その出会いは出会うべくして…(厚木生徒会長との出会い編)
男子校…そこは、秘めたる禁断の世界……
ということで!! 念願のBLウォッチングのため、僕は今学校内を徘徊しているのである!!
これだけ男男男しかいないんだから、どこかで間違いが起きていないはずはない!! そろぉ~りそろり、これぞまさに侵入生…じゃないっ、新入生の特権!! 授業なく帰れる今日この日を、決して無駄にしてはならない!!
2・3年生よりも早く帰れるという利点を生かし、決定的瞬間をウォッチャーしてみせるのだ!!
ではまず、グラウンドで体育中の皆様を拝見いたしましょう!
怪しまれないように、ただの見学を装う形でひっそり見守ってみる。
うおぅ!? やはり、肩を組んだりじゃれ合ったり、美味しい場面が展開中である!!
いやでも、これぐらいだったら中学でも見られたしなぁ。もっと凄いの見れないかなぁ~と見守っていたけど、無理っぽかった……がっくり。
じゃあ体育館と、体育館へと急いだけど、やっぱり特に何もない。えぇえ~、せっかく男子校に来たのに、本当に何もないのぉ~?
なけなしのお小遣いをはたいて買ったデジカメが、その役目を果たさずに終わってしまいそう。せめて、授業サボってイチャイチャしててくれないかなぁ~と期待を込めて彷徨っていたら、ぽんっと肩を叩かれ、振り返る。
「君、新入生だろ? こんなところでどうした?」
早速迷子かと人の良さそうな笑顔でイケメンが言った。
ちょ、このイケメンマジでカッコいい!! 八雲くんほどではないけど、でも八雲くんとはまた違ったカッコ良さのイケメンだよ!!
ていうか、この人どっかで……あ、生徒会長だ!! 入学式の時、在校生あいさつで見かけた!! どことなく俺様っぽいってお姉ちゃんが言ってたの覚えてる!!
まさかまさかの、俺様生徒会長とご対面!? やばい、僕明日から親衛隊に制裁されちゃうかも!!
若干ウキウキしてた自覚はあるから、不思議そうな顔をされたのは仕方がない。とは言え、それでまさかのその発言。
「なんだ? 俺に惚れたか?」
冗談のつもりなのか本気なのか、それってとっても俺様解釈ですね! にやりっなんて、そのご尊顔にお似合いの笑顔で言われても、きゅんきゅんするだけですよ!!
思わず、本当に思わず心の扉がぱっかり開いて、心の声が抑えられなくなった。
「俺様会長なんですか!? 親衛隊、親衛隊はいるんですか!? やっぱり同性も恋愛対象ですかぁ~!?」
掴みかかるようにして質問攻め。生徒会長の顔が、どんどん引いていくのが分かる……けど、知ったことか!! お願い、教えて下さいぃ~と懇願し続けると、取りあえず落ち着けと強めに押し止められる。
それでも尚、半泣きでお願いし続けたら、分かった、落ち着いてくれたら飴ちゃんやるからと頭を撫でられた。
飴ちゃん、持ってるの!? 違う意味でワクワクした!!
ていうか、俺様会長の口から飴ちゃんって!! 関西人だけかと思ったよ、飴ちゃんって言うの!
ポケットから飴玉を取り出すと、袋から出して僕の口に運んでくれる生徒会長。思わずぱくりと口にしてしまったけども……え、なんてサービス精神旺盛な俺様!!
ていうか、え!? あ~ん、なの!? だ、男子校、恐るべし!!
あまりにナチュラルな動作だったから、それが普段の行動であると分かる。いつも、あ~んしてるの!? しかもそれが、される側じゃなくてする側だってことが重要だ!! こんな俺様会長、今まで見たことない!!
その生徒会長、罰が悪そうに頭を掻きながら、言い辛そうに視線を彷徨わせる。
「君さぁ……もしかして、本気で俺のこと好きなのか?」
悪ぃけど、男は無理なんだよなぁなんて言っているけども、僕、いつ生徒会長に好きなんて言った?
勘違いも甚だしい!! 僕は見るの専門!! 実体験はノーサンキューです!!
