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02 雲ひとつないいいお天気だ


 ふふふ。成し遂げたぜ!


 東京ドーム1個分、しっかりと掘りぬいてやったよ。


 コア部屋から斜めに掘り進め、そこから延々と手作業での掘り作業。長かった。先に一番底を掘ったせいで、上をどうやって掘るか一瞬悩むとか馬鹿なことをしたけど。


 あ、そうそう、死ねないっていうのを実感したよ。


 天井部分の仕上げをしてた時に足を滑らせて落ちてね。一回死んじゃった。


 やー、落下の感覚はあれだね。二度と体験したくないね。これが玉ヒュンって感覚か! 私にはないけど! とか馬鹿なことを思った直後に、べちゃっと叩きつけられて、頭のかち割れる感覚はあったものの、痛いと思う間もなく、次の瞬間にはこの世界に最初に降り立った場所に立ってたよ。……全裸で。


 死ぬ直前に考えた事のせいで、全裸で立っている自分にすごい微妙な気分になったよ。


 荷物をその場にぶちまけたのかと思ったけれど、ちゃんと私のストレージ……紛らわしいな。私のはアイテムボックスと呼ぼう。ダンジョンのはストレージで。で、うん。アイテムボックスの中に荷物は入っていたよ。荷物と云っても、着てたジャージと下着だけなんだけれどね。あぁ、アイテムボックスは、私の神としての権能からでてきた能力らしいよ。単調作業で完全に思考停止してゾンビの如く延々と掘ってたんだけれど、いつの間にか出来るようになってた。


 余談だけど、私が落っこちた場所がちょっぴりひび割れてた。血だの肉片だのはなかったけれど、ひび割れるほどって……。私はどんだけの衝撃で叩きつけられたんだろ? 高さ的には30メートルくらいだと思うんだけれど。まぁ、考えても仕方ないか。


 さて、巨大な大空洞作成ということもあって、転落の他には落盤とかが怖かったから、時折ダンジョン・コアと相談しつつの掘削作業。なかなか手間取ったよ。上から順繰りに掘ればよかったんだよ。なんで私は下から掘ったかなぁ。途中で気が付いて上からに切り替えはしたんだけれど。


 そんな苦労を経て、目の前には円形の大空洞。そして天井は半球状に綺麗に抉れてる。


 東京ドーム1個分といったけれど、野球コート部分の広さではなく、当然観客席も含めての広さを削りぬいた。……もうちょと広いかな? まぁ、広い分には問題ない。


 これで作ろうと思っている目的の土台は完成。あぁ、いや、まだか。


 床部分を適当な深さに掘りぬいて、土を敷き詰めていかないとね。石だし。……土、あるかな?


《問題ありません。当ダンジョンの黎明期、拡張する際に採取した土がストレージに相当量収めてあります》


 ダンジョン・コアが答えた。


 あ、喋りが流暢になってるでしょ。なんか自分で改善したみたいだ。確認してみたら、Ver.2.2.0になってたよ。


 ……あれ? 最初はバージョン表記なんてなかったよね? まぁ、いいか。私とリンクした結果、私の知識も共有されてるみたいだし。


 さぁ、それじゃ土を敷き詰める単調作業だ。


 この広さだと……2日もあれば終わるかな。くりぬく範囲も増えたしね。




 2日じゃ終わんなかった。さすがに5メートルくりぬいて、約4メートルちょっとを土で埋め立てて、しっかりと固める作業は時間がかかったよ。


 ん? なんでそんな深く掘ってるのかって? そりゃここに樹を植えるからだよ。あんまり浅いと根を張れないもの。あと、上まで埋めなかったのは、中央部に家を建てる土台のところだけ残したんだけれど、地面よりちょっぴり高くするからだ。


 中央に家を建てて、周囲を畑と果樹にする予定だ。


 野菜と果物が食べごろになったところでリポップの設定をしてやれば、収穫しても、一定時間後にリポップしてまた収穫できるからね。


 こっちのほうがね、DPを使って直接出すより安上がりなんだよ。何故かリポップにはDPを消費しないからね。


 けち臭い云わない。たとえどんなにDPがあろうと、消費しようと思えばあっという間に消えるからね。いざというときの物量作戦用のリソースは残しておかねば。


 お前は何と戦ってるんだ? ――って、多分きっと何かと戦うことになるんだよ。フラグはもう建ってるし。ほら、私をここに放り込んだ逃亡中の神様が絶対なにかやらかすに違いないって。


《マスター、この空洞はどうされるのですか?》


「ん? 真ん中に私の家を建てる予定だけれど。庭も作って、その周りを畑と果樹園にしようかと思ってる」


《現状では植物を育成することはできません》


「へ? なんで?」


《ここには光がありません。植物を育成することは不可能です》


 あれ?


