表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/141

03 戦争の時間だ


 世界樹2号。私が半ば冗談で作り上げた世界樹のレプリカだ。レプリカと云っても、その機能はオリジナルとまったく同じだ。


 即ち世界の記憶(アカシックレコード)の媒体だ。


 まぁ、この2本目はバックアップだけれど。とはいえ、現状でも媒体としては機能しているため、この世界樹には世界のあらゆる事柄が記憶されている。


 そう、それこそ、どこぞの開拓村の農民Aのゆうべの食事内容まで。


 ……いや、冗談じゃなしにそういったものも検索できるんだよ。とはいえ、さすがにどうでもいいデータは、一定期間を過ぎたら消去しているみたいだけれど。


 まぁ、それはさておいてだ。一定期間とはいえ、そんなどうでもいい事柄でさえも記憶として持っている世界樹だ。当然ながら、いま戦争をしているダンジョンのダンジョンマスターに関しても情報があるわけだ。


 ちょっと気になったから、その確認をしようと思うよ。


 ……いや、だからコダマ、そんな不安そうな顔をしなくていいから。大丈夫だから。変なことをするわけじゃないからね。相方だから心配だろうけど。


 と、とりあえず、もう一度コダマを説得してと。


 よし。情報検索だ。やりかたは管理システムから教わったからね。


《手を触れ、検索内容を思考すれば入手できます》


 ……すごいざっくりした説明だったけれど。要は神様なんだから“それでできる”ってことらしい。


 神になったからできるってこと? テレパシーとかサイコメトリーとか、そんな感じのこと? ま、やってみればわかるか。


 それじゃ、世界樹の幹に手を当ててと――


 ……おぉう、こいつは酷いな。明確な時系列がないのか。いや、一応あるっぽい? なんだろう。重要としているのが“なにが起きてどうなったか”とその“順番”であって、いつの時代にそれが起きたかは重要視されてない感じだ。


 うーん……なんかこの感じに覚えがある……あぁっ! ダンジョン・コアの扱い方を覚えようとしてた時のアレだ。


 ダンジョン・コアの中身程混沌とはしてないけど。あれと同じ匂いを感じるよ。


 ――弄るか? あ、いや、それをやるとコダマが泣きそうだからやめとこう。


 えーっと見るのはここ最近……いや、場所で探して遡るのがいいのか。


 まずは西の大森林帯端っこのダンジョンから見ていこう。ダンジョンマスターはリザードマン。……おぉ、なんか思ってたのと外見が違うぞ。蛇っぽいつるんとした雰囲気のリザードマンを想像していたけれど、このリザードマンはトゲトゲしてる。恰好良い。


 なんだっけ? あれだ! アルマジロトカゲ? それを人型にしたみたいだ。


 ちょっと遡ってみよう。……あぁ、ダンジョンマスターになったのは最近なんだね。20年も経ってないかな? ふむ。戦争で生き残って、ここに住みついた感じか。あー。なんか可哀想だな。普通に実直な人物だよ。


 食糧難から、餌場としていた沼地の権利争いが他のリザードマンの部族とあって、それが抗争、戦争となって彼の部族は全滅したようだ。彼はと云うと、ちょうどその戦争の間に新たな餌場の探索にでていたらしく、帰ってきたら集落が壊滅。それですべてを悟ったようだ。


 ただ、彼は復讐とかは考えていないようだ。これはリザードマンの気質なのか、彼の気質なのかは知らないけれど“勝者がすべてを享受し、敗者はすべてを失う”という考えの下に生きているようだ。自然の摂理? それとも掟かな? まぁ、彼がいない間に部族が滅んだわけだけれど、ひとりでどうこうしようと云う気はないようだ。


 で“餌場”としてみつけたダンジョンをひとりで攻略。そしてダンジョンマスターに至ったというわけだ。ダンジョンマスターになれば、食糧はどうにでもできるからね。DPさえあれば。部族の者を全員ダンジョンに入れて生活させれば、それだけである程度はDPが稼げるわけだし、飢えることも無い。


 当人は他にも餌場を探しに出た仲間を探して、ここに連れて来たかったみたいだけれど、基本、ダンジョンマスターはダンジョン・コアに支配されてダンジョンから出られなくなるからねぇ。


 で、いまはお隣のダンジョンに侵略されて、子ダンジョンにされている。憐れな。


 このリザードマンとはちょっと対話してみたいな。攻略部隊には、なるべく殺さないように指示しておこう。


 さて、もうひとつのほうはと……。


 ……。

 ……

 ……。


 ――あぁ、うん。ダメだコレ。教育されていないのが原因とはいえ、こいつと対話とかないわ。処分決定。同情すべきところはあるけれど、それはそれ、これはこれだ。


 年齢的に考えて、再教育は無理。というか、多分、ダンジョン・コアがこれ幸いと、都合の良いように教育しているだろうしね。リザードマンの彼は、餌場探索の旅に出されてるくらいだから、しっかりと成人しているだろうし、当然、教育も成されているはずだ。彼の部族を滅ぼした部族のほうをちょっと覗いてみたけれど、普通の狩猟民族みたいな感じだしね。


