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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第1章:少女→神→ダンジョンマスター
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03 そして私はとんかつを食べる


「ようこそ、新たなる神よ。我々は君を歓迎しよう。盛大にな」


 仙人といってイメージする姿は、多分、殆どの人は一致するのではないだろうか。白い着物に白髪の老人。もちろん、豊かな白いひげを蓄え、その手には杖が握られている。場合によっては、雲に乗っているかもしれない。


 多かれ少なかれ、こんな感じのイメージではなかろうか。


 そんなイメージをそのまま具現化したようなお爺ちゃんが、目の前でスタイリッシュな恰好で私に対し、歓迎の言葉を口にしたのだ。


 尚、その体格は枯れるどころか、筋肉モリモリマッチョマンで、着物がパツパツではち切れんばかりだ。


 どこかの武道の達人かな?


 そしてなによりも、聞き捨てならないことをいっていたよ。


 新たなる神。


 ……え?


 神? え? 私? なんで?


大神(たいしん)様、なにをトチ狂った挨拶をしているのですか。マスターが戸惑いを通り越して思考停止(フリーズ)しているじゃないですか!」

「なんじゃとぅ。これが地球式と儂は学んで来たのだぞ!」

「いったいどこの知識ですか。地球の神からではないでしょう? あの御仁はかなりまともな部類でしたから」


 お爺ちゃんが叱りつけるメイドちゃんから目を逸らした。


 あぁ……多分、なにか適当な漫画なりゲームなりから拾ってきたんだな。“歓迎しよう、盛大にな”っていうのは、どっかで聞いた気がするし。


「そもそもですね、まだマスターにはなにも話していません。なので、現状に戸惑っておられるかと」

「なんじゃい、まだ話しとらんかったのか」

「どこから説明したものかと。とにかく片っ端から説明しなくてはなりませんので」

「あー……確かにのぅ。今回はイレギュラーにも程があったからのぅ」

「あとマスターご自身もイレギュラーとなっています」

「は?」


 お爺ちゃんが目をパチクリとさせたあと、私をじっと見つめた。


 え……えーっと?


