表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/3151

刀ハンティング (歴史・ファンタジー/★)

 こーちゃん、歴史教えてよ。

 この間のテストが散々でさ、お目玉くらっちゃったんだ。

 次のテストもだめだと、ケータイは取られる、塾には行かされる。モラトリアムが浸食されちゃうよ〜。

 金と時間は、子供に与えるべきじゃない。ちょうどいいじゃないか?

 ――ひどい! オニ! アクマ! つぶらや! 

 人の命を取り上げて、いったい何が楽しいんだ! 僕には今しかないんだよ!


 今、今とうるさい。時間の無駄だ。つきあってやるから、早くしろ?

 こーちゃん、新手のツンデレってやつ? 社会人ってそんなものなの?

 まあ、いいや。次の試験範囲の始まりが、戦国時代の三英傑なんだよ。今日の授業は豊臣秀吉でさ。色々な政策を教わったんだ。

 先生って脱線が好きで、伝説とかも教えてくれたんだよ。秀吉の政策に対して。

 こーちゃんも聞きたくない? 勉強前におしゃべりしようよ。


「織田がつき 羽柴がこねし 天下もち 座りしままに 食うは徳川」

 

 天下統一の流れを示した川柳らしいけど、家康だって昔は人質生活が長かったんだから、楽しているわけではないんだよね。そりゃ、客観的には結果しか見えないから、仕方ないかもだけど。

 そして、織田信長の後を継いだ秀吉が行った政策で、有名なものが二つ。

 一つは太閤検地。

 様々な単位、田んぼの階級、年貢の負担者を確定させる政策。

 一つは刀狩り。

 僧侶や農民から武器を取り上げて、兵農分離を推し進める政策。

 先生が話してくれたのは、刀狩りに関する話だったよ。


 ある農村に、刀狩り令を知らせる武将と兵たちがやってきた。

 彼らは村の代表者たちを集めて、刀狩りの正当性を説く。

 特に繰り返されたのが、回収された武器は、新しい寺を建てるための、くぎやかすがいに使われる。これは御仏の意思にかなうものだから、協力したものは、来世での幸せが約束される、というもの。

 極楽浄土に憧れる者たちにとっては、効果的な殺し文句になった。

 織田信長がかつて焼き討ちにした、比叡山延暦寺。その喪失は、人々に信じるものへの揺らぎを生んでいた。

 その延暦寺再興に、秀吉が力を出していたこともあり、人々は喜んで武器を差し出したんだそうだよ。自分たちの選択が、明るい未来につながると信じて。


 それからしばらくして。農村では野生動物らしきものによる、作物の被害が広がっていた。

 どうやら、豊臣氏が各地の街道を整備しはじめたことにより、自然を追われた動物たちが、民家に下ってきているようだ、というのが、皆の見解。

 動物らしき影は、夜な夜な畑を荒らしていく。だが、人々は追い立てるのがせいぜいで、捕まえることはできなかった。

 奴らは人の気配に敏感で、およそ十歩以内に人が近寄ると、あっという間に逃げ出してしまう。囲んで迫ったとしても、こちらを小馬鹿にするように、誰かの頭にぴょんと乗り、踏み台にして、夜の中に溶け込んじゃうんだって。

 こんな相手にうってつけである犬たちは、奴らが来る晩、決まって鼻バカになってしまい、使い物にならない。

 せめて弓矢を、とも思う農民たちだが、刀狩りで取り上げられた人々に、残っているのは、すきやくわばかり。期待できるのは、投石だけだが、当たったためしはまるでなし。

 人々は獣除けに頭を悩ませる日々だったんだってさ。


 そして、その晩も農作物は被害に遭った。

 獣除けに、農民たちがつくった罠をかいくぐり、まんまと大根をせしめて駆け出す、三つの影。たとえ、結果が見えていようと、ただで取られるわけにはいかない、と人々は石を投げつつ追いかける。

 それでも差は縮まらない。今日もいつもと同じ結果かと、誰もが思った時。


 三匹のうちの一匹が、突如、頭上から降ってきた、巨大な影に踏みつぶされた。

 すさまじい振動で、辺り一帯が地震でも起こったように、大きく揺れて、人々は思わずその場でうずくまってしまった。

 無事だった残りの二匹は、その巨体の脇を抜けて逃げようとする。しかし、巨体からはまるで蛇の胴体のように、長くうねった腕が伸び、その二匹に巻きついた。

 ごきり、と何かが折れる音がすると、二匹はぴくりとも動かなくなる。そして、足元に踏みつぶされた一匹を蹴り上げて、頭に乗せる巨体。そのまま、ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねながら、人々から遠ざかっていく。

 ひょうきんな動きに見えながら、着地するたびに地響きがするほどの重さ。ほとんどの人々が呆然とする中、一人だけその巨体に向かって、石を投げつけた者がいた。現実離れした出来事に、錯乱したのかもしれない。

 彼の投げた石は、巨体に跳ね返された。人々は石を投げた彼を責めるより、バラバラに逃げ出した。どんな報復をされるかたまったものじゃないからだ。

 幸い、巨体は何もしてこなかったが、あれが石を跳ね返した音は、皆の耳に響いている。

 あれは、まるで鉄の塊が弾いたような音だったんだ。


 それから、畑を荒らす動物の姿がめっきりなくなった頃。

 刀狩りのための、武将たちが訪れ、武器を差し出せと言ってきた。

 なぜ、もう一度くるのか。

 人々は疑問に思い、武将に尋ねたところ、この村はまだ刀狩りを行っていないはずだという。

 しかし、すでに武器を差し出した農民たち。家探しされても、矢の一本も残っていない。

 武将を含めて、誰もが首を傾げるおかしな現象だった。

 それでは、最初にやってきた彼らは一体何なのか。


 謎は解けずに残ったまま。

 ただ、江戸時代に入ってからも、その近辺で道に迷った子供を助ける、山のように大きく、鉄のように固い身体を持った入道のウワサが、広まったことがあったとか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