03 ローリングストーン
ダンジョンに付きものなモノといえばなんぞや。
前にも云ったと思うけれど、もう一度。
罠、お宝、モンスター、そして無残に散り行く冒険者。ときどき謎解き?
まぁ、こんなところなんじゃなかろうか。
でも実際の所、これってゲームにおけるダンジョン。いうなれば、アトラクションとしてのダンジョンだと思うんだよ。
賭銭が自分の命だから、スリル満点のアトラクションだね。
でもうちの場合は、完全に防犯としての罠を敷く。殺意増し増しで。まぁ、日本ふたつ分なんて馬鹿げた延べ床面積をしているから、最奥部に辿り着く前に遭難して死ぬだろうけど、そんなことになると後始末が面倒な事このうえない。いくらお掃除用のスライムを増産して放っているから処理は問題ないとはいえ、気分的な問題はどうにもならないのだ!
自宅のどっかに見知らぬ人の死体があるとか、誰だって嫌でしょ?
だから特定の場所、或いは特定の区域で死んでもらうように罠を敷設する。
お宝なんて設置しないし、モンスターも無し。最下層に最終防衛線として、騎士たちを配備する程度で十分だ。
でも、これだとダンジョンの意味がないと云うか、私が面白くないから、地上に塔タイプのダンジョンを拵えるわけだ。
そう、趣味だ! 若干実益も兼ねるけど。
地上の塔ダンジョンについてはいまは関係ないから置いとくとして。
現在、我がダンジョンは侵略を受けている。それに対し、場当たり的な対処をこれまでしてきたわけだけれど、こいつをシステマティックに処理しようと思う。
えぇ、ちょっと頑張って作ってみるよ。目指せ、全自動屠殺場!
と、いうことで――
ダンジョンにおける罠の定番といえばなんだろう?
落とし穴、落とし通路、吊り天井、飛び出す槍に飛んでくる矢。あとは……ペンデュラムと毒ガスあたりかな?
おっと、忘れちゃいけない定番中の定番がこれだ。
ローリングストーン!
盗掘する考古学者が主人公の映画でもおなじみの、球状の巨石が転がり迫って来るあれだ。
単に殺害するだけの罠なら、階段をちょっと降りて進む通路をひとつ作るだけで十分だけれど、そういう罠は造らない。
ん? 一段下げただけの通路が罠になるのかって? なるよ。そこに二酸化炭素を充満させとけばいいんだから。無色無臭だから、踏み込むと結構あっさりと昏倒してそのまま死ぬよ。異常に気付くころには進み過ぎて、戻るのが間に合わないから。
お父さんの知り合いの人が心臓の手術をしたときの話をしてくれたことがあってね。局所麻酔だけのカテーテルを用いた手術で、ずっと意識のある状態だったんだけれど、途中で問題があったらしく、それを解決すべく先生が云ったそうな。
「ちょっと心臓止めますねー」
は? と思う間もなく、心臓を止められたらしい。そんな簡単に止まるものなの? とか思っていたらしいけれど、なんとも妙な感覚に陥ったとか。
呼吸をしているのに呼吸が出来ていないのがわかるんだそうな。そりゃ、肺が動いていても血流が止まっていたら、呼吸している意味がないもの。で、あれこれ考えていると一気に思考が鈍って行くのが自覚できるらしい。それと、特に苦しくもなかったとか。
激しい運動をしている最中ならチアノーゼを起こしたりするんだろうけど、安静状態だとそんなことになるんだね。
ということはだ。ダンジョン内。慎重に進んでいるということは、緊張感はあるものの心肺機能は安定して落ち着いているわけだ。一気に息苦しくなることも無い。だから自覚した時には手遅れになるのさ。
実際、火山帯での有毒ガス事故なんかも、こういう感じで起きるんだろうしね。
さすがにこれは身内にも事故が起きそうだから、この罠は敷設するつもりはないよ。
話が脱線した。
ローリングストーン。当然、こいつも敷設するよ。でも問題がひとつ。
一度発動させると、転がった岩を元の位置に戻すのが大変。なので、こいつを自動で再設置できるように工夫したよ。
その為に創り出したのがこの子だ。
下級自動人形ヴァルガー。
ダンゴムシ型の自動人形だ。ヴァルガ―は……学名なのかな?
