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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第1章:少女→神→ダンジョンマスター
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06 え、なにそれズルい


 レンゲで餡掛け状態のご飯を掬い、口に運ぶ。


 今食べているのは中華丼だ。


 私、中華丼を食べ終わったら、皿うどんを食べるんだ!


 いや、馬鹿なこと考えていないで、ちゃんとメイドちゃんの話を聞こう。


 メイドちゃんは私の隣、やや後ろに立っているから、ちょっとやりにくい感じなんだよね。一緒に座ればいいのに。メイドとしてそれはできませんとかいってさぁ。いや、キミのその恰好はコスプレみたいなものでしょう?


「そろそろお腹も落ち着きましたか?」

「うん。なんとかね。というかさ、私、どちらかというと小食な方だったんだけれど……」

「深刻なエネルギー不足が原因です」

「……どゆこと?」


 ……。


 ふむ。人間から一足飛びに神にまで進化するなんてことをしたために、進化するためのエネルギーがまるで足りなかったと。一応、進化関連を司っているのは、例の“世界”が構築しているシステムで、そのシステムから最低限の進化支援を受けたことにより、進化することができたのだそうだ。

 つまり、進化に必要な最低限のエネルギーだけで進化したために、いまの私はガス欠のスカスカ状態ということだ。


「いまのマスターの状態を云い現わすならば、【神:ひ弱】となります」

「ひ弱で済むんだ。死にかけとかじゃなく」

「死ねませんから」


 ……。あぁ、うん。そうだったね。となると、飢えると、そのまま延々と飢えの苦しみを味わうことになるのか。

 よし、ご飯だけはなんとしても確保しよう。


 空のお皿を退けて、皿うどんのお皿を引き寄せた。


「では説明をはじめたいと思います。が、いきなり全てを説明したところで、情報量の多さに整理がつかなくなると思いますので、最優先禁止事項だけを先にお伝えします」

「禁止事項?」


 口の中の皿うどんを飲みこみ、私はメイドちゃんに問うた。


「はい。マスターにとっては問題があるようなことと認識していないことですので、十分に注意してください」


 そう前置きし、メイドちゃんは説明を開始した。


「ネームド、といってなにか分かりますか?」


 ネームド。うん、私の知っているところだと“ネームドモンスター”ってところかな。ゲーム等における名前付きのモンスター。NPCなんかもそうだね。

 物語に関わって来るようなキャラクターで、その他大勢と区別化されているもの。当然だけれど、その他の名無しキャラとは比べ物にならないくらい強いのが基本。


 ……なんだけれど、ゲームとかだと進行にあわせてモブが強くなるからねぇ。序盤でやられる「奴は四天王の中でも最弱」な魔王軍幹部が、終盤の雑魚キャラより弱かったりするなんてことはザラ。実力至上主義の魔王軍だというのに、そんな謎現象が起こったりもするけれど、まぁ、それはゲームである以上はしかたないか。


 リアルなら、最前線に新兵だけを送るような戦争の仕方は阿呆だ。


 とりあえず、そんなところを答えてみた。


「はい。概ねその通りです。この“普通”の世界では、正確には“やめとけ”の世界以外ではそれが適用されています。ネームド、名を得ることにより個体能力が強化されます」


 え、なにそれズルい。


「ですが、この名付けシステムにも条件がございます。産まれた直後の赤子に名付けをしたところで、その効果はたかがしれています。まぁ、それでも十分な効果ではあるのですが」


 メイドちゃんの説明を聞いて、いろいろと納得がいった。


 名付けで能力が上がる。これは確定。システムが介入して強化を行うのだそうな。“人間→強化人間”ということ。なるほど、これが“普通”の世界か。なんて優遇されてるんだよ。


 それはさておいて。産まれたばかりで名付けを行うと、なんていうの、適当に能力が付与されるのだそうな。身体能力の向上といっても、足が速い、手先が器用、身軽、怪力、なんていうのがランダムに。


 これはこれで問題が起こるのだとか。虚弱体質の者に足が速いなんて能力……っていっていいのかな? それがついても、ほとんど意味ないしね。生まれつき盲目の人に遠視能力がついたりしたら、それこそ目も当てられない。


 そういったことを避けるために、名付けは成人の儀の際に行われるのだそうだ。15歳になる年のはじめに、教会で行われるとのこと。


 それまでは仮の名として、幼名で過ごすのだとか。それは“名付け”にならないのかとも思ったけれど、あくまでも仮名扱いであるため大丈夫とのこと。


 で、15歳で“名付け”が行われる場合。それまでの15年間での経験に則した能力の増強がされるのだそうだ。


 つまり、足の速い者はより速く、力の強い者はより強く、ということらしい。


 とはいっても、肉体の耐久度とかは私のいた地球の人間と変わらないから、能力が向上したとしても、一般人が鍛えたアスリート並みになる程度のようだ。さすがに超人といえるレベルにはならないらしい。


 で、その“名付け”に関して何を注意しなくてはならないのかと云うと――


「マスターが“名付け”を行った場合、それに必要なエネルギーをマスターが補うことになります。現状のマスターが行いますと、深刻なエネルギー不足となり、長期間の昏睡状態に陥る可能性があります」


 こ、昏睡状態!?


