気まぐれな木
昔々 世界の果てに、気まぐれな木が生えていました。そりゃあもう、パスタ作りの得意なシェフよりも気まぐれです。
気まぐれな木は、意外と凄い奴です。
今日は紅葉しようと思えば、彼の葉は紅くなり
今日は羊を生やそうと思えば、彼は羊の実を実らせ
今日は素っ裸になろうと思えば、気まぐれの木は葉を落とすのです。
「今日は猫と犬を実らせて喧嘩をさせよう」
世界の果ては誰も居ないので暇です。暇な気まぐれな木は、今日も彼独特のヤバイ遊びをしようとその枝を揺らしました。
「うーん、ヨイショ!」
威勢の良い掛け声と共に、気まぐれな木は沢山の犬と猫の実をならせました。実って早々、目の合った犬と猫は、気まぐれな木の思う通りに喧嘩を始めます。
犬も猫も仲良くしよう!
「うーん、喧嘩ばかり見るのも飽きたなぁ」
やがて、犬と猫の喧嘩に飽きた木は、ひときわ長い枝を2本、腕を組む様に揃えて唸りました。
どうして毎日はツマラナイのだろう。
明日が来るからだろうか。
明日とは何なのだろう。
どうして来る日も来る日も自分は1人なのだろう。
自分が木だからだろうか。
どうして自分は木なのだろう。
気まぐれな木は哲学の領域に根を突っ込み掛け、そして良い事を思い付きました。
「自分と同じ木を自分で作れば良いんじゃね?」
と。
その試みは確かに成功しました。
自分と同じ木がなる様にと念じれば、同じ大きさの木がニョッキリと実り、彼に挨拶をしたのです。
「よう兄弟!」
「おう兄弟!」
気まぐれな木と自分そっくりな木は、元が同じなだけに気が合います。
「よう兄弟!」
「うぇーい!」
「ウェーイ!!!」
「ウェイウェーイ!!!」
「ウェイウェイウェーイ!!!」
「ウェイウェイウェイウェーイ!!!」
毎日毎日コレの繰り返しです。
「あっれー?イケメンが居ると思ったら俺じゃね?」
「やだ、何処のイケメンかと思ったら俺じゃーん!」
「うぇーい!」
「うぇいうぇーい!」
「うぇいうぇいうぇーい!」
こんな事を毎日繰り返す内に、脳みそ大鋸屑野郎の気まぐれな木でも気が付きます。
「あれ、コレやっぱ自分だよなぁ…。完全に自分でやっちゃってるよなぁ〜」
と。
彼は自給自足の虚しさを知ったのです。
そうと気付けば長年連れ添った兄弟も、猫と犬の喧嘩の様に飽きてしまいます。
「や〜めたっ」
「えっ?ちょ!待っ」
なんか拒否する感じで枝を振った兄弟を枯らして、気まぐれな木は次の暇潰しを考えました。
「うーん…。いっそ頭上に世界を丸ごと作ってしまおうか」
俺なら出来る。…たぶん。
気まぐれな木は世界がどうなっているのかあまり知りませんでした。だからこそ毎日 暇してるのでしょう。
気まぐれな木は2本の長い枝を組んで唸りました。もう思い付く事は何でもやっちゃったのです。何か自分を変える大きな変化が訪れれば良いのに。
そう、隕石が落ちるくらいの衝撃が。
てか、隕石落ちれば良いのに。ほら、落ちろ。俺が来いと言ってるんだから遠慮せずに落ちれば良いのに。俺が望んでるのに何故落ちない?ちょっとメラッてみたいだけだってば。頼む、落ちて。隕石さーん!隕石じゃなくても良いよ!
気まぐれな木の祈りが通じたのか、西の方角から白い水柱が噴き上がりました。小さな島のようなものが自分に段々と近付いてきます。
「ひゃっはぁー!!!おっきぃ木が見えるぅぅぅう〜う!」
それは物凄く大きな鯨に乗った海賊風の少年と大人しそうな銀髪の少女でした。
「ソラ!俺達、ようやく世界の果てに辿り着いたんだ!」
「うん。嬉しいけど寂しいね」
「そうかな?とりあえずアレ登ろう!旗立ててやろうぜ!」
おやおや、なんだか自分と気が合いそうな奴が現れました。