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02 この3ヵ月で起きた大きなこと


《マスター、問題が発生しました》


 日課になってしまった外壁一周ジョギングを終え、温めのお風呂に浸かっているとデメテルからの報告が入った。


 ちなみに、お風呂に入っているのはシャワーよりお風呂派だからだ。ついでにいうと、町を一周してもこの体は汗ひとつかかない。多分、汚れもしないんだろうけれど、だからといってお風呂に入らないなんて有り得ない。


 と、問題ってなんだろう?


 確認してみると――


《【白教】神託の巫女、並びに神楽の巫女が22名の配下を連れ、フォーティの町に来訪しました。彼女らはここに亡命政府を樹立し、その支援を我々に要求しています》


 は? 要求!?


 いや、何様のつもりだよ。なんで命令されなくちゃなんないのさ。


「え、叩きだしたいんだけど。壁の向こうに」


《確実に死亡しますね》


 ちっ。そこらに骨が散らばってるのも嫌だし、なにより死ぬまでギャーギャー騒がれるのはもっと嫌だ。


 まったく面倒臭いな。


 つか、ほぼ内乱だった抗争は神託の巫女側が負けたのか。まぁ、祖竜相手に3年もよくやりあったよ。白竜自身が動かなかったってこともあるだろうけど。


 表立った武力衝突はしてないっていうのは聞いてるけど、なんでまた急に勢力図が変わったんだ?


《青竜が我々の要求の答えたことに加え、白竜に対し最後通牒じみたことを宣告したからだと思われます》


「あぁ……例の暴れん坊竜のことね。そういや、あれ、死んだ?」


《問題なく死亡しました》


「アボカド凄いな……」


 6番君が逃げ出すきっかけになったティラノサウルス擬きな竜。あれがロージアンの方に向かっているのが分かったから、ステルススライムにアボカドを口の中に放り込んで来るように指示したんだよね。10個で足りたようだ。


「死骸は青竜さんに渡しちゃってね。置いといても邪魔だし、放置しとくと腐って疫病の元になりそうだしね。あ、毒の事も云っておいてね」


 食べたらきっと死ぬ。


 さて、連中はどうしよう?


「身の程知らずな馬鹿共は、もちろん拒否したんでしょ? まぁ、町で普通に生活するくらいは許容するけど」


《はい、すでに拒否、拒絶済みです。人夜と一宕、そして六花は良い仕事をしています。

 彼女たちは他に行く場所もないためでしょう、町に居座るつもりです。それについても、問題を引き起こしそうですが》


 デメテルの言葉に、私は顔をしかめた。


 更になにかをやらかすつもりなのかよ。本当に壁の向こうに放り出すぞ。


「なにをやらかそうっての?」


《黄竜殿の神殿を自らのものとしようとしているようです》


 あー。黄竜さんの神殿か。あそこは無人だからねぇ。黄竜さんも寝に戻ってるだけで、普段は塔1階にほぼ常駐しているし。とはいえだ。


「黄竜さんに連絡だけしておいて。一応、神殿扱いだから、私たちが手を出さない方が面倒なことにならないよ」


 いずれかの宗教に“神”が肩入れしているとか思われるのは問題でしかない。


《了解です。黄竜殿に対処してもらいます》


 私は湯船からでると、ひとつため息をついた。


 黄竜さんって何が好みだっけ? なにか美味しいものでも作って、労ってあげよう。



★ ☆ ★



 青竜さんが来訪し、微妙な混乱を巻き起こしてから3ヵ月ほどが経過した。


 この3ヵ月で起きた大きなことといえば、ドーベルクとシャトロワが開戦したというくらいだ。


 とはいえ、この文明レベルでの戦争だ。なんというか、現代戦を知っている私からしてみると可愛いものだ。


 まぁ、それなりに人が死んでいるんだから、この物言いは不謹慎だろうけどね。とはいえ、地が血で赤く染まるようなレベルでの凄惨な戦闘っていうわけじゃないんだから、それと比べたら……ねぇ。


 そうそう、意外だったのが、魔法による初手遠距離大魔法というのは、現代兵器で云うロケットランチャー(ロケラン)みたいなものだけれど、致命の一撃とはならなかったこと。


 初手大魔法っていうのはもう定番の手段であるため、双方が魔法防御魔法をガンガンに張るわけだ。結果、気の抜けた投石程度の威力しかでないみたいだ。


 炎系の魔法でも、日焼け程度の火傷を負わせるくらいに弱体化させられるため、もう本当にびっくりさせるだけの魔法にしかならない有様。


 にも関わらず、様式美のように大魔法を撃ちあうのは、運よく不意打ちが出来ることを願って、とりあえず撃っているのだそうな。あとついでに戦闘開始の合図みたいなものなのだとか。


 ……いや、この戦略と云うか、戦術はどうなのかな?


 そうそう、この武力衝突が行われる前にドーベルクから結構な人数の王国騎士が訪れて、【サンティの塔】で修行していった。


 目的は戦闘能力向上よりも、戦力増強のほうだ。うん。幻獣をなんとか手に入れようと来たみたいだ。


 目的としていた幻獣は、5階から出現する人型の幻獣。初期に手に入れられる幻獣で人型をしている子たちだ。そしてこの子たちは進化が2段階ある。進化すると結構強くなるんだ。


 とはいえ、基本のままだとそこらの雑兵と似たり寄ったりなんだけど。1段階目の進化で腕のいい騎士ぐらいになるかな。


 単純にひとりの戦力が2倍になるんだから、それを手に入れようと頑張っていたよ。


 目的外の幻獣の卵を入手したときには、掲示板を用いての交換依頼とかを出していたよ。オークションを利用して、目的外の卵を売って目的の卵を手に入れるとかもしていたね。


 そういや、若干問題もでたんだよ。


 この人型幻獣、一応、外見が2種類あるんだ。うん。いわゆる男性型、女性型ね。


 これでもう察しがついていると思うけど、女性型の幻獣に懸想する騎士がでちゃってね……。特に水属性のアクア。


 離婚だの婚約破棄だのの原因にならなきゃいいんだけど。



★ ☆ ★



「マスター、私の妹が届きました」


 ……は?