「ぐ、具体的にはどのくらいの期間?」

「短ければ数年。最悪の場合には数百年といったところでしょうか」


 うげ。


 つまりだ。私の現状をゲーム的にいうと、HP:2 MP:0 みたいな状態って訳か。ゲームならこの状況だと魔法は使えないわけだけれど、現実だとこの状態でも使えてしまって、値がマイナスに突入するってことかな?


 うん。聞いておいてよかった。ダンジョン・コアに適当に名前を付けようかとか思ってたしね。もちろんメイドちゃんも。


「わ、分かったよ。でもいずれは“名付け”もできるようになるんだよね?」

「はい。しっかりと回復した暁には問題なく。……そ、その、僭越ですが、できましたら私にもまともな名を付けて頂ければと」


 まぁ、確かにメイドちゃんって呼び続けるのもあれだよね。


 あの型番とかいうのはМIR40なんとかだっけ。……ミラ?


 いやいや、さすがにそれは可哀想だ。名前としては有りかもしれないけれど、私が納得できない。私たちの名前の系統でなにか考えよう。


 ……あー、名前と云えば、私の名前。お父さんたちがつけたものの、予期せず別の意味があって、思いっきり謝られたんだよねぇ。

 あまり気には……少ししたけれど、この名前は気に入っているし、むしろそっちの意味というか、それを知ってる人の方が少ないと私は思うし、仕方ないしね。


「どうされましたか? マスター」

「ん? あぁ、メイドちゃんの名前をどうしようかと考えてたんだよ。うん、まだ回復するまでに時間が掛かりそうだし、じっくり考えるよ」


 振り向いてメイドちゃんを確認すると、胸元で手を握り締めて――な、泣いてる!?


「あ、ありがとうございます。ありがとうございます! 誠心誠意、全力でお仕えさせていただきます!」


 な、なんでこんな大袈裟なのかな? 名付けって、そんなに重要なの!?


 ……う、うん。これは心して名前を決めないと。片手間でやったら、呵責に押しつぶされそうだ。


「ひとまず、重要な禁止事項はそれだけです。他にも禁止事項はありますが、それはごく当たり前の常識的な事ですので割愛します。では次に――」


 皿うどんの食感を堪能していると、急にメイドちゃんの動きが止まった。


 このふやけた部分と、まだパリパリの部分の食感がいいんだよねぇ。前は良く作ってたんだよ。市販の焼きそばを買ってきて素揚げするだけでできるからね。上に掛けるのは八宝菜のもとで作ったやつを使えば簡単だしね。


「マスター、申し訳ございません。大神様より呼び出しが掛かりました。引継ぎをすませるために、一時ここを離れることをお許しください」

「あぁ、転生オペレーターの引継ぎ?」

「はい。業務内容はマニュアル化されているので、引継ぎは不要なのですが、相手をする神々が厄介でして」

「なにか問題があるの?」


 食事の手を止め、メイドちゃんを見つめた。


「基本的に傲岸不遜なんですよ。それぞれの神の性格などを把握したうえで相手をしないと、クレームの嵐が酷くてですね。特に、魂のトレードなわけですから、双方を納得させることのできるペアリングもしなくてはなりませんし、その際の説得を型通りに行おうものなら――ふ、ふふふ……私に力があったなら、あいつら全員滅ぼしてやるのに……」


 ……予想外にストレスの溜まる仕事みたいだ。なるほど、逃げ道としては私はいい機会だったんだね。うん。優しくしてあげよう。ここまで見た感じ、優秀であるみたいだし。大神様のあの態度から察するに、信頼もされているみたいだしね。


「それじゃ、頑張って行っておいで。あ、ごはんとかはどうすればいいのかな?」


 私は目下の一番大事なことを聞いた。


 少なくとも、ここに用意されているだけだと、多分、今日だけで食べつくすと思う。この感じだと。


 大テーブルにこれでもかと並べてあった料理だけれど、もう3割くらい食べちゃったしね。

 ……食べた私がいうのもあれだけど、私のどこにはいってるんだ?


「食事に関しては、ダンジョン・コアを用いれば出すことができます。ダンジョン・コアには、人工無能的なものがありますので、使用方法はすぐに修得できるかと存じます」

「わかった。ありがとう。それじゃ、いってらっしゃい」


 いや、だから、なんでこの程度でそんな嬉しそうな顔をするのかな?


 メイドちゃんは優雅に一礼すると、フッと姿を消した。


 多分、転移というやつだろうけど、私もできるようになるのかな?


 まぁ、神様の自覚なんてないし。まずはダンジョン・マスターとして一人前になろう。

 メイドちゃんがそれを薦めたのは、それが神様修行の一環となるからだろうしね。


 よし。がんばろう。


 でもその前に、お腹を満足させよう。……本当に、どこに入っているんだろ? また空腹感が……。


 そして私は、山盛りのカルボナーラに手を伸ばしたのだ。


第一章はこれにて終了です。

明日、閑話をひとつ投稿します。


第二章は完成までお待ちくださいませ。

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