記憶ヲ取リ戻ス前
「あぁ、何ということ…。なぜ私達の子がこんな……」
静かな部屋の中で赤子が眠る寝台に手をかけぽつりと心情を顕にするミッターナハト侯爵家の奥方。名をアフェクションと言う。
その隣で感傷に浸り悲しむ妻の肩を抱く主人がいた。彼の名はギルティ。
赤子の額を撫でる妻の瞳は深い慈愛と同等の罪悪感が浮かんでいた。
「ねぇ、ギル?この子は___テレステオはどうなるの?」
妻は先程夫から説明があったことが無かったことかのように聞く。
「アフェ…テレステオはもうすぐ着く魔法士様達にテレーノへと送られる。さっきも説明したはずだろう?」
「でも、でも…ギル、テレーノには私達では手を出せない魔獣がいるのでしょう?そんなところにこの子をどうして…。」
「アフェ、今日はもう休め。」
取り乱し状況が理解出来ていない_____しようとしてない妻に胸が痛くなる夫は妻を自室に送り、すやすやと眠る我が子に眉を寄せる。
だがそれは決して煩わしく感じている為のものではなく、罪悪感とほんの少しの困惑からであった。
そもそも何故幼い子供をテレーノと言う地へと送るのか。それは産まれたこの赤子が黒髪だった事が原因である。
彼らの国では一般的に茶髪の者から金髪、赤髪、青髪等、色とりどりの者たちがいる。だが、それでも黒髪のものを探しても国内は疎か、他国に行ったとしてその姿を見ることはできない。
それはこの国、広ければすべての土地に根付く伝承や言い伝えによるものだった。
ある所では黒という色は魔を呼ぶ色と、またある所では魔に準ずるものと。
様々な伝承により恐れられた黒はその身に纏うだけでも悪魔と罵られることが常となっている。
つまりこの赤子が何故テレーノへと送られるのか、要するに家の名に傷が付く為、産まれてきた事を無かったことにするのだ。
しかし、決してこの親子に情が無いという訳ではない。母アフェクションも、ギルティも産まれてくる我が子が黒髪と知ってから髪の色を変える方法等をあらゆる書物を読み漁り探していた。
だが、髪の色を変える唯一の方法は高等魔法の粋でありそれに加え使えたとしても持って数分という程の魔力消費量。
それ故彼らは我が子が罵られ、虐げられる姿を見る前、大きな情を持ってしまう前に遠くへと送ることにしたのだ。
(すまない、テレステオ…お前が成長する姿を見届けることができなくて。お前をこんな姿にしてしまって…。せめて、テレーノで生き残れたのなら、私達が付けたテレステオの名で、良い人生を送ってほしい…)
ー2時間後ー
ミッターナハト侯爵邸に数十人の魔法士が到着し、テレステオはテレーノへと転送された。
名前を考えるのに時間が結構かかった…。
でも意味とか考えるの楽しい。(〃ω〃)