表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/3156

流行り廃りも御手の内 (ヒューマンドラマ/★)

 こーらくん、見て見て!

 バーン! 新作ゲームプレミアムボックスをゲットしたのだ!

 数量限定で、今までのシリーズを収納できるラックに、表裏設定資料集、特製サントラがついた、超・豪華版!

 うっへっへ、すごいだろ、うらやましいだろー!

 え? どうせ一ヶ月たったら、「もう飽きたぜ」と部屋の片隅に放っておくんだろ? クリアしていない、積みゲーの一角を支える屋台骨になるんだろう?

 こーらくん、クールを通り越して、冷めてるよね。過去に辛いことでもあった?

 いいじゃん、いいじゃん。限られた時間をどう使おうが自由じゃん。

 ブームに乗らないこーらくんなんか、数十年後の「懐かしの〜年代」とかの番組で、懐かしさを感じられない、かわいそうな化石じじいになっちゃえばいいんだ!。


 でもさあ、本当にいいものだったら、百年でも千年でも使い続ければいいのに、それに飽かずに新しい流行を作るって、人間は向上心の塊だと思わない?

 向上心というより、欲望の塊なんだろ? うーん、否定はしないけど……。

 人間の流行がどこからくるか。その答えの一つを聞いたことがあるよ。


 流行という言葉を聞いて、こーらくんは真っ先に何を思い浮かべる?

 インフルエンザ? はい、出ました。小説家のひねくれ精神ですね〜。

 確かに、パンデミックの時はすごいだろうね。全世界で何千万人規模の人が亡くなった。生き残った人も入れれば、病気にかかった人は億を超えるんじゃないの?

 だけど、今まで出会った病気たちは、その凶悪さで人類を脅かしても、人類を殺しつくすには至っていない。未知の病原菌が見つかっても、必ず抗体を持つ者がいて、人類が全滅することはないだろう、という見解の根拠の一端は、ここなのかも知れないね。

 だけど、身体から病原菌がなくなっても、心にはいつまでも残るんじゃないかと思うんだ。


 僕のおじさんが、小学校の低学年だった時。

 一人のクラスメートが、とあるものに乗って通学してきた。

 パッと見た感じは削岩機に似ているんだけど、先端がドリルじゃなくてバネになっている。バネの根元に設置された足場に乗っかって、カエルみたいにぴょこぴょこ跳ねる。

「ホッピング」の登場さ。こーらくんも知っていると思うけど、大人用とかもあって、今でも根強い人気があるみたい。

 値段も子供の小遣いでどうにかなる。あっという間に学校で大流行。手放し乗りで、路地に突っ込んでいく始末。


 そのようなマスターたちが学校を席巻し始めた時、およそ二年近い沈黙を破って、そのクラスメートは新しいゲームを持って来た。

 盤をはさんだ一騎打ち。手のひらに収まる球場で、無限のロマンがにじり寄る。

「野球盤」の到来だね。選手はこけしだったし、最初期はストレートしか投げられなかったけど、これが大当たり。

 ホッピング派と野球盤派に分かれて、上昇し続ける遊び熱。そして、彼は第三の遊びを提示する。

 ただの輪っかが、芸術品。腰振れ、腕振れ、グルングルン。

 人気商品、「フラフープ」の登場だ。学校が三つの派閥に分かれ、先生方まで時折混じり、まさにカオスの面構え。


 流行は、いつも彼によってもたらされてきた。

 おじさんが、どうしてこんなにも琴線に触れるものを持って来れるのかを聞くと、彼の父親の同僚が用意してくれるんだってさ。

 当時、金髪というだけでも、目立つ容姿だったし、日本語の読み書きもちょっと怪しいのだけど、コミュニケーションを取るのにはさほど問題なかったみたい。

 彼は粗食で、昼ご飯も水しか飲まない。一緒に食事をしていると、頻繁に席を立ってトイレに向かう。休憩時間には、ビルの屋上でひなたぼっこをするような人だったんだ。

 そんな彼が、色々と遊び道具を会社のみんなに配っていてね、父親が受け取ったものが彼に渡り、流行になるというものなんだ。

 

 それから彼は中学、高校と次々と話題になるゲームを提供して、みんなの話題をかっさらっていった。

 特に今でもパーティーゲームの定番になっている、「ツイスター」。思春期真っ盛りの男女が絡み合うような姿勢になるものだから、別の意味でクラスが大興奮。学校で禁止令が出るほど、盛り上がったみたい。

 話題をかっさらい続けた彼だけども、高校二年の秋には、ぴたりと流行導入の動きが止まった。さすがに大学受験を意識する連中が増える中で、自重したのかな、とおじさんは思ったのだけど、聞いてみると違った。

 いつも流行を持って来ていた、父親の同僚が、退職しちゃったんだって。父親自体は流行に興味がないし、彼も「おさがり」に頼っていたから、流行への嗅覚はそれほど優れていない。

 彼も次第に勉強に打ち込むようになるのだけど、おじさんに向かって話したことがあるんだって。

 それは彼の父親に、退職する同僚が残した言葉。


「人を活発にする流行は、把握した。次は停滞させる流行を、広まらせる」


 僕たちは、周りのみんなに仲間外れにされないために、「ミーハー」なことをするよね。

 ファッションだけともいえる、思考停止の選択肢。

 この先、「同僚」は何をやらかしてくれるんだろうね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