善意の刃
失敗を多く繰り返しすぎた。
それが原因だと思う。
いつか失敗が怖くて、部屋から出られなくなった。
自分を責めてる。
どうして部屋の外に出られないのか。
どうして、こうして無為に時間を過ごしてるんだろう。
親はきっと自立することを望んでる。
その期待に応えられる気はしていない。
ニートと人は言う。
すれ違う人すべてに侮蔑の目を向けられているような。
けれどきっとみんな知らないんだ。
自分に負ければ、だれでもそうなるって。
自分はきっと社会で一番いらない人間だって。
毎日そう思ってる。
ただ食事をして資源をすり減らす社会の寄生虫。
誰の役にも立たない人間。
早く死んだ方が世のため人のため、自分のためだって。
そう言い聞かせて、カッターナイフを手に取った。
痛みに負けて悶えた。
弱い人間だったから。
生きててくれればいいよだなんて。
そんな心にもない善意を吐かないで欲しかった。
いっそ罵倒してくれれば心が楽になるはずだった。
夜、海へ行く。
出口なし。
知っている、ゆっくりと水に沈んで、息を全部吐き出す。
それから少し我慢して、無理だと思ったら吸い込めばいい。
すぐに気絶して、きっと浮きもしない。
知ってる。
行った夜の海はとても臭かった。
こんなとこは相応しくないよって弱い自分が囁いて、涙を流して朝日を見た。
決意が溶けて流れてく。
もう死ぬなんてできそうにない。
誰かが善意で刃を突き刺してくれるのを待ってる。
そんなことはないって知ってる。
死ぬことを諦めて、どうしようもないので生きることになった。
迷惑はかけられない。
少しずつ、できることを探していく。
一年かけて、誰にでもできそうな職を得た。
誰にでもできそうだから、自分にもなんとかできた。
周りからは堅物な、真面目なだけの面白くない人間だって思われてる。
それでいい。面白い人間になろうとは思わない。
理想は機械。
日々、仕事をなんとか終えてる。失敗もする。
それでいいんだ。
毎日、退勤した自分を褒めるようになった。
私はえらい。
今はもう、死にたいとは思わない。
でも時々、誰かが善意の刃を突き刺してくれるのを待ってる。