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青い月の下で  作者: 由起
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市場②

王子は先にも書いたが端正な顔立ちであり、肌は白いものの、髪は茶色がかった金髪で深い青い瞳であり、大変珍しい部類の"濃い色"をしていた。


皇太子でありながらも「王子」としか呼ばせず、「皇太子殿下」等と呼ぶと不機嫌そうな顔で王子と呼ぶように命令した。


この国では王は絶対的な専制君主ではあるが、国民は不満に思わない。専制君主ながらも代々の王や側近が全て国民の為になることを優先するのを誇りとしており、それを実践してきた。


その為、スレシュ国では国民は大変優遇されており、上下水道は整備され、火は自分でおこさなくとも炎提供所で貰うことが出来、病院も完備されている。そのような国はなく、スレシュ国は王を自慢している。


王子もそのような教育を受けてきたことに加え、元からの性質もあって、皇太子でありながらも王族の中でもフランクな部類に入る。


「今日は特に夕げ用の食材関連と同時刻の小物売り場を視察する」

「かしこまりました」

「市場では私の横を歩け」

「は…はい、かしこまりました」


頬を染め、少し俯きながらナオミは答える。


「最近どうだ?仕事は慣れたか?」

「仕事はだいぶ覚えましたので、平穏に過ごせております」

「そうか」


王子は優しく微笑んだが、ナオミは少し俯いたままだったので王子の微笑には気づかなかった。


市場に着いた。


馬車から降りた二人は市場の中に入って行った。護衛は少し離れて歩く。


「ナオミ、私の横を歩け。後ろに下がるな」

「あの…でも…本当によろしいのでしょうか?」

「私の命令だ」

「はい」


ナオミは王子の隣を歩く。

賑わっている市場は庶民の格好をしている皇太子に気づかなかった。しかし黒髪のナオミを横に連れているため、必然的に目立つ。そして皇太子と気付かれてしまう。その度に王子は「気にせず買い物せよ」とゼスチャーと言葉を発していた。


ナオミの顔立ちはこのスレシュ国でも美人の部類に入る。加えて濃い茶色の瞳と若干茶色がかりながらも艶やかで真っ直ぐな黒髪が一層美しく見せていた。とにかく色素が薄い世界の中で、真っ白な肌でなく、色白だが少しオークル系の肌、色素の濃い髪や瞳の色をしているナオミは女性からも羨望の眼差しを受ける。


ナオミは所謂顔立ち以外の「美人の要素」を持っていた。


殿下が連れておられる珍しいまでの濃い色を持った美人はだれだ?と庶民達は思い、皇太子が向こうへ行くと噂をした。


「今年は野菜が豊作ということもあり、価格が安いな。農民は価格下落で大丈夫だろうか」

「惣菜等もよく売れている。以前より増えているな」


ナオミに話しかけるように王子は市場のことを話し、歩いた。


「ナオミ、あまり離れるな」

「は、はい」

「…逃げたいか?市場なら人混みに紛れて逃げられるかもしれない」

「いえ!」


ナオミは強い語気で言った。


「私は逃げません」


王子はふっと笑い、そうかと言ってナオミの手を取り、自分の腕にナオミの手を乗せ、市場を歩いた。


ナオミの頭は真っ白だった。


ナオミは王子に恋い焦がれていた。だからこの国から出ないと決めていた。勿論王子と一緒になれるとは思わない。遠くから見るだけで幸せなのだ。


真っ赤になったナオミに王子は微笑み、市場を視察する。腕を組んだ形のナオミはどぎまぎしながら、王子についていく。


もう市場を見る余裕などない。


「…ナオミ?」


王子に少し大きめの声で話しかけられ、ハッとした。


「申し訳ございません、ぼうっとしておりました」


依然真っ赤な顔のナオミに王子は笑った。


「ナオミが欲しい物があるかと問うたのだ」

「は?」

「視察に同行させたのだ。何か欲しい物を買ってやる。毛糸や布と糸…なんでもいい」


ナオミが気付くと食材関連の場所からいつの間にか雑貨のエリアに来ていた。一人で来たかったところ。マール国では兄や妹に服を作り、家の中の小物を手作りしていたナオミにとって天国だった。


「市場が閉まるまであと半時あるから、もう少し見て回ろう」


ナオミはふと冷静になった。王子のお食事時間までに帰らないといけないから、逆算するともう出ないといけない時間のはず…。その時に目に入ったのが手芸店だった。


「あの、もし許されますなら…レースの針と糸を…」


小声で言った。王子は頷くとその店でレースの針と糸をナオミの為に購入した。(代金は後ろから護衛が支払う)


「ありがとうございます」


ナオミは一生の宝物にしようと包みを抱き締めた。


王子はもう一軒の店で立ち止まり、小さくて綺麗な花の木彫りのブローチを購入した。


「お前の物だ」


せっかく落ち着いてきたのに、またナオミの顔は真っ赤になり、お礼を言いながらももう頭が真っ白になって、馬車までどうやって歩いたのか、手と足が一緒に出たのかすらわからず、必死で歩いた。



王子は夕食に間に合った。

馬車はかなりスピードを出していたから、皆が必死で間に合わせたのだろう。

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