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正義の魔法と狂った少女  作者: 厨二と変態が友だち
4/13

第二話 赤いヒトと緑のナニカ~後編~

心理描写が足りない爽快感が足りない緊迫感が足りないギャグが足りない文章力が足りない語彙力が足りない全部足りない……。

と、そんな呪詛を吐きながら書いていました。



嘘です。

書き上げてからちらっとそう思いもしましたが、これが今の私の全力全開です。SLBぶっぱです。古いですか? 古いですね。いや、映画もやってたし古くはない……はず……。


なんとか書き上げました。早く次の話が書きたいです。

そしてやっぱりどうしてこうなった。


ちなみにUP現在読み返す気力がないので書いてそのまま投稿です。誤字脱字、読みにくい部分がありましたら申し訳ありません。

 芽香美の目の前にどこの誰とも知れない児童が血だらけになって転がっている。教室内にゆるキャラが登場してからずっと、そんな調子でどこかの誰かが犠牲になっていた。


 芽香美はそんなモノに興味はない。ゆるキャラは弱い上に誰が傷つこうが死のうが眼中になかった。

 敵を求めて教室を出てからの足は、一切止まっていなかった。


「うぜぇ」

「ォォォオオオグギャッ──」


 目の前に飛び出してきた汚いナニカを全力で殴り飛ばし、後方に見えていた同じモノ諸共肉塊にして消滅させていく。

 とにかく目についたナニカを手当り次第に葬っているものの、強くない上に酷い臭いだけが芽香美を苛立たせる。


「ったく、雑魚しかいねぇのかよッ」


 どこからか出現するこのナニカたちが意思を持っているようには見えないことから、発生源から出現している、もしくは召喚的な手段を用いている黒幕のような存在がいるはずだと芽香美は予想している。


 だが、魔力の扱いには未だ不慣れ。昨日今日で全てを理解できるわけがない。

 詳しいであろうリョウがいたのなら特定出来たのかもしれないが、今はどうにもならないだろう。一応、念話という魔力を使った技術も説明を受けたが、その際リョウ相手にためしてみようということになり、結果、失敗に終わった。


 リョウ曰く、芽香美は黒の魔力属性などという見たことも聞いたこともない魔力であるため、波長を合わせられないのかもしれない、とのことだ。

 使えないのならば考えても仕方なく、芽香美自らの足で探し出すしかない。

 感を頼りに反応が強そうな場所に向かって進んでいるつもりなのだが、それが近づいているのか遠ざかっているのか、あやふやで漠然としていない。

 身体から吹き荒れる魔力は芽香美の意思どおりに動かせるというのに、外から感じる魔力に慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだった。


「ォォォオオオオオオオ!」

「だぁ! めんどくせぇ!」

「オオオオオギャペッ──」


 再び襲ってきたナニカをハエを払うかのように奮った掌で弾き飛ばす。それだけで粉々になるナニカは変わらず手ごたえがなかった。


「クソが!」


 いっそ校舎ごと破壊してしまおうかと、人が聞けば全力で止めに来るようなことを考えながら走り、ふと、その足が止まった。


「あ?」


 赤色に淡く光る半球体が廊下の真ん中にあり、その周囲を複数体のナニカが囲っている。

 半球体の中には見覚えのある姿、明日香が横たわっていた。


(なんだありゃ)


 囲っているナニカたちは明日香を襲おうとしているようだが、半球体が邪魔をしてうろうろしている。その明日香は遠目に見る分には無傷に見えるものの、意識を失うような何かはあったのだろう。