 どっかのアフリカの村みたいに、とんでもなく危険な連中ではないみたいだ。なにせ、滅ぼした部族の者を弔ってたからね。多分、民族的な宗教観みたいなのがあるんだろう。……共食いとかしてたらどうしようと思ったよ。


「よし、っと」

「お、終わりましたか?」


 コダマが胸元で両手を握り締めて不安そうな顔をしている。


「いや、だからなんの心配もないって。ちょっと世界樹から昔の記録を教えてもらってただけだから」

「……私、そんなことできないんですけど」

「そりゃ、あんなとんでもない情報量が頭に入ったら、処理しきれずに頭が逝くよ。だから世界樹の方が覗けないようにしてるんだと思うよ。あと、私、一応は神様だからね」


 ……なんで視線が斜め上にいくのかな?


 いや、確かにいまだに私も神なんて自覚はないけどさ。


「それじゃ、あとはいつものようにお願いね。こっちはこれから戦争して来るから」


 そう云って私は練兵所に向かって歩き出した。



 ★ ☆ ★



 練兵所。通称は第2練兵所。もともとあった第1の方は予定通り改装した。中央に見てくれだけ立派で中身は空っぽの小屋を建てただけだけど。うん。私のリスポンポイントね。


 現状、とんでもなく殺風景だから、そのうち周囲になにかしらの施設を作っておこう。


 そういえば、あの港のダンジョンのボス部屋は、ここの半分も広さがなかったな。なるほど、確かにドラゴンには狭すぎるな。ここくらい広くないとダメだよね。


 その第1練兵所を通り抜け、100メートルほどの通路を通った先にあるのは小部屋。そこの隠し扉を抜けた先が第2練兵所だ。もしくは“はじまりのダンジョン・ラスボス部屋”。


 中ではみんな整列して待っていた。


「みんなお待たせー。遅くなってごめんねー」

「お疲れ様です、マスター。なにをなされていたのですか?」

「敵ダンジョンマスターの情報収拾。ちょっと世界樹にアクセスしてきたよ」


 メイドちゃんが目を剥いた。


「す、すいませんマスター、今なんと?」

「情報収集してきたんだよ」

「いえ、その後です。なにから情報収集したと?」

「世界樹からだけど」


 メイドちゃんが打ちひしがれた。いわゆる“orz”で現わされるポーズだ。


「なにをやってるんですか!!」

「え、なんで怒られてるの? 私」

「当たり前です! いくら神の精神でも、あの膨大なサイズのデータに直接アクセスなどしたら、いろいろと障害を引き起こします! 管理システムを介するのが常識でしょう!」

「そうなの? でもそんなに酷くなかったけれど。データは確かに多かったけれど、混沌具合は調整前のダンジョン・コアのが酷かったよ。それこそ足元に叩きつけたくなるくらい」


《マ、マスター!?》


 ダンジョン・コアがなんか狼狽えてるけど知らん。事実だ。


「……考えてみれば、マスターは人の身で祖竜を素手で殴りつけたんでしたね。元々が人から逸脱していたのですから、神に昇華されたというよりも、よりおかしな“何か”になっていたのだとしても頷けます」

「云いざまが酷い!?」


 いまだに膝をついているメイドちゃんを思わず凝視する。次いで、整列している皆に視線を向ける。


 まるで軍隊のように……いや、軍隊みたいなものだけれど、彼女たちは微動だにせず整然と立っていた。


 なんだろう。気を遣われてるようにしか感じないよ。


 私は設置されっぱなしの朝礼台の上に立ち、こほんと咳ばらいをひとつ。


「さぁ、みんな、戦争の時間だ。敵は孤島のダンジョンと森のダンジョン。これから担当するダンジョンを発表するからちゃんと聞いてねー」


 ゆるーい私の挨拶とは裏腹に、みんなからはやたらと気合の入った返事が返って来た。


 うーん。そんなに戦いたいの? 戦闘狂に創ったつもりはないんだけどな。


 ……あぁっ! そうか。【黒】と【銀】は新装備(勲章につけられた付与関連)の試し。ドールズのみんなは進化のチャンスってことか。いや、ドールズのみんなは、なにかきっかけがあれば進化すると思うんだけれどね。やっぱり戦闘に参加した方がしやすいのかしらね。まぁ、いいや。


 なんとも表現しがたい生ぬるーい気分に目を細めていると、立ち直ったらしいメイドちゃんが声を掛けてきた。


「あの、マスター? もう少し威厳のある云い方をしては?」

「私にいったい何を求めているのかね、メイドちゃんや。先生がパチパチ拍手してるんだからこれでいいのよ!」


 本当、先生大好き。なんとかして進化する機会を設けないと。今回の攻略に、案山子先生を出陣させてもいいかな?


