晴れ男と雨女 (ファンタジー/★)
つぶらやくん、どうした? 窓際なんかで黄昏ちゃって。
明日の運動会の天気が気になる?
ふふん、このクラスに晴れ男の僕がいる限り、必ず晴れるって。
前回は、隣のクラスの雨女に負けた気がするが?
ぬぬ、本人が気にしないでいたことをグチグチと。嫌われるぞ、つぶらやくん。
僕にとって、過去の勝敗なんかあてにならないよ。例え、0勝10敗だろうが、100敗だろうが、とどのつまり、勝つか負けるかの50パーセントじゃないか。
データは分析、研究には役立つけど、それによっかかるのはどうかと思うんだよね、僕。
安心したいのは分かるけど、例外も頭に入れておかないと。世の中、存分に楽しめないだろう?
今回はどちらに軍配が上がるかな? ふふ、文字通りの不倶戴天。楽しみだよ。
つぶらやくんはこれから部活か何かあるかい? 時間があるなら、ちょっと話でもしていかないか? ありがとう。
人の行動で、天候を操る。昔から多くの人が望んできたことだろうね。
実際、天気というのは科学的な根拠に則って動いていく。それを敏感に読み取り、予測をして行動につなげることができれば、あたかも魔法のように見える。
その人が行動すれば、晴れになり、もしくは、雨になる。そこに人智を超えた何かを感じることで、自分たちもそれにあやかろうとする気持ちがあったんじゃないか、と僕は思うんだ。
そして、それを個人の性格に当てはめることもある。晴れは楽観的、雨が悲観的みたいなね。「明るい」とか「湿っぽい」という表し方も、ここから来ているという説もある。
だが、その性格分析があてにならないのが、僕の地元に伝わる、史上最高の「晴れ男と雨女」の話さ。
その晴れ男と雨女は兄妹だった。また、二人とも盲目で、身よりはすでにいない。
じゃあ、周りのみんなにおんぶにだっこかというと、ところがどっこい。お世話になるどころか、逆にみんなに物を教えたりと、お世話をする側だったのさ。
二人の家系は、代々、イタコとかの霊媒、拝み屋のような仕事を営んできた。それらの仕事、目が見えない方が、大いに力を発揮できるみたい。
彼らが特異な点は、二つ。
祈祷のために必要と言って、特定の住まいを持たず、野宿しているらしいこと。
二人は日中の間は、必ず一人ずつしか姿を見せないこと。
兄が出れば、外は晴れに。妹が出れば、外は雨に。二人が出てこない時は、曇り空だった。二人そろっていることは、静かな夜だけ。
周りの人が理由を聞いてみると、ただ一言。
「大事な仕事のため」と答えたらしいよ。
拝み屋である彼らのこと。何か祈祷や儀式をしているのだろう、と人々は判断したらしいよ。
兄妹も年頃になってきたけれど、つがいを持とうとしなかった。
目が見えないとは言っても、二人に助けられた者は大勢いて、彼らに心惹かれた人も、それなりにいた。
だけど、求められるたびに二人は謝って、お礼をして、続けて言うんだ。
「果たさなきゃいけないことがあるから、それが終わったら考えさせてほしい」と。
二人とも同じ口上で、兄は本当に申し訳なさそうに、しょげかえりながら。妹は希望を持ってもらえるように、暖かく微笑みながら。
時期はもうじき梅雨に入ろうか、というところだったけれど、彼ら以外の易者さんが占ったところ、今回は空梅雨になるだろうという判断だった。
圧倒的な空梅雨予測の中で、彼ら二人だけは「今年も雨は降りますよ」と力強く答える。
易者と兄弟の、八卦勝負。人々は注目することになった。
だが、易者たちには、不安がある。もし、自分たちの予測が外れ、彼ら兄妹の言うとおりになれば、自分たちは人々の信望を失う。
何としても、的中させないといけない。彼らの中で、よどんだ空気が流れ出した。
やがて、梅雨入りを迎える。
大方の予想通り、「雨女」たる妹の姿をよく見るようになった。彼女は傘を差し、ひどい降りでも怯むことなく、村まで出てきて野菜などを買っていく。
雨は一週間連続で降り続けた。人々はカビなどの、湿気がもたらすものと戦いながらも、やっぱり兄妹はすごい、と口々に言い合う。
人々は易者を直に貶めるようなことは言わなかったけれど、当の易者たちにしては、遠回しに、こけにされたも同じだった。
奴らのからくりを暴く。そんな思いのままに、彼らは豪雨の中、買い出し帰りの妹の後を追うことにした。
妹の足は、森を抜け、険しい山の上へと向かう。雨に濡れて、風が吹き、岩がごつごつして歩きづらい山肌を、彼女は苦もなく歩き続ける。対する易者たちは、歩き慣れている者でも、少しずつ脱落者が出る始末だった。
それでも危険な山を登りつめた者が何名か。辺りはすでに暗くなり始めている。手近な岩陰に身を潜め、山頂にたたずむ妹の様子をうかがう。
彼女は雨が降る中、じっと空を見上げている。
ふと、雨足が弱くなった。数分が経つ頃には、すっかり雨が止んでしまう。
どうしたことだ、と易者たちが見守る前で。
空から兄が降り立った。ここには木々も何もない。降り立てるほどの足場などどこにもない。
「これで、しばらくはいいだろう。今度はよろしく頼む」
兄は妹に頭を下げた。いつも通りの、湿っぽい笑顔で。
「はい、お兄様。お任せください」
妹がニコリと笑ったかと思うと、その身体は糸で釣られていくかのごとく、宙へと浮いていく。その姿が夜空の星々の中へ溶け込んでいくのを、易者たちはあっけに取られながら見ていたんだ。
「――そして、潜んでいる者たち。見られてしまった以上、私たちの仕事も、今年で終わりだ。私たちは去る。そなたらも、とく去ね」
兄は易者たちの隠れている場所に、背を向けたまま、つぶやいた。その様子におののいた易者たちは、息も絶え絶えに山を駆け下りたとか。
梅雨が明け、夏を迎えようとした時、兄妹は旅に出ることを皆に告げる。
別れを惜しむ人々に、兄妹はいつも通りの笑顔を贈った。
兄は憂いを帯びた、水の滴るような湿る笑顔を。
妹は心を照らす、明るく暖かい満面の笑顔を。




