第4話 剣の才能。
久々の投稿で申し訳ございません。
俺がフチサイ先生に剣を教わるようになって半年が過ぎた。最初はまったくもっ
て歯が立たなかったが、最近になって多少は先生を焦らす一撃を入れる事も出来る
ようになり、自分の腕が上がっていく事を実感する毎日だったのであった。
「先生、おはようございます」
「うむ、おはよう。毎日早いのぉ。感心する位じゃ」
「以前より朝は早く起きておりましたので」
「そうか、今後も続ける事じゃな」
「はい、ありがとうございます。ところで、今日は何処かへ行くのですか?狩りで
したら昨日の分で後五日は行かなくても大丈夫なはずですよね?」
此処一ヶ月程、先生との鍛錬の延長で森の赤い葉の木の奥に狩りに行くようにも
なり、昨日は猪を一頭と山鳥を五羽狩って来たので、しばらくは狩りに行かなくて
も大丈夫だと母二人は喜んでいたのだが。
「今日はもう少し奥に行く。父御の許可は貰ってあるので大丈夫じゃ」
えっ…奥にって、昨日行った場所より奥に行くと魔物が生息するエリアになるは
ずだよな?
「今日は魔物狩りじゃ。出来れば人型の魔物をな」
魔物狩り?しかも人型の?
「この半年トウヤの指南をしてきたが、お主の上達は驚く程の早さであった。おそ
らくお主と同じ位…いや、十歳位年上の者とでもそうそう負ける事はあるまい。し
かし、お主の望みは村の、ひいては目に映る全ての人々を守る為の力を得る事で
あったはず。ならば、此度はその為に必要な覚悟を示す為の試練じゃ」
試練…試練か。試練であるならば、魔物と戦うのは分かる。でも、何故人型の魔
物を狩る事が覚悟を示すのに必要なのだろう?
「その顔はまだ良く分かっとらん顔じゃな。お主が儂に弟子入りも申し出て来た時
に問うたな『人を殺す覚悟はあるか』と。その時のお主は『躊躇しないと言えば嘘
になる』と申していた。あれからまだ半年、そこまで大きく変わったとは思えぬが
今後村の為・人の為に戦わんとすれば、いずれは人と戦い、人を殺す事に直面する
事になる。しかし、人を斬るというのはたやすい事ではない。だからまず、人型の
魔物を斬る事で少しでもその恐れと向き合う時間を作る、それが今回の試練の主旨
となる。魔物とはいえ、人型のものを斬るのは意外に難しいものぞ。とはいっても
儂は向こうで既に人を斬っておるから、さほどでもなかったがの」
最後の一言に少しこけた感じになったが…人型のものを斬る、か。魔物とはいえ
確かに躊躇してしまいそうだ。そう思いながら俺は身体が身震いするのを感じたの
であった。
「もうすぐ魔物の出没する辺りになる。気を引き締めろよ」
フチサイ先生に言われるまでもなく、それまで入っていた森の浅い所とは違った
空気が流れており、否が応にも緊張感が高まってくる。
「ギシャーーーーーッ!」
その瞬間、頭上より何か奇妙な叫び声を上げて襲いかかってくるものがあったの
で、俺は反射的に剣をそちらに向けて振るうと肉を斬ったようなグニャリとした感
触がしたと同時に目の前に落ちていたのは真っ二つになったモモンガのような魔物
の死体であった。どうやら襲いかかってきたのはこれらしい。
「ふむ、初めてにしては良い反応じゃな」
それを見ていた先生からはお褒めの言葉を頂いたのだが…その先生の足元には同
じ魔物が三匹転がっていたりする。目指す道のりはまだ遥か先まで続いているとい
う事のようだ。
それから十分程は何もなく過ぎたのだが…。
「来たぞ、気を引き締めろ。あれはゴブリンだな」
先生はそう言ってゴブリンのいる方を指を差す。ゴブリンか…前世ではRPGでお
