母との再会①
衛兵がナオミを王妃の部屋へ案内した。王子は来客用の控室でナオミを待った。
王妃の隣の控室でナオミを侍女へ引き渡すと、衛兵は控室入口で待機した。
「ナオミ様、こちらで王妃様がお待ちでございます」
ナオミは王妃の居室へ案内された。ナオミが入ると、真っ黒なからすの濡れ羽色の様な直毛の黒髪の女性が目に涙を浮かべて立っていた。
「ナオミ…」
高貴な方の中では珍しく、王妃はナオミに駆け寄り、ぎゅっと抱き締めた。
「ごめんなさい、ナオミ。あなたをケネス達に預けた私を許して」
ナオミは王妃を見て懐かしいと思った。近付いて王妃の匂いを懐かしいと思った。"私はこの方を存じ上げている…"と直感的に思った。
王妃は暫くナオミを抱き締めた後、ソファーにナオミと一緒に座った。
「私は16歳の"ジョシコウセイ"の時に"ブカツ"からの帰りに…近道しようとして通った"ジンジャ"で、ポケットから落ちたチケットを拾おうとして、木のウロを覗きこんだ瞬間にこの世界へ来ました」
「全く違う世界へ一人で来て…不安だったときに色々と面倒みてくださったのがあなたの父上でした。シルバーグレーの髪で深い青い瞳が素敵で、優しい方でした」
「私は恋をして…18の時にあなたを産んだものの…あの方があなたが4歳になる時に急死されて…」
王妃は涙をぽろぽろと流した。
「この世界を知らない私が王位継承者を育てることなんて…とても無理で…あなたを隣の国へ逃がしたのです。ごめんなさい、ナオミ」
ナオミはじっと聞いていた。この女性は自分から進んで何かをするようなタイプではない。おとなしい、どちらかというと誰かに助けてもらいながら生きるタイプだ…そう感じた。
そんな気の弱い女性が言葉も文化も全く異なる世界で、多少慣れたとはいえ、一人で王位継承者を育てることは無理だったろう…とナオミは思った。
ナオミ自身も私が!というタイプではない。でもいざというときは腹をくくり、てきぱきと動いた。例えば11歳の時に母を亡くした時、ナオミは家事を一手に引き受けた。10歳の妹は泣いてばかりで1歳しか違わないナオミを頼るばかりだった。
芯が強いといえるだろう。そこは父譲りなのかもしれない。
「マール国ではケネス達に可愛がって貰った?」
「はい、両親に兄や妹と同じように可愛がって貰いました。両親は二人とも茶色の髪でしたから、兄と妹は髪が茶色で…私の黒髪は目立ちませんでした。兄も私を慈しんでくれて…素晴らしい家族でした」
王妃は心底ホッとした顔になった。
「あなたを預けた後、私は今後どうしようかと思いましたが…トマスが…陛下が私にプロポーズしました。私をこの宮殿に住まわせ続ける為にしたプロポーズではなくて…私を本当に望んでだったので…考えに考えてお受けしました」
王妃は深呼吸をして言った。
「あなたは…王位を継承したいと思う?」
ナオミは即答した。
「いいえ」