 その半球体は詳しく見るまでもなく魔力で編まれた術式で構成されており、内容は理解出来ずともバリアのようなものであることは明らかだった。


「ォォォォオオオオオオオ」


 たまに殴る蹴るの暴行を行うナニカ。

 半球体は揺るがない。


「ぅ、うぅん……」


 半球体の中で寝返りをうつ明日香。


「オオオオオオオオオオオオオオッ!」


 さらに果敢に半球体に挑むナニカ。


「んん……、うぅうんっ」


 うるさいのか手をばたつかせる明日香。


「オオオオオオオ……」

「ォォォオオオオオ……」


 どうしたものかと悩むかのように、周囲をうろうろするナニカたち。


「オオ……、オオオオ……?」

「オオオオ、オオオオオ……」


 なにやらジェスチャーのような何かで腕でバッテン印を見せつけ合うナニカたち。

 首を振るような仕草の後、ナニカたちはその場に立ち尽くす。

 しばし静寂が周囲を包み込んだ。


「ん……すぅ……」


 静かになって安眠を取り戻したのか安らかな寝息をたてる明日香。

 ナニカたちはそんな明日香、というか半球体を取り囲んだまま各々座りだし、眺めはじめる。

 どこかワクワクしているかのように、オオオ、オオオ、と呻き声なのか鳴き声なのか解らない声で談笑し合っているようにも見えた。


「すぅ……くぅ……」


 遠くからはどこかの児童の悲鳴が聞こえてくるが、やけにはっきりと聞こえる明日香の健やかなる寝息がナニカたちの談笑のような呻き声に交じって聞こえていた。


(ほっとくか)


 芽香美はすぐさま決断を下して廊下を戻ることにした。

 何が何やら芽香美をもってしても解らなかったが、なにやら和やかなムードを醸し出していたので関わり合いになりたくないと思った芽香美を誰が責められようか。

 しばし廊下を走り、上の階へ続く階段までやってくる。


「オオオオオオッオギャガッ──」


 階段手前の曲がり角から不意打ち気味に飛び出してきたナニカを、嬉々とした笑顔でとりあえず殴っておいた。

 そのまま上へ通じる階段を駆け上がる芽香美。


「ん?」


 階段を上ってすぐ、芽香美は再び赤い光を見た。

 そこには先ほどの半球体を彷彿とさせる赤い輝きを身体から発してナニカと戦う誰かと、赤く光る半球体の中からその様子を不安げに見つめている成美の姿があった。

 成美は芽香美に気付いておらず、戦うナニカと誰かも気付いていない。


(こいつも魔術師か? さっきのはコイツか)


 明日香を包んでいたバリアを張ったのもこの人物なのだろうと確信を得つつ、芽香美は戦う様子を成美と同じく見学することにした。


 相手は今までと同じ腐臭をまき散らすナニカ。

 対峙するは赤く染まった長髪を揺らす年若い女。


 芽香美が殴ればすぐに終わりそうな戦いだが、その赤い魔術師はどうやら必死になって戦っている様子で、炎のような魔術を繰り出して攻撃したかと思えば反撃にあい、とっさに避けて廊下を転がったり、隙をついて放った赤い光線がナニカを打ち抜くものの再生されて舌打ちしたりと、てんやわんやのお祭り状態である。

 それがちょっと面白かった。


「ああ、もう! これだからグールはッ!」


 魔術を当ててもすぐに再生する、グールと呼ばれたナニカに対し赤い魔術師は悪態を吐く。焦っている様子は見受けられないので余裕はまだあるのだろうが、攻めあぐねているのは明らかだった。

 再生されるなら一撃で仕留めれば良いのに、という考えが芽香美の脳裏を過ったが、それが出来ないから苦戦しているという解答に辿り着く。


(こんな程度が魔術師ってもんなのか?)


 確かに赤い魔術師はよく解らない術式を展開して攻撃したり防いだりしているものの、その動きは芽香美からしたら遅いと言わざるを得ない。

 魔力をまとった芽香美は普通なら有り得ない速度で動いても意識は着いていくし、その攻撃力はそんじょそこらの現代兵器では太刀打ちできない威力を誇るだろう。


(んー、魔力の強さ? 濃さ? っつーのかよく解んねぇが、どっちも似たようなもんだしなぁ)


