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赤裸々朝礼 (ファンタジー/★)

 ふわ〜、おはよう、つぶらや。

 いや、昨日ちょっとパソコンゲームをやり過ぎてさ、ほぼ完徹なのよ。

 やってるソフトも、ちょっとお茶の間でプレイするのが恥ずかしい内容なんでな。部屋から明かりが漏れないように細工して、夜中にこっそり進めているのさ。

 なかなかスリリングだぜ。家の人が起き出す気配がして、部屋の前を通り過ぎる時なんかよ。バレるかどうか、ドキドキする。

 実際バレて怒られたことはあるが、バレなかった時の「してやったり感」が病みつきになるんだわ、これ。

 つぶらやもやったことねえ? 親の監視がある間だけ勉強して、目を離したら、別の事をやる。そんで親が近寄ってきたら、別の事を放り出して、また勉強をする。

「鬼の居ぬ間に洗濯」。データと心の上っ面だけな。

 同じような意味合いで、「猫の居ぬ間にネズミが遊ぶ」というのもあるな。監視がない解放感っていつの時代も変わらないのかもな。

 ――朝礼まで、あと数分か。すきま時間の有効活用。もすこし話をしようぜ。


 学校が同年代の子供が集まる、特殊な場所だということは、つぶらやも重々承知のことと思う。先生方がいるとはいえ、生徒の自主性に任せていたのでは、あっという間に悪徳の楽園と化しちまうだろう。

 そこで生徒が一堂に集まって、襟と背筋をただす機会を、定期的に設けなくてはならない。

 始業式、朝礼、避難訓練、終業式といった具合でな。

 生徒たちは文句ブー垂れるだろう。校長先生の話とか、くそ面白くもないくせに、ダラダラしゃべりやがってと、殺意を抱いたことは一度や二度では、ないんじゃないか。

 だが、俺は今でも覚えている、赤裸々な話があるんだぜ。


 俺が小学校高学年の時。純粋な子供だった過去の自分に、お別れを告げた頃。

 その日、俺は盛大な寝坊をかましちまった。

 今みたいにゲームとかは知らないお年頃でな。理由も、眠り過ぎという奴だ。

 うちの親は朝が早い。メシの準備はしてあったが、親の姿はすでになかった。一刻を争っていた俺は、ストックしてあったクリームパンをひっつかむと、家を飛び出した。


 いつもとは違う登校風景。先を急ぐサラリーマンたちの姿も少なく、車もさほど多くはない。俺はパンをかじりながら、学校に飛び込んだのさ。

 ところが、教室はもぬけの殻だったんだ。いつもなら、とっくに朝のホームルームが始まっている時間帯だったから、ちょっと焦ったぜ。

 だが、すぐに朝礼じゃないのかと思い当たった。ランドセルを放って廊下に飛び出すと、ちょうどスーツ姿の先生がいた。ぱっと見、誰だか分からなかったんだが、俺は腕を取られた。

「こんなところで、何をしている。さあ、早く来なさい」と、引っ張られて体育館に連れていかれたよ。万力のように強い握力だった。


 体育館に入った俺は、列の後ろに並ばされる。すでに全員が起立していて、校長先生も教壇の前に立っていた。しゃべることができる雰囲気ではなかった俺は、校長先生の言葉を待つ。


「それでは、最初に定期報告を行います」


 定期報告? おかしい、いつも季節のあいさつから入る長話で、俺たちに睡眠誘発呪文をかけるのが、校長先生の得意技だったはず。

 疑問と興味が湧いてきた俺は、心臓の高鳴りを感じながら、続きを待った。


「今週の連続キス時間、最高記録953秒」


 俺は思わず、吹き出しそうになったぜ。

 なんだ、それは? 十六分近くもキスしていたのか。ラブラブ過ぎだろ。

 というか、計ってたのかよ、十六分。これは変態だ。ハイレベルにも程がある。


「次、連続尻わしづかみ時間、最高記録713秒。連続膝枕実施時間、最高記録1023秒……」


 もう、腹が痛くなりそうだった。

 校長先生の読み上げる内容と、それに対して微動だにせず、話を聞いている場の雰囲気のギャップがおかしくて、おかしくて。

 しかし、腹筋が悲鳴をあげても、俺自身が悲鳴を出したら悪目立ちこの上ないからな。

 ひたすら耐え忍んだな。


「最後に、決着報告を行います。5Aの諸君」


 俺たちのクラスじゃないか、と自然と耳が傾く。


「お疲れ様、交代です。じきに先生方が気づいてくださるはず。最後の責務を果たし次第、再びここに戻りなさい。いいですね」


 全員が一糸乱れず「はい!」と答えた。列に並んだ時から感じていたのと違わない、軍隊のような動きだったよ。

 校長先生は、他のクラスの分も、次々にその「決着報告」とやらを伝えていく。

 そして、最後の挨拶。


「私たち一同は、たとえ愛されても、疎まれても、踏まれ殴られても、あるがままを受け入れ、責務を果たすことを誓います!」


 校長先生が叫んだとたん、照明が落ちて、周囲が暗くなる。同時に今まで並んでいた連中もパッと姿を消してしまった。先ほどまで確かにいたはずなのに。

 更に気のせいか、辺りが狭くなって、にわかに心細くなってくる。

 やがて外からガヤガヤと、人の声がした。それには友達の聞き慣れたものも、混じっている。

 俺が声のした方へ向かって走り、ドアに手を掛けると、クラスのみんなが教室に帰っていくところだった。俺を見て、きょとんとした顔をしている。

 俺は、この角度からの風景に見覚えがある。何度か先生に頼まれて、この部屋に入ったことがあったからだ。

 部屋の名前は、「教材・備品置き場」となっていた。


 結局、俺は本来の朝礼に間に合わず、先生にお目玉をくらった。

 だが、その日は椅子、蛍光灯、ロッカー破損とかで大忙し。例の「教材・備品置き場」に色々荷物を運ぶ羽目になった。俺も手伝わされたさ。


 俺は役目を終えた者たちを置きながら、俺だけが体験した朝礼を振り返る。

 俺たちが苦労したように、学校にいる連中も苦労しているんだなあ。これからはもう少し物を労わろうか、と考えちまった体験さ。




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