 さて、それじゃ攻略担当を発表していこう。


 ……一応、らしい口調で喋ろう。確かにゆるいと締まらないからね。


「孤島のダンジョン担当は、【黒】と【銀】。それとやっ子に行ってもらう。完全殲滅すること。ダンジョンマスターを生かしておく必要なし。尚、敵性勢力は特殊なストーンゴーレム、もしくはロックゴーレムが主戦力だ。それらに有効な武器は準備した。総員、これを携帯していくように」


 そういって私はストレージに手を突っ込んで、その武器を取り出した。


 取り出したのはスレッジハンマー。片側の打突部分を(とん)がらせた大きなハンマーだ。えーっと、コンクリの壁とか床を壊すのに使ったりする道具……かな? さすがにこんなのは日常で使ったことがないわからわからん。


 地球で市販されているようなものではなく、それよりもやや重量のあるものだ。


 島ダンジョンの敵は石やら岩だから、こいつはまさに適した武器といえるだろう。


「やっ子は絶対に持って行ってね。【苦悶のメイス】は大きすぎで振り回すのが難しいから」

「えー……」

「二刀でもいいから」

「二刀!?」


 適当に云ってみたけど食いついたな。やっぱり戦闘スタイルはロマン戦闘原理主義か。私としては堅実な戦い方をしてくれる子が好きなんだけれど。


「ろっ子ー。調子に乗ってしくじりそうだから、お目付け役でついてって」

「畏まりました。やっ子、よろしくねー」


 にこりと笑うろっ子に、やっ子は震え上がった。


「お、お母さん? なんでろっ子姉なの?」

「え? いや、ろっ子は暇を持て余してるからだよ。なな子もマリアと一緒にドールズの方に同行させるし」


 ろっ子に視線を向けると、必要分出したスレッジハンマーを手に持って、軽々と振り回している。


 確かあれ、既製品を魔改造したから10キロくらいあるんじゃなかったっけ? 頭部を大型化したから、そこだけで8キロはあったハズ。


 看護婦仕様でも、やはりレプリカントってことか。


「さて、孤島ダンジョンだけれど、なんの捻りも無いオーソドックスなダンジョンだ。ただ、やたらと隠し通路だの隠し扉だのが多い。最奥部に至ってはセキュリティが高く、ステルススライムでも侵入はできなかった。最奥部になにが待っているのかはわからないけれど、みんなならなんの問題もない」


 そして私はリビングドール達に視線を向ける。


「ドールズ、およびなな子とマリアには西の森林地帯にあるダンジョンを攻略してもらう。ここもオーソドックスな洞穴型ダンジョンだ。罠は無し。だがゴブリンが異常な数でひしめいている。現状、ウチに一定数が一定間隔ごとに侵入しているが、それによって()()()()()()()()()()可能性がある。

 ダンジョン内にいるゴブリンを殲滅する必要はない。最奥部を制圧し、ダンジョン・コアを確保せよ。尚、ダンジョンマスターのリザードマンは、余裕があるなら殺さずにおくこと」


 ダンジョン・コアを確保して、ダンジョンマスター権を移譲させる、もしくはダンジョンマスターをクビにさせればいい。その後で支配権の競走をして、港のダンジョン同様、DPを収奪して自壊させればいい。


 なにせ廉価ダンジョン・コアは性能が残念過ぎて使えない。融通が利かない代物だからね。普通にダンジョン運営するだけなら問題ないんだろうけど、杓子定規過ぎて使えない。


 港のダンジョンがいい例だ。あの港の使い勝手の悪さが物語っているといえる。


 だから即効で整備し直したんだし。……やりすぎだとメイドちゃんに怒られたけど。


 さてと、それじゃ、現場へのゲートを開こう。


 バッ! と、私は両手を広げ伸ばす。


 ごとん、と、皆の並ぶ左右に、どこぞのお城の大門もかくやという両開きの扉をダンジョンのストレージから取り出した。巨大な扉だけれど、きちんとドア枠もあり、自立できるように……脚? でいいんだっけ? それが取りつけてある。


 その扉をさん子とごっ子が開く。


 扉が開いたのを確認し、“そこ”に孤島、森林のダンジョン入り口へと続く転移門を設置する。うん。もう転移門の設置も慣れたものだよ。


 本当は扉(正確には枠)なんていらないんだけれど、ただ転移門を開いたんだと視認ができないため、こんなこれ見よがしな形を取った。


「総員出撃! ダンジョンを制圧せよ!」


 全員が敬礼し、声を上げる。


 えっと、いま「ヤー!」とか云わなかった? なんでドイツ語? 


 各部隊がゲートを通り抜けて出撃していく。


 まぁ、まる1日もあれば制圧は終わるだろう。あとはダンジョン・コア確保の連絡を待つのみだ。


「さてと、それじゃ戻って、モニターで状況を観戦しようか」


 部隊の皆にはカメラを持たせてある。中継器を飲み込んだステルススライムがそこかしこに潜んでいることもあって、電波はしっかりと届く。なにせ、ウチとトンネルで繋がっているからね。孤島のほうも、こっちから穴を開けてやったし。


 転移ゲートを閉じ、大門をストレージに入れる。


 うん。みんながいなくなって、門もなくなるとほんと殺風景だね。まぁ、練兵所なんてそんなもんか。


 そんなどうでもいいことを考えながら、私は先生を抱えると、メイドちゃんたちと練兵所を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