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才能って1つの形じゃ無いけど、天才肌って大体こんな奴

前回 ソラに散髪された気まぐれな木は、世界一大きな二人乗りブランコになって、ソラの機嫌取りをしていた。



「ひゃっふぅー!!!気持ちいぃぃぃぃぃい!!!」

と叫ぶ海賊風の格好をした茶色いチビがリク。

「わ、あんまり暴れると落ちちゃうよ!」

と言う黙っていれば銀髪美少女(王子)がソラ。

2人を乗せて、ブランコは揺れる。

「落ちそうになっても握力で何とかなる!」

と、頭の弱い発言をするリクに

「ならないよ!」

と言いつつ、脳内で一瞬だけ手に掛かる力を計算したソラ。

ゴリラでも死ぬかもしれない。

いくらリクの言う事でも僕には無理。

ソラに無理だと言われたリクは、ソラが大体願い事を叶えてくれる残念そうな顔で眉毛を下げた。

「俺に抱き付いても駄目か?」

「本当だ!頑張れば落ちないや!」

「いぇーい!」

ソラはリクに甘いのだ!!!

2人は更にブランコを漕いで、風にビュンビュン振り回された。

俺は一体、何を見せられてるんだろう…。

ソラがリクに抱き付いて揺れるのを見て、俺は大きく葉っぱを落とした。

「わぁ!葉っぱのシャワーだ〜!」

辺りは夜なのに不思議と木漏れ日を感じるブランコに、色取り取りの葉っぱが落ちて、ソラが歓声を上げる。

メルヘンな光景にはしゃぐ自分が可愛いだろう事を知っていて、ソラは興奮した演技でリクに抱き付いている。

実際はこの土地を我が国の領地として主張し、観光資源として利用出来ないかとか考えていた。

「肩に毛虫乗ってるぜ」

とリクに言われ、これには流石に慌てる。

「ひぇっ!!?取って!取って!」

「ウソウソ」

イタズラの成功したリクは子供みたいに笑って、ソラに叩かれる前にブランコの隅に寄った。

「もぅ!リクの意地悪!」

「叩くなよ〜」

ソラは あざと可愛い頬の膨らませ方をして、ワザと弱い力でリクを叩いた。それを本気だと思っているリクは

やっぱりお坊ちゃん育ちは力が弱ぇな。いざって時は俺が守ってやらねーと。

とか思ってしまう。

知らぬが仏とは、この事である。

それを見て、気まぐれな木の何かがさらに枯れる。

俺、本当に何見せられてんの?

きゃっきゃウフフと甘い空気を出す2人を見て、俺の根っこが砂糖に埋まっている気分になった。

あのデカイ鯨の死んだ目を見るに、いつもの事なんだろう。

俺が育った島の端っこで、島鯨が小さく潮を吐いた。

クジラ君。一言も話してないけど、俺達友達になれそうだな。




俺がソラ様に伐り倒されそうになったのは、10分程前の事だ。

島に上陸するなり抱き合った久し振りのお客さんに挨拶をしたら…

「こんにちわーす」

「ねぇねぇ、2人って付き合ってんの?」

「その鯨、大きいねー」

「何処から来たの?」

「ハグして楽しい?」

「あれ?もしかして怒ってる?なんかごめんね!でも、俺の事覚えてるかなって思ってさぁー!」

「正直、忘れてたでしょ?」

「俺、そうゆうの聡いんだよぉ〜!敏感な木なの!あんまり放置されると泣いちゃうから!無視はダメダメ!ダメだよ〜!」

俺のあざと可愛いポーズを見て、2人の人間は目をパチクリさせた。

そして銀髪の可愛いらしい少女が

ニコッ

と笑い、デカイ鯨の口へ入っていく。

コレは手土産だな?あんだけ大きい鯨の中にあるんだから、立派な物が出てくるんだろなぁ!

こんな お茶目な木に出会えば、誰だって感動して友達になりたがるはずだ。

俺ってば気が良いから、誰とだって仲良く出来ちゃうんだぜ!木だけにね!

気まぐれな木は海賊少年と共に鯨の体がベコベコ動くのを見守っていた。

中で何か暴れているのか。鯨は痛くないのか。

心なしか涙目だぜ?