この子に坂道をゴロゴロと転がってもらって、終点のところの穴に落下。落下した先の部屋から専用通路を通って設置位置へと自走して戻ってもらう。
自律意思があると待機中が苦痛でしかないだろうから、そういったものは備えていない。うん。自動人形といったけれど、それよりもロボットといったほうがしっくりくるかもね。
丸くなった時の形状は完全な球体ではなく、若干縦長。正面から見ると球の両端をスパンと斬り落としたような感じになっている。横から見るとまん丸。
変形後のこの形状にはちゃんと理由があるよ。横幅がほぼ通路と一緒なんだよ。だから、この形状だと四隅の部分にできる隙間が減るのだ。完全な球状だと、隅に伏せていれば、体格によっては躱せちゃうからね。
で、このダンゴムシだけれど、モデルは玩具メーカーが出してたカプセルトイを参考に設計したよ。いや、変形機構をどうしようとか考えてね。とりあえず1メートルサイズを試作機として設計して創ってみたよ。
ただ問題がひとつ。多足のロボット技術や変形機構はどうにでもなったんだけれど、変形後、転がる機能はどうにもならなかったんだよね。
坂を転がすのはともかく、平地はそうもいかない。丁度逆様になったところで止まっちゃうと、姿勢を戻すのが困難という有様になってしまうんだよ。
さすがにひっくり返ったカメさん状態は頂けない。
それを打開するためにちょっと仕様変更。
転がり方は前転だったんだけれど、これを後転に変更する。
どういうことかというと、ダンゴムシの鎧甲は頭の次の部分が一番大きく、それに覆われるように帯状の鎧甲が蛇腹状にお尻の方へと連なっている。
この鎧甲の後ろ側に爪状に突起をつけることで、地面を噛んで回ろうという算段だ。そのために、鎧甲も若干ながらぱたぱたと後ろ側が角度をつけて開閉? するようにした。
この仕様で試したところ、どうにか転がることができるようにできた。速度は遅いけれど。まぁ、平地を転がるような仕様ではないからね。ひっくり返ったカメさん状態を脱するための、一種の緊急用としての機能だ。
これを利用する事態がどんなものかなんて、まるっきり思いつかないけれど。
あぁ、それとだ。触角。はっきりいってロボットとしてはまったく無用の長物だ。でも排除するわけにもいかないので、これをマニピュレータとした。それとついでに足の先に動輪も追加して、機動力も上げた。足をわしゃわしゃするよりずっと速い。
本物のダンゴムシは裏っ側は気色悪いけれど、機械となれば気色悪くないから不思議だね。
そんなこんなで完成したプロトヴァルガー。
よっ子が異常な執着を示した。
よっ子(仮名)。レプリカントに進化した4人目のリビングドールだ。リビングドールはみんな170センチの背丈の仕様であるのに、進化したら130センチの幼女になった、一番わけのわからない子だ。
そしてプロトヴァルガ―に乗って、ダンジョン(最下層)のパトロールをはじめる始末。
……なんでプロトヴァルガ―が云うことを聞いているんだろ?
まぁ、あの子はこれといった担当がなかったからね。機械関連に興味があるのか、虫に興味があるのかは分からないけど、とにかく興味をもったものが見つかってよかったよ。
ヴァルガーたちの整備やらなんやらを任せられるかな?
そんなことを彼女に云ってみたところ、もの凄い勢いで食いついた。どうやらメカフェチらしい。
「整備はまかせろー!」
スパナを持った右手を突き上げるよっ子。
このそこはかとない不安はなんだろう? というかそのスパナはどこから出した!?
