※ 13人目
いっ子から人間が送られてきた。その数6名。
エーデルマン子爵家の領兵らしいんだけれど……なんでこんなのを送って来たのよ。
あ、連絡きた。
……。
……。
……。
なるほど。それなら初心者ダンジョンのほうの実験に使うか。最低限のモンスターの設定もできているし。ダンジョン自体も問題なし。あとはすべきこととなると、難易度調整!
丁度いいから、こいつらでβテストとしよう。
最終的には、モノレールの罰のほうの試験に回して、トラウマを植え付ければいいや。殺すと面倒なことになりそうだけれど、睡眠恐怖症(そんなのあるのか知らないけど)にしたりする分には問題ないだろう。
ということで、塔の適当な部屋にこいつらを放り出して、あとはダンジョン・コアに任せよう。
武装を剥いで、空き部屋になっていたところにひとりずつ別個に監禁する。まとめて置いたらロクなことにならないだろうしね。
あとはダンジョン・コアにお任せだ。
やりきった、とばかりに手を払うようにパンパンと叩いていると、メイドちゃんがやってきた。
「マスター、ここに居られましたか」
「ん? どしたの?」
「リビングドールがひとり、進化に入りました」
「へ? このタイミングで? なんでまた」
「マスターが娯楽用に提供していた、いくつかの映画を見て感化されたようです」
珍しくメイドちゃんが苦笑している。
「まぁ、取得存在質量は十分ですから、今後はちょっとしたきっかけで進化にはいる者がでてくるでしょうね」
「……また幼女にならないことを祈るよ」
「なにに祈るのです?」
メイドちゃんが目をそばめた。
くっ。私が祈られる立場だった。くそぅ。
「どのくらいかかるのかな?」
「明日朝には完了するかと」
いつもと一緒の感じか。それを考えると、私の進化にかかった時間がいかにとんでもないか分かるな。なにせ約ひと月だったもんなぁ。
と、一番肝心なことを聞いておかないと。今回は進化の方向性が分かりそうだし。
「その進化した子が感化された映画って、なにを観たの?」
「それですが――」
私はそのタイトルを聞いて顔を引き攣らせた。
やべぇ。
確実に気軽に表にだせない。やっ子もそうだけれど、あの子は外見が5歳児とかとんでもないことになったからだ。見た目が成人年齢であれば、どんなにデカい武器をぶん回していても、御遣いにだすには問題なかった子だ。
でも今回はそうはいかない。
えぇ……どうしようか。前々からいわれている、私の専属護衛とかにする? というか、それ以外にできそうにないんだけれど。
「マスター、頭を抱えられても、現実は変わりません」
「わかってるよ。……ぬぅ」
「どうされました?」
「うん。武器開発をするよ」
「は?」
メイドちゃんが間の抜けた声を上げた。
「なぜ武器開発を?」
「えーっと、要望に答えた場合のゴミの削減と、あとは――」
「あとは?」
「この世界は魔法がロック解除されてるからね。それを活かす実験かな」
私がそういうと、メイドちゃんはカクンと首を傾けた。
★ ☆ ★
娯楽、という形で、私はいろいろなコンテンツをみんなに提供している。もちろん、これは身内だけだ。
いや、身内だけといっても、さすがにドワーフさんたちは除外してある。ある程度は制限しないと、カルチャーショック……いや、ジェネレーションギャップ? ……これも違うか。まぁ、ショックが過ぎると思うからだ。ドワーフさんたちに提供してあるのは、せいぜい時代劇のような、文明レベルがこの世界と似たような設定のものだけだ。
で、そういった制限なく【黒騎士団】や【銀騎士団】、そして【特殊機動兵団】の面々には公開している。もちろん、レプリカントとなったみんなにもだ。
