第十二話 『アンドロイド』
「さて、ここからどうしたものか」
私は真っ黒に染まった空を見て、ひとり心地に呟く。
果たしてどこに向かうべきなのか。そう思って考えていると、ヴィオラが口を開いた。
「この近くに、子供たちだけで暮らしている村があるって聞いたことがある。まずはそこに向かって情報を集めてみないか?」
「名案だが……まずはキミに色々お聞かせ願おう。私が寝ている間にいろいろ起きたみたいだからな」
「……ああ」
「まず、外にうろいつている黒い液体状の何かや狼。あれは元から存在している生命体なのか?」
「……いや、あれは雪が無毒化した後急に現れた。狼も、液体状の何かも総じて『魔獣』と呼んでいる」
「『魔獣』、か……」
雪が無毒化した後に急に現れた、というのも気になる。
いったい彼らの正体は何なのだろうか?
だが、それよりも気になることがあった。
「次の質問だ。村の皆はどうしているか知っているかね?」
「……わからない。私は戦争が終わった後帝国の兵士に拉致られ雑用を押し付けられていた。だから、リズの居場所もわからない……」
「……そうなると、奴は元帝国の兵士ということか?」
「違う。あいつは帝国の兵士に媚を売ってるただの下衆だ。だけど、逆らったら私は帝国に殺される。それだけは出来なかった」
「アンタとの約束、守り通したぜ?」
そう言って笑みを浮かべるヴィオラ。
私は少しだけその表情に安堵を覚える。
「さて、次は私から質問だ」
「……あまり情報は持っていないのだがね」
「この雪……これは、『帝国』の仕業なのか?」
「……わからない。あの魔獣とやらが帝国の仕業なのか、それとも予期せぬアクシデントなのか」
「……そうか」
私が質問に答えると、少しだけ考え事るそぶりをした後、話が再開する。
「なあ、それともう一ついいか?」
「何かね?」
「そこの、『ニュー』って奴は帝国の奴なんだろ? なんでアンタと一緒にいるんだ?」
私はニューをちらりと見ると、彼は一歩前に歩き話し始める。
「回答拒否。ですが、当機はあなた方との戦闘意欲は皆無であることを表明します」
「なんで拒否するんだ? まさか、私たちを監視するために……!」
「否定します。当機の目的は帝国とは一切関与していません」
「なら、何故明かさない!?」
「疑問。当機への警戒の必要性。当機は既に敵対意識は皆無であることを表明済み」
「落ち着きたまえヴィオラ。彼も今や貴重な戦力。ここで仲間割れを起こす必要はないだろう?」
私がヴィオラをなだめると、彼女は私がニューの味方をしたからかそっぽを向いてさっさと歩いて行ってしまう。
私はそんな彼女の後姿を追って歩いていると、暗闇の中、かすかな光が私たちの目に入った。
「あの光が、その子供たちの村かね?」
「……多分。行ったことはないけど、位置的にはここであってると思う」
「推奨します。あの村での睡眠による体力回復」
私はニューの言葉にうなずき、その光が照らしている先に歩き始める。
そして、しばらくすると小さな掘立小屋が立ち並んでいる、集落とも言えなくもない場所にたどり着いた。
「……『僕たちの村』。そう書いてあるのか?」
「行ってみるとしよう。もしかしたら、彼女がいるかもしれん」
私は先導する彼女の背中を追いながら歩いていると、どこからか視線を感じる。
ヴィオラもニューもそれには気付いているらしく、それぞれ各々の武器に手をかける。
そして、警戒しながら歩いていると、暗闇の中から黒いローブをまとった何者かに話しかけられる。
「……もしかして、そこにいる人……」
「ん?」
「アンドロイド!?」
その何者かは黒いローブを脱ぎ捨て、ニューに近づく。
私は銃を抜いて警戒するが、おもったよりそいつはすばやく、構えるより先にニューに飛びついていた。
「まずい、ニュー!」
私が彼に飛びついたそいつに向けて銃を構えると、その何者かは月明かりに照らされ、少年であることが分かる。
そして、何故かニューの体を抱きしめていた。
「あー、兄ちゃんずるい!」
「私達もするー!」
その少年が抱き着いたことに反応したのか、木陰に隠れていた少年少女たちがニューに飛びついてくる。
私はその異常な光景に、ただ呆然と眺めていると、ニューが流石に焦ったのか口を開く。
「疑問。彼らの意図が不明」
「……それは私もわからん」
「……推奨します。当機の救出」
……要は「よくわかんないけど助けて」という事だろうか?
私は軽く咳払いをして彼から少年たちを引きはがそうとするが、それでも離れずただじゃれつかれていた。
「……すまないが、その子も疲れているんだ。今日はここで休ませてくれないか?」
「えー!? でも、アンドロイドは疲れないんだよー!」
「提案します。当機から離れ、休息させること」
「ほ、ほら! ニューもそう言ってんだからさ! な! 今日は私が相手してやるから!」
「アンドロイドじゃないとやなのー!」
口々に彼から離れることを拒否する少年たち。
そんな中、一番に飛びついた少年がこちらに歩いてくる。
「……申し訳ありません。取り乱しました」
「キミは随分とアンドロイドを好いているようだが、何か理由でもあるのか?」
「……昔、大規模な戦争で孤児になった僕たちを育ててくれたのがアンドロイドなんです。だから、ついアンドロイドとなると……」
「成程。合点がいった。だが、この村にはアンドロイドは見えないようだが……?」
「……故障しました。数年前に」
少年は悲しそうに俯くと、いつの間にか離脱していたニューがこちらに話しかけてくる。
「提案します。当該機の修理。及び起動」
「お兄ちゃん……お姉ちゃん? 出来るの!?」
「肯定。ウイルスが入っていなければ、可能」
ニューの言葉に嬉しそうに目を輝かせる少年。
それを見て気のせいか少しだけニューが微笑んでいるように錯覚してしまう。
「お願いします! どんなお礼でもしますから、ママを助けてください!」
「お願いします!」
ニューにぴったりくっついている少年少女からの懇願を一身に受けながら一番年長の少年の後を追っていくニュー。
私はそんな彼を追いかけながら歩いていると、一番大きな小屋に通される。
「ここです! ママはここに眠っています!」
「……『Wー6554』」
「……『W』? Ⅾとは何の略だ?」
「回答します。『W』は『woman』のW。女性型のモデルであることを表明します」
……何故、帝国は製造番号を性別で分けているのだろうか?
それに、何故性別を設定しているのだろうか?
「回答します。修理は可能。電子端子に砂が入ってしまったことが故障の原因と推測」
「じゃあ、じゃあママは治せるんですね!」
「肯定」
嬉しそうに飛び上がる少年少女たち。
私はそんな彼らを見つめていると、いつの間にか気絶するように眠ってしまっていた。