「なんじゃあ、こりゃあ!?」

「なんじゃと云われましても、見ての通りです」


 あの、ふたりで私を見て騒がれると、すごい不安になるんですけど。


 ぐぅ。


 うぅ、料理の匂いでお腹が鳴ってるし。でもこの状況で料理に手を出す度胸はどこにもないよ。


「なんでこんなことになっとる?」

「恐らくは名前が原因かと」

「名前? む? ……あぁ、そういうことか。これはまたなんじゃな」

「えぇ、この説明もありますので、どこからとっかかるの一番良いかと」

「あのぅ……」


 さすがに話が進まなそうなので、私は声を掛けた。


「確認をしたいんですけど、私、死んだんですよね?」


 是が非でもこれは確認したい。


 いや、さすがにもう、これが夢だのなんだのではないというのは分かっているよ。というか分かるよ。


「はい。残念ながらマスターは命を落としました」

「いや、残念でもなんでもないんだけれど。自殺したんだし」

「……え?」


 メイドちゃんとお爺ちゃんは顔を見合わせた。


「おい、これは規定に反しているのではないか?」

「確認します。地球の神に確認を取ります」


 な、なんか余計に問題になったみたい。


「まぁ、規定に反していようが、どうあれ今のお嬢さんは我々が待ち望んだ者だ。どうこうすることはないから安心するといい。見たところ、危険な存在ではなさそうだしの」

「あー……でも人畜無害とはとてもいえないのですけど」


 ふたり殺したし。


「まぁ、その話は後じゃ。それよりも進化したてで腹が空いておるじゃろ。ほれ、座って食べるといい」

「あ、はい。失礼します」


 促され、私は席に着いた。


「い、いただきます」

「うむ。たんと食べるといい。落ち着かんかもしれんが、説明をするぞ。食べながら聞いとくれ」



 ということで、状況やらなんやらの説明を受けた。そして私はとんかつを食べる。



 世界は沢山ある。いわゆる並行世界というのもそうだけれど、ひとつの宇宙に、地球と同じように、知的生命体の存在する星もたくさんある、ということだ。


 宇宙で地球だけに知的生命体が存在するなどと思うのは、いささか傲慢でしょう? だったかな? アニメかなにかで聞いた、そんな台詞を思い出したよ。


 で、それぞれの惑星には、そこを管理している神様がいるのだそうだ。ちなみに、目の前の説明してくれているお爺ちゃんは、その神様方の元締めというか、上司。大神とかいう存在らしい。


 分かりやすくいうと、神様方がとある目的の為に、惑星を使って箱庭ゲーをやってるってことだ。そして神様方の間で、技術交換的な意味合いで、いわゆる転生とか転移を事業的におこなっているのだそうだ。要は魂のトレード。


 転生の場合、赤子から人生のやり直し。世界を変えての輪廻転生だね。ただ、前世の技術やらなんやらを潜在的に知っている感じ。基本的に前世を思い出すことはない。突拍子もないひらめきで、発明だの発見だのをした偉人とかは、転生者の可能性が高いとかなんとか。


 転移の場合は、手っ取り早く技術のテコ入れのために行っているとのこと。ただ生きている人間をそのまま転移させることはせず、死んだ直後の人間を元の姿のまま転生させるといった感じ? 転移転生っていったほうがしっくりするかな? 多少の年齢の変化、大抵は若返りをすることが殆どだそうな。


 このようなことを説明されたよ。私は後者ということだ。なるほど、肉体の再構築とかいっていたのは、私の新しい体を作ってるってことだったんだね。なんか、4、5歳くらい若返っているらしいけど、見た目が18のまんまなのは何故だろう?


 余談的なものだけれど、世界には難易度なんてものもあるらしい。だいたい4段階。いわゆる“簡単(イージー)”、“普通(ノーマル)”、“難しい(ハード)”、“やめとけ(ゴッドレス)”の4段階だ。地球は最高難易度なんだって。“神無し(ゴッドレス)”というのはなにかの皮肉かな?



 それで私の場合だけれど、転移、転生? の際に事故というか、事件と云うか、あったらしくて、本来、転移する惑星ではない場所にとばされたらしい。


 そういえば、なにか言い争いっぽいのを聞いた気がするよ。あれがそうだったのかな?


 転移を妨害した元凶の神様? は逃亡中とのことだ。


 そして私が放り込まれたこの世界というのが――


「ここは“はじまりの世界”のひとつじゃ。正確には“はじまりの世界”のレプリカじゃな」

「“はじまりの世界”ですか」

「先にも云ったが、儂らはある目的の為に世界を造り運営管理を行っておる。がだ、適当な星を生命の生存可能な世界にするにも、円滑に行うにはとっかかりとなるようなものがいるじゃろ?」

「見本とか、参考になるようなものですか?」

「そう、それじゃ。ここはその見本としている四つの星のひとつじゃ。難易度“普通”の惑星じゃな」


 テンプレートとかプリセットみたいなものかな? 分かりやすいところだとモデルハウス? というかさ、難易度普通であんなドラゴンがいるの? 地球が最高難易度っていうのが信じられなくなるんだけれど。

 いや、いつでもどっかで戦争しているような、全体で見たら混沌とした世界かも知れないけど。


「まぁ、嬢ちゃんはいきなりあんな目に遭ったから納得いかんかもしれんが、ここはまごうことなく“普通”の世界じゃ。物理法則を捻じ曲げる魔法なんてものもある世界じゃな。おかげで科学の発展は遅々としておるが、魔法のおかげでお嬢ちゃんのいた世界よりは、自衛手段は充実しておる。個々がそれなりに戦闘能力をもっていることから、犯罪などもそうそう起こってはいないの。すくなくとも人目のつくところでは」