なじみの魔物ではあるが、リアルで見るとなかなかに不気味だ。そして、どうやら
ゴブリンの方でも俺達に気が付いたようで、棍棒らしき武器を振り上げながらこち
らに向かってくる。
「トウヤ、ゴブリンはさほどの敵ではない。落ち着いて当たれば大丈夫じゃ」
やはり人型の魔物を初めて見たせいか少し緊張していたのだが、先生のその一言
で肩の力が少し抜けたような感じになる。
そして、ゴブリンが俺の剣の間合いに入ったと同時に棍棒で攻撃してくる。俺は
それをかわすと同時にゴブリンの首筋に向けて剣を振り下ろすと…。
「ふむ、初めてにしては上手くやったのぉ」
フチサイ先生がそう言いながら向ける視線の先には首の半ば以上を斬られて大量
に青い血を流して倒れているゴブリンの姿があった。うっ…確かにこうして人型の
ものが血を流して倒れているのを見るのは気分が良い物ではない。しかも、さっき
斬った瞬間に感じた肉を斬る感触が今更感じてくるし…一応、こっちの世界で小動
物程度の獣は狩った事はあったから、今此処で吐きだすという程では無いけど…。
「どうじゃ、気分が悪かろう。それが命を奪うという事じゃ。それが嫌なら剣の道
などすっぱり諦める事じゃな」
「…いえ、大丈夫…とはっきり言えるわけではないですけど、このまま続けさせて
ください」
俺がそう言うとフチサイ先生は少し笑ってそのまま森の奥へと進んで行く。一応
は合格という事なのだろうか?
それから三時間程は森の中にいたであろうか(時計なんて物はこの世界に無いの
で太陽の動きから何となくそう感じているだけだが)、此処までに既に俺はゴブリ
ン三匹とオークらしい魔物を一匹狩っていた。さすがにオークは単独で無理だった
ので、フチサイ先生がある程度弱らせてくれてからであったが。
「トウヤ、初めてにしては本当に上手くやったのぉ。正直、此処までやれるとは思
っておらなんだ」
「でも、オークは先生がいなかったら…『さすがにお主の今の腕ではオークを単独
でなどは無理があり過ぎじゃから大丈夫』…はぁ」
むむ、褒めてくれたと思ったらオークを一人ではまだまだか…道はまだ遠いな。
「でも、今日の所は合格という事で褒美をやろう」
褒美?いきなりでちょっと驚いたが、褒美と言われて嬉しくないわけがないのは
我ながら現金なものだな。
「これじゃ、受け取れ」
先生がそう言って差し出して来たのは…刀であった。でも、腰にはちゃんと差し
てあるけど…?
「あ、ありがとうございます。でも…これは何処から?」
「この袋じゃ。これは不思議な物でな、生き物以外なら何でも入れる事が出来る上
に、この中の物は腐ったり痛んだりせぬのじゃ。しかも、オークの死体なら十匹分
入れてもまだまだ余裕があるしの。ちなみに、これもこっちに来る時に仏に賜った
物じゃよ。その刀も仏からの賜り物じゃで、大事に使えよ」
…良いなぁ、俺をこっちに飛ばした神は記憶を残してくれただけだったのに、先
生を送り込んだ仏様は至れり尽くせりじゃないか。やっぱりあの神は手抜き野郎だ
ったという事か。
俺は心の中で神への愚痴を言いながら、貰った刀を抜いてその刀身を見つめる。
久々に見る刀はやはり美しかった。そして、重かった。これは一生物の宝…大事に
使っていかねば。
「さて、今日の所はこれで帰るとしよう。明日からはその刀を使った訓練も行って
ゆくぞ。実戦も含めてな」
「はいっ!」
俺は刀を見ながら明日からの訓練に思いをはせていたのであった。
そして次の日。
「その振り方ではダメじゃ、もっと全身を使って振らぬと深く斬り裂く事など出来
ぬぞ!」
「はい!」