やがて鯨の口の中がキラリと光って、

「あれ?その大きい斧は何?え?まさか斬っ…えっ?ちょっ!待っ」







思い出しただけでも根っこが縮こまる体験だった。

その後、銀髪美少女もとい銀髪イケメン王子の名前はソラ、海賊チビはリク、大きい鯨はウミという名前だと教えられた。

2人と1匹は同じく世界の果てである『西果ての国(さいはてのくに)』から来たらしい。

「そりゃ大変だったろうな。俺は木だから世界の事なんざ知らねぇんだ。ちょっと茶でも啜りながら教えてくれないか?」

俺が根っこからテーブルと椅子、葉の間からティーセットを出すと、2人はいそいそと手を洗い、席に着いた。鯨君には何となーく酒。

お上品な仕草でティーカップの模様を眺めるソラと、プチケーキを鷲掴み匂いを嗅ぐリク。

「これ、食べれんの?」

「俺は根っこでしか食事しねーから分かんない」

「食えた!」

そりゃ良かった。

リクの毒味を待っていた様に、ソラと鯨が飲み物に手を付ける。

アイツ返事する前に食べたが、王子の護衛(?)をしていて毒殺とか大丈夫なんだろうか?

「美味い。美味い。コレは林檎、コレは桃、スコーンは胡桃の味がする!ありがとう、最果ての木!」

「おう!」

リクのグッドマークに応える為に、葉っぱをグッドマークに加工して生やした。それを手渡されたリクが目に綺羅星を浮かべ、グッド葉っぱを古びた日記帳にソッと挟んだ。

表紙に『こうかい日し』(たぶん航海日誌)と金色のインクで書かれている事からして大切なものなのだろう。

なんせ金色のインクだ。←小並感。

後々、裏表紙にはソラとリクとウミ、昔お世話になった海賊の名前を書いていると教えてもらった。形見だってさ。

「うぐっ!紅茶と思ったらメイプルシロップだった…。これはリクにしか飲めないね」

「おいしー、おいしー」

ソラ同様に酒を飲んでいたウミも、大きな体をビクッと揺らして潮を吹いた。口元をハンカチで抑えたソラがリクにカップを渡すと、リクが一気に飲み干す。俺がお代わりどうぞとリクのカップにシロップを注げば、美味しそうにグビグビと飲み干してくれた。それを見てソラが幸せそうな顔をする。

俺、何見せられてんの?

「ケーキは普通に美味しいね。珍しい国の果物がたくさん入ってる。国のみんなにも食べさせたいなぁ…」

「だな!持って帰って良ーい?」

「良いぞ!俺達は友達だ!」

「いぇーい!」

「うぇーい!」

俺とリクがロータッチをすると、自分の願いを聞いてくれた俺ではなくリクに向けて、ソラが蕩けるような表情で手を組んだ。

俺、本当に何見せられてんの?

「でもリク、僕の国とここは遠いから腐っちゃうよ。それに、国民全員にケーキを用意するのも大変だし」

ソラがプチケーキを片手にふぅとため息を吐いた。

「大丈夫だ!」

ソラの懸念を振り払う様に、枝をバッサァ!!!と振る。

ソラの国民が何人居るか知らないけど、100人くらいだろ?

「ケーキ100個でも1000個でも、俺なら余裕だぜ!」

「凄ぇ!!!」

やはり俺の決めポーズを、真っ先に褒めてくれるのはリクだ。

「でも、俺そーゆーのじゃなくて普通に帰りに食べる食糧と思って言っただけだから!普通に国民全員分は持ち帰れないだろ」

「あ、…そう?だったんだ…。僕の為じゃ無いんだね…」

「ソラも食っていいぞ」

「いや、生贄なのに逃げて来たから名誉回復とかさ……。でも、無理だよね。うん。そういう目的の旅とかじゃなかったのか……。うん。」

お、お、お!おまーーー!!!

ソラの為じゃ無いのかい!

よく分かんないけど、凄い落ち混んでるじゃん!俺、関係無いのに涙が出ちゃうぞ!

キョトンとした顔で首をかしげるリクの横で、微笑を浮かべたソラが先程甘くて飲めないと言ったシロップを気付けの様にグイッと飲み干した。

ティーカップが乱暴な音を立て、ソーサーに落ち着く。

「さて、何の話だったっけ?」

ソラが爽やかな笑顔を浮かべ、優雅な仕草で足を組んだ。

揉み消す気だよ、コイツ。何も無かった事にする気だ!木だけにね!

でもリクは空気が読めない子に見えるから、これは蒸し返されてしまうだろう。

リクは何言ってんの?という顔をして、

「ソラ達が大事だって話だよ」

と言った。

「リク…!」

感極まった様子でソラがリクに抱きついたが…

俺、本当に本当に何見せられてんの?

俺は心の中の小さい俺を、ヨシヨシと撫でであげた。

どうして1人の時よりも孤独を感じるんだろう。

何も言わずとも、クジラ君だけが頷いてくれた。

俺達は友達だ!

