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02 何故彼女は復讐を決意するに至ったか


 私は幸運であり、そして不幸であったのだと思う。


 砂蟲狩りは10数名で行う。基本は斥候兼囮役がふたり。大型のアーバレストを担いだ者がふたり。魔法使いが最低3人(砂使いふたり、風使いひとり)。対砂蟲用毒物を専門にあつかう薬師ひとり。最後に砂蟲の攻撃を受け止める盾役がふたりだ。


 これはあくまでも狩りに必要な最低人数だ。そしてこれに加え、解体要員と人足役が多数加わる。もちろん、それだけでは解体した砂蟲を運べるわけもない。だから砂竜も連れていく。


 竜と呼ばれているものの、砂竜は草食性の竜だ。


 その日、私たちは年はじめの砂蟲狩りを行っていた。


 狩りの手順は簡単だ。斥候役が単体で行動している砂蟲を見つけ、自らを囮として本隊の場所まで誘導する。本隊は接敵次第、砂蟲の纏う砂を剥がし、そこへアーバレストを打ち込む。特製の鋼綱と繋がったボルトは、刺さってしまえばそう簡単に外れることはない。

 こうして砂中に逃れられないようにし、行動を押さえこんだところへ対砂蟲用の毒を口内へと放り込み、弱るのを待つ。

 ほどなくして動きを止めた砂蟲に止めを刺して、狩りは完了だ。


 簡単なように見えるが、実際はかなり危険だ。なにせ、砂蟲の力に振り回されて、流砂に呑まれでもしたらそれで終わってしまう。


 とにかく、今回は非常に上手くいった。誰ひとりとして怪我をした者もいない。

 ここからが私たちの出番だ。


 見習である私は解体役として参加している。仕留めた砂蟲を解体するために、砂から引きずり出す。だがその巨体ゆえに一苦労する。


 引きずり出した後は、体表にこびりつき、砂蟲の体液で岩のように堅くなっている砂を剥がす。そうしてやっと砂蟲の解体をはじめることができる。


 狩る砂蟲は小型のものを選別しているが、それでも大人数十人分もの長さになる。これを持ち帰るなど不可能なため、現場で解体し、必要なものだけ持ち帰るのだ。


 必要な物は皮、食肉部、そして腸だ。どうにも使い物にならない他の内臓部分は、砂に埋めて処分する。


 数日を掛けての狩りが終わり、私たちは村へと帰る。そして、目視できるところまで来たところで、異変に気が付いた。


「お前たちは砂に隠れていろ。万が一の時にはアッディへと逃げろ」


 隊長の言葉に、見習である私たち3人は顔を強張らせた。


 慌てて荷車から砂竜を離し、私たちも荷車から離れて砂に潜る。


 私は遠眼鏡を取り出し、砂の中から村の様子を伺う。


 その光景は信じられないものだった。襲ってきている連中は、どうみても軽装だ。だというのに、攻撃がまるっきり効いているように見えない。魔法すらも無効化されている。砂蟲の纏う砂壁を剥がすことのできるほどの風魔法をもものともしていない。


 私がそれを学んだ時には、間違っても他人に向けて放つなと云われた魔法だ。もしそうしたなら、それを受けた者は全身の皮を剥がされたようにズタズタに刻まれるといい聞かされて来たのだ。


 風魔法の中でも上位である魔法であるのに、まるで効いていない。


 この時点で、私は村は滅ぶと理解してしまった。


「ロー、どうなってるの?」


 となりで同じように隠れているユー訊いてきた。


「……暗くなったらアッディへ行こう。警告しないと」


 私の答えで察したのだろう。ユーが息を飲むのが分かった。もうひとりのネーがすすり泣く声が聞こえてきた。


 確か、ネーも遠眼鏡を持っていたハズだ。彼女も状況を理解したのだろう。


 再度、私は遠眼鏡を覗いた。


 隊長の腕が斬り落とされるのがみえた。




 戦闘が終わったと思われても、私たちは隠れ続けた。


 日が暮れ、辺りが月明かりに照らし出されはじめた頃、私たちは砂から這い出した。


 すっかり荒れ果てた村へと警戒しつつ戻る。隠れるように村内を見て回る。


 誰もいない。死体すらもない。みんな連れ去られた?