いや、こうしておかないと、あの子たち異様にストイックに殺伐とした感じの訓練ばっかりしてるからさ。こう、なんていうの? 余裕というかさ、人生の楽しみみたいなものを持ってほしかったんだよ。
で、今回、彼女が進化したきっかけとなった映画というのが、いわゆるガンアクション系の映画。彼女が直近で観たものは次のふたつ。
ひとつは復讐劇もの。銃撃戦がスタイリッシュで派手なものだ。ギターケースに偽装したマシンガンやロケランなんかも出て来る。さらには、昔の名作映画といえる、双子説なんてものまで唱えられた名優主演の映画のネタまでリスペクトしていたからね。袖に仕込んである銃のギミックなんかは、知っている人からしてみればニヤリとするものだ。嫌う人ももちろんいるだろうけど。
もうひとつ。こっちはもう完全にファンタジーといってもいい。相手の行動からなにからを予測し、銃弾を躱すとか普通に無理だよ。スタイリッシュ具合でいうと、前者よりもこっちのほうが遥かに上だ。前者はまだ現実味のあるガンアクション。それだけに泥臭さもあるけれど、こっちはもう俺TUEEEな世界。
まぁ、それを観たわけだ。
そんなものに刺激を受けて進化したとなったら……考えるまでもないね。
とりあえず、ダンジョン内で銃を扱う分には問題ないんだよ。
でも、それが外だとちょっと問題になるんだ。銃を使う分には問題ないと思う。せいぜい、へんな魔道具くらいに思われるだけだろうから。
問題は空薬莢。パンパンぶっ放しまくった後に、そこらに散ったそれを回収するのは大変だからね。その手間を考えると、普通の銃を渡すのははばかられる。ダンジョン内なら自動で回収できるけど、ダンジョン外だとゴミになる。
それはちょっと……ねぇ。
ということで、薬莢……というか、銃弾を必要としない銃を開発するよ。魔法を用いたものになるから、無反動になるわけだけれども。
……頼むから反動と硝煙の匂いがしないとダメとかいう子にならないでくれ。
反動はどうにかできるけど、予定のギミックからして硝煙は無理だから。
さて、創る銃の形式はリボルバーだ。銃の形式から弾薬無限となる。シリンダー内に魔法の論理を敷き詰めて、そこに魔力を通すことで魔力を固めた弾を撃ちだす形式。無限に【マジックミサイル】を撃てるようなものにする。ただし、追尾能力はなし。そこはこだわる。だから【マジックバレット】ってことになるね。
撃つためには魔力を充填することになるわけだけど、撃つたびに充填とすると連射はできなくなる。すぐに魔力が枯渇しちゃうからね。
これらを踏まえて、ダブルアクション式のリボルバー銃。引き金を引くごとにシリンダーが回転するわけだけど、連射時、これが一周する間に魔力を充填させることで、無限弾薬を可能とする。魔力は射手の余剰魔力と、一応補助としてグリップ内に魔力バッテリーとして魔石を装填する。
そうだ! シリンダー内の魔法論理式だけれど、こいつを薬莢に記してシリンダー内に仕込む形にすれば、撃てる魔法の種類を変更できるな。まぁ、それは13と相談して決めよう。
……変なこだわりを持っているかもしれないし。
さてと、あとひとつ問題があるんだよ。
13人目の彼女の呼び名。
正式命名じゃないから、適当なあだ名をつけなくちゃいけないんだけどさ、ある理由でまともに考えられないんだよ。
13。銃。
いいたいことは分かるね?
女の子だし、どうしたもんかな。
★ ☆ ★
進化が完了した。
間に合わせの白い貫頭着姿で現れた彼女は、外見的には20歳前後くらい。黒髪の長髪。白く細面の顔。なによりこれまでの娘たちに比べて長身でモデル体型。190近くあるかな? 実に恰好良い。
男装して黒系のスーツにコート、そしてトラベラーズハットとか被っているといかにもな雰囲気になる。丸レンズのサングラスは必須かな?
