呼び出し②
異世界ものは本人が主人公ですが、本人ではなく子供の立場なら?と異世界の子供を主人公に恋愛ものを描いてみました。
「私が市場へお前を連れて出掛けたことで、義母上のような髪の女性がいると噂になったのだ」
「義母上?」
実はナオミは国王の容姿は絵を見て知っているが、王妃の姿は知らない。王妃は所謂御簾の中にいるのだ。
「義母上は元皇太子…父の兄の妻だった」
「はい…」
「義母上は伯父上の子供…娘を1人産んでいる」
「はい…」
「義母上の容姿を知る貴族達がいてな。そこから王位について疑々を唱える者が出てきた」
「?」
「この国には"女王"という存在がある」
(え?女王?代々王がこの国を治めて来たのでは?)
「不思議そうな顔をしているな。皇太子の子供が王位を継ぐ。男児優位で代々皇太子の間に側室も含めて男児に恵まれてきたのが我が王家だ。しかし急死された伯父上は王妃のみを愛し、先に結婚していた妃を離縁して臣下へ渡されるまでだった。側室は当然めとられず、お子が1人だった」
「…はい…」
「言っている意味がわかるな?」
「はい…その従姉妹様が元皇太子殿下の継承者であられると…」
(あれ?王妃のような髪?女児…まさか…)
ハッとしたナオミに王子は頷いた。
「貴女が正統なる王位継承者だ」
「…そんな…」
私はつい先日まで囚われ人だったのだ。なのにいきなり王位継承者だなどと…。
「600年位前に1人女王がおられる。その方の父王は沢山側室がおられたが、長年お子に恵まれず、かなり年老いてから3人の側室にそれぞれお子が生まれたが、全て女児だった。その第1王女が10歳の頃に王が亡くなられた。その第1王女が女王になられて以来、王しか即位していない」
「私は…この国に誤って迷いこみ、そのまま囚われた者です。それがいきなり王位継承者と言われましても何ら教育を受けておりませんし、女王にはなれません。そもそも私はマール国で兄妹と一緒に両親のもとで育ったのです。お間違いだと思います」
王子はふっと笑った。
「そうだな、そう言うと思ったよ。実は義母上が父上と再婚されるにあたり、結婚の妨げになると仰って、当時4歳だったお前を…いやいかん、癖になっている…貴女をマール国へ行かせたのだ」
「では両親、兄妹は…」
「臣下の者とその子供達だ」
「では妹はともかく兄は私が突然来た他所の子供と知っていた…と」
「わからん。本当に覚えていなかったのかもしれん」
ナオミは俯いてじっと黙っていた。
王族には夫を亡くした兄嫁をそのままめとり、家督を継ぐことがある。一般の家庭でもそれはあり得た。しかし…自分が、まさか。
「父上は自分の血統に継がせたいとお考えだ」
ナオミは顔をパッと上げて王子を見た。
「ならば…」
「私はこの国のことが一番大切だ。自分の王位などどうでもよいのだ」
国民の為…それが染み付いている王族、側近。これこそが王だとナオミは思った。
「父上は私とナオミを結婚させるか、ご自分がナオミと結婚して新たに生まれたお子に王位を継がせたいとお考えだ」
血統が正統なる王位継承者の血筋にいくならば、誰も文句は言うまい、ということだろう。それでも不満は出るだろうが。
「結婚…」
ナオミは呟いた。気を失いそうだった。
ずっと恋い焦がれた人の妻になれる。
一生無理と思っていた方の。
でも相手は血統の為に結婚なさるのだ。
そう思うと泣きそうだった。
「私が嫌か…」
複雑な顔をしたナオミを見て王子が言った。
「畏れ多いことですから!王子が私などお嫌でしょう…。血統の為に無理に結婚なさるのなら、私を元のマール国へ戻されるというのはダメなのでしょうか?」
王子はナオミをじっと見つめた。
「私が嫌か?」
「えっ…嫌って…とんでもございません。王子がお嫌だと…」
「それはない」
「は?」
ナオミの動きが止まった。
「それはないと言ったのだ」
「お父上様の為に無理に私と結婚なさろうとされるのでは…」
「何故私がおま…貴女を市場へ連れていったりしたと思っている。髪の色と顔で明らかに義母上の血縁者であるとわかる貴女を何故目立つところへ連れて行ったと」
王子は少しナオミから目線を外し、ため息をついた。
「私は卑怯者だ」