余談だけれど、プロトヴァルガ―に乗ってパトロールするのは禁止した。あれは乗る仕様にしていないからね。普通に危ない。落っこちそう。なので、代わりに別の機体を用意した。
いや、モデルとして準備したカプセルトイのシリーズで、カニさんがあったんだよ。モデルとしたのはハズカシガニ。形状的に胴体部に操縦席をどうにか設けられそうだったからね。完全に防御主体の機体となったけれど。攻性防御として広域スタンを装備しておいたから、取りつかれてもなんとかなるだろう。一応、半自律型で、搭乗者がいない時は自己判断で動くこともできる。
尚、カニと云えばカニ歩きというように横に進むものだけれど、それだと搭乗して操作するには難があるので、普通に前後に移動できるように脚部を改造した。
今後、パトロールをする際には、この機体に乗ってもらうことにしよう。背中に乗っての移動は危ないからね。
ちなみに、プロトヴァルガ―は未塗装のままだけれど、ハズカシガニは赤銅色にカラーリングした。このメタリック感はなかなかいいよ。
右のハサミに[C-01]、左のハサミに[R-04]とペイントしてある。
Cはカニの種類であるカラッパ、Rはレプリカントを示している。だからこれは『カラッパ1号機・よっ子専用』という意味だ。
コクピットのサイズ上、よっ子しか乗れないんだよね。小鬼っ子なら乗れると思うけれど。後継機はコクピット周りと内部機構をもっと最適化しないとだめだね。
その辺りはそのうちやろう。
そんなわけで、正式版のヴァルガ―を3体作って、ローリングストーンを実装。
奥へと向かう下りスロープのところに仕掛けてみたよ。実験台は、絶賛侵略中のアケバロイ。
うん。問題なし。綺麗に引き潰していたよ。でもってだ。すっかり失念していたことがひとつ。というか、なんで失念していた私。
潰したら体液だのなんだのが大変なことになるんだよ。通路もそうだけれど、ヴァルガ―がえらいことに。これをきちんと洗うシステムをつくらないと。
《洗浄部屋を設置しましょう》
「えーっと、洗車機的な?」
《いえ、清掃用スライムを100匹も集めておけば、すぐに汚れを落とせます》
「あー。なるほど、そうだね。そうしよう」
肩に乗ってるクアッドスライムに頼んで、清掃スライム(先の3万匹とは別に創った非戦闘用)を幾らか、ヴァルガ―の落下部屋に待機させるように頼んだ。
清掃スライムでそういう使用方ができるんなら、スライム風呂とかつくったら、身体もピカピカになるんじゃ……。
……あぁ、ダメだ。なんかエロゲの展開しか頭に浮かばない。やめとこう。そもそもいまの私、老廃物とか一切でないしね。レプリカントたちもそんな感じみたいだし。
それにお風呂のあの温かさはないだろうし。生暖かさはあるかもしれないけど。
さてと、とりあえずカラッパ1号機は完成したし。ヴァルガ―も1号機から3号機が稼働中。
嫌がらせが過ぎて死に至るトラップもいい感じだし、とりあえずはこのまま様子見かな?
「マスター、私も乗機が欲しいです」
珍しく……というか、はじめてメイドちゃんがおねだりしてきた。
ふむ。なにか作るのもいいかもね。ダンジョン内なら転移で移動できるといっても、急ぎじゃない限りは移動とかをドライブ感覚で楽しみたいし。
折角だから自分の機体もつくろうか。
「それじゃ、デザインはどの辺が良いかな?」
私はよっ子の乗機を作成するに辺り集めた資料を、メイドちゃんの前にずらりと並べた。
私はどうしようかな? おもいっきりSFなパワードスーツでも創ろうか?
かくして、私はメイドちゃんと資料を見ながら、あーでもないこーでもないと相談をはじめたのだ。




