それぞれの想い
いよいよ最終回です。
「ねえお兄、本当にこれで良かったのかなぁ?」
はなが間もなく高校を卒業しようという頃、真新しい小さな墓の前ではなが俺に問いかける。
色々悩んだ結果、俺は父親と母親を同じ墓に納めることにした。父親が俺に遺した預金で今までの借金を返済したら、丁度小さな墓なら建てられる位の金が残った。いっそその金で車でも買おうかと思ったこともあったけど、俺はその金で二人の為に墓を建てた。
はなは、春から医療系の大学に進学する。医者にはなれそうもないけど、カウンセラーかソーシャルワーカーを目指すそうだ。進路の話をする度にはなは『すれ違う心を、これ以上生み出しちゃいけない』と何度も繰り返していた。
「俺は、二人を同じ墓に入れるべきだと思った。何かの間違いで心がすれ違った二人だけど、その理由を知った俺達が出来ることっていったらこれ位かなって思ったんだ。誤解は解けた、その後に俺たちが出来る事って…なあ、はなはどう思う?」
はなはひと呼吸おくと微笑んだ。
「お兄のその想い、間違ってないしあたしはそれでいいと思う。あたしが同じ立場だったらきっとお兄と同じ結論を出してた。あの世で二人がどう思うかは解らないけど、お互いの想いを知った以上、また一緒に話をする機会くらいは作らないとね!それが親孝行なんじゃないの?」
はなは、俺の思いをやっぱり理解してくれていた。周りの奴が何を言おうとも、家族である俺達が出した結論に文句は言わせない。俺の決意は唯一の家族であるはなに伝わっていた。俺は安堵して、はなに話を続ける。
「同じ墓に放り込んだことで出会った頃の関係に戻れるチャンスを俺達が作ったんだから、後は二人で話し合いでも殴り合いでもしてくれたらいいさ。出来れば俺達が生まれる前からやり直してくれたらいいかな…結論がどうであっても、な」
暫しの沈黙の後、はなが俺の方を見て呟いた。
「あたし達、今まで『お互いの気持ちは敢えて言葉にしなくても、相手に伝わるもんだ』って思ってたけど、そうじゃなかったのかも知れないね」
俺も暫く沈黙したあと、言葉を選ぶようにはなに伝えた。
「そう…はなの言う通り『言葉にしなくても相手に伝わっている』なんて考えは捨てちまった方がいいんだろうな…お互いの思いはキチンと言葉にして伝えないと」
墓場に春の風が吹き抜ける中、暫くの間二人を静寂が支配する。
「ありがとう」
何か示し合わせた訳じゃないけれど、二人同時に声を上げた。
何か言葉を飾りつけようとして言った訳じゃない。
自らの想いを正直に言葉にして伝える、ただそれだけのこと。
きっと、相手を想う気持ちはそこから始まる。
俺は、ひと仕事やり遂げた充足感を噛み締めながら墓の脇でそっと煙草に火をつける。はなが、俺に何か言いたそうにしている。
「お兄さぁ、あたし以外にも素直に言葉を伝えるべき人がいるんじゃないの?あたしよりその人の気持ちを大事にするべきじゃないのかなあ?」
そう言うとはなは、態とらしく俺にそっぽを向いた。
俺は、はなに見えないように振り向くとスマフォの連絡先を検索してやや緊張しながら発信ボタンを押した。まあ、誰にかけているかなんてはなにはバレバレだけれど。
「ハイ、山崎の携帯です。あら、後藤クン?貴方から私の携帯に連絡してくるなんて珍しいんじゃない?てか初めて?」
「あの、突然電話なんかしてすみません。この間色々ご迷惑やら心配やら…で、やっと両親の遺骨を納骨したところで…本当に…あの…」
「何ゴチャゴチャ言ってるの?言いたい事があるんならハッキリ言いなさいよ!」
やや苛ついた、でも何か暖かい口調でリコさんが俺に発破をかける。
「いや、あの。何て言うか…ありがとうございます。これだけは先ず伝えたかったんで…」
「で?結局何が言いたいワケぇ?」
俺は戸惑いながら話を続ける。
「実は、話はそれだけじゃないんですけど…」
「…煮えきらない奴は嫌いよ」
態と突き放すようにリコさんは吐き捨てた。
「改めて、お会いしたうえで御礼も言いたいってのは勿論あるんですが…それよりも…」
「だからぁ、言いたい事はハッキリ伝えなさいって!私、結論の見えない話は大嫌いなのっ!『それよりも』の続きは何なのよっ!」
俺は覚悟を決めて、思いを伝える。
「あの…今晩あたりお暇ですか?無理にとは言わないんですが、俺、色々と話したいことがあって…」
態とらしい溜息の後、リコさんは答えた。
「まあ、私も含めて皆色々あったし、私も後藤クンに言いたい事がクソ程あるから飲みに付き合ってあげてもいいわよ。で、はなちゃんは?一緒にいるんじゃないの?」
俺ははなの方を振り返る。はなは俺に向かって笑いながら全力でアッカンベーをしている。
「いや、はなはこれから何か別の用事があるみたいで…」
「あら、じゃあ仕方ないわね。偶々、だけど私は今晩空いてるから、後藤クンの相手してあげる♪じゃあ、今日は飲むわよっ!」
「…今日は、ですか」
「あら?ひょっとして『今日も、の間違いじゃないか』とか言いたいワケぇ?いつも莫迦みたいに飲む君に言われる筋合いはないわよ!」
リコさんはそう言いながら電話口でケラケラ笑っていた。
「では、あの店で…」
俺は通話を終えると、はなの方を見た。
「じゃあ、お兄。後は上手くやりなよっ!あ、あとあたしのお姉ちゃんを傷つけたりしたら一生許さないからねっ」
はな、リコさん。
二人がいてくれたから、俺は現実と向き合ってここまで来ることが出来た。
これまでも、そしてこれからも俺は二人に伝えなきゃならない、いや伝えたい言葉がある。
「ありがとう」って。
世の中に普通に存在するごくありふれた言葉だけれど、その一言から全てが始まる。その何気ない言葉が、俺たちには特別な言葉になった。
これからも、俺はその言葉を伝え続けようと思う。
その一言を聞くだけで、俺は明日からも頑張って生きていこうと思える。
その一言を伝えることで、自分の本当の気持ちが相手に伝わる。
伝えられないまま気持ちがすれ違うと、一生解りあうことはない。
だから、俺は敢えて言葉にしようと決意した。
そうやって、人と人とは繋がっている。
その繋がりはやがて少しずつ大きな輪に、
明日に向けて動き出す力になる。
(了)
長々とお付き合いいただきましてありがとうございました。
文芸誌の新人賞に応募したときは『これでバッチリだ!』とか勝手に思い込んでいたのですが、投稿しようと思って内容を見直したところなんと稚拙な中身……
結局登場人物とストーリーの基本設定以外ほぼ全てを触っています。
ストーリーがイマイチなのは百も承知ですが、まだまだ『書く手法』も磨かないといけないことを実感した作品でした。
お付き合いいただきました皆さま、ありがとうございました。
では、またお会いしましょう。
中辺路友紀でした。




