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『七行詩集』

七行詩 301.~320.

作者: s.h.n


『七行詩』


301.


未熟さは ただ美しく在ろうとした


それが 風のように 透明なものなら


害を成さず 誰にも気づかれもせずに


ただ清らかに 在り続けるのか


美しさとは 身勝手に


目に焼き付き 人の歩を止めることさえある


美しさとは 誰かの胸に 留まればこそ



302.


夏はあの日を 秋は我が家を 思い出す


涙とは 何にも代えがたいものに


貴方の中の もっとも豊かな感性が


気づいて流すものであります


それは貴方に 知らせ続ける


哀しみであれ 優しさであれ


懐かしさであれ 喜びであれ



303.


君の町は 一時間早く日が昇るから


着信に 僕は唐突に起こされる


"当ててみて、此方の空は


今 何色に塗り替わるのか"


同じ空が 二度と来ないのと同じように


ベランダから 見つめる僕らの この一瞬も


似ているようで 少しずつ塗り替わってゆく



304.


しがらみが 両の翼を 落とすため


崖まで 追ってくるのなら


いっそ 海へと身を投げ 彼の岸まで


自由を求めて 泳ぎましょう


果てに逃げ切ることができ


次に大地を 踏みしめるときは


何も恐れず 二本の足で立てるように



305.


小鳥よ小鳥、か細い声に


どれほどの意志を 持たせるのか


なかない坊や、拙い言葉に


どれほどの意味を 持たせるのか


それは 甘えのような 愛のような


野生や知性が 求めたものを


舌足らずに まじないのように唱えていた



306.


夢は星空の 展望のように


広く澄み渡ることもあれば


曇って見えないこともある


それでも僕は 見上げ続ける


向かい 引かれる 軌道の先


その日が僕に 重なるまで


一人温めるこの席を 僕は譲りはしないだろう



307.


真夜中に 大きな嵐が 訪れて


雨風が強く 窓を打ち


雷鳴に 電気が落ちてしまったら


貴方はこの部屋 唯一の音楽となるでしょう


呼吸や声が 傍で聞こえる


心臓は時を 刻み続ける


命あるものは 自然の猛威より 強かである



308.


波立たぬ 水面に映る 月の光


川辺へと続く けもの道は


無数の腕で 塞ぐように


或いは 覆い被さるように


私の行く手を 阻むだろう


ススキよ、道を開けてくれ


約束の人が そこにいるのだ



309.


旅立たぬ 木偶の坊だけが 傍に居るより


旅立った人を 傍に感じて 待つ方が


私の性には合っている


いつか貴方が 立派な姿で 帰ってきたら


傷だらけになって 帰ってきたら


どちらでも良い 無事に再会できることが


私の求める 結果なのだから



310.


"愛する人よ、


離れがたき 我が愛する心の隣人よ


私は貴方を守りたい


だからこそ 足を貫く 茨の道に


貴方を連れては 行けないのです


もしもの時は これが私の代わりになる"と


その手に銃を 持たせることを許してください



311.


晴れやかなる 婚礼の日


私は 初めて貴方に 出会ったように


満ち溢れる 立派な姿に驚くでしょう


貴方に贈る言葉は 一つも私のためではない


貴方のために 用意した花束を


渡せず 枯らしてしまうような


愚かな私を 責めないでください



312.


正しさや 見栄や頑固な 誠実さを


朦朧とさせる この熱から


目を覚ますには 今一度


永い眠りが必要でしょう


美しさが 世に生まれ落ち


この目に拝んだ瞬間から


夢現(むげん)の区別は もはや私にはつかぬのですから



313.


もしも 貴方に音楽がなければ


行き場を失う感性は


私に聴き入ってくれたでしょうか


いいえ、私の感性は


決して私を振り返らず


必死で向き合う姿にこそ


見惚れてしまったのでしょう



314.


僕は明日 携帯の電源を入れない


誰もそれには 気づかないだろう


僕は今夜 テレビを点けない


明日起こることに 気づかないだろう


僕は貴方を覚えていない


貴方もそれには 気づかないだろう


僕は明日 帰りの切符は もう買わない



315.


独りでに 渇いた目は ぼやけて見える


貴方の声が 硬くなり ステレオに響く


それは 真っ直ぐ届いたものなのか


床に天井に 跳ね返ってきたものなのか


近くにいるのか 遠くにいるのか


前にいるのか 後ろにいるのか


さては もう 何処にもいなくなったのか



316.


"ただ一つの情けも要らぬ"


それに聞き及ぶ人は 要りますか


"誰一人の助けも要らぬ"


それを放っておく人は 居るでしょうか


"ただ一度の理解も要らぬ"


それを理解する人は 居るでしょうか


本心なら 何故乱暴に 私に叩きつけるのですか



317.


私は貴方に もう恥じることはありません


若さは愚かさ 故の過ちを


赦されるには 随分長く 耐えたので


最後に 私の幸運の半分を


この先の貴方に 受け渡したい


私には もう必要のないものです


貴方に出会えて 私は幸運だったのだから



318.


居場所ができるということは


欲され 許され そこにとけ込むということ


昼夜働き 笑顔を作り 知りました


人は 人の願いを聞く 生き物なのだと


今夜は星が綺麗ですか


その星に貴方が 願ったことを


私にも聞かせてくれませんか



319.


二人の平穏が 脅かされるときにこそ


二人は 寄り添わなくてはなりません


貴方は私の言葉より


あんな世迷いごとを聞くのですか


貴方が抑圧に負けたときも


自ら恥だと責めたときも


私の心が 移ろうことなど なかったのに



320.


私と貴方の 二つの別の人生が


並んだことこそが奇跡であり


結ばれることでは 決してない


ああ、しかし 日々の重みは そこに在り


いつか私の墓標には 貴方の名前を刻みたい


私の心に眠る貴方と


ともに土へと還りたい







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