 若干、女から感じる魔力の方が強いだろうか、という差しか感じ取れない。


「んんん、しょうがないッ!」


 女がグールの攻撃を避けながら、なんらかの術式を展開。

 その効果はすぐに現れる。

 赤く燃える三十センチほどの刀身が女の両手に握られた。


「ォォオオオオオオオオオオオオオッ!」


 愚直に突進するグールめがけ、女はその燃えた刀身を交互に投げつけた。

 払い除けようとしたのか防ごうとしたのか、グールが振り上げた腕に一本が突き刺さり、だが、止まらない。

 さらに一本が脇腹に突き刺さる。

 それでも止まらない。


「エクスプロージョン」


 呟くように女の口から言葉が紡がれる。

 瞬間、グールに突き刺さった二本の刀身を起点に小爆発が起こった。

 その威力はグールを飲み込んでなお留まらず、廊下のガラスどころか壁さえも粉々にし、床と天井を粉砕する。風通しが良くなったことで爆破の煙もすぐに散って行った。


「最初からそれやれよ」


 芽香美はその威力を見て女が勝ったことを確信し、それでも突っ込まずにはいられなかった。


「え!?」

「芽香美ちゃん!?」


 ようやく気付いたのか、爆破の衝撃で崩れ落ち消えて行くグールから視線を逸らした二人が一斉にこちらを振り返った。


「遊んでねぇで最初から今のやっときゃ良いじゃねぇか」

「逃げてきた子かしら? ──ッ!? な、何、この魔力量……ッ!」


 女は芽香美の言葉には返さず、むしろ警戒しはじめた。今は黒い魔力をまとっていないが、この女も魔力反応とやらで芽香美の内に秘める魔力に気付いたようで、それを脅威として受け取ったようである。


「こ、答えなさい! 貴女は誰なの!?」

「お姉さん、大丈夫だよ~! 芽香美ちゃん正義の魔法少女だから!」

「え? せ、正義の……え?」


 成美の空気を読まない発現とその満面の笑みに、女は毒気を抜かれたらしく成美と芽香美を交互に見やる。


(このクソ馬鹿女が……!)


 誰が正義のナンチャラだ──と苛立ちを覚えた芽香美だったが、どうせならそのふざけた思い込みを粉々に打ち砕いてやろうと思い直す。

 徹底的に正義の魔法少女がどんな存在なのかを思い知らせてやるのも悪くはない。そんな想いを掲げて。


「はーい! 正義の魔法少女ですキャピッ!」


 いっそ清々しいほどの愛らしさで名乗りを上げた。

 可愛い笑顔でポーズを決めつつ、溢れんばかりの殺意と魔力を解放する芽香美。

 吹き荒れる魔力はそのまま実空間に影響を及ぼし、暴風となって吹き抜ける。

 黒く禍々しい輝きは大気を汚染し、蹂躙し、絡み合う魔力が文字列となって式を構築。


 式は意味のある術式へと変貌していく。


 それは攻撃の意思。成美には解らないだろうが、目の前の女には明確に伝わっていることだろう。


「ッ!?」


 その魔力と殺意に当てられたのか、女は廊下に膝をつく。


「あららー、どうしたのー、おねえさーん? 可愛い可愛い正義の魔法少女ですよー?」


 女の反応が面白くてたまらず、芽香美はそのままの笑みと魔力で歩み寄る。


「こ、この死の気配……まさかモルディギアン!? そんな姿に化けても騙されないわよッ!」


 果敢にも立ち上がる女。


「そうそう、そのモルナントカさんですよー? 可愛いです──よッ!」


 とりあえず芽香美は殴りかかった。

 あくまでも思い知らしめるのが目的なので殺すわけではない。ちょっと当たり所が悪いとどうなるかは解らないが、この女なら避けられるだろうと思われる程度には手を抜いておく。


「なッ!? くぅッ!」


 思いのほか女は馬鹿なようだった。避けるのではなく、真正面から芽香美の拳を両腕をクロスして防いだ。


「お馬鹿さんです──ねッ!」

「かッ、は……ッ!」


 ならばとそのがら空きになった胴体に蹴りを叩き込む。もちろん手加減して。

 案の定吹き飛んだ女は、けれど空中で体制を立て直し吹き飛んだ先で床を蹴り上げた。


「なめるんじゃないわよッ!」


 蹴り上げる際に足下が小さな爆発を起こす。その威力を推進剤にして一気に距離を詰めてきた。


「わわわっ、こわーい」


 芽香美は棒読みを隠さず呟いて、突進してくる女をかわすべく崩れ落ちた壁から外に飛び出す。


「逃がさないッ!」


 女も追随して空中へと舞い上がった。


「え? え? え~!? な、何で芽香美ちゃんとお姉さんが戦ってるの~!?」


 混乱の極みに至ったのだろう、成美の声が聞こえた気がしたが、芽香美は全力で無視することにし、追いかけてくる女をどう料理してやろうかと舌なめずりするのだった。
















「あぁ、あぁ、いいぜぇ、いいぜぇ、そこかしこからとびっきりの鳴き声が響いてきやがる」


 屋上。

 階下から聞こえ始めた幼い子供の泣き喚く悲鳴に身体を奮わせる巨体が在った。

 獣の身体に鼻の無い狼のような頭部、その双眸は暗い緑眼に彩られ、体毛は漆黒に染め上げられている。

 獣は二本足で立ち、鋭く尖った爪に舌を這わせながら獲物を定めるような形相で階下を見下ろしていた。


 モルディギアン。


 食死鬼──グールの王にして死を操る神の獣の一柱。自ら力を奮うまでもなく召喚によって呼び出す夥しい数のグールによって圧倒的な破壊と死をまき散らす王である。


(いきなりこんな世界に飛ばされたときゃぁちぃとばかし驚いたが、あの憎たらしい女もこれで大人しくなるだろぉなぁ)