 でも隊長の落とされた腕は道端に転がっていた。なんの理由かは知らないが、みんな連れ去れたようだ。


 私たちは無言で顔を見合わせた。そして諦めたように各々の自宅へと戻る。


 私の家は思ったほど荒らされてはいなかった。それでも一通り引っ掻き回したのか、食器や衣服が散乱しているが。


 私の両親はいない。母は私を生んだ後、体調を崩して他界したそうだ。父はと云うと、母が亡くなってからほどなくして、私を置いて失踪したらしい。


 まぁ、私たち砂エルフは親子の縁は希薄だ。子供は村の者みんなの子という形で育てられるからだ。なにせエルフの出生率は酷いものだからね。

 私の同世代が3人もいるというのは奇蹟というものだ。


 衣服をいくらかと、隠しておいて無事だった銀貨を背嚢に押し込む。


 ふたりはまだ荷物をまとめているようだ。


 荷車の所へと戻る。どうやら砂蟲を積んだこの荷車は見逃されたようだ。


 指笛を鳴らす。するとほどなくして砂竜が戻ってきた。


 どこまで逃げていたのかは分からないが、砂竜も無事だったようだ。


 日中放置した形になったが、最低限の処置はきっちりとしておいたものだ。あまりよい環境にあったわけではないが、加工するには問題ない。


 砂蟲一頭分の素材があれば、アッディの村にしばらく厄介になることもできるだろう。



 ★ ☆ ★



 私はとことん不運であったのではないだろうか。


 アッディの村で1年ほど厄介になった後、私たち3人はドーベルク国へと向かった。


 ドーベルク国はドワーフが中心となっている多民族国家だ。鉱物資源が豊かで、それら加工物を主産業として栄えている。


 国内にダンジョンも複数あることもあり、鍛冶職人はどこでも引く手あまたと聞く。


 人の流れが多く栄えている場所となれば、仕事も多くあるだろう。


 私たちは傭兵登録をし、傭兵としての活動を開始した。傭兵と云っても、私たちが主に受けるのは商人の護衛だ。


 商人の護衛というのは、大抵複数の傭兵隊が雇われることが多い。対人戦初心者とも云える私たちが、それらの経験を積むには丁度いいというものだ。


 私たちだけではミスをするかもしれないが、ベテランの先輩傭兵がいるとなれば心強いというものだ。

 頼りすぎると、後々、大変なことになるのは目に見えているから、そんなことにならないようにしっかりとしなくては。




 傭兵活動を初めて数年が過ぎた。村を襲ったあの連中たちの情報を集めてはいるが、一向に不明のままだ。


 焦るつもりはない……といいつつも、いろいろと思うところはある。時間が経てば経つほど、みじめな気分になってくる。


 最初の頃は3人一緒に仕事を請けていたが、最近は手分けをして、情報の収集をはじめている。人を攫っていることから、奴隷商などを当たってみているも見つけることができずにいる。


 そういったなんとも表現しがたい鬱々とした気持を持て余しつつも、私はいつものように護衛の仕事を受けた。


 それはホルスロー半島最南端にある町、ラマテルまで行く商船の護衛だ。走砂船に乗り込んでの、砂蟲対策の為の傭兵を募集していた。


 雇い主はベネディクト商会。船に同乗しているのはホセとかいう、商会所属の商人だ。痩せぎすで神経質そうな顔をしている。


 砂走船の航路はひとつしかない。半島北部の町、リューノルから流砂に乗り、半島をぐるりと一周するだけだ。途中、最南端でラマテルに寄港するというだけで。


 航海は順調とは云えなかった。


 ホセが砂蟲避けの薬剤をケチったのだろう。出港の翌日には砂蟲に取り囲まれる有様となった。それも大型の砂蟲が複数見える。


 船上を駆け回り、砂蟲の纏う砂を排除して回る。それが私の役割であることは、他の傭兵たちとの話し合いで決めていたことだ。私が砂エルフであるとのこともあって、それに関しては信頼して貰えていたと思う。


