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すれ違う心  作者: 中辺路友紀
第五章 すれ違った心(山崎貴宏、山崎璃子の追憶)
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山崎璃子の追憶・5 方向音痴の自動車部員

 私達が声を揃えて叫んだ頃、大型のカーキャリーが狭い敷地の中に入って来た。入り組んだ大学構内の道をここまで入ってくるってかなりの腕前ね…

「ゴメン、遅くなった!事故の救援で親父が仕事でこの車使っててさぁ」

「遅ぇぞタバティ!」

 え、運転手は部長なの…?ポカンとしている私達に、カーキャリーから降りてきた部長が恥ずかしそうに説明してくれる。

「いや…実は…僕の実家が運送屋で…それも宅配便みたいに荷物を運ぶんじゃなくて車両や液体、廃棄物なんかを運んでいるんだ。う~ん、ほら…リコちゃんなら解るよね…カーキャリー以外ならローリーとかバッカンみたいな」

「という事は大型免許を?」

 大学生でバッカンを操る奴はそういないって。

「勿論。大型免許を取らせてやる、大学在学中は好きなように遊んだらいい、車も貸してやる。だけど大学はちゃんと卒業したうえで家業を継げ。そういう具合なんだよ」

 部長のカーキャリーを先頭に、部員を乗せた数台の車がカルガモ状態で続く。暫く走ると私達はジムカーナ場に到着した。

 先輩達がタイヤスモークを上げながらパイロンをすり抜けていく。私とエミリちゃんはその様子をアイドルの一挙手一投足を見つめるように…羨望の眼差しってこういうことなのかな…目を輝かせながらじっと見つめていた。

「どう?興味湧いてきた?」

 部長が私達に問いかける。

「是非やってみたいです!」

 同時に声を上げた私達に、部長は微笑んだ。

「じゃあ、基本的な事から体験してみようか」

 部長が助手席にスタンバイ。先ずはエミリちゃんがアタック開始。数本走ったものの初心者らしいミス連発をして凹む彼女の次に私が乗り込む。

「いいかい?最初は誰でもミスるもんだ。コースは僕が指示するから思い切って突っ込んで」

 クラッチをやや荒めに繋いだ私は、言われた通り思い切ってパイロンに飛び込んだ。母の軽トラもMTだったからクラッチの扱いはある程度解っている、筈。

「うわっ、あの子えげつないぞ」

 部長の指示通りにタイトなターンで思い切ってサイドブレーキを引くと、車は面白いように回転する。

「初心者があんなターンするか普通?」


「リコちゃんはきっと素質があるよ」

 車を降りた部長が私に微笑む。

「いや、まあそれ程でも…」

「じゃあ、僕の指示無しでフルコースを走ってみようか」

 ところが、単走のタイムはそりゃ酷いもんだった。

「あれ、リコちゃんどうしたの?何かトラブルでも?」

「いや、あの…コースが全然覚えられなくて…躊躇ってたらタイムが」

 部長が訝しげに私に問いかける。

「ひょっとしてリコちゃん、道を覚えられないタイプの人?」

「お恥ずかしながら…」

 そう言って私はヘルメットを脱いだ頭をぼりぼり掻くしかなかった。

 私はその日のことを一生忘れない。えっと、ジムカーナの単走のことじゃなくて…

 部長が学内のクソ狭い道をすり抜けてキャリーで現れたあの時、私は決心したんだ。

 大型免許を取ってやるって!


 半年後、エミリちゃんはついに自分の車を手に入れる。実家の鈑金屋さんからボロボロの小型車をタダ同然で譲り受け、部室に持ち込んだ。蛙の子は蛙、という言葉ドンピシャなのかな?彼女はただならぬ才能の持ち主だったようで、整備の面白さにすっかり目覚めてしまった。車はあれよあれよという間にバリバリのジムカーナ仕様に仕立てられ、自動車部最強じゃないかと言われる位えげつない仕様に変貌。エミリちゃん、将来は整備工じゃなくてレースエンジニアになったほうがいいんじゃないかな…

 一方の私は、というと毎月の生活費を稼ぎつつ貯蓄開始。クソ親父に提示した資金計画は大幅に狂っていたけど、新たな目標が出来たんだから仕方ない。生活は決して豊かなものではなかった(食事目当てで賄い付きの焼肉店で働いていた!)けど、私は目標に向けてコツコツ貯蓄を続けた。学業との両立は正直言って少々きつかったけど、毎日が楽しくてしょうがなかった!


 大学生活も三年目に突入したばかりの頃。私は今まで誰にも言わずにいた秘密を、遂に…エミリちゃんに告白。

「ええええっ!最近部活でリコちゃんの姿を見かけることが少なかったのはそういうことぉぉぉ?」

 腰をぬかすほど驚いたエミリちゃんは、私の意図を素早く察知してくれたようだ。

「わかった。じゃあ、田端先輩のところへ行こうか」


「あれ、リコちゃんにエミリちゃん。久しぶりだね~」

「ご無沙汰してます。先輩」

 彼は突然現れた私達を少々訝しげに見つめた。

「会社訪問にはまだ早いし…てかウチは新卒募集なんかしていないし…何かあったの?」

「実は…」

 私はそういうと田端先輩にある物を差し出した。

「なんだ、そういうことか…いいよ、僕に出来ることなら何でも協力する」

 

 数日後の週末。いつものようにジムカーナ場に向かう準備をしている部員たちのもとに、キャリーが入ってくる。

「あれ、いつもと違うキャリーだな。誰だ?手配した奴は」

「リコさんとエミリさんです」

 しかしそこに二人の姿はない。

「え、このキャリーって田端先輩の所の奴じゃ…」

 皆が戸惑いを隠しきれない空気の中、私とエミリちゃんはキャビンから飛び降りる。

「お待たせ♪」

 

「へえ、リコちゃん大型免許取ったんだ。凄い…よく取れたね」

「でも、折角トラックに乗れても道が解らないんじゃ…」

「だから私が付いたのよ」

 エミリちゃんが口を挟む。

「ええっと…私の方向音痴のことについて発言した人。貴方に二者択一の選択肢を与えます。骨と関節、使い物にならなくなるならどっち?まあ、両方でもいいけど」

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