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すれ違う心  作者: 中辺路友紀
第四章 すれ違った心(後藤攻の追憶)
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はな

「ねえ、パパ…どうしよう」

 柚香さんは星來が熱を出したりしたときなんかに時々パニックに陥りかけることがあった。そんなときは僕が夜中に星來をおんぶして小児科の救急外来へ連れて行ったり…柚香さんはどうもその辺に上手く対処できないから、僕がフォローするんだ。て言うか僕は彼女に出来ないことを親として立派にフォローしてみせる。その一心で僕は彼女を支え、逆に彼女は母性を発揮して『お母さんでしか出来ないこと』を見事にこなしてくれた。父親、母親ともに何かと至らないことが多かったけど…

 ところが、だ。

 僕達が想像する遙か上を行く位、星來はとても優しくていい子だった。赤ん坊らしく愚図ってみせるとかいうことは殆どなく、寧ろどうしていいか解らなくなってパニックに陥った柚香さんと何も出来ずにただオロオロしているだけの僕を星來がベビーベッドの中から優しく見守ってくれている、そんな感じだった。僕達二人だけの生活だったら、どこかで上手くいかないこともあったかも知れない。そう、星來がいてくれるからこそ今の僕たちがある。きっと僕たちは星來に育てられているんだよね。ベビーベッドで優しい寝顔を見せてくれる星來を二人で眺めながら、僕と柚香さんは毎日のようにそんな話をしていた。


 柚香さんはいつも『四人家族で、子供は男の子と女の子がいい!』と言っていた。彼女の望みは叶うのが少々遅れてしまったかも知れないけど、星來が生まれてから五年後に遂に待ち望んでいた女の子がこの世に生を受けた!

 

 『はな』


 瓜二つと言ってもいい位、柚香さんにそっくりな顔をしていたことと彼女に初めて会った時の

 『嵐の中で、倒れそうになっても咲き続ける一輪の花。美しく、愛おしい花』

という印象が真っ先に思い浮かんだから、僕は迷うことなく命名した。

 柚香さんは『可愛らしい、いい名前ね。名前の通り、皆の心の中に咲く花になってほしい』と微笑んでいた。

 当たり前のことなんだけど『はなが生まれたことで星來が赤ちゃん返りするのでは』と僕は危惧していた。僕が家に居る時はなるべく星來の傍を離れないようにして孤立感を生み出さないよう努力はしていたんだけど、僕が仕事で不在にしている時はどうしているのかもの凄く気になっていた。で、柚香さんに聞いてみたけど『いつも優しく微笑みながらベビーベッドのはなを眺めているか大人しく絵本を読んでいるか』だって。会社の人に聞いてみたら『五歳下でも…いや、もっと離れていても弟か妹が生まれたら赤ちゃん返りするもんだ。親から百パーセントの愛情を自分に注いで貰えないと解った瞬間に、上の子は親の愛情を取り戻そうとして愚図り出すもんだ』と言われたんだけど、星來はまだ五歳なのに大人びているというか何かを達観したような不思議な子で『赤ちゃん返り』というより『兄としての自我』がいち早く目覚めたようで『貴方より星來のほうがよっぽど育児参加してるんじゃないかしら』って柚香さんにからかわれた。

 何か仕向けた訳でもないんだけど、星來はある日ベビーベッドの柵を乗り越えたかと思うと微睡むはなを愛おしく、慈しむかのように抱きしめた。

 はなに釣られて微睡み始めた星來を見つめる僕と柚香さんは、二人の姿にカメラを向けた。

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