 だが雇用主はそんなことはどうでも良かったのだろう。


 実際の所、私が気に入らなくて船から蹴落としたのか、それとも報酬をケチるために殺そうとしたのかは不明だ。


 とにかく、私は船から落とされ、ホルスロー大砂海にひとり取り残された。


 それもよりによって、流砂帯の内側。ホルスロー大砂海の内側だ。徒歩で流砂を渡るのは無謀な行為だ。本来なら、こんな場所に落とされたら死ぬしかない。


 だが、私はここで死ぬつもりはない。私は自分の意地、敵討ちの執念だけで、遠くに見えた人工物に向かって歩き始めた。



 ★ ☆ ★



 私は幸福だ。


 行き倒れた私は助けられた。


 私を助けてくれたのは、それなりに地位のある方なのだろう。多くのメイドが衰弱しきった私の世話をしてくれた。ありがたいことだ。


 ここの主にはしっかりと礼をしなくては。


 自力で歩けるまでに回復したころ、私は呼び出された。そこにはドワーフや黒い鎧を着込んだ人と銀の鎧を着込んだ人。他にも体格の良い人間の女性と……子供? そして明らかに人形と思える者に透き通った身体のメイド。……モンスター?


 上座にはメイドを控えさせた、これまた黒い鎧の人物が座っていた。彼がここの主であることが知れた。


 そして更に、ここがダンジョンであると知って、私は青くなった。ということはだ、あの上座にいる人物はこのダンジョンのダンジョンマスターだということだ。


 と、ととととんでもない方に助けられてしまった。ダンジョンマスターは世界の敵とまでいわれているような存在なのだから。


 ……あ、あれ? それならなんで私を助けてくれたんだろう?


 そもそも、なんで私はこの場に呼ばれているんだろ?


 混乱したまま、ただ席について始まった会議を眺める。


 どうやらこのダンジョンは他ダンジョンからの侵略を受けているらしく、近く報復行動にでるようだ。今日のこの会議は、その敵ダンジョンに関しての情報を、各所に伝達するためのものだ。


 最初に何を話すのかをざっと説明されたが、あまりにも異常だった。


 相手側の戦力とその内容。ダンジョン内構造。罠や隠し部屋、果てはダンジョン・コアの位置までを報せるという。


 ……え? それだけの情報があるの? どれだけの情報収集能力があるの?


 さらには敵ダンジョンマスターの正体、およびその背後関係まで。攻略には関連しないと前置きしつつ、まるで水晶でできたような身体のメイドが説明をはじめた。 なぜか説明を開始する前に、私に視線を向けたのが気になった。




 彼女が私を見た理由がわかった。そのダンジョンを実質支配しているのは海エルフの男。

 その姿も絵姿? で提示された。


 まちがいない。隊長の腕を斬り飛ばしたあの男だった。


 私たちの村を襲ったあの連中だ。


 私は不躾にも、自分もダンジョン攻略に加えて欲しいと願い出た。



 ★ ☆ ★



「まず、マスターに成り代わり、貴女の現状を説明いたします」


 会議後、他の者たちから『メイド様』と呼ばれていた少女が、無表情のまま私に説明をはじめた。


 いくら私でも、この目の前の少女がこのダンジョンである塔……塔なのかな? 窓がちっともないけれど。とにかく、この塔における重鎮であることはわかる。


「先ほど、貴女はマスターに対し、自らの全てを、命を捧げると取れるような発言をしました」

「は、はい。私にとって、(かたき)を討つことは全てですから。その後の事はどうなっても構いません」

「敵討ち云々に関してはどうでもよろしい。むしろ、そのことに関してはマスターは後押ししていますからね。

 問題はあなた自身の状態にあります。

 説明します。まず、我々は貴女の救助に間に合いませんでした」


 ……。


「はい?」


 私は目を瞬いた。


「私たちが半ば砂に埋もれた貴女を回収したときには、もう貴女は事切れていました」

「え、あの、それじゃ私は……」


 いやな予感がして、私は自身の身体のあちこちをさわる。


「ご安心を。アンデッドになった、というわけではありません。マスターがうっかり、あなたを蘇らせました。ですので、あなたはきちんと生きています。生者ですのでご安心を」