「違いますけど?」
僕はただこの学校の実態を知りたかっただけですと義務的な口調で続ければ、あぁそう、とほっとした様子の生徒会長。呆れた様子で、しかしなんて特殊な質問だよ、ここをどんなとこだと思ってんだと言った。
え? だって男子校だよ? 男しかいないんだよ? 普通そうなるでしょ?
きょとんとしていたら、生徒会長が狼狽えた。
「まさか、南高の変な噂でも立ってんのか?」
もしそうなら信じんじゃねぇぞと忠告される。南高の変な噂なんて聞かないけど、男子校ってことだけは知ってる!!
それに、噂云々の前に、僕に飴ちゃんを食べさせてくれた生徒会長の行動がすべてを物語っているではないか!!
「え? でも、生徒会長今、あ~んって!」
「あ? それがどうかしたか?」
え…まさか、極々自然な行動だったって言うの!? それ、普通はやらないよね!?
生徒会長は俺様なのに、尽くされるより尽くすタイプなんですかと質問すれば、尽くされる側に決まってんだろと返って来る。さすが俺様!!
どうやら生徒会長には幼い弟さんがいるらしく、半泣きの僕を見て弟さんと混同しちゃったらしい。俺様なのに弟に優しいお兄ちゃんとか何それ萌える!!
ふざけて、お兄ちゃんおんぶっと言ってみたら、俺はそんなに甘い男じゃねぇよと苦笑と共に頭を撫でられた。
「にしても、なんでそんな勘違いしてんだ? うちは男子校だが、普通だぞ?」
普通に女と付き合ってる奴等がほとんどだ、んな特殊な性癖の奴は聞いたことないと言われる。ただ、いたとしてもそれを煙たがるような連中の集まりじゃねぇしなとも続けられて……嘘、嘘だぁ~!!
「い、いないわけないですよね!? 絶対どこかにいますよね!? いないってそんなこと、絶対にないですよね!?」
「ちょ、どうしたんだ!? 落ち着けって!」
うわぁ~ん!! 僕のBLライフ~!!
泣き崩れたことは言うまでもない。
そのまましくしくと泣き続けていたら、BLライフってなんだと不思議がられながら、お~しお~し、よく分からんが泣くだけ泣けと背中を撫でられる。俺様だけど優しいんだなぁ、生徒会長。だからか僕も、ぽつりぽつりと事情を話すことにした。
その結果。
「不可解だ……」
と、引かれた。分かってる、普通引くよね!! でもね、これが僕のライフワークなの!!
「別に、普通に男女の恋愛を見るのと変わらないですよ! 誰かの恋を微笑ましく見守るってことには変わりはないんですから」
それがただ、男同士ってだけで。尚も不可解そうに訝しむ生徒会長だったが、納得はしてないながらも僕を気遣い、だったら残念だったなと肩をポンと叩く。
「うちにそんな奴いないから、君の見たがってるものは見れないぜ? つーか、いい加減名前教えろ。因みに俺は、厚木柊吾な」
「僕は、鴻島未来です」
「未来ぃ? 随分と可愛い名前だな」
可愛い顔して女みたいな名前なのかよと仰った。うん、分かってる。言われ続けてきた言葉だから!!
皆、名前聞くといつも、君に合ってて可愛いねって言うんだよね。言っとくけどねぇ、僕は大人になってもお爺ちゃんになっても未来って名前なんだからね!?似合ってるの今だけなんだからね!!
思い出してムスッとしていると、女みたいと言われたことに腹を立ててるんだと勘違いしたらしい生徒会長が、飴ちゃんやるから許せ、とご機嫌を取って来る。別に生徒会長に怒ってたわけじゃないんだけど、どうせならともう一個貰っとこうかなって目を輝かせると、再び袋から飴ちゃんを取り出して口元へと差し出される。
それにぱくんっと躊躇なく喰らい付いた。う~ん、幸せ!! この飴美味しいなぁ~とニコニコしていたら、生徒会長が苦笑する。
「そんなんだから、可愛いって言われんだろ」
言うなっつー方が無理、と笑われた。
まさか、あれから数日ほどで、僕の頭をポカスカ叩くような乱暴者になるとは思ってもみなかった。
あの頃の、あの頃の優しい生徒会長カムバック!! 今、お兄ちゃんおんぶって言ったら、きっと不気味がられるわ!!