磨の経験者でも1度やっていただきます。2回目以降は、この階を素通りできるようになりますので、初回はお付き合いください」


 そういって女性が一礼した。


 そういえば、ここは教練、訓練、試練の場といっていたわね。


 初心者用ダンジョンということだし、そういうことなんだろう。






 ……うん。凄い勉強になった。というかね、魔法師協会(メイジギルド)って魔法師の育成を考えていないわよね。それとも魔法を使えるだけの無能の集まりなのかな?


 正直、魔法をゴリ押すだけの脳筋としか思えなくなったんだけれど。


 いや、ね、いろいろと小技と云うか、教えてもらえたのよ。私が魔法師だから、魔法師としての教練なんだろう。


 例えば、さっき逃走のために【土煙】をつかうって云ったじゃない。あれって結構魔力を使うのよ。でも【土煙】と同様、或いはそれ以上に効果のある逃走に使える魔法を教えてもらえたわ。


 いや、違うわね。魔法の使い方を教えてもらったわ。なにせ使うのは初歩の魔法の【浮光(フローライト)】。持続時間を限りなく無くして、その分、光量を大幅に上げるとか。まさに目くらましよ。そんな使い方ができるなんて知らなかったわよ。最初はできなかったけど、いろいろとレクチャーしてもらえて、できるようになったわ。他にも小技をひとつ教えて貰えたけれど、そこで時間切れ。


 1フロア1時間だからね。


 でも基礎的なところは十分に教えてもらえた。すごい有意義だった。


 次の時にも、小技とか教えてもらえないかしら。


 そして3階。


 ……なにここ? 部屋からでたら壁が無いわよ? なんか通路が宙に浮いてないかしら? 遠くに箱? があるわね。あれが部屋かな。いまでた部屋がそんな感じだし。


 とにかく進もう。


 でてくるモンスターは、変な潰れた玉状のなにかと、火の玉みたいななにか。【マジックミサイル】でどっちも一撃で倒せる。火の玉は近接だと大変そう。それを考えると、私は楽かも知れない。


 心配は魔力だけかな。アイテムを回収して進むようにと、2階のお姉さんが云っていたから、落ちてるアイテムは積極的にひろってポーチに放り込んでいこう。



 ★ ☆ ★



 戻ってきた。


 脱出アイテムを使うと、意識が飛ぶのね。いちごさんに起こされてびっくりしたわ。


 ダンジョンにかなり長い時間いたと思うんだけれど、まだ明るい。


 アイテムはそれなりに持ち帰れた。運よく4階で脱出用アイテムを見つけられたのがよかった。


 私は7階に到達したところで帰還した。……罠で強制的に6階から7階に飛ばされたのよ。目の前になんだかバチバチした人? がいて、雷をバンバン撃って来るとか、死ぬかと思ったわよ。


 もちろん逃げたわ。魔法の不意打ちの対処なんて無理よ! 途中で拾った脱出アイテム(人が扉から走り出る絵が中に浮かんだ珠)を使って塔から帰還。


 アイテムの鑑定のできる片眼鏡があって助かった。拾った時に「この片眼鏡、なんだろう?」と思いながら掛けて、そのまま丁度すぐ近くに落ちていた乳白色の珠を見たのは、運が良かったわ。


 片眼鏡で見た途端、その珠の濁りが消えて絵が見えるようになって、名称と使い方が分かったから。片眼鏡は何回も使えるのかと思って、ポーチに放り込んでおいた不明なアイテムを見てみたら壊れちゃった。多分、一回しか使えないんだろう。きっと、鑑定直後にすぐ壊れてアイテムの確認ができなくては意味がないから、ふたつ目を鑑定すると壊れるようになっているんだろう。もしくは外したら壊れるんだと思う。


 私が戻って来た時にはスティーブンは既に戻っていた。なんだか頭を抱えて蹲っているけど。なにあれ?


