02 私はイナゴの佃煮すら食えない女
進軍だ。拠点防衛だのなんだのはどうでもいい。とにかく進軍だ。
敵、アリンコを殲滅せよ!
ということで、まずは蟻討伐である。これまで散々利用して、しかもやたらと増えるDPの素であるものを排除するわけだ。
なかなか酷いことをしているようにも思えるけど、だからと云って家を明け渡すことができるほど、私はお人好しではないのだ。
それにDP自体は、のちのち普通にダンジョン運営をして集めればいいや、と思っているので、収入が減ること自体はさほど気にしてはいない。
どんなダンジョンを作って人を集めるか、とかも大雑把にだけれど決めているしね。
それはさておいて、現在の我が軍の戦力はというと、以下の通りだ。
◆スライム軍
・コマンダー:クアッドスライム 1
・ステルススライム 1500
・トラッパースライム、コローションスライム、グランドスライム、各9500
◆黒騎士団
・リビングパワードアーマー【黒】 12
◆銀騎士団[NEW]
・リビングパワードアーマー【銀】 36
◆戦闘指南役
・案山子教官 1(12)
◆特殊機動兵団[NEW]
・リビングドール 60
こんな感じで配下を充実させたよ。相変わらず生物はいないけれど。リビングアーマーたちをきちんと確認したら、リビングパワードアーマーっていう種族(?)になってたよ。まぁ、確かに、あれはプロテクターじゃなくてアーマー、もしくはメイルだからねぇ。
あ、銀のほうは、予定通りチタン合金製だ。防御力は黒と同等だけれど軽い。ただし、魔法に対する防性はなし。といったところだ。
ここで察しのいい人なら「なら、ミスリルだけで作る。もしくはミスリルとチタンの合金でつくれば、軽量かつ魔法防御も優秀な鎧になるんじゃね?」と思うだろう。
うん。やってみた。残念、チタンとミスリルの相性は悪かったよ。なんか脆くなっちゃうんだよ。上手くいく合成比率、もしくは他になにか金属を混ぜればいいのかもしれないけれど、それをチマチマと確認する時間もないしね。それは断念したよ。ミスリルだけだと物理防御が悪くはないんだけれど、どうしてもチタン合金より見劣りする感じだ。
なによりこの鎧、魔法の直撃を喰らったところで、深刻なダメージを一気に喰らう可能性は低いことから、もう魔法防御はぶん投げたよ。中に人がいるわけじゃないし。
装備品も【黒】と区別して、長剣とメイス、それと盾という標準的な装備(?)にしてある。ガンアクスみたいな、ある意味イロモノ装備は持たせていない。
そしてもうひとつの部隊。リビングドールの部隊ね。これもなんというか、ちょっと変なことをやった。……メイドちゃんがまた頭を抱えてたから、やらかしたことに入るんだろうなぁ。
えーっと、オートマタをまず創ったんだよ。創造できる魔物のリストにはいっていたんだけれど、凄いね、内部構造がしっかりしてたよ。中枢部分と動力部分が意味不明な代物だったけれど。エーテル素子ってなによ? 魔素増殖融合炉って名前からしてなんか怖いんだけれど。だからそこをいじり倒して、アンドロイドっぽくしたよ。一瞬、ここもSFを参考に、小型核融合炉を動力源にしようかと思ったけれど。あぁ、もちろん、さすがに危険すぎるから止めたよ。ダンジョン内で小規模とはいえ、核爆発とか冗談じゃないからね。
そういや、オートマタもアンドロイドも同じものだよね? 中枢と動力が科学かオカルトかの違いだけで。
ま、それは置くとして。出来上がったオートマタをモンスター化、即ちリビングドールにしたんだよ。魂のないオートマタに疑似的な魂をインストールした感じ? AIに魂を宿した、っていうのが一番分かりやすいか。
……うわぁ。なんか、すげぇ中二病臭い。
で、そうしたらなんというか、えらく人間的になってね。いや、それはまぁ、いいんだよ。それもメイドちゃんが頭を抱えていたことだけれど。なんで新種族を簡単に拵えるんですか! とか云ってたけれど聞こえない聞こえない。
アンドロイドということで、両手とかに色々とギミックを仕込んでね。右腕にパイルバンカーを仕込んで、左腕に小型のガトリングガンを仕込んでとか、やりたい放題やった。もちろん、目にはレーザー発振装置を搭載してある。えぇ、趣味に突っ走りましたとも。
怒られた。
だからガトリング装備は一体だけ。代わりに、いわゆるマジックアイテム、回数制限のあるファイアーボールの短杖(魔力のチャージ可)とかを、単なる円柱形にして生み出して内装したりしたよ。うん。骨格フレームに仕込んだ。
パイルバンカーは単発。本当の奥の手。魔法の短杖の使用回数は6発。アイボールレーザーは放熱の都合上、一発撃ったら最低でも30秒の冷却時間が必要となっている。
実のところ、さらに調子に乗って、リビングドール用の強化外骨格もつくった。パワーアシスト用の外骨格だから、体に添って装備する感じだけれど。
ほとんど興味本位だったんだけれど、とんでもない戦闘能力を発揮するようになったよ。唯一の欠点が継戦能力が低いってだけだもの。人間相手なら、頭をもいで回ればいいだけだから、いくらでも戦えそうだけれど。
手持ちの武装は、棒とナイフ。槍にしなかったのは、槍だと貫通して抜けなくなる可能性が高いから。棒ならそこまでのことにはならないからね。もちろん、木製ではなく金属製。
ということで、我が軍は数的には心もとないけれど、戦力的には頭がおかしいレベルとなった。
よし、それじゃ、いざ、ダンジョン奪還といこう!
