第五話 偽りの世界~後編~
戦闘回です。
いつもより短めです。
なお、ちょっと調子が悪いです。
~診断結果~
厨二成分欠乏症
~主な症状~
妄想と想像で出来ている語彙力が欠落する
インスピレーションを受ける機会が減る
~治療方法~
充分な睡眠をとり安静にしながらゲーム、アニメ、漫画を貪る
「マジで私のコピーなんだな」
上空から眼下を見下ろしていた芽香美は、そう呟いた。
芽香美はさっそくニトクリスの鏡の力を確認するため、勝子が起しに来てすぐに行動を起こした。
勝子に視られないよう、階段を降りている途中で複製体と入れ替わった。
複製体には『なんの力もない郁坂芽香美として行動しろ』と命じてある。
子どもらしく過ごせ、などという命令は最初から考えていない。
芽香美を全て複製するということは記憶も何もかも同じだということだ。子どもとして振る舞えばしばらくの間は騙せようとも、どこかでかならず綻びがでる。
実体験がそう告げている。
自分を騙すのではなく、周囲を騙すのでもなく、慣れさせるのが一番だった。
今日から変わってしまう芽香美に周囲が順応するまで、複製体に過ごさせて本人はしばらく高みの見物──というより、軽く身体を動かすつもりである。
「行くぞ」
『了解』
芽香美は頭上を浮遊するニトクリスの鏡に告げ、太平洋めがけて飛んで行く。
魔術を使って身体を動かすということは、前回の戦いを思えば街や大地を破壊してしまう可能性があるということだ。
全力を出したいので場所は太平洋上と決めている。
下が海なら、間違っても街や山を破壊してしまうこともなく、目立つこともない。
そんな考えで芽香美はしばらく飛行し、周囲全てが水平線しか見えない場所までやってきた。
眼下に広がる大海原は、強風に晒され高波がそこかしこでうねりを上げている。
「ここなら良いだろ」
芽香美は海面から百メートルほどの高度で滞空し、ニトクリスに振り返った。
「ニトクリス、私をもう一体複製しろ。さっきのコピーみたいに魔力は抑えなくて良い。てめぇの限界まで魔力値を上げろ」
先ほどの複製体はあくまでも日常生活を過ごさせるための、いわばどうでも良い複製だったが、二体目は違う。
芽香美が身体を動かすのに利用するため、簡単に壊れてしまわないモノが必要だ。
『了解』
ニトクリスの鏡は指示を受け、芽香美の眼前へと移動する。
『対象 郁坂芽香美 二体目の複製を 開始する』
ニトクリスの鏡が銀色に輝く。
閃光のように膨れ上がった光は人の形を模し、光が静かに消えていくと同時に芽香美と瓜二つのヒト型が姿を現した。
『成功 魔力値は 限界値まで注ぎ込んだ 術者である貴女の 約五十パーセント』
「上出来だ。ちなみに、こっちが消えたら向こうはどうなる?」
少し気になるところなので訪ねる。連動して消えてしまえば、せっかく複製体を身代りにしたのに面倒なことになってしまう。
『別個体 こっちが消えても 向こうは残る』
ならば良しである。
芽香美は笑みを持って返答とした。
「複製体、私を敵だと思って全力で来い!」
「ああ良いぜ、オリジナル。全力で行かせてもらう!」
複製体がそう宣告した直後、魔力が吹き荒れた。
「上等ッ!」
呼応するかのように芽香美も魔力を練り上げ、直後、芽香美と複製体は姿を消した。
一瞬の後、爆音と共に拳同士を叩き合わせた二人が現れる。
「ちッ」
「ちッ」
互いに舌打ちし、距離を開ける。
初手を叩き込むタイミング、位置、全ての思考が同じだったことによる、示し合わせたかのような一撃同士だった。
だが、元が同じでも個体としては別のモノ。
「ぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!」
「ぁぁぁあああああああああああッ!」
拳と蹴りの乱打を繰り広げる中で、芽香美と複製体が経験を積んで行く。
その内容は、果たしてまったく同じになるだろうか。
否。
