第七話 『取引』
私はヴィオラに案内され、リズの家の戸を叩く。
すると、リズは「はーい」と元気な声を挙げながら私たちを出迎えてくる。
「やあ。出来たかね?」
「はい! でも、本当に私は行かなくていいんですか?」
「ああ。今君まで出払ってしまうと、この村が襲われたらひとたまりもなくなってしまう」
「……そうですね。でも、無理しちゃダメですよ」
「無理をするのは彼らだ。私は何もしないさ」
私は苦笑をしながら彼女から手渡されたものを受け取る。
「ありがとう。だが、本当に今日中に完成させてしまうとは……」
「元々材料が余ってたので、すぐに作ることが出来ました。でも、ちょっと雑かも……」
「構わない。作戦は夜になるのだから」
私はそう言うと彼女から手渡されたぬいぐるみを持ち上げ、森に向かう。
そして、もう一つ箱を持ち上げ、森へと向かう。
「じゃあな、リズ。あんまり夜更かししちゃだめだぞ」
「もう、子供じゃないんだから……」
「ははは、それじゃ、行ってくる」
「さて諸君。そろそろ出来上がったか」
私は森の奥深くまで歩き、作業場にたどり着く。
そこには穴を掘っている男たち数人と、それを見守る村長がいた。
「ああ。だが、これで本当にうまくいくのか?」
「さてな。これは一種の賭けだ。降りるのなら別にそれでもかまわんが」
「……フン」
村長は私の返答に満足がいかなかったのか、そっぽを向いてしまう。
私はそんな彼を横目に見ながら、持っていた木箱とぬいぐるみを下ろし、箱を開ける。
「……やはり何度聞いても、悪趣味な作戦だ」
「そうかね? むしろこの方が心が躍るものだが」
箱を開けたその中には、昨日の襲撃の時に現れた、帝国の兵士の死体が中に入っていた。
まだ一日しかたっていないため腐敗は進んではいないはずだが、それでもすごい匂いだ。
「そして、これだ」
私は昨日兵士から奪い取ったアサルトライフルを彼の手に手渡し、彼の体を機に添える。
そしてをれに向かうようにぬいぐるみを置くと、男たちの一人が話しかけてくる。
「……すこし、小さすぎやしないか? その蛇の人形」
「なあに、夜なのだから気付きやしないさ。それに、この大きさなら十分だとも」
私は赤い色のペンキをその蛇の人形にぶちまけ、地面に倒れるたかのように置く。
「さて、あとはヴィオラ。頼むぞ」
「……ホントにやんのか?」
「ああ。キミにしか務まらないのでね」
「……マジか」
ヴィオラは少しだけ……いや、かなり嫌そうな顔をするが、そんなことは気にしないようにして地面に腰かけ、空を見る。
そして、しばらくすると空が暗くなり夜になった。
私はそれを確認したのち、空に向けて昨日彼らから手に入れた拳銃を空に向けて発砲する。
それと同時に、私は全速力でそこを離れ、男たちの様子が見える場所まで下がった。
しばらくすると、私の銃声に気が付いたのか、二人の男たちが様子を見に来る。
そして、男たちは近くにある死体と蛇……に見える人形を見つけ小さな悲鳴を上げる。
その瞬間、彼らの銃口が下がったのを彼女は見逃さなかった。
私はもう一度空に向けて銃弾を放つと、蛇を切り裂き中からヴィオラが飛び出してくる。
そして、すぐに構えることが出来たほうをナイフで切り裂き、明らかに動揺している方を捕え、喉元にナイフを突きつける。
「さて、行くとしよう。彼らにも人質は有効なはずだ」
「……うへぇ、ペンキくせぇ」
「それはドンマイだ。私には何とも言えん」
私は「お前の立案だろ」とでも言いたそうな彼女の視線を感じるが、そんなことは気にせず前に進む。
人質に抵抗される可能性も考えてはいたが、すっかり怯えているようでしっかり委縮してしまっていた。
しばらく歩くと森を抜けた先に私たちの村よりも少しだけ小さい村があった。
そこは今人質にしている奴と全く同じ装備で、その村を巡回している。
私はそんな彼らに聞こえるよう、大声を張り上げた。
「武器を捨ておとなしく降伏しろ! 諸君らの同胞の一人は私たちの手の中にいる!」
私の声が聞こえたのか、帝国の兵士たちが一斉にこちらを睨む。
そして、しばらくしたのちしぶしぶと地面に武器を置き、頭の後ろで腕を組んで地に伏せる。
私はその様子を見て、少しだけ拍子抜けしてしまう。
実はこの作戦は、私たちはおとりだったのだ。
彼らが私たちに対し歯向かってきた場合、その村の側面から男たちが昨日手に入れた銃を持って突撃する。
それが元々の手はずだった。
「さて、この村を開放してもらうぞ。私の村の長の命令でね」
「……なるほどなるほど。確かに素晴らしいお方だ!」
私は背後から聞こえた声に振り替えると、そこには三十代前半のヒョロヒョロとした男がこちらに微笑んでいた。
私はその男から一歩下がり銃を引き抜くと、愉快なのかさらに目を細める。
「無駄な抵抗はよした方が良いかと思いますが?」
「ほう? それはこちらのセリフだろう」
「ええ。本来ならば、ですが」
男は少しだけ不気味に微笑むと、片手を挙げる。
すると、私の足元に銃痕が映し出される。
「……狙撃手、か」
「ええ。ですがここまで追い詰められたのです。この村からは手を引きましょう」
「あなたと交換条件に、ですが」
男はそう言うと、より一層不気味な笑みを浮かべてこちらに微笑んでくる。
ヴィオラはそんな彼と私の間に立ちふさがろうとするが、狙撃手はそれを許さず、動かないようにヴィオラの足元を打ち抜く。
「……いいとも。言ってみるといい」
「ええ。では貴方は私と共に来てもらいます。それでこの村は解放、ということで」
「……いいだろう。ここで断ったとしても、貴公の狙撃手に頭を打ち抜かれてどちらにせよ、死ぬ」
「理解が早くて助かります。しからば……」
私はどこからか現れた伏兵に銃口を頭に突きつけられ、どこかへ歩いていく男の後を追う事を余儀なくされる。
「おい……アルノエル? どこ行っちゃうんだよ……」
「……なに、すぐ戻ってくるさ。待っててもらってもいいかね?」
「待てよ、お前がいなかったら村は……!」
「大丈夫。キミとリズがいればなんとかなるさ」
私は彼女から目をそらし、男の背中を追いかける。
すると、彼女から大きな声で名前を呼ばれる。
だが、私はそれには振り向かず、軽く手を振るだけで答えることしかできなかった。