あとでその手の服を用意しよう。
いや、それとも某ゴシックファンタジーの主人公のような、狩人衣装のほうがいいだろうか。あれも銃を使っていたからね。
「改めまして、よろしくお願いします、お母様」
「うん。よろしくねー」
私は云いながら、テーブルの上にゴトリとリボルバーを1挺おいた。
「さてと、さっそくだけれど装備に関しての相談をするよ。都合上、次の条件は変更できないからね。で、こいつはその試作品」
「わかりました」
ということで、銃の変更できない仕様を説明したのちに、銃に関しての要望を確認。
うん。思っていた通りだったよ。とくに問題はなし。ただ、反動は欲しいとのこと。理由は、ちゃんと撃てているかどうかの確認としたいのだそうな。
……目撃ちする気か。
あ、“目撃ち”っていうのは私の勝手な言い回しだ。要は、狙いをつけずに撃つ、或いは目標を目視せずに撃つことを“目撃ち”っていっている。前は別の言い方をしてたんだけれど、下手に聞かれると差別用語だとかいわれそうだから、いろいろ云い換えていたら、いつの間にかこうなった。
ということで、反動付きに仕様変更した銃を2挺、新たに創って渡す。それと要望から少々とんでもないものをひとつ。
ブラックホークというロングバレルの拳銃がある。オプションの銃床をつければ、簡易ながらもライフルとしても使えるという大型の拳銃だ。
もちろん、高威力仕様になっている。
……なんだか渡したら頬ずりして恍惚としたような顔をしてるんだけど、大丈夫よね?
本当にクセの強い子がでてくるようになったなぁ。やっ子然りきゅー子然り。
「それじゃ、ちょっと試してみてくれる? 現状、その銃の威力は抑えてあるから、存分に狩りをしていいよ。せいぜい気絶する程度だから。あ、そのブラックホーク擬きは使わないでね。それは標準仕様のままだから、普通に殺しちゃうから」
「了解です。それで、狩りですか?」
「そう。いっ子が不心得者を送って来たから、お仕置きしてあげて。とりあえずひと晩、ダンジョン・コアにダンジョンのテスターをさせたのよ。平均でひとり43回ほど死んでたらしいけれど」
おかしいな。初心者ダンジョンのハズなのに、なんでそんなに死ぬかな?
「分かりました。容赦は不要ですね?」
「いらないよー。容赦なく撃ってあげて」
ということで、ダンジョンの一部をなかば隔離して、そこに連中と13を放り込んだ。
……で、モニタリングしていたんだけれど。
「あの、マスター。13ですけれど、銃のアドバンテージを殺していませんか?」
「いや、そうなんだけれど、そうじゃないというか……」
思いっきり映画仕様になってるよ。銃を持っての近接戦闘とか。
というか、振り下ろしてきた剣の腹に銃撃して軌道を無理矢理逸らすとか、無っ茶怖いんだけれど。
うちの子達の中で、乱戦時の個体戦力が一番高くないかな? 殲滅力でいえばじっ子が広範囲魔法を使える分、戦力としては頭抜けているけど。
うん。完全に近接戦闘での戦闘能力は一番高い。とはいえ、最強、というわけでもない。相性はあるからね。
「閉所でしたら無敵に近いですね」
「反動が欲しいって、こういうことも含めてだったのかなぁ」
銃を撃った反動で体の反転速度あげてる様子が、そこかしこで見て取れる。当人は当たり前のようにやっているけど、傍から見たら無茶苦茶だよ。
あっという間に6人は戦闘不能に陥った。
「手が付けられませんね」
「まぁ、味方だから問題ないでしょ。あいつらが回復するのを待って、もう何度か模擬戦をしようか」
「可哀想に。命令に従っただけでしょうに」
「命令を無視することもできたよ。ま、その時は失業だろうけど。でもいまの状況とどっちがよかったのかしらね?」
「外では味わえない食事を得られているのですから、こっちの方が良いでしょう。死ぬ可能性もありませんし」
ま、いっ子たちを殺そうとしたんだから、情けなんぞ掛ける気はないけどね。精々、こっちの役に立ってもらおう。
そうそう、13の当面の呼称はマリアにした。
彼女が進化するきっかけになった映画の主人公の……あれはあだ名かな? からだ。うん“マリアッチ”からとって“マリア”としたよ。
……役者さんの名前の一部を取って、“アン”としてもよかったかな?
近く行われるであろうダンジョンウォーの際には、その活躍に期待しよう。
誤字報告ありがとうございます。
明日、もうひとつ閑話を投稿します。