互いが互いを同じモノと認め、裏を読み、裏のさらに裏を読み、思考が徐々にズレはじめて行く。
「ちぃッ!」
芽香美の放った拳が避けられる。
「くそがッ!」
避けた複製体はそのまま回し蹴りを繰り出すも、すでにその場に芽香美の姿はない。
両者の距離が再び開かれた。
芽香美が魔力弾を牽制に使おうとすれば、複製体はそれよりも早く移動する。
が、移動先を見極めた芽香美の魔力弾が突き刺さった。
着弾地点を覆い尽くす爆発が発生。
複製体は怯むことなく、むしろ爆風を利用して加速した。複製体は弧を描くように芽香美へと迫る。
虚を突かれるほど速度の乗った突撃に、移動ではなく防御か受け流しの選択を迫られた芽香美は、けれど、その一撃を甘んじて受ける。
「……ちッ! お返しだッ!」
腹部の衝撃に耐え、頭上に振り上げた両手を組み合わせて振り下ろした。
「ぐッ!?」
複製体は背中に一撃を喰らって落下していく。
海面まで落ちていく複製体。
「なめんなッ!」
魔力を爆発させ無理やり姿勢を制御して踏みとどまろうとする。
「アンカンシャス ミステイクッ!」
まだ姿勢を整え終わっていいない複製体に、芽香美は次の一手を行使する。
認識をずらす魔術。
魔術師相手では、対処されてしまえば効き難い中級魔術だが、相手は自分自身。
未だ魔術に関しては発展途上であり、込められた魔力密度を正確に把握できない自分だからこそ、この魔術は良く効く。
「ッ!」
複製体は下の海面へと視線を送り、だが、強引に頭を左右に振った。
芽香美を攻撃するという意識を、海面へ攻撃するという認識へずらしたのである。
解除され、ほんの一瞬しか効力を発揮しなかったようだが、その一瞬は芽香美にとって大きな時間だった。
「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
魔術を行使し終えた次の瞬間には、芽香美は眼下に向かって急加速していた。
周囲に魔力弾を展開し、発射。
「だぁぁぁぁあああああああああああああああッ!」
先行させた魔力弾が着弾するも、複製体は己を中心とした障壁によって防ぐ。
魔力弾全てが防がれた頃には、芽香美は複製体に肉薄している。
「喰らいやがれッ!」
「づぁッ!?」
芽香美の拳が複製体の顔面を打ち抜いた。
複製体は真上からの一撃によって海へと叩き落される。
が、一瞬後には後方の海面が爆ぜたかという勢いを持って複製体が飛び出してくる。
芽香美はそちらに振り返り、複製体は距離を置いたままその場に滞空した。
「ナルシストじゃねぇはずだが、少しゾクゾクしたぜ? どうしてくれる」
海水と鼻血に塗れた顔で、口元に笑みを浮かべる複製体。
言いながら魔力弾を展開する。
「はッ、知ってんだろ? 自慰は好きじゃねぇ」
芽香美も笑みを持って返し、同じく魔力弾を展開──しようとした直後。
(魔力反応!? 海中からかッ!)
複製体が海へと落ちた場所から魔力弾が迫ってくる。
芽香美はとっさに障壁を展開した。
「くたばれッ!」
魔力弾は障壁によって防いだが、複製体からも魔力弾が放たれた。
「ちッ」
加速。
直撃コースの魔力弾だけ弾きつつ、芽香美は距離を詰めるべく突撃していく。
被弾は増えるが戦闘行動に支障はない。
「ぁぁぁぁあああああああああああああッ!」
「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおッ!」
再び近接戦闘へと移行していく。
「ずぇあッ!」
「当たるかよッ!」
複製体が芽香美の頭部に魔力密度を上げた右拳を奮い、芽香美は後方宙返りで避けつつ蹴りをその顎へと叩き込む。
「こっちの台詞だッ!」
複製体は掠りつつも頭部を傾けることでギリギリ避けたばかりか、魔力弾を一発放ってきた。
「ッ!」
密度こそないが、規模が大きい。
視界が黒く輝く光に塞がれる。
そればかりではない。
魔力弾の影に隠れて、複製体の魔力が上昇したのを感じた。
(くそッ!)
