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第九話 『鈍色世界』

 あれからとてつもなく長い時が流れた。

 私はあれから何度も何度も脱出しようとしたが、そのどれもが徒労に終わった。

 最初はそれに焦りを感じていたが、それは次第に寂しさへと変わってしまっていた。


 ヴィオラに会いたい。リズに会いたい。

 彼女たちじゃなくてもいい。誰かと話したい。


 私は気が付くと、口から言葉が漏れていることに気付く。

 その内容は謝罪の言葉ばかりだった。

 私の精神は、既にかなり疲弊してしまっていた。

 だが、舌をかみ切ることはできなかった。

 私は彼女に、必ず帰ると約束した。

 その事実だけが私の生きる活力となっていたのだ。


 私は虚空を見つめただ独り言をつぶやいていると、不意に扉の方から爆音が独房に鳴り響いた。

 そしてその爆音は、銃声だということに気付いた。


 私は疲弊した精神からかその銃声に少しだけ、救いを求めてしまう。

「殺してくれ」。そう口が動きそうになるのを必死で抑えていると、私の手をつないでいる鎖に銃弾が撃ち込まれる。


 そして、私は自由になったわが身を支えきれず地面に崩れると、一人の人間がこちらに歩いてくる。

 顔を見上げてみると、ヴィオラでもリズでも、ましてや村の者でもない。知らないマフラーを巻き軍服を身にまとった青髪の中性的な少年がこちらを見つめ、機械的なほど感情のない中性的な声で話しかけてくる。


「提案します。ここからの脱出」

「……キミは?」

「報告します。当機は『帝国』に作られた人工生命体。製造番号は『Nー11635』」


 私はその少年の言葉に、少なくない疑問を感じる。


「……何故、帝国が私を助ける?」

「……回答拒否。ですが、当機は貴方に対して友好的な立場にあることを報告します」

「それを信じろというのかね?」

「はい」


 私は彼の何の感情も感じない目を見つめる。

 だが、本当に敵対しているのなら、すでに殺しているはずだろうと思いなおし、その答えを信用することにした。


「次の質問だ。人工生命体とは?」

「回答します。人工生命体とは、帝国によって作られた人型アンドロイド。ですが機械とは違い、それぞれに自我を持つことを許されています」

「当機はアンドロイドN型。つまり、『Neutral』。中性的なモデルであることを表明します」


 私は彼の機械的な回答を聞いて、本当に彼が人間ではないことに納得する。

 そして、同時にあることに気付いてしまう。


「……最後の質問だ。キミの名前は?」

「回答します。当機の製造番号は……」

「違う。製造番号じゃなく、キミ自身の名前を聞いている」

「……質問の意図が不明」


 ……どうやら、彼を自身に名前はないらしい。

 そうなると、私は彼を呼ぶときにいちいち『Nー11635』と呼ばなくてはならなくなってしまう。

 それはかなり面倒くさい。


「それでは、キミに提案だ。私がキミの名前を決めてもいいかね?」

「……許可」

「……そうだな。ありきたりだが呼びやすくキミにもなじみやすい、『Neutral』からとった、『ニュー』なんてどうだ?」

「……許可、します」

「なんだ、不満かね? あまり嬉しそうではないが……」

「否定します。当機の様な量産型は感情をインプットされていません。ですので、感謝の意を言葉で示します。ありがとうございます」


 私はニューの深々としたお辞儀に少しだけ苦笑する。

 そして頭を挙げたのち、私は彼に対して頭を下げる。


「……私も、キミに助けてもらった身だ。ありがとう。……本当に、ありがとう」

「……アンドロイドに感謝の言葉はいりません」

「それでもだ。本当にありがとう」


 ……私は礼を言い終えた後頭を挙げて、独房の外に出ようとすると、いままで私に食料を渡してくれ、糞尿の始末もしてくれていたロボットが機能停止している事に気付く。

 見ると、頭が銃弾でショートしていることに気付き、私はそっと彼を抱きしめた後、そっと地面に置く。


「……さて、行くとしよう。皆が待っている」

「了承します」


 ニューは壁に立てかけてあったスナイパーライフルを手に取り、私の後に続く。

 私は階段を上り久しぶりの太陽に目を細める。


 そして、次の景色に私は唖然としてしまった。


「……なんだ、これは」

「回答します。戦争終結後謎の生物がこの世界から『色』を略奪。この雪は、その際に生まれたものと推測」

「色を……奪った……? どういう事だ?」

「回答します。そのままの意味。謎の生命体の主食はこの世界を彩る『色』。そうデータベースに……」

「そんなバカげた話があるものか!」


 私は目の前に広がる鈍色の世界に対して吠える。

 森も、山も、国だったであろう建物が密集していた場所も、すべて鈍色に変わってしまっていた。

 動物の鳴き声も一切しない。静寂の世界。


「何なのだ、この世界は……?」

「回答します。謎の生命体により生産された雪。通称、『死の雪』」

「『死の雪』……?」

「回答します。この雪は触ると致死量の毒が含まれ、触ると皮膚が爛れ、最終的には死に至ります。ですが、今はほとんどの雪が完全に無毒化した模様」

「……じゃあ、この世界の人類は」

「激減しました。ですので、以前の人口の30%にも満たないかと」


 私は地面に膝をつき、この世界の終焉を感じ取る。

 もしかしたら、ヴィオラたちも……?


 嫌な考えを振り払い、私は雪の中彼女らの村を目指すことにした。

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