 エリウルールにてようやく封印が解けたかと思えば、赤系統の魔術を操る女と緑系統の魔術を操る男に追われ、極力魔力を温存しながら戦っていたらこんな世界に飛ばされていた。

 男の方は配下のグールを操り数の暴力でどうにか圧殺したが、女の方は魔力相性の所為か決め手に欠け、転移してしまう直前まで戦っていた。


(この俺様があんな女如きに苦戦するたぁ、堕ちたもんだぜぇ)


 封印の効果は解除された時に消え去ったものの、その効果の内容が未だにモルディギアンを──封印されていた神の獣たち全てを蝕んでいる。

 封印の効果とは、封印された対象の魔力を徐々に削ぎ、消滅させるというもの。

 いかに強大な魔力を持つモルディギアンでも数千年単位で封印され続けていては、その魔力の大半を削り取られてしまうのも致し方ない。

 回復しようにも復活直後に力のある魔術師二人を相手にしては、防戦を余儀なくされてしまった。


 物量によって片方は死へと誘ったが、もう片方はそもそもの相性が悪い。

 土系統──緑の魔力を操るモルディギアンにとって、赤系統は天敵と言っても良い。操る魔術や魔力量の差によってその相性は覆すことは可能だが、復活したばかりのモルディギアンにはそれも難しい話だった。

 死を操る能力においても、魔力量に絶対的な差があってこそ効果を及ぼす。魂へと直接呼びかけ死へ誘う能力ではあるが、魔力量に差がなければ魂へ干渉する際に相手の魔力が障壁となって打ち消してしまう。

 こればかりは、時を待って魔力が回復するのを待つしかないだろう。


(だぁが、こんだけ狭い空間に人間がいちゃぁよぉ、さぞかし戦いにくいだろうなぁ?)


 建物という閉鎖された空間では、女が操る魔術は威力が大きすぎる。赤は破壊に特化した系統であり、その最たる術は全力のモルディギアンでも多少なりともダメージを負うほどにやっかいだ。

 かつて封印された時味わったその屈辱は、今でも忘れていない。一対多数ではあったものの、最後の決め手は当時の赤系統魔術師が放った一撃だった。


 だが、それも周囲の被害を考えなければの話だ。

 何百人という単位の人間が居る空間で人間の魔術師が大魔術など使えるはずがなく、配下のグールにすら手間取るだろう。

 直接的な被害でなくとも、建物が倒壊するような中位の魔術さえ躊躇うはずだ。それが人間というものであると、モルディギアンはかつての大戦で学んでいる。

 精々、下位魔術でグールを一体ずつ殲滅するしか方法はない。モルディギアンはそう確信している。


(飛ばされた先が悪かったなぁ? えぇ? おい。精々悔しがりやがれ)