芽香美は魔力弾による多少のダメージを受けつつも、一歩遅れて魔力を練り上げた。
「一撃突破ッ!」
「一撃突破ッ!」
両者の口から紡がれる言の葉によって、吹き荒れる黒い輝きが帯となって式を描く。
「エクサス──」
「エクサス──」
魔術によって加速した両者の距離がゼロへと近付き、渦巻く帯が両者の腕を取り巻いて魔力と魔力が相乗してく。
「エクシィィィイイイイイイイイイイイイイイイイドッ!」
「エクシィィィイイイイイイイイイイイイイイイイドッ!」
衝突。
大気が爆ぜた。
激突した両者の拳によって空気が裂かれ、衝撃波を伴って大気が悲鳴を上げる。
術式構築に遅れをとった芽香美の魔術に対し、完璧に構築し終えた複製体の魔術は芽香美を押し返していく。
が、
「くそがぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!」
本体たる芽香美の魔力は、そんな程度いとも簡単に覆す。
「死ねぇぇぇぇえええええええええええええッ!」
芽香美が咆哮する。
「うッ、づぁぁああああああああ────ッ!」
爆砕。
複製体は芽香美の魔術に押され、吹き飛んだ。
純粋な魔力総量の差だ。
魔術戦に持ち込んだことこそが、複製体の敗因である。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
芽香美は肩で息をして、吹き飛ばした方角を睨みつける。
勝った。
そうは思う芽香美だが、勝因が魔力量の違いという部分が納得いっていない。もっとスマートに勝てなかったものかと反省した。
「まぁ、勝ちは勝ちか」
本来の目的は身体を慣れさせることだったため、とりあえずは良しとする。
芽香美は呼吸を整えつつ、複製体が落下していった地点を見つめた。
浮かんでくる気配はなかった。
闇に包まれた空間にて、セクメトは芽香美と複製体の戦闘を感じ取っていた。
「これでは玩具を振り回して遊んでいるだけの乳飲み子に過ぎん」
セクメトは嘲笑する。
モルディギアンという旧支配者の一柱と一戦交えた経験があるというのに、芽香美は何も学習していなかった。
だが、それも仕方ないことだろう。
芽香美は人間としては歴史が長いが、魔術師としては日が浅く、生まれたての赤子に過ぎない。
魔術とは、万物の法則を否定し己の定めた掟を具現する術。
推測し、発展させ、仮説を立て、法を破壊するためのもの。
魔とは欲。
術とは手段。
「魔術を操ることに喜びを感じているようでは、話にならん」
欲がなければ想像が働かず、想像が及ばなければ手段を講じることも出来ない。
芽香美はまだ、手にした魔術で遊んでいるだけの状態でしかない。
「まったく、世話の焼ける人間だ」
セクメトは溜息交じり呟く。
魔導具を通じて複製体へと繋がっていた魔力。
それを、セクメトは直接複製体へと繋げた。
「面倒だが、もう一度繰り返してもらおう。そして理解しろ。我の力の本質を」
セクメトは複製体を支配下に置いた。
『郁坂芽香美』
戦闘が終わったためか、ニトクリスの鏡が芽香美の眼前にやってきた。
「ああ。役に立ったぜ。一応、礼を言っておく」
ありがとよ、という感謝を伝えるその前に、ニトクリスの鏡が発光した。
『警告 複製体へのアクセスが途絶えた』
「あ?」
芽香美はその言葉に首を傾げる。
複製体を殺したのだから、アクセスが途絶えるのは当然の話だ。
『まだ死んでない 死んでないはずなのに こちらからの制御が出来ない』
ニトクリスの鏡は抑揚のない言葉しか紡がない。
魔導具というだけあって、感情などはないのだろう。
だが、その言葉はどこか焦りを含んでいるように感じる。
「それがどうした」
言いつつも、一応複製体が落下した地点の魔力反応を探知してみる。
なるほど、確かにまだ反応があった。ニトクリスの鏡が言うように死んではいないのだろう。
だが、放っておけばその内死ぬ。そんな貧弱な反応しかない。