 黄竜さんへの労いの品として、チーズケーキを双菜と作っていたところ、とーかちゃんがおかしなことを云ってきた。


 何故「妹が来ました」ではなく「妹が届きました」なのか。


 よっぽど変な顔をしていたのだろう。とーかちゃんが察したように続けた。


「姉様の補佐役となるための者です。スペックはMIRシリーズ標準仕様ですので、私よりは幾分劣りますが、準神であることには変わりありません。

 姉様の補佐、兼護衛役として側に侍ります。いまは人美と引継ぎをしています」

「あー。やっとできたというか、生まれたというかなんだね」

「はい。МIR46HKfe、MIRシリーズの第4世代型の最新モデルとなります。とはいえ、受肉しての生産となりましたから、私同様規格外品となります」


 あー、メイドちゃんは試作型で採算度外視で造られたんだっけね。で、最新のその子は、お姉ちゃんの側仕え用に調整されたってことかな。


 ……HKってなんの略だろ? ハウス(House)キーパー(Keeper)かな?


「大神様があれこれ注文をつけ、地球の神より得た日本人の常識を覚えさせたそうです。とはいえ、基本スペックはいっ子とさほど変わりません」

「え、あの子……っていうか、レプリカントたちってそんなレベルなの?」

「肉体はある一定レベルを超えると、神の器もレプリカントもその性能はさして変わりませんから。彼女たち自身は既に仙人レベルと云っていいでしょう」


 あぁ、そういうわけね。


 ……いや、ちょっと待って。


 仙人って、とんでもないことになってなくね?


 確かに結構なDPをつぎ込んで作ったけれど、強い……というか、凄いことになってない? そりゃ、でっかいアリンコを山ほど始末させたけどさ。


《マスターに分かりやすくいえば、ゲームで云うところの上位職へのクラスチェンジ、というところです。外見的変化は一切ありませんが、持ち得る存在質量は本来のリビングアーマー、リビングドールなどとは比べ物になりません》


 あ……あー、そういうこと。


 デメテルの説明で云わんとするところは分かった。


 つか、創るのにかかったコストを考えると、えらく安上がりな気がするんだけど。


《マスターと桃花様より漏れ出る神気の影響も多分にあると思われます》


「あー……。普通は神とこれほどまでに近くある者はいませんからね。影響もでるというものです。しかも創造主たるマスターの側にいる訳ですから、その神気との親和性ともなれば、考えるまでもありません。これがマスターと関係性のない者であったなら、拒否反応があらわれて昏倒するので、位階が上がるようなことはありえませんが」

「ふむ。ってことは、私が拠点にいる間リラックスしてたのが原因?」


 地上に出る時以外は、神気を抑えるようなことはしてないからね。地味に気を張る感じだから。光らないようにするのは簡単なんだけれど。


《というよりは、ここ最下層ほぼすべてが、すっかりマスターの神気に満ちていることが大きな影響となっています。

 それらを鑑みて、ドワーフたちの居住区と第一、第二マナリヤ広場における神気濃度は地上と同程度になるように調整してあります》


 あぁ、下手すると大将さんたちみんなぶっ倒れちゃうのか。そういや、黒教の巫女さんたちが私の神気でひっくり返ってたっけね。

 うん。そこの調整は助かったよ。……つかさ、そんな有様になっているのに、その余剰神気をDPに変換することはできないんだね。まぁ、神気≒存在質量だしね。


「って、ちょっと待ってよ、これじゃ神気=毒じゃないのさ!」


《いえ、昏倒するだけで死ぬことはありません。なにがしかの影響は若干あるでしょうが、問題ありません》


「影響って?」


《微弱ながら、マスターの権能に由来する能力が付与されるかと。もっとも、神気の海から引き出さない限り、死ぬこともなく、状態を維持されたまま延々と昏倒したままですが》


「ダメじゃん!」

「デメテル、その付与される――技能、とひとまず云いましょう。それがなんになるのか、推測は出来ますか?」


《マスターの本来の主権能となりますから、【家事】が付与されるかと》


 なるほど、私の経験から生まれた権能がうつるのね。というか、【家事】か。神様としてはまったく無意味な権能になっちゃったよね、これ。


 私が普段やってた家事全般が得意になるってことだろうな。というと、炊事、洗濯、掃除、庭木の剪定、草刈り、家庭菜園、柵の工作、ペンキの塗り直し――


 ……いらなくね? もしかしたらラノベでおなじみの【生活魔法】というような感じになったりするのかな? ……うわぁ、それっぽそう。


 そんなことを話していると、お姉ちゃんがやってきた。後ろには人美と一六(ひろ)とメイドさん。


 このメイドさんがとーかちゃんの妹だろう。


 年の頃は20歳くらい(とはいえ実際は0歳のハズだ)。ショートボブのヘアスタイルの似合う、クールな感じの女性だ。


 ……なんか、懐中時計を持って時間とか止めそうな雰囲気なんだけど。


 いや、ちょっとまて、そんな雰囲気のメイドさんがお姉ちゃんにつく?


 頭に思い浮かぶものがあったけれど、妹の私は破壊神じゃないから問題ないよね。


 そして貸し出していた形だったマリアこと人美が私の護衛に戻ることになった。


 さてと、本来の配置に戻ったことだし、傍迷惑な連中の監視でもしようか。


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