 たとえ配下が何百体犠牲になろうとも、消費する魔力は微々たるもの。回復速度の方が速い。

 こうして階下から木霊する悲鳴を肴に舌なめずりしている間にも、その魔力は徐々に回復している。

 対する女は人間を護りながら戦い、護れず死んでいく幼い命に精神を削られ、いつしかグールとの戦闘で魔力も枯渇するだろう。

 その後は、言わずもがなである。


「グハハッ、グワァッハッハッハッ!」


 勝利は確実。

 モルディギアンは憎らしい女の無残な姿を想像し、衝動に抗うこともせず高らかに咆えた。


「ハッハッハ──はぁッ!?」


 不意に、モルディギアンを衝撃が襲う。

 魔力の波動だった。

 純然たる狂気と殺意の塊。

 数多の命を死へと追いやったモルディギアンですら一歩足を下げる程に濃密に凝縮された死の気配。

 死を操る神の獣をも飲み込まんとする絶対的存在感。


「な、なんだってんだぁ、こりゃぁ」


 その魔力量。

 よもやすれば封印前の己に匹敵どころか圧倒するかのような膨大な魔力が、あの女から溢れ出たものだとは考えられない。

 相性の差もあったがあの女は確かに上位の魔術師と言って良いだろう。それも大半の魔術師が頭を垂れるに相応しい魔力と確かな技術があの女にはあった。

 そこは認めよう。

 認めたからこそ、モルディギアンは近場にあった建物と人間を使って罠にはめようとしたのだ。


 だが、コレはそうではない。

 そんな生易しいものでは断じてない。

 ならば、何者なのか。


「おい、おいおいおい……この気配……この魔力……冗談だろてめぇ……!」


 モルディギアンにはこの魔力反応に微かな覚えがあった。

 それは、遠く旧い記憶。エリウルールの地を侵攻しようとする遥か以前。

 神の獣として産み落とされてすぐの頃。

 遥か宇宙の深淵で存在を確立していた時代。

 凶悪な熱量の中で産み落とされた一つの存在を、モルディギアンは感じ取っていた。

 そこかしこで産み落とされる同族の中でも一際異彩を放っていたソレは、永劫を生きるモルディギアンの記憶に埋もれることなく刻まれていた。


「な、何でこんなとこにいやがるってんだ!?」


 旧神バーストの大敵。

 いかなる光をも飲み込む闇の塊。

 破壊の権化。

 その名を想起することすらおぞましい旧神の忌み子。

 大気を震わせるこの魔力と壮絶な気配は、ソウとしか考えられなかった。


「ッ!?」


 瞬間、気配が動いた。

 それを追うかのように女の気配も動く。


「に、人間のガキだとぉ!?」


 空中を飛ぶその圧倒的存在は、魔力とは反比例するかのように小さい。

 矮小な肉体に膨大な魔力が詰め込まれている。普通に考えるならば肉体がまず持たないだろう。この魔力を解放した瞬間、否、この存在が内部にあるだけで塵となるだろう。

 だが、目の前であの女と空中戦を始めた人間の子どもは十全にその魔力を操っている。

 赤系統を操る女と戯れるように、極力威力を抑えて遊んでいる。


「ぅ……ッ!」


 唐突に視線が合った。

 相手はあの女と遊んでいながら、こちらの存在にも気が付いている。

 今のモルディギアンでは太刀打ち出来るかどうか解らない。圧倒的な物量こそあるものの、この存在にそんな戦法を執った所で歯牙にもかけないだろう。

 それほど強大。

 何故ここに存在し、あの女相手に遊び、人間の肉体に縛られているのか、モルディギアンには想像もつかなかった。


「……くそがッ」


 逃げるのではない。

 戦略的撤退だ。

 あの女との遊びに飽きたらあの存在はモルディギアンを滅ぼす破壊の化身と成って襲い来るだろう。

 一瞬の交差ではあったが、あの眼光にはこちらを喰らう禍々しさが込められていた。

 対抗するには魔力の回復を優先するしかない。

 あの女と遊んでいる今が引き際だった。


「撤退だ……ッ」


 モルディギアンは忌々しげにそう呟くと、それが合図だったのか、校内に蔓延っていたグールともども影に吸い込まれるようにしてその姿を消したのだった。

















(ふん、逃げやがったか)