『異常事態 制御できないということは 使用者のレベルを超えているということ つまりセクメトの魔力が──』
ニトクリスの鏡の言葉はそこで途切れた。
衝撃波。
そう言い表すしかない。
海底火山が噴火したかのように、ある一点から巨大な水柱が吹き上がっている。
その余波だけでニトクリスの鏡を弾き飛ばしてしまうほどの大爆発。
「ッ!?」
芽香美とてその衝撃によってバランスを崩すほどだった。
「な、何だ!?」
巨大な魔力のうねりを感じる。
複製体が落下した地点。
天を貫くほどの水柱が立ち昇るその場所。
そこから、本体であるはずの芽香美を上回るナニカが声を上げた。
──我は諸霊の支配者なり
闇が広がる。
大気を汚染する黒い輝きは光を拒絶し、空を塗りつぶしていく。
──我は神の右目より生まれし破壊神なり
風がやむ。
ナニカの生誕を祝福するかのように、空が鳴動し鼓動を上げる。
──力を与えるは 灼熱より来たる父君なり
紫電が奔る。
膨張と収縮を繰り返す闇が歪みを生み、耐えきれなくなった空間が到る所で爆ぜる。
──顕現せよ 我 破壊の化身 セクメトなり
存在を構築する。
因も果もなかったこの世界に、破壊という単純にして絶対の力を認識させるべく、そのナニカは生み出された。
「…………ッ」
芽香美は無意識の内に喉を鳴らした。
広がっていた闇は全て一点へと集束し、収束した。
してしまった。
そこに在るのは、複製体だったモノ。
明らかに異質。
そのナニカから迸る紫電は、きっと世界がその存在を拒絶する力に抗っている証拠なのだろう。
認識を強制されている。
因果を無理やり構築している。
それが可能な存在。
「セクメト……ッ!」
芽香美の中にいるはずのソレが、複製体を憑代に顕現した。
そう思わずにはいられないほどの圧力。
このままでは死ぬ。
そう悟った芽香美は戦闘態勢に入り、次の瞬間には顔面を打ち抜かれていた。
「ぎッ!?」
数キロメートルの距離を一瞬にしてゼロへと変えたナニカの一撃。
芽香美は鼻血と裂傷による出血をまき散らしながら、数百メートル吹き飛ばされたところで姿勢を整える。
(く、クソヤロォ……ッ!)
視えなかった。
まったくと言って良い程攻撃の瞬間が視えず、反応すら出来なかった自分に苛立ちを覚える。
「ふざけんなぁぁぁあああああああああああああああああああああああッ!」
屈辱。
こんな程度ではないはずだ。
相手がいかに強大であろうとも、元は同じ。
ならば、芽香美にも出来るはずだ。
集中を高める。
これだけの力を、魔力を得て、何も出来ずに終わるなど許せることではない。
最大限まで魔力を解放し、その一瞬に注力する。
「ッ!」
接近してくるナニカを、今度は視界に捉えることができた。
「神速両断ッ! エクサス──」
芽香美は瞬時に魔術を行使する。
極大の魔力を込めた一撃。
通用はしないだろうが、少しでも隙が出来ればそれで良いと考えて。
「エクシィィイイイイイイ────」
だが、その魔術が完成することはなかった。
「アスワド アッシャムス」
たった一言だった。
「な────」
ナニカが行使したその魔術によって、芽香美は言葉を失う。
空を覆い尽くして出現した黒い太陽。
魔力によって保護されているはずだというのに、呼吸が出来ない程の熱量がそこにある。
海面が蒸発していく。
潮の香りが強くなり、水蒸気が吹き荒れる。
未だ天に在るというのに、そこに在るだけで世界が支配されている。
黒い太陽に喰われて終わる。
絶望は知っているはずだ。
絶望することすら諦めたはずだ。
そのはずだった。
コレは違う。
コレはそういった類のモノではない。
破壊だ。
芽香美を殺す、などというものではない。
世界そのものを殺す終焉の具象。
「終わった……」
(終わった……)
こんなにも心と言葉が一致したのは、いったいいつ以来だろうか。
そんなことを考えるほどに、今の芽香美には余裕があった。