「私は普通に見えているけれど」


《マスターは光の有無に関係なく見通す能力が備わっていると思われます》


 ……。


 あぁ、だから影が見えないのか。なるほど、そもそも真っ暗闇だから影なんてないってことね。今更納得だよ。そういや食堂は明るかったな。はじめて入った時には目をそばめたんだっけ。


 でもその後は、暗いところ……だったんだろうけれど、スムーズに移動できたよね。ということはだ、明るかろうが暗かろうが、しっかりと見ることのできるような目になったってことか。


 もしかして“眩しい”って感じることが無くなった? それはそれでちょっと寂しい気もするな。便利になったのは確かだけれど。


 まぁ、それを確かめるのはその内だ。いまは如何にしてここを明るくするかを考えねば。


 ふむ。もしここを、昼間のように明るくするとなると、どのくらいのDPを消費することになるんだろ。


 確認してみよう。


《お薦めできません。植物が育成できるほどの光量となりますと、単位範囲における単位時間辺りに掛かるコストは60前後と思われます》


「私に分かるように云って」


《60ps(パーセコンド)となります》


 酷ぇ。


 さすがにそれはダメだ。


 うーん……そうだ!


 天井に映像を投影するのはどうだろう。このダンジョンだって地上に繋がっているわけだし、地上からなら空は見える。当たり前だけど。


 その空の映像をそのまんまこっちに投影できないかな?


 聞いてみた。


《ここの上、上空の映像を映すだけでしたら、初期に掛かるDP以外は消費することはありません》


「あれ? 維持にDPは要らないの?」


《常時映像になんらかの変更を加えるのであれば継続的にDPを消費しますが、ただ投影するだけでしたらDPは掛かりません》


 おー。


「それじゃ、いますぐやっちゃって」


《了解しました》


 この大空洞は円柱状になっていて、天井部分が半球状だ。その半球状の部分に空が映し出された。まるで天井が抜けたみたいだ。


 いまは夜らしい。満点の星空と月がみえる。


 そういや、空を見るのなんて、あの時以来か。川から自転車で帰る途中にちょっと眺めた程度だ。最期くらい綺麗なものを見ておこうとか思ったんだっけ? 生憎の曇り空で星なんてちっとも見えなかったけど。


 ……そうか、夜か。よし、寝よう。


 私はその場に大の字になって寝転び、目を瞑った。予想に反して、私はあっというまに眠りに落ちた。


 これが、この世界に降り立って、初めての就寝だ。


 ……。

 ……。

 ……。


 おはよう。


 おー、天井……空が青い。雲ひとつないいいお天気だ。


 おー、大空洞も、お日様の光の下だと、大分印象が変わるね。……なんか、ちゃんと光の明暗がわかるな。あの光関係なく見える能力は、いまは発揮されてないみたいだ。


 よかった。パッシブ能力じゃなかった。きっとあのままだったら、世界が無味乾燥な代物にしか見えなくなりそうだったからね。


 よし、それじゃ作業を再開で。


 ダンジョン・コアのコンソールをだして、ぱぱっと操作をして物品作成リストからチョコレートバーを選ぶ。


 ぽん、と手元に出てきたチョコバーを食事代わりに齧って、作業再開だ。


 ちなみにこのチョコバー、私は好きというわけではない。キャラメルをチョコレートで包んだこの……お菓子枠? を、私は個人的にディスってるからね。理由? 食べにくいんだよ!


 にも関わらず、こうして出して食べてるのは、単に馬鹿げたカロリーをお手軽に得られるからだ。なんだったら、スピリタスとかのアルコールを一気に飲んだ方がカロリーは取れそうだけれど、さすがにお酒を飲むのはちょっとね。いまの私なら酔わないと思うけれど、やっぱり飲みたいとは思わない。


 それじゃ、作業再開。まずは庭から整備していこう。モデルは自宅。一応、ウチは地主の家系(分家だけど)だったから、家はちょっと大きかったんだよね。


 まずは家の土台として高くしてある石の一面を削って階段状にする。ここが正面。玄関口の場所としよう。


 玄関をでたところに庭木をひとつ。階段を付けた先あたりでいいか、この辺りは実際の家とはちょっと作りが変わっちゃったから、木を植える場所がずれたな。


 植える木は白木蓮。毎年春先になると満開に咲いて綺麗だったんだ。……あぁ、うん。枯れちゃったんだよね。大風で木の天辺が折れちゃってからすっかり弱って、翌々年の台風で倒れちゃったんだよ。結果、枯れちゃった。毎年の楽しみだったから、凄く残念だったんだ。