★ ☆ ★
「ご主人、報告だよ!」
私の肩に乗っているクアッドスライムがふにょんと揺れた。今日は2番が私の所にいる。なんだか自分たち? でナンバリングしたみたいだ。
「なにかな?」
「ウチの連中が砂蟻と接触。仕留めたよ。1匹だけだから、迷ってきたのかな?」
「被害は?」
「無し。1匹だけだったから、仕留めるのは簡単だよ!」
【林】の2番は得意気だ。
《マスター。最下層部の30%を制圧。支配下に置きました》
「あれ? 戦闘はいまのが初めてでしょう?」
《最下層部はいわば緩衝地帯となっていた部分です。今回、各種スライムが突入したことで、こちらの支配下に戻すことができました》
いまだに“管理下”と“支配下”の違いがいまいち分からないんだよね。
管理下っていうのが、多分、ダンジョン化できている部分……ってだけなのかな? で、支配下っていうのが、その管理下にある部分を、自在にあれこれいじくれる状態?
あってる?
《概ね、その認識で問題ありません》
「管理下に置けている時点で、好き勝手出来そうなんだけれど」
《完全な支配下にないかぎり、ダンジョンの変更等を行うと深刻なバグを引き起こす可能性があります》
バグ!?
《最悪、そのエリアがダンジョン外となり、その部分が丁度、ダンジョンの上下を分かつ階段部分、それもそこしかないということであった場合、そのエリアよりも上層の部分が管理下から外れることになります》
ちょっ!?
「それって、上の階がダンジョンじゃなくなるってことでしょ!? システム的に問題があるんじゃないの!?」
《問題しかありません。ですが、前マスターはそんなことを気にも留めませんでした》
おぉう……。まだ聞いていない愚痴と云うか、問題があったのかよ……。
《これらの問題は既に修正済みです。ですが、一度ダンジョンを完全に支配下におかなければ正しい状態に調整ができません》
あー、それはなんとなくわかるな。リフォームするのに、家人がウロウロしてたら仕事にならないって感じなんだろう。
「時に、子ダンジョンとか廉価ダンジョンとかはどうなってるの?」
ちょっと気になったので聞いてみた。
《子ダンジョン・コアは確実に同様のバグを抱えています。ですが、自己修正を行ったかどうかは不明です。廉価ダンジョン・コアは、どこまで機能がオミットされているのかが不明であるため、現状、どうなっているのかはわかりません。ただ、ダンジョン構築運営を魔素のみで行っていることは確認できているので、バグ部分も含めて改変されていると思われます》
あぁ、ダンジョンの拡張だの設備だのも魔素で行ってるから、その部分はオリジナルとは違うんだね。なるほど、そういう風に変更されているなら、バグそのものがまるごと消えてるかもね。
「ご主人。砂蟻は運んだ方がいいかな?」
「あ、そうだね。実物を見てみたいよ。あ、支配下に置いたなら、こっちにまで転送とかできるんじゃないの?」
ダンジョン・コアに確認したところ、可能との返事。
縁側のところの犬走りの上に転送して貰った。
縁側のガラス戸を開けて、転送されて来た大牙砂蟻を見る。
うん……でかいね。特大クラスの犬と同等の大きさといっても、それが虫、蟻だとこうも印象が変わ――い、いや、でかすぎね? 明らかに聞いていたよりもでっかいよね? え? なんか頭の位置が私の背丈くらいあるんだけど!? というか、なんでこんな剥製みたいに、五体満足でほぼ直立した姿で死んでんの!?
大きな四角い頭にちっさな目。顔だけ見ればユーモラスだけど、そのトゲトゲのついた大きく鋭い牙……じゃなくて大あご。某ゲームのせいで、頭は逆三角形的な形を思い浮かべていたからちょっと違和感があるよ。
それ以外は見知った蟻と同じ。色はベージュ色で、外殻はゴツゴツというか、トゲトゲというか……あれだ、蟹の殻みたいな感じだ。剛毛も生えててでかい毛蟹の殻みたいだ。
蟹か……。そういえば、海外だと蟻入りのチョコレートとかって売ってたよね。もしかしてこれも食材になったりするのかな?
いや、例えそうでも私は食べたいとは思わないけど。私はイナゴの佃煮すら食えない女。アリなんて無理無理。
あ、触角が欠けてる。
《これは兵隊アリですね。働きアリよりも身体が大きく、強靭です。どうやら触角が欠けていたことと、標となるフェロモンを見失ったことで最下層部まで迷い込んだようです》
「あぁ、アリってフェロモンを辿って移動するんだっけ。そういえば、そのフェロモンを円形に繋ぐと、アリは延々と同じところを死ぬまでグルグル回るんだよね?」
確か、デススパイラルとかいったような。……あれ? 巣持ちのアリでもそうなるんだっけ? 軍隊アリだけだっけか?
「まぁ、ダンジョン内じゃそんな罠は仕掛けられないか」
「一部の通路を塞いで、堂々巡りをさせてみますか?」
「どのくらいで死ぬかな? いや、かなり効率悪そうだよね」
なにか良い手は無いかなぁ。
そんなことを考えながら、私は蟻の外殻の堅さを確かめるように、コツコツと叩いた。