 その言葉にホッとした。アンデッドになったとあれば、いずれ身体のそこかしこが腐れていくに違いない。身体がボロボロになっていくのを見るのは嫌だし、臭うのも嫌だ。いや、それ以上に知性が失われていくのを自覚するというのは、言葉で云い現わすことができないくらい恐ろしいことだ。


「ただ、マスターは少々やりすぎました。庭先で他者が死ぬという事態が許せなかったとのことです」

「え? あ、はい……」


 いや、確かに、ドアを開けた途端、死体が転がってるのが見えたらロクでもない気分になるけれど。


「結果、なかば怒りに任せて貴女を蘇生したわけですが、その際にやりすぎたのです。現状、貴女は不老不死にして不死身となっています」


 ……。


「は?」

「不老不死にして不死身です。あなたは死ぬことができません」


 え?


「このことが外部に知られると、非常に面倒なことになりますので、お気を付けください。ロクでもない輩が寄って来るでしょうからね。幸いエルフですので、長年姿が変わらなくても、さほど疑われることはないでしょう」

「い、いえ、あの、ちょっと待ってください」

「なんですか?」

「その、不老不死って、そこらの金持ちとか権力者が望んで止まないモノじゃないんですか!?」


 そういうと、メイド様は疲れ切ったように、あぁ……。と、ため息をひとつ。


「想像力に欠ける浅薄な者は、どこでもそんな感じでしたね。嘆かわしい。いいですか。死ぬことができるということは、それはそれは幸せなことなのですよ。あぁ、殺されることとはまったく別のことですので、それは除外してください」

「は、はぁ」

「まぁ、その話は脇に置きます。現状ではさして重要なことではありませんから。さて、あなたはそのように変質したわけですが、治癒能力は元の砂エルフのままです。これがどういうことか分かりますか」

「え?」


 私は首を傾げた。


「簡単に申し上げますと。貴女は肉片レベルにまで細切れにされたとしても死ぬことができません。当然、そのような状況に陥った場合、元の姿に戻る術がありません。普通、生物はそこまでは壊されてしまったら、再生出来はしませんからね」


 は? ……え?


 云われたことが理解できず、私は目を瞬いた。


 そして、その言葉を反芻し、その意味が理解できて背筋が凍った。


「落ち着いてください。普通に生活していれば、そこまで悲惨な状況に陥ることはありません。それに、マスターはその状況を改善する方法をあなたに付与するつもりです」


 ここまでを聞いて、私は空恐ろしくなった。あの真っ黒でおっかない鎧を着た人物が、どれだけの存在であるのかを知って。


 稀代の魔導師どころではない。それこそまるで神様のようではないか。


 例えダンジョンマスターであるからといって、そんなことが出来るものとは思えない。なぜなら、そんなことができるのなら、不死身の魔物の軍団を作り出せるハズだ。だが、そんなダンジョンなど聞いたこともない。


「ですので、敵討ちの際には、無謀な戦い方などしないようにしてください。よろしくお願いします。

 とはいえ、貴女の精神状態を考えると、敵を前にして冷静でいられるのか著しく不安でありますので、マスターが鎧を貸与してくださいました。戦闘には、それを身に着けて参加してください。こちらへ」


 促され、メイド様について歩いていく。


 妙に明るく光る白い……石? の嵌めこまれた天井の通路を進み、やがて倉庫と思われる場所へとついた。


 その部屋は殺風景で、あるのは正面の鎧掛けに掛けられた鎧のみ。ただ、その鎧は見たこともないデザインで、そのうえ金属や革できたものではないように見えた。


「こちらの鎧をあなたに貸与します。マスターが試しに作ったものですが、その性能はそこらの鎧が紙でできていると云えるほどの性能を持っています。

 あぁ、ですが、この鎧甲部分は半ば使い捨てですので、殴られ壊れたとしても気にすることはありません。

 まぁ、板金鎧でも、メイスで殴られれば修復に苦労するほどに凹んだり、下手すると裂けたりするでしょうから、さして変わりありませんね」

「あの、そんな事態になったら、中の人はもう戦闘不能だと思います」

「そうですね。ですがこの鎧は衝撃吸収能力がありますから、例え鎧甲部分が壊れたとしても、守るべき人体に対し、簡単にダメージを負わせるようなことはありません。

 では、サイズの調整をしますので、まずこちらの服……鎧下を着てください」


 それは砂色にやや赤味を持たせた斑模様の服。……淡いピンク?


