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05 孤島ダンジョン攻略:ろっ子


 スレッジハンマーの柄を握り締め、私はその大穴に飛び込んだ。


 恐らくは隠し扉の類であったであろうその壁の先は、広く開けた場所だった。


 ボス部屋。


 そこでは既に【黒】と【銀】のチームの何隊かが戦闘中だ。だがこの場に居るのは【黒】が1チーム3名。【銀】が3チーム9名の計12名のみ。


 この人数なら、大抵の相手なら簡単にのめせるハズだ。だが――


「あっはははっ! 大苦戦じゃないか! 私にも殴らせろ!!」


 ボスは蜘蛛のような大型のゴーレムだった。


 アイアンゴーレムの類だろう。大型のゴーレムのその姿は蜘蛛とはいえ異様だった。


 簡単に云えば、大きな球体にふた回りくらい小さな球体を前後にめり込ませるようにくっつけたものから、細い足が10本生えているという感じだ。


 雰囲気が蜘蛛っぽいから蜘蛛と表現したが、その姿は蜘蛛とはとてもじゃないが云い難い。


 細く長い脚のせいで、胴体はおよそ5メートルほど高さにところにあり、こちらの近接武器はとてもじゃないが届かない。必然的に脚を殴ることになる。


 さきほど吹き飛ばされた【黒】は、この脚に蹴り飛ばされたのだろう。


 細い脚、と云ってはいるが、それはこのボスの体に比して細いというだけであって、その太さは私の腰回りよりもずっと太い。直径なら30センチ足らずといったところか。ちなみに私のウェストサイズは65センチだ。背丈はお母様と一緒の176だから、太ってはいないぞ。


 ボス蜘蛛は体長およそ10メートル。脚の長さはその倍くらいはありそうだ。


 しかもその材質は鋼鉄。にも拘らず、かなり機敏に動いていることから、関節部は真銀(ミスリル)にしてあるのだろう。


 これまで雑魚としていた球体関節式のゴーレムではなく、魔力で関節部を自在に変形させるという、ゴーレムらしいゴーレムだ。


 またひとり殴られて数メートル飛んでいく。


 ボス蜘蛛は10本の脚の内、最前の短めの2本を腕の様に使い振り回している。いや、前だけじゃないな。後ろの2本もだ。


 ……これ、前後がないのか? 頭っぽいところには、目みたいな模様があるけど。


 左中央の脚に接敵し、スレッジハンマーを力任せに叩きつける。金属的な甲高い音がするが、凹むどころか傷ひとつつかない。


「ぃい――っよいしょぉっ!」


 遅ればせながら走って来たやっ子が【苦悶のメイス】をボス蜘蛛の脚に叩きつけた。


 ……は? 【苦悶のメイス】!?


「ちょっ、やっ子、あんたそれどっから出したの!?」

「お母さんに試用を頼まれたポーチから出した!」


 あのウェストポーチか! ゴスロリドレスには不釣り合いと思ってたけど、俗に云うアイテムボックスの類だったなんて!!


「やっ子ずるい!」

「ろっ子姉がニート生活してたのが悪い!」


 くっ……仕事がないからって、引き籠っていたのが仇に。


「あ、遊んでたわけじゃないぞ! 医療関連の勉強をしてたんだ!」


 動きのおかしくなってきた大蜘蛛の脚を殴りつける。


 くっそ、本当に硬いなコイツ。


「そういうのは言い訳っていうんだよ!」


 やっ子が横殴りに【苦悶のメイス】を脚に叩きつけた。


 その威力に地面に踏ん張っていた脚が弾きあげられる。――が、地面についている6本のうち1本が地面から離れたところで、バランスひとつ崩れやしない。


「あーっ! いらいらする!! どんだけ頑丈なのよコイツ!!!」

「鉄の塊に文句云ってどーすんのさ!!」

「文句ぐらい云わせなさいよ!」


 急にボス蜘蛛の動きが止まった。


 脚に注意しつつ、上に視線を向ける。


 ボス蜘蛛の頭部? が、首を傾げるかのように、ガクガクと僅かに左右に回っている。


「おー。効くんだ!」

「効くって、あんたなにかしたの?」

「【苦悶のメイス】の能力を解放した」


 そういや、機能を封印してるって云ってたな。見ると、頭部のレリーフの顔から、呻きと云うか怨嗟と云うか、得体の知れない声が漏れだしている。


 うわぁ、気味が悪い。


「これってさ、殴った相手の精神にも影響を与えるって云ったじゃん」

「そんなこと云ってたね」

「その効果がゴーレムにもでてるみたい」

「……いや、ゴーレムに痛みとか苦悩とかないでしょ」

「多分、ゴーレムの行動ロジックに影響して、エラーを起こさせてるんじゃないかなぁ」


 なにその神性能武器。って、お母様謹製の神器(アーティファクト)だから()もありなんってことか。


 ほ、本気でお母様にお強請(ねだ)りしようかな。……でも畏れ多いし。


 そんなことを考えながら、上から突くように下ろされる蜘蛛の脚を避け、少しばかり距離をとる。


 やっ子が使い勝手が悪くなったと騒いでいたレーザーを使う。


 私たちレプリカントの右目にはレーザー発振器が内装されている。いわゆる義眼の類になるものだ。本来の義眼は目を模しただけの、凹んだ碁石のようなものだが、私たちのアイボールレーザーは文字通りレーザー発振器を内装した眼球の代用品だ。もちろん、本来の目と同様にちゃんと見える。


