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すれ違う心  作者: 中辺路友紀
第五章 すれ違った心(山崎貴宏、山崎璃子の追憶)
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マウントポジション

「で、アンタは貴宏やお義父さん、お義母さんの顔を見る度に私と家の自慢をしていた訳だ」

 リコさんの言葉に相当棘がある。て言うか殺気みたいなものまで感じる。敵意剥き出しっていうのかな?あたしは嫌な予感がした。いや、違う。嫌な予感しかしない。あたしの手に汗が滲む。

「そりゃそうだろ。だってウチは歴史ある家だし、厳しく躾けてきた立派な子供達なんだから…自慢?何を言ってるんだ…当たり前のことを言って何が悪いんだ」

 リコさんが更に不穏な空気を醸し出す。発射寸前のロケットみたいにもくもくと煙が上がる、そんな感じだった。

「で…その阿呆みたいな似非ブルジョワ階級の自慢を散々聞かされた普通の人がどう思うかなんて考えたことあるぅ?」

「そりゃ羨ましいって思うに決まってるだろ。なぁ?お嬢さんもそう思わないか?」

 え?急にあたしに振るなんてずるいよお父さま。あたしはリコさん家とは違って…いや、そもそも『家族』っていう概念はお兄とあたしの間にしかない。『ほんとうの家族』はそうじゃないんだろうけど…

 苛つくリコさんを刺激しないように、と思いながらあたしはお父さまに感じた違和感をそのままぶつけた。

「…何て言ったらいいんでしょうか…あたしはまだ生まれたばかりの頃に親と離れ離れになって…ずっと施設で育ったから、家柄とか家族とかそんなことよく解らないんですけど…お話を伺っていると、何かその…越えられない壁というか明らかな差、みたいなもんがあるのかなあって…」

「ああ、それはさぞかし大変だっただろうねぇ」

 その瞬間、リコさんの肩がピクッと動いた。リコさんに変なエンジンがかかったっぽい。あたし、ゼッタイに言っちゃいけないことを…

「何、その人を見下したような物の言い方は…」

 ヤバい、どうしよう。

「その身勝手な定義付けと安易な同情が、周りの人をどれだけ傷付けてきたのかアンタは解ってんの?」

 駄目だ。もうあたしには止められない。

「アンタの莫迦みたいな自慢話と、人を見下したような物言い!それが貴宏とご両親をずっと傷付けてきたんだっ!今やっと解った!テメエ、ぶち殺してやる!」

 あたしが行動を起こすより先に、リコさんは物凄い勢いで大きな座卓を飛び越えるとお父さまに飛びかかった。湯呑が砕け散り、お父さまの眼鏡が吹っ飛んで粉々になる。

 お母さまが悲鳴を上げたその瞬間、リコさんは既にお父さまの上半身に馬乗り状態。お兄が格闘技好きでよく一緒にテレビ観てたから何となく解るけど、所謂マウントポジションって奴だ。ここからだったらフルボッコも絞め落とすも何でも有りじゃん。

 慌ててリコさんを止めに入るもあたしでは太刀打ち出来ない。ボコボコに殴られた挙句に絞め上げられたお父さまの意識が朦朧とする頃、部屋に二人の屈強な男性が入って来た。お母さまが叫ぶ。

「お兄ちゃん達、来てくれたのね!お願い、璃子を止めてっ!」

 リコさんがいくら達人とはいえ、相手は現役の警察官と護衛官。まして男二人に女一人では圧倒的に分が悪く、リコさんはあっという間に取り押さえられる。羽交い絞めにされつつもリコさんはお父さまに筆舌に尽くし難い悪態を吐き続けていた…


「そうか、それで璃子は…」

 お兄さま達に事情を説明し終えた頃、二人は声を揃えて言った。

「だからって暴力はいけないな」

 やっと落ち着いたリコさんが反論する。

「下らない自慢話で家族をバラバラにされて同じ事が言えるかしら」

 お兄さま達が首を傾げる。

「僕達の家族には、そんな事全く言ってないけど…」

 眼鏡が吹っ飛んで顔中血だらけになったお父さまが、憔悴しきった様子で口を開く。

「私はただ、娘が可愛くて可愛くて…娘が如何に素晴らしい子か…ただそれだけを自慢したくて…」

 そう言うとお父さまは項垂れて涙を流し始めた。

「時既に遅し、ね。もういい、解った。アンタはその『可愛い娘』とやらのご両親に嫌味めいた自慢話をし続けた挙げ句に、婿を間に挟んで苦しめたってワケだ。アンタは今後、その事を一生後悔し続けたらいいわ。じゃあね!」


「スミマセン。何かあたし、変なトリガー引いたみたいで…」

 あたしの謝罪なんか意に介さない様子で、リコさんがケラケラ笑う。さっきまで実の父親をマウントポジションで殴ったり絞めたりしていた人の表情とは思えない…

「気にしない気にしない。トリガー引く時って大体こんな結末になるわよん」

 本当にそうだといいんだけど…

「しかしリコさん、あたし生まれて初めてマウントポジションっていうのを生で見ました…あ、次の交差点を右です」

 ステアリングを巧みに操りながらリコさんが不敵な笑みを浮かべる。

「入門当初はね、護身術しか習わせないって約束だったんだけど…まさか会得したモンを実の親に使うとは流石のリコ様でも想定してなかったわ」

「で、リコさんはこれから…あ、その先の信号を左です」

 リコさんはステアリングを構えると呟いた。

「はなちゃんは明日学校だけど、私は有給休暇を貰ってるから昼の間に主人の実家に行ってみる。今までは理由も何も解らなかったけど、理由を知った以上は何らかの取っ掛かりみたいなもんは出来たと思うから…明日、学校が終わる頃に正門まで迎えに行くからその時に結果報告、って事でどう?トリガーを引いてくれた人にはちゃんと結末を伝えないとねっ!」

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