ねこさんと~おふろ編~
猫さん お風呂の日
登場犬猫
犬1 チワワ ラブちゃん先輩
犬2 プードル キャメロン
猫 三毛猫 ミケ
レトリバー子供1~7
この日猫は、朝から何か様子が違うことにほんの少しだけ感じていた。
天気のいい午前中は、家の全ての窓は開け放たれ、庭に続く大きな窓の下にはクッションが干されてそこでチワワのラブちゃん先輩とプードルのキャメロンがだらしなく無防備に寝ているのだが、今日は窓もカーテンも閉められ、二匹はミニスカポリスの衣装を着てリビングの椅子にお利口おすわりをしている。
リビングから他の部屋へ続く扉も皆固く閉ざされ、ドアの前にはレトリバー親が寝転んでいた。レトリバーの7匹の子供たちもいつもなら庭で走り回っているのに、今日はおとなしく、リビングの端っこで一列に並び、お利口おすわりをしている。
なぜか皆が整列したど真ん中で猫は朝ごはんタイムを迎えた。
犬1「猫さん、おはようございます。」
猫「おはようござまーす。今日はラブちゃん先輩とプードルはお出かけですか?」
犬2「違います。そして私はキャメロンです。」
猫「プードルじゃん。」
犬2「まあ、以前、犬と呼ばれていた時に比べてはましになりましたけど・・・キャメロンです。」
レ子供1「猫さんって、長い言葉を覚えるのが苦手なんでしょ。」
レ子供2「違うよ。カタカナが苦手なんだよ。」
レ子供3「え?猫さんってバカなの?」
レ子供4「バカなんだ!」
レ子供5「バカなんだ!」
「アハアハアハァハァハ・・・・」
猫「違う!知ってるよ。ただむかつくから呼ばないだけだよ!」
レ子供1「キャメロンさんはカッコいいけど、猫さんはミケでカッコ悪い名前だから?」
レ子供2「プライドか?」
レ子供3「プライドだね。」
「アハアハアハァハァハ・・・・」
猫「もー!むかつくな!あっち行けよ!」
犬1「まあまあ、猫さん。子供の言うことですから、まともに受けずに・・・
ご飯ですよ。さあ、早くお食べなさい。」
そこへ飼い主がいつもの容器をポンと置いた。
猫「アレ、なんか今日少ない。」
犬1「少ないくらいでちょうどいいんですよ。太りすぎは良くないですよ。」
猫「確かに、最近ちょっと太りぎみなんだよね。
三丁目のおばあちゃんが、鯖缶開けてくれるからって、調子に乗って通いすぎたな・・・
いかん。いかん。でも、今日は餌少な目だから後で行こーっと!」
猫が餌を食べ終え、お水をペロペロっと飲んでいた時、背中を「むんず」っと飼い主に掴まれた。
猫「え?何?え、お水・・・まだ・・・」
そして、連れて行かれた場所はバスルーム。
猫「え?何?ここ何?」
犬1「サプラーイズ!!」
犬2「今日は猫さんのお風呂の日で~す!」
お湯を張ったタライの中にちゃポンと放り込まれた。
猫「えぇ?んグっ!やめ…やめてェ!
お前ら・・・図ったなぁ・・・サ!サプライズとか…イ、イ、いらなーい!!!
ガァガァブォォォ・・・・・」
猫は手足も爪も伸ばせるだけ伸ばして、放り込まれたタライから出ようと必死で逃惑った。
犬1「猫さん力が入り過ぎです、リラックスして。
暴れなくても大丈夫、そんなに深くありません。足が届きますから溺れませんよ。」
猫「ちょ…イヤ…毛…毛濡れるのが…イ…イヤ…ちょ…た…助け…」
犬2「猫さん、深呼吸、深呼吸。息吸ってー吐いてー」
猫「スァー!ハゥー!」
犬2「ハイ、吸ってー吸ってー吸ってー」
猫「スァー!スァー!スァー!ヴハァヴハァ!」
猫は息を吸いすぎて苦しくなり、更に手足をばたつかせ必死に暴れた。
猫「オボ…オボ…溺れる…」
犬1「だから、溺れるほどお湯は入っていません。大丈夫!落ち着いて。」
猫「お…おまえらが…入ればいいだろう…わ…私は…ふ…風呂は…き…キライ…」
犬2「私達、昨日美容院だったから・・・
ほら見て猫さん、マニュキア、ピンク色にしてもらったの。春らしくっていいでしょ。
ほら、ほら?」
猫「そ…そんな…余裕…ない!
助けろー!!!!や…やめー!!!やめてー!!!」
レ子供1「猫さん楽しそう。」
レ子供2「お風呂気持ちいいよね。」
レ子供3「僕も大好き!」
レ子供4「私も!」
レ子供5「いいな猫さん」
レ子供6「いいな猫さん」
猫「ちっとも良くない!」
レ子供7「入りたいな。」
レ子供1「入っちゃおうか!」
レ子供2「入っちゃお!」
猫「ダメ!来ないで!」
レトリバーの子供たちはそんなに大きくもないタライの中にわさんさかと入った。
猫「ちょ、ちょちょ、ちょーっとまてって!来ないで!
デカい…いつの間にこんなにデカくなったんだよ!あ・・・危ないって!
