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青い月の下で  作者: 由起
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スレシュ国の囚われ人②

ナオミはいつも通り早起きした。


身支度を調え、台所へ行く。台所仕事のカナサはもっと早起きだ。何故なら宮殿で働く人みんなの朝食を作る係だからだ。


「おはよう、カナサ」

「おはよう。相変わらず早いね」

「あら、タパスは?」

「タパスは風邪を引いて今日は寝込んでるよ」

「じゃあ運搬係がいないじゃない。手伝うわ」

「ありがとう、ナオミ」


ナオミが焼けたパン等を運んでいると、カナサは鍋を混ぜながら言った。


「しかし…スレシュ語が上手になったねぇ」


ナオミは笑った。


そう、この世界には大きく分けて言語が3つあり、ナオミは隣国ながらもスレシュ語圏ではない、マール国から来たのだ。


言語形態が似ているため、違う3つの言語は2~3年もあればある程度のレベルであれば習得可能ではあるが、やはり最初は辛かった。ナオミはその時のことを思い出した。


運搬を手伝った後、ナオミはいつもの自席に座り、手伝わなかった皆より遅れて朝食を取り始めた。


1年前ナオミと妹は隣国マール国から薬草取りで迷ってスレシュ国域に入り込んでしまい、警備兵に見つかってしまったのだ。通常は送り返されることが多いが、ナオミと妹リンデットは拘束された。


ナオミと妹は別々に連れ去られ、妹リンデットが今どうしているのかわからない。それが昨日の溜め息なのである。


両親はなくなっている。

母は病気で、父は火災の消火を手伝っているときに燃え落ちた家屋の一部の下じきとなり2年前になくなった。もし二人とも生きていたら、どんなに心配したろうか…。両親がなくなっていて良かったと思ったのはこの時位だ…と捕まった当初、ナオミは幾度となく思ったものだった。


食後ナオミは西棟へ赴き、西棟1階で細やかな指示を受け、担当の客室をいつものように掃除し始めた。


囚われ人とはいえ、ナオミの仕事は楽なものである。寒冷ながらも寒冷過ぎず、乾燥しがちなためにあまり身体は汚れない。その為この国ではお風呂は毎日入らずに身体を拭く。


淡々と客室掃除をするナオミ。


姉妹は当時17歳と16歳だった。

明らかに密入国して天然資源を持ち帰るようには見えず、通常であればすぐ国境警備隊舎からマール国へ送還されるところだった。


『なぜ』私達は拘束されたのか。


ナオミは今その疑問を封印している。


昼食時間になった。カナサと代わりに来た運搬係がテーブルに食事を用意していた。職員は各自の席に座り、食事をとり始めた。


静かに食べるわけではない。賑やかとまではいかないが、普通に世間話をしながら昼食をとる。


「この前の休みにトヌ山へホナの花を姉と一緒に見に行ったのよ。満開で本当に綺麗だったわ!」

「あら、素敵!明日お休みなんだけど、まだ咲いてるかしら?行きたいわぁ!」

「まだ大丈夫だと思うわ」


ナオミはパンをむしりながらニコニコと聞いていた。


(みんな休日は自由に出来ていいな)


と思う気持ちに封印して聞いていた。囚われ人はナオミだけであり、他の皆は雇用関係にある職員なのだ。家族もいる。


ナオミはあまり話さず、主に聞き役だった。

単純に言葉の壁が原因だったが、今では会話に困らない。でも来て暫くして片言ながらも話が出来るようになり、花の話になった時、おしろい花という単語を発した途端に周囲が驚いた。


「…おしろい花という単語、よく知ってたわね」


ナオミはそう聞かれてあれ?と思った。(あれ?誰に教えてもらったっけ…?)


「誰かに教えてもらったと思うんです。誰だったかは忘れましたが…」

「ふう…ん」


会話はそれで終了したが、その場の全員が怪訝そうな変な雰囲気になったので、なにかおかしなことを言ってしまったのだ…と感じたナオミは会話に参加することが激減してしまった。

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