 この兵器の利点は、視点がそのまま照準であるため、百発百中であるということだ。


 もちろん、レーザーは当たった。脚を焦がし溶かし削った。


 そして私の右目は見えなくなった。


「おぉう、本当にみえん! やっべぇ、距離感が狂う!」


 振ったスレッジハンマーが空ぶった。


「いったじゃん、お姉! 数秒はそのまんまだよ。見えだしてもしばらくはぼやけてるよ!」

「ちょっ、それ聞いてない!」

「だから外してちゃんとした目に――あ……」

「え?」


 やっ子が声を途切らせた。


 やっ子の視線を追う。そこは今しがた私がレーザーで削り取ったハズのボス蜘蛛の脚。


「って、なんで修復されてんのよ!」

「うわぁ、面倒臭い。これ倒せんの?」


 やっ子が泣き言を云いだした。


 どうにもこのままではジリ貧だ。【黒】1もお母様から授与された内装兵器を何度か使っているが、少々相性が悪いようだ。


 【黒】と【銀】のチームが更に到着する。


 ここで増援が入ったところでなぁ……。


 脚をへし折ったとしても、コイツを沈黙させるためには、コアを破壊しなくてはならない。恐らくは胴体の中心部に据えられているだろう。


 ボス蜘蛛の胴体を見やる。


 直径でどのくらいあるんだ? あの鉄球を削るのは無理だろ。


 どうにも倒すための算段がつかず、私は頭を抱えたくなった。



 ★ ☆ ★



「これはまた厄介なボスですね」

「これ、攻略不能だよねぇ。関節の無いゴーレムの強みをしっかり生かしているよ。シンプルイズベストの体現って云っていいんじゃない?」

「感心している場合ではありませんよ。この状態では倒せないのでは?」

「ゲームとは違うって実感するねぇ。多分これ、ドラゴンでも倒せないでしょ。ファイアブレスが吐けるとして、どれだけの熱量があるかわからないけど、このデカブツを溶かしきるのまず無理だろうし。自己修復する以上、どうにもならないね。ほんと、どうしましょ」


 モニターに映る金属の蜘蛛っぽいなにかに対する評価を口にする。


 これで全体が視覚的威圧効果のあるようなデザインなら完璧だったろうに。


 まぁ、このデザインも私の趣味的にはかなりアリだけど。


「うーん。このデザインはある意味、私の創った【ブンシャカ】と通ずる所があるかな?」

「あの頭のおかしいモンスターですか?」

「頭のおかしいとは失礼な。自信作だよ!」

「あれを倒せる冒険者はまずいないと思いますよ」

「そうかなぁ。目を瞑ってゴブリンの1団を殺せるような人なら、まともに戦えると思うよ」

「そんな達人は世に数えるほどしかいません」

「訓練すればできると思うけどなぁ。私も出来てたし」


 メイドちゃんが残念な者を見るような目を向けてきた。


「そんなことをできるのは、マスターが神だからです」

「いや、死ぬ前の話なんだけれど」

「は?」


 メイドちゃんが目をぱちくりとさせた。


「さすがにゴブリンの1団は無理だけど、ひとり相手なら、視覚に頼らなくても戦えるよ。掴めば確定で倒せるからね。ふたり相手でもなんとかなるかな。それ以上だとさすがに厳しいと思うけど」