 ほうほう。


「他の“普通”の世界と違うところは、神がおらんということじゃ。なにせ見本の世界だからの。だが管理はシステムがしっかりと行っておる」

「システム?」

「お嬢ちゃんのところでいうところの、コンピューター制御といったところかの」


 あぁ、そういう。


「大神様。確認がとれました。問題ないと地球の神は判断し、マスターを推薦したようです。多少の同情が入ったかもしれないと云っていましたが。マスターは自身を取り巻く環境、状況に絶望したことから自害されたようです」

「絶望したというか……うん、絶望したんだろうね。家族をみんな亡くしちゃって、生きる気力とか意義とか見失ったから」


 ついでにクズふたりも殺しちゃったし。


「ふむ……申し訳ないが、お嬢ちゃんにはこの世界で生きて貰うぞ。まぁ、死のうにも死ねなくなってしまったんじゃが。神になってしもうたからな」

「死ねませんか」

「できなくはないが、とんでもなく難しいと思うぞ。なにせやり方は知っておっても、試した者が誰もおらんからの。物語などでは神などあっさり死んどるが、現実では死ぬことが世界によって許されん」


 はい?


 うん。説明を頂いたよ。


 えーっとね、ちょっと理解しがたいんだけれど。世界というものが神様方の神……紛らわしいから超越神とでもいおうか。その超越神によって造られた、とされている。そして世界が生まれ、その世界が神様方を生み出したのだそうだ。


 つまり、神には基本的に親なんてものはなく、そこらに……って程でもないけれど、ポコポコ湧いて生まれるんだそうな。世界が必要とするだけ。世界……いや、この場合は宇宙といったほうがいいのか。宇宙を生物として見た場合。自身の生存を補う、守るために神を生み出してる、というのが神様方の見解だ。


 なんだろう? 日本の神道かな?


 で、その神様方は、宇宙を造った超越神を認識できていないとのことで、そこに到達する一環、手段のひとつとして、自分たちで自分たちと同等の神を生み出そう! としているらしい。ということで、箱庭ゲーをはじめて、知的生命体に神格を会得させようと四苦八苦しているのだそうな。


 つまりだ、そんな風に神様方が四苦八苦している中、私がいきなり神に進化してしまった。待望の人間からの神化。でも、その世界は神のいない見本の惑星。

 あ、見本の惑星だけれど、これも世界が用意したものらしいよ。今回“普通”の惑星に私が転移転生して干渉しちゃったから、どこだかに新たな“普通”の惑星が生まれるだろう、とお爺ちゃんが云っていたよ。


 まぁ、そんなわけで、私はイレギュラーにも程があるみたいだ。


「大神様、残念ながら時間がもうありません。他の神々の問い合わせが殺到しているようです」

「なんじゃい、せっかちな連中じゃの。では、細かな説明は任せるぞ。さて、お嬢ちゃん、儂がここに来たのはお嬢ちゃんを歓迎するためじゃ。そして祝うためじゃな。なにか望みはないか? 儂らの不手際による迷惑料としてひとつ。そして祝いとしてひとつ。なにかしら望みをふたつ叶えてやろう。あぁ、でも、死を選ぶことは勘弁してくれ。お嬢ちゃんは儂らの待ち望んだ、新たなる仲間じゃからな」


 お爺ちゃんの言葉を聞き、私は頬張っていた大きなエビ天をごくりと飲みこんだ。


「死ぬのはダメですか……」


 私は消沈した。


 望み。望みか……。


 うん。望みはある。あるけれど、これはお願いしてよいものなのだろうか?


 ううん。こうして私が生き返っているんだもの、大丈夫なハズ。それに、ダメでもともとだ。いうだけならタダだ!


「ふたつもいりません。ひとつだけでいいです。ですからお願いです――」


 私は意を決して云った。


「姉を生き返らせてください!」


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