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第二話 『反逆』

 私はヴィオラに案内されるとすぐに、その村の長である男の家に通される。

 それまでに感じていたのは、この村の建物全て木造建築で、文明はあまり発達していない、という事だ。

 道には砂利が詰められ、その周りには、小さな畑がいくつも並んでいた。

 そして、何よりもこの村の住民からの視線だ。

 その家に通されるまでの間、リズを除くすべての村人がこちらを睨んでいることに気付くが、そんなことはもう慣れてしまっていた。


「入れ」


 ヴィオラが扉を開けると、奥にはいかにも厳格そうな老人がこちらを睨みながら玉座と言っても過言ではない椅子に座っていた。


「……村長様。銃を持っていた男を捕えました」

「そうか。下がれ」


 村長はその一言だけ呟くと、ヴィオラは深々とお辞儀をして入り口のそばまで後ずさる。

 そして私は周りにいた屈強な男たちに腕を縛られ、膝を曲げさせられた。


「貴様、何故この村に来た」

「心に響くような風景を探して……という言葉は信じてもらえないかね?」

「答えろ」

「いいとも。正直に答えよう。私には、この世界についての記憶がない。故に、私がなぜここにいるかもまだ把握しきれていないのだ」


 私の返答が癪に障ったのか、村長が眉を顰め、周りの男たちからはこの部屋中に響く程のブーイングが響いている。

 だが、しばらくすると村長が持っていた杖で地面をたたき、男たちを黙らせる。


「では、貴様は『帝国』についての知識もないと?」

「そうだ」

「そんな突拍子のない言葉をこの俺に信じろと言うのか?」

「そうだ!」

「……ふざけるなよ、そのような手に引っ掛かるとでも?」


 村長の言葉に「そうだ!」と男たちからの同調の言葉が聞こえてくる。

 その中には、「殺せ!」という物騒な言葉も聞こえてくる。

 その状況に、自然と笑いがこぼれてくる。


「……クク、クハハハ!」

「……気がふれたか」

「いや失礼。話が通じると思ったが、まさかここまでここに集った者が野蛮人だとは」


 私が皮肉を込めた笑みを浮かべると、より一層男たちのブーイングが強くなる。

 そして、気が付くと男たちから放たれている言葉は、「殺せ」という言葉一色に染まってしまっていた。

 だが、そんな中村長は先程のように杖で床をたたき、男たちを黙らせた。


「……何が言いたい」

「もし私が本当にその『帝国』の者だとしよう。それなら、ここで殺したとなればどうなる?」

「……私を脅すというのか?」

「私を殺すより、人質として生かしておく方が良い、といっているのだ。無論、殺してくれても構わないがね」


 私としては前世で満足しつくした、と心の中で付け足す。

 村長は私の意見を前にして少しだけ虚を突かれた表情をすると、また先程の厳格そうな老人の表情に戻ってしまう。


 しばらく沈黙が流れた後、老人は口を開き判決を口にする。


「……いいだろう。貴様は生かしておくことにしよう」

「賢明な判断だ。万人が君の答えに拍手を送るだろう」


 私の皮肉めいた言葉に男たちがどよめくが、先ほどとは違い「殺せ」という言葉は無くなった。

 よほどこの老人の影響力は強いのだろう。


「ヴィオラ。この者の監視をお前に任せる」

「え? 私がですか!?」

「そうだ。お前がこの村で一番腕が立つ。それに、男たちはこれからそいつを取り戻しに来るであろう『帝国』に対し備えなくてはならない」

「……わかり、ました」


 ヴィオラは心底不服そうにこちらを睨んだ後、村長に深々と礼をする。

 そのあと私の腕を縛っている縄を乱雑にほどき、襟首をつかまれ村長の家を後にした。



「貴様、いい加減にしろ!!」


 私はヴィオラに人目につかない建物の裏に連れていかれ、思い切り右頬を殴られた。

 私はその衝撃で倒れそうになるが、なんとか持ち直す。


「……随分なご挨拶じゃないか。私としては、白兵戦は苦手なのだが」

「村長様になんだあの態度は!! それにニヤニヤニヤニヤと!! 貴様、我々を何だと思っている!!」

「人の上に立ち指揮する人間は、常に笑みを忘れないものだ。覚えておくといい」

「ふざけるなッ!!」


 もう一度右頬に強烈な一撃がめり込む。

 私は今度こそ吹き飛ばされ、地面に尻もちをついてしまう。


「……良い士気だ。その士気で君たちの言う『帝国』とやらを倒せるよう応援するとしよう」

「……貴様、まだとぼけるつもりか!!」

「私は分からないと先ほど言ったつもりだが?」


 ヴィオラは私の態度に極限まで腹を立たせているらしく、大きく舌打ちをした後私の顔に蹴りを入れてくる。


「『帝国』ってのはな、自分たちの都合で他国同士を戦争させて、その利益を得ようとする薄汚い連中なんだよ!!」

「……戦争ビジネスか。随分とあくどい連中だ。だが、それなら有志を集い『帝国』に歯向かえばいいだろう?」

「それが出来るならそうしてる! だけどな、あいつらは『銃』とかいうとんでもない武器を持ってるんだよ!」

「銃という絶対的な力により、全世界をコントロールする、それが彼らの目的か」


 私はそれを聞いて、少しばかり皮肉を込めた笑みを浮かべる。

 核抑止による世界征服。それは昔私が目指していた世界だ。そして『帝国』は今、それに近いものを作り上げている。

 だが、私と彼らには決定的な違いがあった。


「……ヴィオラ。私と共に、この世界を支配する気はないか?」

「……は?」

「『帝国』を打倒した後、彼らの銃という絶対的な力を奪い、代わりに世界を征服するのだ」

「ふざけるなッ! あいつらと同じことをみんなにしろって言うのか!?」

「違う。私達で作り上げるのだ。絶対的な『銃という抑止力』における、『絶対的世界平和』を!」


『絶対的世界平和』。それは生前私が目指していたものに他ならない。


「……アルノエル。その言葉は本気だな?」

「ああ。こんな事、嘘でも言わんよ」

「……わかった。力を貸してやる。だけど、もし裏切ったりしたら」

「首を落とすといい。その日は、絶対に訪れないがね」


 私は服に着いた土をはらい、両手を掲げ高らかに宣言する。


「さあ、反逆の時だ! 『帝国』という蛆虫の断末魔を、この世界に響かせよう! 我らが理想、『絶対的世界平和』のために!」


 今度の私は、悪の独裁者ではない。

『正義の反逆者』として、この世界に名を遺すのだ。

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