「だって行きに食糧いっぱい食べちゃった時があって、ソラが困ってただろ?出来る時に食糧補給!これはソラの教えだ。もちろん、本当に西果ての国に全部持って帰れたら良いんだろーけど…ソレは無理って俺だって知ってるんだぜ」

「うんうん…。そうだね!そうだね!」

コイツ、リクが言う事なら全部頷きそうだよな。

無性に根っこが痒いので、大地の下をモゾモゾした。何処かの島で地震が起きたかもしれないけど、ごめんね。

気まぐれな木の根っこの上にあった山は、噴火して数年後に温泉地になった。

「だから最果ての木を西果ての国に招待しよう!最果ての木は退屈凌ぎになって、ソラの国民はケーキ食べ放題!名案だろ?」

「う、うーん…。流石にこんな大きい木は連れて行けないかなぁ?」

ウンウンと、クジラ君と一緒に頷く。

「そうなのか?」

と不思議そうな顔をして、リクが席を立った。

「なーなー、俺と同じ位の人間作れない?」

「俺に実らせられない物は無いんだぜ!」

リクの体を枝で包んで中身を理解した後、茶色い髪が緑になり、服の代わりに葉っぱ1枚のリクが1人生まれた。

「やー!」

天に両拳を突き上げて、雄叫びを上げる。

「おぉ!俺ソックリ!古傷まである!再現度高っ!」

今度は同じ身長なので、ロータッチでは無くハイタッチをする。

「リクの裸なんて見たく無いのに、どうしても視線が葉っぱに注がれてしまう…」

「めくるな!」

恥ずかしいと言いつつ興味津々な顔のソラから逃げ、リクの後ろに隠れた。

股間の葉っぱは様々な事情で死守せねばならない。

「リクが2人…!なんて素晴らしきエデンの園!」

ソラがウットリした表情で地面に膝を着き、手を組む。

可愛いイブちゃんを紹介してくれるならリクでもアダムでも改名してやるよ。

この話、宗教問題に引っかからないかな…。ちょっと心配になるぞ。

これ以上妙な目で見られるのは嫌だったので、リクとソラを足して2で割った見た目に変えた。

ふんわりとしてサイドに三つ編みをしたソラの銀髪を真似、子犬みたいに遊んで欲しそうなリクの目を真似、身長は高い方が良いのでソラを真似、もう少し男っぽい見た目が良かったのでリクのツンツンヘアーを少し取り入れ…最後に鯨君の要素が無かったので、潮を吹いているイメージで頭の天辺に2本のアホ毛を立てた。

「ちょっと賢そうなリクだね」

「そうか?なんか俺達の子供が居たら こんな感じだと思ったぜ。」

「リク…!」

俺、本当の本当の本当に何見せられてんの?

ウッカリ口からシロップが出てきそうだ。

実際、耳から何か漏れた。










体の大きさ的にソラのパジャマを借りて、3つ目の席に着く。ソラのパジャマからは、何だか女っぽい香りがした。

王子って女でもなれるっけ?

「しっしっし!ともかく これで最果ての木もウミに乗れるって訳だ」

「凄いよリク!」

と、目をハート型にして、手を組んだソラだが

乗れるからと言って木から離れて活動出来るか疑問だ。そもそもコイツがウミに入れたとして、部屋はどうなる。

いくらウミが摩訶不思議な島鯨だとして、体の体積から考えて僕達の住んでる場所を引くだろ?重要な臓器や骨のある場所を考えると、もう1人住むのはキツイぞ。

そもそも分身体は本体と同じ能力が使えるのか?

連れて行った所で、何も出来ませんでしたじゃ許されないよ。何にしろ、折角の2人旅なのに。(ウミは乗り物なので除外)

とか思っていた。

それに乗っかり気まぐれな木も

「お前、天才かよ!」

とリクを褒めちぎっていたが、実際は

え?俺、あのクジラに乗って世界の果てまで連れて行かれちゃう感じなの?確かに外の世界は見たいけど…生臭いのは勘弁だわ。

とか思っていた。そしてウミは、

自分の体に根っことか張られたら嫌だなー。

とか思っていた。

「俺が思うに、最果ての木の種を別の場所で蒔いたら最果ての木2号が生まれるんじゃね?って思うんだ。そんで、そいつに最果て君を作らせて、観光がてらケーキを配らせよう!」

つまり種の状態で運べば、ソラ、最果ての木、ウミが心配した全ての問題は解決するのだ。それをサラリと提案したリクは意外と凄いかもしれない。

「お前、天才かよ」

「ふふん!」


こうして気まぐれな木は西果ての国に行き、最果ての木と呼ばれるようになったのである。

国民みんなケーキパーティー。

世界はいつも平和なのだ。

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