謁見②
侍女控室へ行けとは何?と皆びっくりしてざわざわした。
「ナオミ…」
話しかけられる前にナオミは席を立った。
「じゃあちょっと着替えてきます。お先です」
今朝も殆ど食べられなかった。カナサに具合でも悪いのかい?と聞かれたものの、残してしまったお詫びと苦笑いだけしてトレーを返した。
「ナオミ、参りました」
食事時間後に侍女控室へ行くと、侍女長が待ち構えていた。
「これからお支度をしていただきます」
「あの…侍女長…私にそのような丁寧な言葉使いをされますと…」
侍女長は静かに答えた。
「皇太子殿下のお妃になられるかもしれない方に、これまでと同じように親しくは申せません」
ナオミは侍女長が知っていることにあらためて動揺し、顔を赤らめた。
「まだこのことは私と副長しか存じません」
侍女控室から近い一室に連れて行かれ、お風呂のあと、髪を乾かし整え、化粧をされ、美しいドレスを着せられた。担当は侍女長と侍女副長の二人だった。
貴婦人では髪は結う人もいるが、美しい髪の場合は長く下に下ろす人もいる。侍女長はナオミの艶やかな真っ直ぐな黒髪を生かそうと思い、髪の先を少し整えただけでそのままにした。
全てが終わった時にはいつの間にかお昼前になっていた。
「お食事はこちらで召し上がっていただきます」
その時ノックがして、食事が届けられた。
「緊張して食事どころではないと思いますが、昨晩も今朝もあまり召し上がってないとの情報です。陛下の前で更に緊張されるでしょうから、無理にでも召し上がってください」
侍女長は一瞬考えて付け加えた。
「皇太子殿下の為にも」
はいと答え、そうだ、その通りだ…さすが侍女長…とナオミは感嘆した。そして昼食のメニューを見て更に侍女長の気配りに感嘆した。
喉が通りやすく胃腸に優しいミルクのシチューで、この世界では高級なチーズが乗せられて焼かれていた。グラタンのようなものである。具は食べやすいように細かくした芋が入っていた。量も少なめになっていた。
温かく食べやすい昼食をナオミは頑張って残さず食べた。それを見て40代の侍女長は目を細めた。
「よく頑張って召し上がられましたね。落ち着く効果のあるお茶をどうぞ」
「お気遣いありがとうございます」
ゆっくりお茶をいただき、それからもう一度身支度を調え直した後にノックがした。王子が迎えに来たのだ。
「…綺麗だ…ナオミ」
侍女長と副長がいる前でも王子は言うことを憚らなかった。ナオミは恥ずかしくて真っ赤になった。
「二人に礼を言う」
「勿体無いことでございます」
「さ、ナオミ、父上のところへお伺いするぞ」
王子はナオミの手を取りエスコートした。ナオミは真っ赤になったが、王子に深呼吸しろと言われて少し落ち着いた。




