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青い月の下で  作者: 由起
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東棟の清掃①

また普通の日々が始まった。


この世界は自転の関係もあり、曜日は7日ではなく10日で構成される。季節はあるが、比較的寒冷だ。また魔法などはない。中世ヨーロッパ…が一番近いだろう。


ナオミの仕事は主に部屋の清掃だ。離宮には沢山の部屋があり、使わなくても埃を払わなければならない。


東棟全体は王子の居室であり、執務室も兼ねているので、客室と違って人が居ながら清掃しなければならない。ハタキでパタパタ…が出来ない。全体的に丁寧に清掃しなければならないため、一定のレベルにならないと担当させて貰えない。


(私もやっと担当させて貰えるようになったんだわ)


ナオミは感慨深かった。


通常であれば囚われ人のナオミを王子に近付けることはしない。しかしナオミが華奢な女性であり、訓練を受けた刺客等でない一般人であることはすぐにわかったので、すぐに厳戒体制は解かれた。


しかし自由に出入りさせる清掃の仕事はまた別で、これまでナオミは東棟を担当したことはなかった。


東棟の清掃を任されたといっても、王子の執務室から一番離れたところではあるが。


この国から脱走しないと決めているナオミは囚人としてではなく、普通の人達と同じようにして欲しかった。いつになればこの国の人になれるのか。


その為にはまず自分が出来ることは精一杯努めることだと思い、小間使いの仕事も精一杯やっている。


回りくどくとも、それが一番近道であり、そうした点ではナオミは賢く、よくわかっていたといえよう。


昨日の護衛をしていた衛兵がナオミを見付けた。


「市場視察はどうだった?」

「初めて見るものばかりで新鮮でした」

「レース編みの材料を買っていただいていたが…何を作るんだ?」


ナオミは一瞬躊躇した。


「ハンカチを今編んでいます」

「ハンカチ?自分で使うのか?」

「いえ…私には分不相応なので…王子のお妃になられる方に差し上げることで、王子に買っていただいたお礼が出来るかと…」


衛兵は押し黙った。


「…おかしいでしょうか…?」


不安げにナオミは聞いた。


「いや、いいと思うよ」


衛兵はにこやかに言い、ナオミに全く"野心"がないことを確認した。衛兵はにこやかに頷いた後、持ち場へ戻っていった。ナオミは清掃を続けた。


衛兵は持ち場からすぐに王子の執務室へ移動し、先ほどのナオミの発言を報告した。食事時の何気ない会話も全て報告されているのだ。


「ナオミがそんなことを…」


王子は押し黙った。


「ここ最近の彼女の発言からは脱走の危険性は低いと感じられます。個人的見解ですが」


衛兵が付け加えると、王子は"そうだな"と小さく呟いた。衛兵は王子の瞳に少し残念そうな気持ちがあらわれたことを読み取ったが、気付かないふりをした。努めて静かに衛兵は更に付け加えた。


「彼女は王子を敬愛しています。その点が私が判断した理由です」

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