「ねぇ、やっ子ちゃん。スティーブンはどうしたの?」

「なんか、2階の教練係に喧嘩を売って首を刎ねられたんだって」


 馬鹿じゃないの!? 教官相手になにしてるのよ!


「まぁ、よっ子姉を殺すとか云ったしね。でもよくこれまで問題を起こさずに生きてこれたね。……それともやらかしても上手く証拠隠滅でもしてんのかな」

「ティムに頼んで、身辺調査をさせたほうがいいかしらね」

「あの細い人だよね。そういうのが得意なの?」

「盗賊ギルド員らしいから。といっても盗賊行為はしていないらしいわよ」

「え、そんなんで盗賊ギルドにいられるの?」


 不思議そうにやっ子ちゃんが首を傾げた。


「ダンジョン内で鍵開けとか、盗賊的な技能が必要なこともあって、なんていうの、表向き用の盗賊ギルドみたいなのがあるみたい。いや、違うわね。盗賊ギルドが表と裏で門戸を開いているらしいわよ」

「んー。表向きは鍵開け専門と云うか、斥候(スカウト)とか野伏(レンジャー)の養成所みたいなことをやってるわけ? それともその職だけの協会でもあるの? 冒険者協会があるんじゃ競合しそうだけど」


 あぁ、確かに。どうなっているのかしら。今度ティムに聞いてみよう。


「わかったら教えてね。ここに変な組織ができても面倒だから」

「教えて貰えたらね」


 それじゃ、アイテムの鑑定をしてもらおう。


「おー。お姉ちゃんはお宝ゲットしてきたんだね」

「やたらと精巧な銅貨と銀貨。短剣と盾に変な軟膏、それと束ねた草が3種。あと白濁した珠と斑模様の卵ね」

「おー、卵ゲットできたんだ。一番のお宝だよ。だけど、それを使うかどうかは慎重にね。多分、お姉ちゃんだとふたつしか使えないから。やり直しもできるみたいだけど……お姉ちゃんだと、気分的にできないんじゃないかな」


 ん? ふたつしか使えない? ってことは、いくつも種類があって、当たり外れがあるっていうことかしら?


「当たり外れというか、好み。ぶちゃけると、その卵はダンジョンに出現するモンスターの卵だよ。拾った階にでてくる奴のどれか。使うと召喚できるようになるの。要は一緒に戦ってくれる相棒。主の魔力で生きるから、2体くらいが限度みたい。それ以上だと、魔力の回復が厳しくなるんだって」


 ちょっ!? 魔力の回復が厳しくなるのは困るよ。でも2体なら問題ないのね?



「魔力回復量はなな子姉に診てもらうといいよ。個人差があるから、もしかしたら3体になるかもしれないし、逆に1体になるかもしれないよ」


 よし。先になな子さんのところへ行こう。


 私は医療室へと方向を変えた。


「他の人はどうなったの?」

「砂エルフの3人はまだダンジョンの中。他は早々に死亡扱いになって帰ったよ」


 あの3人は長いこと傭兵をしてた熟練者だものねぇ。そりゃ、そう簡単に殺されたりしないわよね。


 まぁ、私は私で攻略を進めるわ。


 モンスターを仲間にできるって聞いて、俄然やる気がでてきたもの。


 低い階のモンスターは弱いのかもしれないけど、3階ででてきた翼の生えた猫が欲しいなぁ。可愛かったし。


 まぁ、慌てずに、じっくりと進めていこう。


「あ、そうだ。ダンジョンの感想と意見を、レポートでだしてね」


 そういえば、ダンジョンのテスタ―だったわね、私。


 いまさらながら本来の仕事を思い出し、私は思わず苦笑した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字?ほうこくです 『ちょっ!? 魔力が回復が厳しくなるのは困るよ。でも2体なら問題ないのね?』 魔力の回復が厳しくなるのは では? [一言] いつも楽しく読ませて頂いてます 魔法師…
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