シッポ踏んでるって・・・」
猫の制止もむなしく、レトリバーの子供は7匹ともそのタライに入る。
子供とは時として悪魔である。かわいい顔をして無慈悲に裏切る。「ダメよ」という言葉より「やりたい」は常に優先なのである。
レ子供3「気持ちいいね。」
レ子供4「楽しいね。」
レ子供5「楽しい!」
「アハアハアハ・・・」
子供たちは実に無邪気に、そして豪快に!タライの水遊びを思い切り楽しんだ。
猫「ゴボッ…ゴバッ…@^#;\“$‘,..!’?=^#}…
レ子供1「気持ちいいね!ね、猫さん・・・
アレアレ?猫さんがいない・・・」
レ子供2「君の足の下だよ。」
レ子供3「違うよ君の手の下だよ。」
レ子供4「違うよ君のお尻の下だよ。」
猫はレトリバーの子供たちの下敷きになりながらも、必死でもがき這い上がり、見事生還した。ヨレヨレになった猫はプルプルと身を振るう元気もなく、だが、着実にバスルームから脱出しようとしていた。
犬1「猫さん、まだ泡が少し残ってますよ。」
猫「気のせいだ…」
犬2「よく温まりましたか?震えてますよ。」
猫「気のせいだ…」
犬1「今、飼い主がタオルを取りに行ってますから、少々お待ちを」
猫「待てない・・・もうムリ・・・」
レ子供1「僕らが入ったのがダメだったの?」
レ子供2「猫さんとお風呂、楽しかったのに。」
猫「楽しかねーよ。自分達だけで楽しめ!」
レ子供3「猫さんと遊びたかっただけなのに・・・」
レトリバーの子供たちは泣き出した。1匹なくと、そのほかはなんで泣いているのかよくわからないがとにかく泣き出す。
猫「う・・・うるさい!もう泣くな。水飲み過ぎて気持ち悪い・・・・」
レ子供1「許してくれるの?」
猫「・・・」
レ子供2「許してくれるなら、もう一回一緒に遊ぼ!」
レ子供3「遊ぼ!遊ぼ!」
猫「あそばねぇ!もうこりごりだ。金輪際、私の傍によるな!フーッ!!」
猫は背中を丸くして怒りを表したが、いかんせん毛が濡れていていまいち迫力に欠けた。
自慢の尻尾も膨らまなかった。
レ子供1「猫さん、怒ってる?」
レ子供2「猫さん、怒ってる。」
レ子供3「猫さん、怒ってる・・・・」
「ウァウァウァ・・・・・」
猫「もう・・・鳴くな・・・胃に響く・・・・」
犬1「まあまあ、猫さん。子供のしたことですから。」
猫「なんでだよ。叱れよ。なんで子供の悪戯で死にかけなきゃいけないんだ。今こそ叱れよ!」
犬2「じゃあ・・・子供たち並んで、猫さんに謝りなさい。」
レトリバーの子供たちはバスルームの出口に7匹整列した。
レ子供1「猫さん、ごめんなさい。」
「ごめんなさい・・・・・」
猫「わかった・・・・わかったからもうどいて・・・疲れた・・・リビングでゆっくりしたい・・・・」
レ子供1「猫さん、お水がぽたぽた落ちるから、出る前にはフルフルしないと怒られるよ。」
猫「フルフル?」
レ子供2「そう、フルフル。こうやって・・・」
レトリバーの子供たちは体をブルンブルンさせて水を払った。7匹同時にブルンブルンしてずぶ濡れの猫はさらにびったびたになった。
猫「あのさ・・・」
レ子供1「猫さん、ビタビタ。」
レ子供2「猫さん、滴が垂れてる。」
レ子供3「猫さん、細細・・・」
猫「・・・・」
猫は歩く元気もなくなり、飼い主に抱っこされてリビングに連れていかれ、タオルにくるまって横になっていた。
猫「もう、今日は三丁目のおばあちゃんのところへ行くのはやめよう・・・このまま寝よう。疲れた。」
犬1「ふぁ・・・どっこいしょ。」
犬2「よっコラショ。」
猫「お・・・おい!何どさくさ紛れに枕にしてんだよ!」
犬1「猫さんのお腹はいつもぷくぷくで気持ちいい・・・」
猫「もー微妙に重たい・・・あんた達、あの服は」
犬2「あー脱いできた。ビニールはカサカサして、熱くて・・・裸が一番。」
犬1「そうそう、かゆくなるし。ま、いい事と言えば毛が濡れない事でしょうね。」
犬2「今日は猫さんのお風呂の日ですから、濡れると思ってあのお洋服にしてみただけですから。終わったし、やっぱ裸が一番。」
猫「あーーーーー」
猫は思い出した。
前回のお風呂の日も、この二匹はミニスカポリスの衣裳を着ていたことを・・・
猫「ヤラレタ・・・・」
犬1「猫さんの、そういうところが好きです。」
犬2「私も・・・」
猫は今すぐにでも家出したい気分だったが、お風呂騒動で身も心もズタボロで、リビングの端っこでグッタリとしている間に眠りの中にいた。
鯖缶をたらふく食べて幸せいっぱいな夢を見ながら……(隣で寝ていたレトリバーの子供たちが寝がえりをうって下敷きになるまでは……)