 芽香美は校内を包んでいた魔力のうねりが消えたのを感じていた。

 屋上に居た巨体を発見し、視線が合った直後だ。なかなかに立場を弁えていると言って良いだろう。

 逃がしたのは当然わざとであり、さらなる饗宴を持って芽香美をもてなしてくれると踏んでのことだった。

 それに、今は目の前の女と芽香美を正義の魔法少女などと絶賛してくれた成美に知らしめなければならない。

 この郁坂芽香美がどういう存在なのか。


「いっくぞー! 避けないと死んじゃうかもよー!」


 可愛らしく声を上げ、そろそろこの演技にも寒気を感じつつ、魔力を練り上げる。

 脳裏に浮かぶは先のクトゥグァ戦で使用した魔術、その派生。

 一撃突破の言霊からなる魔術が対近接用魔術だとするならば、これから使用するのは対遠距離用の魔術。


『神速両断 エクサスエクシード』


 その文字列が、術式を構成する羅列が、芽香美の脳を支配し網膜を焼く。


「させないッ!」


 女も対抗するように魔力を跳ね上がる。

 互いに飛翔しながら間合いを測る中、芽香美はその右拳の魔力密度を上げ、女は空中にグールを屠った炎の刀身を幾重にも展開していく。

 それはさながら暴発寸前の魔力のうねり。

 それはさながら業火に彩られた刃の弾幕。


「神速両断──」


 クトゥグァ戦の時とは違い、右腕を砲身に見立てて突きだす芽香美。


「コルヴァズ──」


 相対する女は全身から立ち昇る魔力をさらに紅く染め、眼前に展開した刃を一つにまとめ上げる。


「エクサス──」

「イア=ラ──」


 集束し、収束し、魔力が術式となって相乗する。


「エクシード!」

「デトネーションッ!」


 閃光。


 大気を貪り喰らう黒く巨大な弾丸が突き出された拳より放たれ、一点に収縮した業火が爆砕と同時に炎の刃となって一斉に解き放たれる。

 芽香美と女、その中央にて、二つの魔術が衝突した。

 轟音を奏でて拮抗した魔術と魔術の共演は、互いが互いを喰らい、対消滅を引き起こす。

 極限まで圧縮された大気が爆音と共に豪風をまき散らす。

 次の瞬間には、別の空中にて二人が肉薄していた。


「おねーさんやるねー!」

「今すぐその気色悪い言葉を吐く口を閉ざしてあげるわッ!」


 拳、拳、拳。


 芽香美と女は互いに破壊と防御を繰り返す。

 魔力を抑えて放たれる芽香美の拳は、けれど人間の急所を的確に突く。

 なればこそ、女は防御も容易いのだろう。確実に、愚直に、真摯に殺すための攻撃はそれだけに読まれている。


「くッ、はぁッ! ちぃッ! だッ!」


 顔面、顎、目、首、脊髄、脇の下、肩口、みぞおち、下腹部、脛、足首と、まるで踊るかのように拳と蹴りが振り下ろされる驚異を女は懸命になって手足で防ぎつつ、それでも足りなければ障壁のようなもので受け流し、隙を晒せば最速で攻めたててくる。

 徐々に、徐々に、その速度は上がる。


「まだまだー!」

「ぐ、くッ……! つぅ……ッ!?」


 芽香美の速度上昇は止まらない。

 女は少しずつ、確実に被弾が増えていた。

 本来の力を発揮すれば一瞬で命を刈り取れるその力は、格段に抑えられているからこそこの演武が成り立っている。

 だが、それもいずれ終わるだろう。

 女はすでに限界に到達しているが、芽香美はまだまだこれからと言ったところ。準備運動に等しい。

 それを相手も解っているのだろう。


「く、そッ!」


 口調にも余裕がなくなってきている。


「──ふふ」


 隠しきれない歓喜が、芽香美の口元を歪ませた。


「ふふふ、はははハは! ははハハハはハははハハはハはハははハはハハッ!」

「ひ……ッ!?」


 楽しかった。

 グールよりも遥かに強く、けれどクトゥグァよりも弱い女。

 そんな女をひたすらに殴り、蹴り続け、余裕を奪い、精神を削り、恐怖へと落とす。

 いつだっただろう。こんな顔をした誰かを大切に、親切に、ゆっくりと殺したのは。

 いつだっただろう。懇願する誰かを愛おしく想って皮を剥いだのは。


「こ、このッ、うぁ……ッ!?」


(嗚呼、ダメだ。まだだめだ。今回はだめだ。殺さない。生かさない。今回はじっくりと……愛してやるってきめただろ?)


 芽香美は背中を駆け巡る快感に溺れそうになりながら、拳から伝わる肉を抉る感触を楽しみながら、満面の笑顔を作る。


「ぅらぁッ!」

「ぃぎ……ッ!?」


 綺麗な顔だ。元から綺麗だと思ったその顔が、拳を受けて鼻血をまき散らして涎を垂れまき散らす。

 最高に美しい。

 愛しくてたまらない。

 このまま滅茶苦茶に原型を留めなくなるほど打ちのめしたいという衝動を辛うじて抑え込み、悶え苦しみながらも視線だけは芽香美から離さないその女に欲情し、その両手を掴み上げた。


