東棟の清掃③
東棟担当職員となったナオミはウキウキして持ち場へ向かった。
昨日と同じように丁寧に清掃をする。でも明らかに昨日とは違うのだ。ナオミは雇用関係にある職員であり、囚人ではない。
でも…言葉を選ぶことは止めなかった。全体で監視されていたのが染み付いているからだ。
昨日嬉しくて聞けなかったが…妹はどうしてるんだろう…。私のように監視されているんだろうか…。
それだけがナオミの気掛かりだった。
昼食時間になった。
「ナオミ、あなた正式な職員になったんですって?」
「はい」
「良かったわね。あなた真面目だもの」
食後東棟へ戻るときに、衛兵と一緒になった。
「浮かない顔をしているな。せっかく囚われ人でなくなったのに」
指摘されてナオミは戸惑った。
「あの…私はこうして恵まれていますが、一緒に捕まった妹がどうしているかと心配で…」
「…」
「あ、あの、だからといって…何する訳でもなくて…あの…」
「わかってるよ。ナオミは逃げない」
衛兵がきっぱりと言い、ナオミは驚くと共に嬉しさが込み上げた。
「妹はあの後すぐにマール国へ送還された」
「え?」
「内緒だぞ。お前の黒髪が大変珍しいことが送還されなかった原因じゃないかな」
リンデットは国に帰れていた…。
真っ直ぐ前を向いて小声で教えてくれた衛兵に、小声でありがとうと伝え、ナオミは晴れやかな顔で仕事場へ向かった。
晴れやかな顔で仕事を粛々とこなしていくナオミを小間使い頭は満足げに頷くと王子の執務室へ向かった。
「午前中はそうでもなかったのですが、午後は晴れやかな顔で仕事をしておりました。特に問題はございません」
「そうか。引き続きよろしく頼む」
「かしこまりました」
王子は仕事の手を休めず、報告を聞いた。
そしてしばらく仕事をするとお茶を飲み、市場視察の際、腕組みをしたときのナオミの真っ赤になった顔を思い出して微笑んだ。