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執念 (ホラー・ヒューマンドラマ/★★)

 いや〜、いい試合を見れたな、つぶらや。

 トーナメントは準決勝が、見る側として一番楽しいって説、間違いじゃないかも知れないぜ。

 ベスト4が決勝進出をかけて戦うから、意気込みは十分。そして、二回も試合を見ることができて、すげえお得だ。良くも悪くも一発勝負、しょっぱい試合内容で盛り下がったら、金返せと言いたくなる決勝戦より、イケてると思わないか?

 まあ、実際試合する側に回ると、決勝戦が燃えるけどな。プレーヤーとギャラリーの違いって奴かも。

 それにしても、試合前の円陣とかって、なんか儀式めいていて、俺、結構好きなんだよね。俺自身、部活で恒例の儀式があってさ。一体感みたいなの感じるんだ。

 え、どんな儀式か興味がある?

 おいおい、物のたとえだ。黒魔術っぽい想像はしてくれるなよ。

 俺の部活ではこんな感じだった、という話に過ぎないからな。


 俺は中学校時代、サッカー部に入っていたんだ。

 ウチの県はサッカー王国とでも言っていいくらいの激戦区でな。勝ち上がったチームは、全国大会でも優秀な成績をおさめて帰ってくるんだ。

 俺の学校も何度か出場経験があって、俺の先輩たちは全国でベスト4。準決勝でその年の優勝チームに負けちまった。一年前もそのチームは優勝していたから、二連覇をしたことになる。

 V3を阻止する。いかにもチャレンジャーなシチュエーションに燃える俺たちは、激戦を繰り広げながら、県大会決勝まで上り詰めたんだ。

 相手チームも、過去に何度か全国出場をしている。目指すは同じく、例の中学の三連覇を阻むこと。だが、それへの挑戦枠は一つだけ。否が応でも、力が入ったな。


 俺たちのチームは、公式戦の時、お約束で行うことがある。

 試合前の練習が終わると、クールダウンを兼ねてか、みんなでオリジナルの体操をするんだ。

 ラジオ体操に近いんだが、ちょっとエアロビが入っているかもな。身体を上に伸ばす動きと、ダンスの練習かと思うくらい、複雑なステップを踏むんだ。

 最初に教えてもらった時、先生がホワイトボードにステップの図を書いてくれたんだが、その線をなぞると、ナスカの地上絵っぽくなるのが印象的だったな。

 だが、身体は暖まる。学校の二連続全国大会出場を目指し、キックオフの時を迎えた。


 俺のポジションは左のウイング。クロスもシュートも自信があるが、それ以上にライン際のドリブルなら、負ける気はねえ。俺が相手を崩さなきゃ、チャンスは生まれねえんだ。

 ウチのキャプテンは名パサーかつ、パスコース先読みのカットの達人でな、縦横無尽にボールを前線に供給してくれる。

 それを俺か、右ウイングが駆け上がって、クロスを上げるのが、チームがよく使う戦術だ。

 相手も警戒しているから、アタリがきつい。だが、今日はいつも以上だった。

 反則覚悟のラフプレーが多いんだ。明らかにドリブルしている俺のボールでなく、足を狙ったスライディングタックル。肩を壊しにかかってくるチャージ。高いボールを競り合ったどさくさに紛れて、ラリアットや飛び蹴りを仕掛けてくる。

 審判が見づらいタイミングで、やるのが上手いらしく、カードをなかなか出されない。


 奴らめ、こちらを削りに削ってから、叩きつぶす腹だな。

 俺は何度も足をかけられながら、怒り心頭だったぜ。

 特に右ウイングは、俺以上のチャージを受けて、ハーフタイムの時点でボロボロ。控えの右ウイングは、言っちゃ悪いが、一枚劣る腕。攻撃の軸を一本断たれちまったんだ。

 だからといって、シミュレーションに走ったら、奴らと同じクズ野郎になっちまう。なら、俺はルールに則った上で、返り討ちにしてやる、と誓ったね。


 そして、始まった後半。中央の壁は厚くて、突破はきつい。右ウイングは不安。そうなると左ウイングの俺にマークが集中する。俺を潰せば、得点源はほとんど絶たれるからな。

 だから、俺が抜けばいい。俺目がけて迫ってくる奴らを引き付け、ちょっとボールを前に蹴り出して、「よーい、ドン」だ。ボールもコースも見ないイノシシに、負ける道理はない。

 蹴り出しては、自分で追いつきを繰り返し、俺はペナルティーエリアに切り込んだ。この中でファウルをもらえば、PKだ。

 PKなら高確率で得点できる。後半の半分を過ぎても、0-0のこの試合で、一点を取れれば大きい。奴らのラフプレーに乗じて、反則をもらえって思った、チームメイトもいたかも知れん。


 だが、俺はそのままキーパー目指して一直線。当然、ガンガンにチャージが来たが、持ちこたえる。

 今日の審判の目は節穴だ。マジで倒れ込んだとしても、流されたりしたら、せっかくのチャンスが潰れちまう。なら、文句がつけられないほどに、ゴールネットを揺らしてやるだけ。

 そして、キーパーとの一騎打ち。俺はフェイントをいつでもかけられるくらいのスピードで、ゴールに迫る。

 迷いなくキーパーは飛び出してきた。ダイビングヘッドに近い要領で、俺の足を目がけて。

 こいつら、何なんだ。

 俺はこの時、はっきり恐怖を感じた。こいつらは、全員、最初からボールを見ていない。相手の身体を壊すことしか考えていない。

 俺がとっさに放った、ロビングシュート。それがゴールネットに吸い込まれると同時に、キーパーのパンチが、俺の軸足の骨を砕いた。


 俺も負傷退場に追い込まれたが、どうにか一点を守り切り、全国出場を決めたよ。でも、チームのみんなは、相手チームメンバーとは握手もしようとしなかった。

 相手チームがさめざめと泣いているのを見て、胸がすっとしたと漏らした奴もいたっけ。

 俺たちのチームは、全国大会で一回戦負けを喫した。俺の学校生活最後のプレーは、あのロビングシュートになっちまったんだ。

 ただ先生は、あの試合の後、晴れ晴れとした顔をしていたよ。みんなをまた、全国に連れていけたのが喜ばしいと言っていたけど、それだけじゃないと思う。

 あの試合の後。相手チームのメンバーは先生も含めて一人残らず、消息を絶っている。

 彼らのロッカールームには、獣のような爪で、ズタズタに引き裂かれた、ユニフォームだけが残されていたって話だ。



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