早速真剣を使った鍛錬が始まる。最初は当然素振りからという事で、もう二時間
はこれを続けているのだが、先生から合格点は貰えないのであった。やはり竹刀や
木刀とは勝手が違うようだ。
「ふむ、まだ色々と修正したい部分もあるが、それは実戦で見て行く事にしようか
の。とりあえずは此処までにしよう。但し、素振りは必ず毎朝行うようにの」
「はい、ありがとうございました!」
そしてようやく先生より最低限程度ではあろうが合格が出たのはさらに一時間余
り経ってからであった。
「おぅ、今日も精が出るな。ほれっ」
そこに何時ものように父がやってきて俺に水筒を渡してくれる。
「先生もどうぞ」
「何時も申し訳ないのぉ、名主殿にこのような事を」
「何を言っているのです、息子がお世話になっている上に色々と相談にも乗っても
らっているのですからこの程度は安い物ですよ。何なら他に何かあるなら言ってく
だされば出来る事はさせていただきますよ」
父からのその言葉に先生は少し考えるような顔をする。そして…。
「ならば一つお願いしても良いかの?」
「何でしょう?」
「一手、トウヤと立ち合ってもらいたいのじゃが」
「ほぅ…トウヤとですか。まあ、良いでしょう。トウヤ、手加減無しだぞ」
フチサイ先生からの言葉に父は戸惑い気味にそう答えながらも、その目は好戦的
な物へと変わっていた…というより完全にやる気になってるし。これはやらずに終
わるわけにはいかないようだ。
そして、俺は父と向かい合う。父とは何回か手合わせはしているものの、今日の
は勝手が違う。何故なら、お互いに真剣で相対しているからだ。
さっきのゴブリンの時以上に身体の中から震えが止まらないような感覚がする。
これが真剣での戦い…いや、まだ相手が父である以上は完全な殺し合いというわけ
ではないのだろうけど、それでも今までにない感覚だ。
「いくぞ!」
その言葉と共に父は一気に踏み込んで…あれ?父の斬撃ってこんなに遅かったっ
けか?それとも何だかんだ言っても父は手加減してくれているのか?
俺はそう思いながら父の攻撃をかわしながら父の剣をはじいたのだが…何だか父
の顔が凄く悔しそうに歪んでいるように見える。
「トウヤ…随分と腕を上げたようだな。少しは手加減したとはいえ、今の一撃をあ
んなにも簡単にかわされるとは思わなかったぞ」
えっ…今の攻撃が結構マジな方だったのか?俺の目には蠅が止まる位に遅く見え
たんだけど。
それから何回も打ち合うものの、まったく父の攻撃は俺に届かず、しかも俺の目
には父が段々と隙だらけになっているように見えてくる。
例えば、今上段から振りかぶってくる父の攻撃を軽い横移動でかわすと、父はそ
れを追いかけるように剣を横薙ぎに振るってくるのだが、それは腕だけの攻撃で足
腰が付いてきていないように見える。なので、父の横薙ぎの一撃をそらして軽く足
払をかけると…。
「のわあぁぁぁぁぁ!」
父はそう叫び声を上げながら盛大にすっころんでいたのであった。おおっ、予想
通りだ。
「くそっ、なかなかやるようになったじゃないか!だが、これからが本気だ!!」
その後、父の攻撃は激しさを増すのだが、結局一回も父から攻撃を受ける事も無
いまま、手合わせは終了したのであった。
「ほほぅ…やはり、昨日のオーク相手の戦いは単に緊張でうまく動けなかっただけ
か。この僅かの間でのここまでの成長、やはりトウヤの剣の才能はとんでもない物
のようじゃ…しかし、もう儂が教える事も無さそうじゃがな」
父との手合わせを見ていたフチサイ先生のその呟きが俺の耳に聞こえる事は無か
ったのであった。
これからも頑張って投稿は続けたいと思います。