王子様と出会ってしまいました(八雲との出会い編)
たっのし~い、たっのし~い、入学式!! ワクワクした気持ちのまま、自分のクラスまでまっしぐランニング!! 途中、先生に走るなと注意されちゃったけど、ルンルンな僕の浮かれようを見ては強く言えないのか、お咎めナッシング!! そん~なこっとよ~り……栄くん、居るかなぁ~?
入学説明会の日に出会って連絡先を交換してからというもの、何かと頻繁にメールのやり取りをしてるんだよね。ずっとバスケ一筋だったらしくて、高校でもバスケ部に入るつもりだからって、式の前に顧問の先生と会うって言ってたからなぁ。
聞くところによれば、期待の新人だって言うし、話が長引かなければ居るはずだよね? と、ドキドキワクワクそわそわしながらそろぉ~り、と教室を覗くと。
「あれ? 居ない」
残念…と、ちょっと落ち込む。往々にして、教師というのは話が長いものだし、或いはその風貌で不良認定されて呼び止められては説教されているのかもしれない。
いや、ここはやっぱり不良らしく、入学式なんかかったるくて出れっかよな感じでサボる気なのかもしれない!
不良はやっぱり、遅刻がベター!! だから、上級生の不良さん達に絡まれて、相手をボコボコにしちゃったりしちゃうのだろう!!
未成年なのにタバコ吸ったり、お酒飲んだり、殴り合いの喧嘩したり……不良が不良なことしないで、誰が不良するって言うの!?
「知らねぇよ。何、不良擁護してんだよ。つか、そもそも不良って誰のことだ?」
まさか俺の事じゃねぇよな未来? と、その大きな掌でグッと僕の頭を鷲掴んで凄んでくる。この声とこの掌の感じ……間違いない!!
「栄くん!!」
振り向き様にわーいわーいとはしゃいでいたら、うっせぇぞ早く教室入れ、そして大人しく席に着けと相変わらずの常識人ぶりを発揮する栄くん。
不良のくせに真面目とか、ニア王道じゃないか! いーよいーよその設定。最近好まれて来てるから!! って言ったら、いい加減にしねぇとこのまま潰すぞと上からプレスされかけたので止めておくことにする。
ホント、心が狭いんだからとブツブツ言いながら、黒板に張り出されている自分の席を確認した。
……時間が、制止する。
入学式前の教室内。出席番号順の席。僕の名前が、鴻島未来。栄くんの名前が、倉橋栄。
つ・ま・り!!
出席番号順だと、彼の存在感を大きく感じずには居れまいってことで……チクショウ!!
「ぬりかべのバカヤロウ!!」
僕の視界を塞ぐなぁ~と、席に着いてからその背中をポカポカ叩き訴える。それに対し栄くんは、小さいお前が悪い、と鼻で笑っていた。
笑うなバカヤロウ!! 僕は別にチビじゃないよ! 例え、例え僕の足が床に着いていなくてもね!!
チクショウ成長期!! 僕だけ置いてけぼりにしやがってぇ~!!
因みに栄くん、しっかり深く座っているのにちゃんと地に足が付いている上に、黒板の半分を彼が覆い隠している。足が長いだけじゃなくて座高まで高いとか、僕を馬鹿にしてんのかぁ~!!
不良巨人~と尚もポカポカ叩いていると、僕の頭上から上品な笑い声が降って来た。上品って、僕の乏しい国語力の限界だったわけだけど、ホントそう表現するのがピッタリだったんだよ。だって、ねぇ?
その声の主は、どこぞのおとぎ話から飛び出して来たかのような王子様だったんだから!! ちょっ、超絶イケメン!!
僕の腐フィルター内臓の視覚では、彼がバラを背負った王子様に映ったよ! 正直これは、普通に腐ってない女子でもそう見えちゃうに違いない。
嘘、こんな王道展開ってありなの!? この日本に、王子様って本当にいたんだ!?
彼は、初めこそ微笑ましげに笑っていたけど、若干苦笑気味に笑っていた。それでも、彼の内側から放たれる気品のようなものは損なわれていなかったけど。
「ごめんね? さっきは笑ったりして。可愛かったものだからつい」
にこっと微笑むその笑顔ときたらもうっ、王子様そのものだった!!
夢見がちな女子だったら、白馬の王子様が現れたっと大騒ぎになったことだろう。腐男子的にも大騒ぎだけど!!
「俺の名前は、漣八雲って言うんだ。君は?」
「僕は、鴻島未来だよ。彼はね、倉橋栄くん!!」
お友達なのと聞かれて、入学説明会の時にお友達になったと答えていたら、彼は至極当然のように僕の後ろの席に座った。
え……僕今、イケメンにサンドされている!? そうか、出席番号順的にそうなるのかぁ……なんて、なんて素敵な席!!
それから先生が教室に入ってくるまで、王子様…じゃなくて、八雲くんと話をしている中で、彼が無類の小動物好きであることを知ることに。小動物って可愛いもんね、撫でたくなるよねと笑顔で返すと、八雲くんは、本当にねと言いながら何故か僕の頭を撫でていた。
あれ? ちょっと待って? この話の流れで頭撫でられるのは、つまり……僕、人間なんですけど!?
八雲くん、僕は人間だよと訴えたら、分かってるよ、俺は可愛いものが好きなだけと再び頭を撫でられて……う~ん、一応人間だと認識されているみたいだし、まぁよしとするか!!
にこにこしている八雲くんに釣られるようににこにこしていたら、八雲くんが飴玉をくれた。小さくて甘いそれを口の中で転がしてにこにこしていたら、やっぱり頭を撫でられたけれども。
そんなやり取りをしていたら、何故か他のクラスメイトからも甘いお菓子を貰ってしまって……幸せぇ。
男子校に通えるだけでもウキウキだったのに、入学早々美味しい発見とクラスメイトと仲良く出来そうな感じで嬉しい限り!!
にしても、八雲くんの王子様スマイル、炸裂してるなぁ。顔が綺麗だから、攻めも受けも出来そうだなぁ~なんて思っていると、僕等のやり取りを遠目に見ていた栄くんが、お前の小動物ポジション揺るぎねぇな、さっそく餌付けされてんのかよと呆れていた。
べ、別にお菓子に絆されたわけじゃないもん! 腐男子的に、男子校に王子様っていう餌に食いついてただけだもん!! と、心の中で言い訳してみる。
早速、お姉ちゃんに話すネタ……じゃなくて、話題が出来たなっとホクホクとした気持ちでいっぱいになった。