「は、なせ……ッ! 化け物ッ!」


 痛々しい声でなお闘志を失わない女のなんと可憐な姿だろうか。

 女が蹴ろうとする足の、その起点となる膝を蹴って押し返す。

 膝が壊れないようにするのが大変だ。そんな力加減、今出来ていただろうか。折れた感触はなかったので成功したのだろう。

 滞空したまま、芽香美の小さな片手で女の両腕を頭上で固定する。

 もう片方の手で顎を引き寄せた。


「無様だぁ、おい。どんな気分だ?」


 正義の魔法少女ごっこもこれにて終了。


「く、そ……!」


 拘束を解こうともがくが、抑えつけた腕は微塵にも揺るがない。離すわけがない。


「このまま赴くままにてめぇを犯し尽くしても良いが、そいつぁ趣味じゃねぇんだ、悪いな」

「やれるもんなら──んぐッ!?」

「誰がしゃべって良いって言ったんだ?」


 芽香美は顎を引き寄せていた指を女の口内へと滑り込ませ、舌を引っ張り出す。

 捻り上げた舌に指を這わせ、愛撫する。

 鼻から伝う赤い血が唾液と混じり、芽香美の指を伝って粘性の高い糸を引いて垂れて行く。


「はっ、ぁ、へぃは……ッ!」


 まともにしゃべることも出来ず、だが眼光はするどいまま芽香美を射抜いてくる。


「やめろよ、ゾクゾクするだろ?」


 ついつい眼球を抉りたくなるが、今は舌を愛撫するのに忙しい。

 この女はどうしたら堕ちるのか、その思考が芽香美の脳内を埋め尽くしていった。

 と、


「やめて~! 芽香美ちゃん、もうやめてよ~っ!」


 下から叫び声が木霊した。

 成美が見上げている。


「はは」


 嘲笑し、思い出す。そうだ、これは思い知らしめるためにやっていたんだ、と。

 芽香美は女の両腕を拘束していた手に力を込め、振りかぶる。


「や、やめ──ッ」


 尋常ではない力に振り回される女は舌が解放されたことで叫ぼうとするが、すでに遅かった。


「まとめて死ねやおらぁッ!」


 廊下からこちらを見上げる成美に向かって、芽香美は女を豪速で投擲した。


「きゃーっ!」


 成美は悲鳴を上げ、女は悲鳴を上げる暇すら与えられない。

 衝突。

 その寸前。


「っと」


 芽香美は投げた女に追いついてその服を掴み上げる。


「がッ、ぅ──」


 慣性の法則を直に味わった女は首元を衣服に締め上げられ、一瞬で意識を刈り取られる。


「あ、ぅ、あ……」


 衝突寸前だった成美は呆然とその場で座り込み、言葉にならない言葉を呟いている。

 芽香美は成美を睨んだ。


「なぁおい、解ったか?」


 何を、などと、いくらこの成美が夢見る少女でも解っただろう。

 脳裏に刻み込まれただろう。

 思い知っただろう。

 郁坂芽香美という存在を。


 殺さない。

 生かさない。

 今回は。


 女を廊下に投げ捨てて、芽香美は成美の頭に手を乗せる。

 大事に、慈しむように、ゆっくりと、その柔らかい髪を撫でつける。


「二度と私を下らねぇ名で呼ぶんじゃねぇ。現実を見ろ」


 優しい声でそう告げる。

 成美に声はない。


 ただ、涙を流していた。


 驚愕と恐怖と混乱が混じりあい、無表情になったその可愛らしいその顔に、雫が流れて行く。

 芽香美はただ、満面の笑顔で、醜悪な口元で、魂の抜けたように呆けた成美を眺めていた。


次回更新予定は今月中に上げられたら良いなぁ程度に。



次回予告。


芽香美に弄ばれた私、『名前はまだ決まってない』は成美ちゃんの家に居候することになり、自分を気絶に追いやった芽香美という少女と夢について教えてもらう。


ここで挫けちゃだめだ。

そして私があんなにも一方的にやられたというのに未だにあの極悪少女のことを「正義の魔法少女」だと信じて疑っていない成美ちゃんもだめだ。

成美ちゃんが心配過ぎて家に泊まり込みに来たあげく成美ちゃんから片時も離れない明日香ちゃんという少女もだめだ。

もうみんな狂ってる。


いかに相手が強大でも、あんな凶悪な少女をのさばらせておくわけには行かない。

先に来ていたリョウ=フルカワにも出会えた。私がここで倒れたらエリウルールを護るという使命はどうなっちゃうの?

魔力はまだ残っている。ここを耐えれば二人であの少女を倒す手段も思いつくはず!


次回、『名前はまだ決まってない』さん、死す。









半分くらい嘘です。

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