死の間際に全てを諦め、何もかもを破壊する力に納得させられたからこそ生じた余裕。
もう最期を待つしかないという放心の極致。
黒い太陽を視て、悟るしかない。
コレが海を貫いて地表に到達すれば、きっとこの惑星は終わるだろう。
たった一撃で、跡形もなく綺麗になってしまう。
嗚呼、そうだった。と芽香美は想う。
確かにセクメトの力は莫大だった。
クトゥグァを倒し、モルディギアンとも戦えていた。
──それが何だ。
本質も知らず、使えるようになった力に浮かれていただけだ。
芽香美は死んでもまた繰り返すだけだ。
どれだけの絶望を体験しても、時が全てを風化させていくだろう。
──それが何だ。
黒い太陽に触れてしまえば時すらも終焉を迎えるに違いない。
どれだけ死のうとも、どれだけ生きようとも、芽香美はこれほどまでに『破壊』を理解したことがない。
芽香美の意識が理解したわけではない。
芽香美という人間の全てで理解した。
コレは人類が知ってはいけない力だ。
視てはいけないモノだ。
想像の埒外にある、禁忌だ。
「あ……あ……ぁ……」
芽香美の中の大切なナニカが破壊されていく。
それはきっと、芽香美が人間であるために必要な、重要な根源だった。
待ち望んだ人間としての死。
心を失くし、生きながらにして死ぬ。
ただ生と死を繰り返すシステムとして、そこに在るだけの存在となる。
黒い太陽には、芽香美をそうさせるだけの破壊が詰め込まれていた。
「…………」
ゆっくりと堕ちてくる黒い太陽。
ようやく死ねる喜びも、まだこの力で遊んでいたかったという後悔も、全てを優しく包み込まれ──、
「──っ」
その直前、掻き消えた。
「ぁ、え……?」
今の今まで目の前にあった人としての死が、自我を崩壊させるナニカが、黒い太陽と共に消えてしまった。
何も残されていない。
吹き荒れる熱と水蒸気、濃くなった潮の香りは未だ周囲を取り巻いているものの、芽香美を死に至らしめる一切の脅威が、驚異が失せた。
『複製体が自壊した 力に耐えきれなかったと考えられる』
いつの間に戻って来たのか、どこかへ飛ばされていったニトクリスの鏡が目の前に浮いていた。
『あれはセクメトの魔術 魔力の供給がなければ世界に干渉できない 放たれる前で良かった』
(…………?)
芽香美にはニトクリスの鏡の言葉を理解できなかった。
放心した心は破壊を受け入れていた。
だが、芽香美は生きている。
死んでいない。
繰り返してもいない。
ただ、空に浮かんでいる。
芽香美は動かない。
動くことが出来ない。
動くということを忘れていた。
意識はある。
人であることを自覚できている。
不思議なことに、平静を保てている。
だが、変化についていけない。
破壊を理解し、終わりを受け入れ、けれど修正され、安全を保障された。
状況が芽香美の思考を置いてけぼりにしている。
弄ばれている。
芽香美はまだ、魔術で遊び、魔術に弄ばれているだけだ。
セクメトの魔力には触れていたはずなのに、一度は抑えたはずなのに、遊んでいた飼い犬に本気で牙を向けられれば怯んでしまうような、調子に乗った幼児でしなかった。
箱庭に住んでいた芽香美は、ようやく外の世界に触れた。
誤字脱字、読みにくい部分などありましたら申し訳ありません。
また、感想や批評、評価などお待ちしてます。
くれると嬉しいです。
捗ります。
次回予告
私、郁坂芽香美。バステトと一緒に夢の世界に住むことになったんだけど、魂の中に先祖からの秘密のメッセージがあったの。 私もセクメトもバステトも、旧き世界の旧神の子孫。力を合わせて宿敵のセクメトと戦うようにっていうの。
こうなったらやるっきゃない! 先祖の遺した魔力を武器に、奴の企みを暴いてみせる。
救済の力は正義の印、救済者バステト、参上!
大嘘です。
次回更新→6日(多分) 4/10追記→延期も含めて活動報告にてお知らせしていますが、4/11か12日に更新します。