 メイドちゃんは困ったように眉を八の字にしつつ、微妙に震える手で羊羹を口にする。そしてお茶を一口飲み込んで気持ちを落ち着けると、あらためて私にこう問うた。


「あ、あの、マスター? 生前はいったいどこに向かっていたんですか? 格闘家を目指していたわけではありませんよね?」

「へ? だって、生活する上でそのくらいのことは必要だよ。刺客が明かりを落として襲ってくるのなんて常套手段でしょ?」

「現代日本において、刺客が襲ってくるようなことなどありません」

「それがあるのがお姉ちゃんなんだよ」

「いったい何が巻き起こってたんですか……」

「だから私は宗教が大嫌い」


 本当、ロクなことがないんだ。お姉ちゃんは背中に大きな傷跡が残っちゃったし。私も右掌に傷が残ってたんだよね。死んで創り直されたから、もう傷跡なんて残ってないけど。


 骨が見えるくらいにまでざっくりと斬られたあの傷は、その後の私の人生において、ある意味必要なものになったけれど。


 いまではもう、あの傷が無くても大丈夫になったから、綺麗に消えてくれて安心してるけど。


「まぁ、その辺りの事はお姉ちゃんを復活させた後で、もし気が向いたら話すよ」


 そうメイドちゃんに答えて、モニターへと視線を戻した。


 モニターに映し出されているボスは、明らかに行動がおかしなことになってきている。自身の脚の制御が混乱しているみたいだ。


「予想以上に【苦悶のメイス】が効いていますね」

「ゴーレムのお(つむ)にも何かしらの影響……システムをバグらせるというか、コンピューターウイルスみたいな感じになると思っていたけど、うん、予想通りになったねぇ」

「自律行動をしているモノでなくとも影響を及ぼすというのは凄いですね」

「というより、行動するための指令を邪魔してるんだよ。だから自律云々は関係ないね。あれがゼンマイ仕掛けでただバタバタ動くだけの代物だったら効かないし。

 まぁ、その時には無視して進めばいいだけだけどね」


 攻略部隊の全員がボス部屋に到着し、いまは囲んでフルボッコにしている最中だけれど……やけに固いなぁ。


 うわぁ、自己修復もするんかい。


「負けることはなさそうですが、勝つのも難しいのでは?」

「うーん。対処できそうな武器を放り込んでも、時間が掛かりそうだねぇ」


 いかんせん、相手がデカすぎる。


 戦車をハンマーで叩き潰そうとしているようなものだしね。しかも戦車と違って、中になにもいないし、そもそも入ることができないから、外部からどうにかしなくちゃいけないという。


 うん。今の状態じゃ無理ゲーだ、これ。


「ちょっと行ってダンマス始末して来る」

「は? あの、マスター?」

「別にボスを倒さなくても、ダンマス殺してダンジョン・コアを確保しちゃえば、あのボスも止まるよ。それじゃ、ちょっと行ってくるねー」


 ゲートを開いて、戦場へと私は移動した。


 ボス部屋に降り立って、真っ先に思ったことはこれだ。


「うるさっ!」


 ボス蜘蛛の脚を振り下ろす音。その脚を鈍器で殴る音が響き渡っている。


 いったいどこの工場の騒音だと思うくらいだ。


 何人かが私が来たことに気付いたみたいだから、軽く手を振っておいた。


 さてと。


「スライムさんたち、最奥部の場所を探して頂戴」


 いままでどこに隠れていたのか。私の目の前に3体のステルススライムが現れ、人型に姿を変形させる。


 最近、どういうわけか私の前だと人型の姿をとるんだよね。なんでだろ? いまはワンピース姿の幼女に化けている。色はそのままだから透け透けだ。


 スライムさんたちは迷わず壁の一画へと私を案内して――おっと。


 背後に転移門を展開する。それもかなり広範囲に。ボス蜘蛛が私の行動に危機感を持ったのか。それともダンジョン・コアが操作したのかはわからないけど、みんなを無視してこっちに横っ飛びをするように飛び込んできた。


 まぁ、転移させてやったから、こっちにはまったく被害がないけど。


 ボス蜘蛛は反対側の壁に激突している。逆様に転移させたから、いまはひっくり返った状態だ。


 よし。とっととこの壁をくりぬくとしよう。こういった作業は得意なんだ。なにせ延々と穴掘りをした経験があるからね。


 人がひとり通れる程度に範囲を指定して、その範囲をその場所から……10センチくらいでいいかな? 他所のダンジョンだからくりぬきはできない。だからこの部分を平行に転移っと。


 途端、壁が奥にズレ、ゆっくりと向こう側へと倒れていく。


 即席で出来上がった入り口の向こうでは、しっかりとした体つきの青年がひとり。壁が倒れるのと同時に、手にした長剣で斬りかかってきた。


 えっと、(はた)いて掴んで捻ってぐいっと下へ回すように押す。捻った状態で腕を下ろさせようなんてすれば、肩に捩じれがおきて痛みが走る。


 人は反射的に痛みから逃れようとするものだ。だから――


 私の動きに合わせて前のめりに痛みから逃れようとした男は、ぐるんと回ってひっくり返った。


 すかさず腹を蹴っ飛ばす。


 あぁ、いや、電撃を撃ち込めばいいのか。


 もう一度蹴り上げ、爪先から電撃を流す。バチン! と弾けるような音がしてダンジョンマスターは仰け反るように跳ね上がった。


 よし。これでダンジョンマスターは行動不能と。


 幼女姿のステルススライム3体が、倒れているダンジョンマスターに取りついて拘束していく。


 私は奥のダンジョン・コアに目を向けた。


 私の所のダンジョン・コアと違い、球形のダンジョン・コア。


 私はそれを引っ掴み、支配権を奪取する。よし、これで完了っと。


 こうして、孤島ダンジョンの攻略は完了した。


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