 ということで、白木蓮の木を作成! 狙ったところに、白木蓮の木が出現した。私の記憶にある通りの白木蓮だ。高さは5メートルくらい。


 こうしてみるとダンジョン内限定とはいえ、DPで生物を創造とかすごいな。普通に考えて、これだけでも神の御業といってもいいくらいだよ。


 あぁ、これも加味して、ダンジョンマスターになれってメイドちゃんは云ったのか。お姉ちゃんの体を創らないといけないわけだし。


 よし。この調子で庭と畑をつくっちゃおう。


 あ、その前に自宅と同じように敷地を囲うブロック塀と門もつくらないと。




 くりぬく、から創造する方向へと移行して、ちまちまと自宅を再現していく。なんというか、ゲーム感覚でちょっと楽しい。単調作業だけれど。


 そんなこんなで、ほぼ丸一日で半ば完成した。


 半ばなのは、手を付けずに残してある部分があるからだ。


 さて、どんなふうに成ったかと云うと、敷地を囲う塀と門。門の前、自宅の前側となる部分は竹林にした。


 コア部屋から降りてくると、竹林に出ることになる。そこを道に添って進むと、武家屋敷みたいな門に到達する。


 作ってて思ったけれど、私の家って大概だったんだなって思ったよ。


 家だけ見れば裕福な家庭だよ。でも食事とかは、普通に特売品とか見切り品とか買ってきて、それを調理してたしなぁ。庭にゴーヤを植えたりもしてたし。


 実際の所、自宅を売却して、マンションにでも引っ越そうかって話はしてたんだよね。ふたりで暮らすには広すぎるし、なにより相続税と固定資産税が馬鹿にならなかったから。詳しいことはわからないけれど、お姉ちゃんがため息ついていたし。そういや、土地を処分すると健康保険料が高くなるなんて知らなかったわよ、とかぼやいてたっけ。


 まぁ、いまは税金なんて関係ない。好き勝手に作るぞ。


 塀の外の左右に果樹を適当に。裏手には野菜を適当に。いい塩梅に育ったところでリポップするようにしておけば、季節を無視して野菜と果実を手に入れられるようになるだろう。


 季節感がまるでなくなるけれどね。


 敷地内にはさっきの白木蓮の他にも、桜、梅、桃、柿と植えていく。両親……というよりは、祖父母か。どれだけ果実系の木を植えていたんだろう。思い出しながら再現していくと、食糧系が多いぞ。あとは枇杷と柚子。こんなところか。


 自宅の右側に鳥居と祠をひとつ。稲荷様の祠がうちにはあったんだ。


 あー、でも、ここ異世界だし、稲荷様はないよね。


 うーん……そうだ。


「ダンジョン・コアのダミーって出せる? というか、ダンジョン・コアっぽいなにかが欲しい、っていうのが実際の所なんだけれど」


《可能です。デザインはいかがいたしますか?》


「一個出して。そだな、ムーンストーンの玉でお願い」


 ぽん、とそれが私の手元にでてきた。よしよし。


 祠の奥に、りん台とりん座布団をつくって、その上にムーンストーンを鎮座。と、ふむ。これだとちょっと物足りない。本当なら、手前にお狐様の像が4体置かれているからね。


 さすがに狐の像はないよね。狛犬もあれだし。向こうの宗教に関わってない動物の像をそれっぽく起きたい。


 なにがいいかな……。


 考えた末、猫に決定。猫と云っても、額に宝石が嵌っている猫だ。いわゆるカーバンクル。この像を四体作ってならべる。


 おー。いい感じ。鳥居と祠があって、中身がこれっていうのもあれかも知れないけど、まぁ、いいや。気分だよ気分。どうせここまでは誰も来れないようにするし。


 ……そういや、このダンジョンって攻略されたりしていないのかな?


《喫緊の危険はありません。いまはマスターの技能上昇が最優先です》


 あ、はい。


 よし、それじゃ最後だ。


 私はすでに設計済みだった自宅を土台の上に出す。


 結構なDPを消費するけれど、いまならもう問題なく扱える範囲のDPだ。


 ゆらゆらと薄らいだ映像がはっきりとしていくように現れ、そして何度かまばたいた後には、見慣れた自宅がそこにはたっていた。


 汚れひとつなく、傷ひとつないまったくの新築の状態で。


 ふふ。


 私は零れ出る笑みを隠すこともできないまま、自宅の玄関を開いた。


「ただいま!」


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