「その模様と色は、砂漠で姿を見えにくくするためのものですよ。この鎧も後程同じ迷彩を施します」


 メイド様の言葉を聞きながら着替え、そして鎧を身に着けていく。


 普通の鎧と違い、なんだかよくわからない骨組みがくっついている。


 鎧は二の腕と股間部分を除いて全身を覆うタイプだ。少しばかり無防備に感じるが、普段は砂蟲の革を重ねて編み上げ、油で塗り固めた堅革鎧を使っているのだ。それを考えれば、この装備の防護部分はそれとさほど変わらない。

 それに、触れてわかったのだが、この鎧はかなり強固だ。ただ、見た目よりも重く感じる。


 順番に鎧を身に着けていき、フルフェイスの兜を被り、最後に両手に篭手を嵌める。


「ふむ、装備できましたね。――あぁ、少々お待ちを。接続をしていませんからね。まぁ、普通の鎧でしたら、こんな部分はありませんしね」


 接続?


 聞きなれない言葉にポカンとしている間に、メイド様が腰、腕、脇、そして首のあたりをいじくる。その度にカチリという音が聞こえた。


「では、起動します」

「はい?」


 メイド様が腰のあたりをいじった直後、目の前を見慣れない文字? が幾つも現れ、下から上に流ていく。


 え、なにこれ?


 きゅぃぃん! という、聞き慣れない音がほんの一瞬響いた。


「少々、剣を振ってみてください」


 いつの間にか部屋の隅に移動したメイド様が私に云った。


 私は云われるままに、近くのテーブルに置かれたショートソードを手に取り、両手でそれを振る――うぇっ!?


 剣が軽い!? というかなにこの振りの速度!?


 気味の悪いほどに高速で剣を振り、そしてその動きをピタリと止めることができる。普通、こんなことになったら、私の力程度では剣に振り回されるだろうに、それが一切ない。


 更に数度振る。聞いたこともない風切り音が響く。なんだこれ!?


 これ、下手に人を斬ったら剣が折れるんじゃ!?


「ふむ。かなり簡略化したものですが、パワーアシストは十分なようですね。あとは実際に戦闘した際の耐久度ですが。ですがまぁ、壊れたとしても、関節部がロックされるわけでもありませんし、すこしばかり重めの鎧になるだけですね」

「あ、あの、この鎧は?」

「略式軽動甲冑の試作機です。……もうこっちを軽動甲冑として、先の物は動甲冑と呼んだ方がよさそうですね。あとでマスターに進言しておきましょう」


 私は首を傾げた。


「あぁ、今のでは説明になっていませんでしたね。失礼。要は、あなたの力を増幅する鎧と思って頂ければ問題ありません」


 口元が引き攣れた。


 なんだかとんでもない鎧を借り受けてしまった。


 幸い、ダンジョン攻略開始まで今しばらく余裕がある。なんでも、デラマイルたちが仕事にでているのか、ダンジョンを留守にしているためだ。


 いつ戻って来るのかは知れないが、それまでにこの鎧に慣れればいいだけだ。


 きっと私は幸運で幸福なのだろう。


 なにせ、こうして10年近くも経ったものの、敵討ちができるのだから。


 あぁ、でも……。


 ネーとユーには悪いことをするな。私だけで敵討ちをすることになるんだし。


 うん。せいぜい、どうやって殺したかをしっかり話して聞かせてあげよう。


 きっと悔しがるだろうけれど、なにも話さないよりもずっとマシなはずだ。


 そんな事を考えながら、私は再度剣を振るった。


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